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遠い日の約束  作者: Red/春日玲音


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28/29

結婚式-前編―

「「結婚!」」

 教室の中に、裕也とエイジの声が響く。

「シィッ!あほぅ、声大きいわ、みんな見とるやんか。」

 言われて周りを見回すと、何事かと、クラスメイト達がコッチを見ている。

 今日は臨時の登校日だったので、ようのある生徒はすでに帰宅しているが、久しぶりに会った友人たちとの会話を楽しむ生徒も少なからずいて、教室内には、まだ結構な人数が残っていた。

「ミドリの声の方が大きいと思うんだけど……。」

 まどかが困ったような顔で言い、エイジが慌てて、何でもないというように、手と首を大きく振ると、クラスメイト達は興味を無くしたかのように、思い思いの行動にもどる。


「ゴメン。で、誰が結婚するんだって?」

「そんなん、ウチとまどかに決まっとるやろ?」

 ミドリはそう言いながら、まどかにぎゅっと抱きつく。

「ミドリ、暑いよぉ。」

 まどかは、顔を真っ赤にしながらも、否定しない。

「マジか……野原と霧島が……。」

「そんなわけないでしょ!」

 ミドリの冗談を真に受け、へこむエイジの頭を、遅れてやってきた美音子が教科書で叩く。

「バカなこと言ってないで、その話するなら場所変えましょ。」

「ウン、二人もヴァリティにおいでよ。ジュースぐらい御馳走するよ。」

 美音子の言葉を受けて、まどかがエイジと裕也を誘う。

「ウチ等の愛の巣にご招待や。」

「いつまでも馬鹿なこと言ってないの、行くよ?」

 まだボケようとするミドリに声をかけ、教室を出ようとするまどか。

 ミドリは慌ててその後を追いかけるのだった。


 ◇


「で、どういう事なんだよ?」

 ヴァリティに着くと、エイジが早速聞いてくる。

「そうだぜ、お前らに何かあったらしいみたいだけど、詳しく聞こうと思ったら警察がいて、ようやく落ち着いたと思ったら、何も言わずに海に行っちまいやがって……一応心配したんだぜ。」

 裕也が少し拗ねたように言う。

「なんや?一緒に海行きたかったんかいな?」

「そうじゃねぇっ……って事もないけど……。」

 裕也の言葉に力がなくなる……。

 裕也とて健康な男子だ。気になる同級生の女の子と一緒に海に行くというシチュエーションに憧れを抱いていたりするのだ。

「まどかの大胆ビキニ姿、見せたかったでぇ。ビーチの男共の視線独り占めやったさかいな。」

「「ごくっ……。」」

 ミドリの言葉に、二人の男子はあらぬ妄想をしてしまう。


「もぅ!いい加減にしなさいっ、二人が困ってるでしょ!恥ずかしいこと言わないの。」

 飲みものを持ってきたまどかが、空になったトレイでミドリの頭を小突く。

「はーい。」

 ミドリはちょっと拗ねたようにアイス・オ・レのストローに口をつける。

「二人とも、ごめんね。ミドリもちょっと浮かれてるだけだから許してね。」

「あ、あぁ。」

「別に気にしてないけど……そう言えば結婚って?」


「あ、うん、今度ね、霧島先生とお姉ちゃんが結婚することになったの。それで二人を招待したいと思ったんだけど、どうかな?」

 まどかはそう言って、8月の終わりの日付が入った招待状を二人に渡す。


「へぇ霧島先生がねぇ……ってことは、お前ら姉妹になるのか?」

 エイジが今気づいた、というように聞いてくる。

「んー、まぁ、そんなもんや。」

 ミドリが言葉を濁す。


 実は、まどかは真理の結婚を機に、正式に真理の養子に入ることになったのだ。

 だから、ミドリは、書類上はまどかの「叔母さん」と言うことになる。

 そのことが知られたら、からかわれるのは目に見えている為、ミドリは誤魔化したのだ。

 別に言い触らすことでもないので、まどかもそれでいいと思っている。

 それに何より、書類上どうあろうとも、ミドリが親友だと言うことには変わりはないのだから。


「でも、何で俺達を招待してくれるんだ?いや、嬉しいんだけどさ。」

 裕也が訊ねてくる。

「気ぃ悪うせんで欲しいんやけど、正直アンタらじゃなくてもよかったんや。」

 そう言ってミドリは二人に事のあらましを説明する。

 美音子にも出席して貰いたかった事。

 そのためには、美音子が出席してもおかしくない大義名分が必要だった事など……。


「でな、困ってたらライトはんが教えてくれたんや。おにぃは先生やから、「生徒代表」ならネコが出席してもおかしゅう無いって。ただ1人やと悪目立ちするから、他に2~3人居るといいって事やったから、アンタらにも心配かけた事やし、お礼っちゅうか、お詫びっちゅうか、そんな感じで声かけたんや。」

「成程な、そう言う事なら喜んで出席させてもらうよ。それに「誰でもいい」中から俺達を選んでくれたんだろ?光栄だね、美味しいものも食えるんだろ?」

「それは期待していいよってお姉ちゃんが言ってた。」

 エイジの言葉にまどかが笑顔で返す。

「へぇ、まどかのお姉さんが、そこまで言うなら余程の所なんだろうなぁ。どこの式場?」

「えっと、なんやったかなぁ……スターライト?」

「スターナイト・エグゼクティブよ。」

 うろ覚えのミドリに応える様に、背後から声がかかる。


「あ、お姉ちゃんお帰りなさい。」

「ただいま、ごめんね遅くなっちゃって。……ちょっと色々あってね。」

 真理が少し疲れたようにそう言うと、そのまま席に腰を下ろす。

「まどかちゃん、ごめんね、暖かいミルクティ入れてくれる?シュガー多めにお願い。」

「真理姉、エライ疲れとるやんか?一体どないしたん?……まさか、式場でライトはんが何かしたん?」

 真理と清文は、今日式の打ち合わせの為に式場へと行く予定になっていたのだが、急に登校日が決まったため、清文がいけなくなったのだ。

 式まで余裕がない為、今日の打ち合わせの予定を変更することも出来ず、急遽ライトが代理としてついていく事になったのだったが……。

「うーん、あやちゃんの所為……なのかな?やっぱり。」

「ライトさんがどうかしたの?」

 まどかがカフェ・オ・レを真理の前に置くと、不安そうに聞いてくる。

「大した事じゃないのよ。あとで教えてあげるわ。それよりお友達を紹介してくれる?」

「真理姉は会うの初めてやったっけ?エイジと裕也や。二人共クラスメイトなんや。」

 ミドリのざっくりとした紹介に戸惑いながらも頭を下げる裕也とエイジ。


「まどかの姉でこの店のオーナーの真理よ、よろしくね。そう言えば、もう少ししたら、ミドリちゃんの姉にもなるのよね。……ところで、二人は誰を狙ってるの?ウチのまどか?ミドリちゃん?それとも美音子ちゃんかなぁ?」

 からかうように言う真理の前で、真っ赤になって狼狽えるエイジと裕也。

 確かに、エイジはミドリが、裕也は美音子が気にはなっていたのだが、それをハッキリと口に出来ない微妙なお年頃なのである。

「二人ともまどか狙いや。まどかのお弁当に餌付けされとんのやで。」

 自分に好意を向けられているとは、露と思っていないミドリがそんな風に言う。

「ち、違うからなっ!餌付けとかそんなんじゃねえからっ!」

 二人は慌てて否定する。

 特にエイジは、自分の事など全く興味を待たれていないと思い、がっくりと肩を落とす。


(あらあら、これはこれで面白そうだけどね。)

 その様子を見て、色々察した真理は、少し気の毒そうな目で見ながら、頑張ってねとエイジに小声で囁くのだった。


 ◇


「それでライトはん、真理姉に何したんや?」

 エイジと裕也が帰り、入れ替わりにライトが店に入ってきた途端、ミドリはライトを席まで引っ張ってきて、横に座らせ、詰問を始める。

 美音子とまどかは、真理と一緒に住宅部分の部屋を見に行っていてここにはいない。

 つまり、ここにはミドリとライトの二人きりという事だ。

「いきなりなんだよ。何もするわけないだろ?」

「やったら、真理姉は何であんな疲れとんのや?」

「衣装の所為だろ?着せ替え人形だったからなぁ。」

 そう言ってライトは真理を写した写真を取り出す。

 真理と一緒に帰ってこなかったのは、この写真をプリントする為だった。

 清文と後で相談して決めるという事だったので、ライトは急いでプリントし、写真を持ってきたのだ。


「わぁ、これ全部真理姉か?綺麗やわぁ。」

「本番は、ヘアスタイルも整えるし、メイクもするから、もっとイメージが変わるけどな。」

「はぁ、おにぃにはもったいないわぁ。ライトはんもそう思うやろ?」

「ノーコメントで。」

 ライトは苦笑しながらミドリの背後を指さす。

 そこには、いつの間に来たのか、清文が笑顔で立っていた。

 笑顔ではあったが、こめかみに少しだけ血管が浮き出ている。

「わわっ、冗談やで!おにぃもカッコいいさかい。きっとタキシードが似合うわー。どれも似おうて悩むでー。」

「……と言っても、清文が着るのはこれとこれだけどな。」

 ライトがそう言いながら2枚の写真を出す。

 そこには、マネキンに着せられた、黒基調のタキシードと、濃いめのブラウンのタキシードが写っている。

「ライトはん!」

 フォローを台無しにするな、とミドリの眼が訴えていた。

「どれ着ても似合うんだろ?だっただどれを着ても一緒って事だよ。」

 ライトは惚けてそんな事を言う。


「まぁ、冗談抜きで、ドレス選びで真理がつかれていたけどな、時間の都合上、すぐに決めなきゃいけないらしくてな、今日の殆どは、真理は着せ替え人形だったってわけだ。」

「じゃぁ、他の打ち合わせは進まなかったのか?」

 清文が心配そうに聞いてくる。

 何と言っても式まで1か月もない。

 本来なら、この短期間でまともな式を挙げようとするのが無茶な話なのだが、色々な事情が重なってしまったため、仕方がなかった。

 特に、二人が式を挙げる「スターナイト・エグゼクティブ」は最近オープンしたばかりの人気式場で、本来なら予約しても1年以上待ちが普通だったのを、ライトが以前の職場のコネを使って、キャンセルが出たところに捻じ込んだのだった。


「あぁ、大まかな事柄については、こっちで決めておいたよ。大体よくある無難な線でまとめておいたし、好みの部分については真理に確認したから問題ないだろ?」

 新郎新婦の要望をかなえます!と謳っている式場は数多くあるが、殆どの場合、式場から提案された中から選ぶことが多い。

 結局、新郎新婦は素人であり、何をどうしていいか分からないので、大まかなことはプロであるアドバイザーに言われるがままに決め、その中で、自分たちらしいアレンジを加えて「自分たちらしく」と納得することが多いのだ。

 ライトは仕事上、多くの結婚式を目にしたが、「二人らしさ」と言いながらほとんどが似たり寄ったりだった。

 新郎新婦が悩んで時間をかけた末に、結局は最初に提示されたものに落ち着くのだから似てしまうのは仕方がないのだが、二人が満足しているのだからそれでいいのだと思う。


 ライトはそれらの経験から、「悩んでも結局は誰もが無難に選ぶもの」と「二人が決めるべきもの」に内容を振り分け、清文の意見を聞いたほうがいいもの以外は、全て決めて来たのだった。

 そう言うと、清文はすごく複雑そうな顔をするが、実際今日決めたもので、清文が決める、と言うものはなかったに等しい。

「そんな顔するなって。テーブルクロスの色や装花どうするって言われても、どうせ『真理に任せる』って言うだろ?」

「それはそうだけどさ……。」

 それでも……と清文はブツブツ言う。


「仕方がないだろ?そんなに文句言うなら、お前が学校を休んで行けばよかったんだよ。そうすれば俺は平穏に過ごせたんだ。」

「それは悪かったと思ってるよ、でもなぁ……。」

「あー、もう!お前がやらなきゃならんのはこっちだ。」

 ブツブツ言う清文に書類の束を押し付ける。

 式場との契約書やら、披露宴の出席名簿、席順などだ。

 真理の関係者として出席するのは、義妹であるまどかと友人のみやびとライトだけなので、他の出席者は美音子たち「生徒代表」も含めてすべて清文の関係者となる。

 こればかりは清文がやるしかない作業だった。


「あぁ、それとな、演出にある「スターライト・タイム」な、アレに関しては考えなくてもいいから。」

「どういうことだ?」

 清文が、書類から顔を上げて聞いてくる。

 『スターライト・タイム』は「スターナイト・エグゼクティブ」誇る演出のひとつで、式場側が用意した、歌とトークショーでその場を盛り上げてくれる、ちょっとしたディナーショーみたいなものだ。

 最初は、式場側からのお祝い、という事でちょっとしたサービスだったのだが、下手な芸能人より、歌が上手く、トークも軽快で面白く、時には結婚式らしく感動的な雰囲気が味わえると口コミで広がり、今ではスターナイト・エグゼクティブの最大のウリになっている。

 そのため、最近では二人の要望を聞いて、それに沿った形で式場側が演出を提案して決めていく、という流れになっている。

 要望と予算があれば本物の芸能人だって呼べなくはない為、新郎新婦にとっては楽しみでもあり、一番頭を悩ませる部分だった。


「こっちに任せてくれって事。折角だからな、俺からのお祝いという事で。」

「まぁ、そう言う事なら……どうせ式場にお任せのつもりだったからな。」

「だと思ったよ。」

 ライトと清文は笑いあう。


 女の子にとって、結婚式は夢や憧れかもしれないが、男にとっては、面倒な単なる通過儀礼でしかない。

 ただ、折角時間とお金をかけるのだから、伴侶になる相手が喜ぶことがしたい、笑顔が見たい。

 男にとって結婚式はそんなものだというのが、ライトと清文の共通意識だった。


「ありがとな、急な事で色々世話掛けて。」

 清文は、離れた席で、ドレス姿の写真を見て、キャッキャとやっている真理たちを見ながらそう言ってくる。

 今日の衣装合わせで、ライトが撮影してきたものだ。

 全部で10着近くあったから、真理もかなり疲れていたはずなのに、写真を見ながらいろいろ聞いてくるまどかやミドリに笑顔で答えている姿からは、嬉しさ以外の表情は伺えない。

 正直、本番では、2着しか着ない筈なのになぜそんなに試着が必要なのかライトにも分からなかったが、それを正直に言えば、女性陣からお説教を食らうのは目に見えているから口にしない。

 というか、昼間、昼間ついうっかり口にして、式場にいた星夜にこってり絞られた後だったりする。


「気にするなよ。まどかちゃんの為、なんだろ?」

「まぁな。」

 真理のウェディングドレスの写真を、嬉しそうに見ているまどかを見ながら、ライトが言うと、清文が軽く頷く。


 清文と真理がの結婚式が急になったのは、実はまどかの為だったりする。

 まどか達が襲われたあの事件の後、どこから洩れたのか、まどかの親類と言う者たちからひっきりなしに連絡が入るようになった。

 要は、真理がしっかりしていないから、まどかがあんな目に合ったのだ、親権者の資格を認めない、まどかを引き渡せ!と言うものだ。

 その親戚とやらも、結局はまどかの持つ遺産が目当てで、まどか自身を見ているわけじゃない。

 しかし、相手が法的手段に訴えてきたら、戸籍上何のつながりもない真理は不利にならざるを得ない。

 だから、結婚を機にまどかを養子として迎える事……それが清文のプロポーズに対する真理の返事だった。

 清文の方も、その事を踏まえたうえでプロポーズしたのだから否という訳がなかった。

 そして、プロポーズを受け入れてもらったのなら、後はぐずぐずしている必要はなく、入籍だけをさっさと済ませ、まどかを養子にという手続きを取るつもりだったのだが、清文の両親から横やりが入った。

 曰く、嫁を迎えるのに式をしないなんてとんでもない!

 真理の両親だって、花嫁姿を楽しみにしてるはずなのだから、立派な花嫁姿を見せるのが残されたものの務めだ等々。

 二人の結婚に反対なのではなく、むしろ積極的過ぎて困る、というのが、実は、真理の最近の悩みだったりするのだが、清文はそれに気づいていない。

 

 幸いにも、この夏休みの間に式を挙げることが出来そうなのでよかったが、この時期を逃すと、春休みまで清文の時間が取れず、そうなっていたら二人の結婚についてもう一波乱あったに違いない。


「しかし、清文が結婚、しかも子持ちってかぁ。なんか笑えるな。」

「うるせぇ、ほっとけ。それより、ミドリの前では言うなよ。最近、オバサンって言葉に敏感に反応してるから。」

 ミドリは清文の義妹だから、清文の養子になるまどかは、書類上では『姪』という事になる。

 つまり、逆を言えば、ミドリはまどかの『叔母』になるのだ。

 頭ではわかっていても、さすがに15歳で「オバサン」と呼ばれるのに抵抗があるのだろう。


「まどかちゃんの詳しい事情を知っている奴はいないから、これまで通り「妹」でいいんじゃないか?」

 真理から、その事で相談を受けた時、ライトはそう答えた。

 わざわざ本当の事を触れ回る必要はない。

「出来るだけのフォローはしてやるから、とりあえずは、それ終わらせろよ。」

 だから、ライトはそう言って書類の山を指す。

 こればっかりは手伝ってやれないのだから。


 清文は、うんざりとした顔を隠そうともせずに、書類に取り掛かるのだった。


予定より長くなったので、前後編で送ります。

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