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遠い日の約束  作者: Red/春日玲音


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第26章 夏の終わりと始まり

 海辺を歩く少女……彼女が歩いてきた後には足跡がずっと続いている……カシャッ!


 前を行く少女を追いかけて駆けてくる少女。

 飛びそうになる帽子を片手で抑えている……カシャッ!


 砂にハートマークを書く少女。

 描いても描いても、波に消され泣きそうになっている……カシャッ!


 三人の少女が海を見ている。

 真ん中の一人が振り向いて笑顔をくれる………カシャッ!


「ライトさーん!」

 少女の一人……まどかが大きく手を振っている。

 カシャッ!カシャッ!カシャッ!

 何カットか納めた後、ライトはまどかの方へと近付く。


「疲れたかい?」

「いえ、そうじゃなくて、そろそろ水着に着替えたらってお姉ちゃんが……。」

「ん?水着はNGって真理が言ってなかったっけ?」

「そうなんですけど『買って貰ったものを見せるのが礼儀よ』って言うんです。」


 そう言いながら、まどかは指を指す。

 つられてそちらに視線を向けると、二人の美女がこっちに向かって手を振っている。


 黒いビキニに身を包んでいるのはみやび。

 普段は着痩せするため目立たないが、こうしてビキニになると、隠されていたものが主張してくる……。

 その我が儘ボディの持ち主は、ぱっと見中学生と言っても違和感のない、童顔と身長故に背徳感が半端ない……ホントに困ったものだ。

 本人はDカップと言っていたが、絶対にもっとあるよな。


 みやびと対照的に白いセクシャルなビキニを身に纏っているのが真理。

 みやびほどカップがあるわけではないが、みやびには無い「大人の色気」を醸し出している。 

 ライトの視線に気が付いたのか、真理は身体をくねらせ、みやびは睨みつけてくる。

 ライトはそれに気づかない振りをしながら、まどか達に着替えてくるように指示する。

「はい、じゃぁ着替えてきます!」

 そう言って海の家の方に駆けていくまどか達を見送った後、ライトは二人の近くへ移動する。


「あやちゃん、どう、どう?」

 真理が水着をアピールして来る。

「れーじん………どう………かなぁ?」

 みやびが恥ずかしそうに胸元を隠しながら聞いてくる。

「真理は、清文に見せない方がいい。二度と海につれて来てもらえなくなるから。みやびは反則。」

「ちょっとぉ、どういう意味よぉ。」

 真理が膨れる。

「反則って何よぉ。」

 みやびも文句を言う。


「二人とも似合いすぎて他の男の視線に晒されたく無いって事だよ。」

 ライトはそう言いながら大きめのタオルとパーカーを投げて渡す。

 二人はニヤニヤしながらパーカーを羽織ってくれる……ホント、少しは自覚してくれよ、とライトは思う。


 今日は、ずっと延び延びになっていたまどかちゃん達の撮影会だ。

 どうせなら海に行こうという、真理の発案で海にきたのはいいが、スクール水着しか持っていないという三人の水着を、何故かライトが買うことになった。

 そのことを知ったみやびが、ひたすらロリコンと叫ぶため、機嫌を取る意味も含めてみやびの水着も、そしてそうなれば当然のように真理の水着も………と、結局5人分の水着を買う羽目になったライトだった。

 その値段を見たとき、布がこんなに少ないのに、何でこんなに高いんだ!とライトが人知れず叫んだのは言うまでもない。


 生憎と、清文は学校の用事があるため、今日は来ていない……つまりライトのハーレム状態と言うわけだが………。

 ニコニコしながら、寄り添ってくるみやびを目の前にしていたら、他の子に目移りをしている余裕なんかあるはずもなく、またみやびもそれを許さなかった。


「取り敢えず、肉でも焼き始めるよ。」

 ライトは準備しておいたコンロの火を熾す。

 手早く火を熾すため、着火材を多めに用意したのがよかったのか、程なくして大きな炎が立ち上る。

 炭を崩して炎の大きさを調節してから、網を乗せ、醤油をたっぷりと塗ったトウモロコシをおく。

 ライトは肉だけあればいいと思っていたのだが、女性陣はどうやらこういうモノがないといけないらしい。

 

 トウモロコシが芳ばしい匂いを醸し出す頃、着替えたまどかちゃん達が戻ってくる。


「お待たせしましたぁ。」

 可愛らしく声をかけてくるのはまどかちゃん。

 真理とお揃いの白いビキニだが、コッチは胸元をあしらうレースや、腰元でひらめくパレオなどが可愛らしさを強調している。


「美味そうやなぁ。貰うてええか?」

 色気より食い気とばかりに、焼けたトウモロコシに手をのばしているのはミドリ。

 オレンジ色のセパレートに身を包んでいるその姿は、元気一杯で活動的なミドリらしかった。


「はしたないわよ。」

 両手にトウモロコシを抱え込んだミドリを窘めているのは美音子。

 身体にフィットした淡いグリーンのワンピース姿は、大人と子供の境にいる彼女の、危うい魅力を最大限に引き出していた。


「三人ともよく似合ってるよ。」

 ライトがそう声をかけると、三人は照れたような、それでいて嬉しそうな表情を向けてくれた。

「取り敢えず撮影のことは気にしないでいいから遊んでおいで。おなかが空いたら戻ってくるように。」

 そうライトが送り出すと、三人は一斉に海へ向かって走り出していった。


「まどかちゃんもミドリちゃんも笑ってる……無事だったし、変なトラウマが残らなくてよかったわ。」

 真理が三人を見つめながらそう言い、ありがとう、と再度礼をのべてくる。

「もういいって……それより、結局どうなったんだ?」

 ライトがみやびに聞く。

 今更騒ぎ立てられたくない、と言うまどかの両親の意向を汲んで、密かに捜査がなされるようになったため、どういう状況なのかがよく分からない。

「あのねぇ、守秘義務って言うのがあるんだよ。」

 そう言いながらも、みやびは今分かっていることを教えてくれる。


 まどかと一緒に死んでいた男は、犯人が殺したと言うことだった。

 何でも、その男に借金があったらしく返済を迫られたため、カッとなって川に突き落としたらしい。

 しかし、川に落ちた男は鬼のような形相で這い上がってこようとしたため、近くにあった竿を使って、上がって来れないように突いていたところを、偶然通りがかったまどかに目撃されたので口封じのために突き落としたんだそうだ。


「やだっ、じゃぁタブレットに書いてあったこと、そのままじゃない?」

「それなんだけどね………。」

 流石に、事ここに至っては、事なかれ主義の署長も動かざるを得なく、タブレットの事を調べなおそうとしたらしい。

 それでみやびが呼び出された訳だが、みやびがタブレットを返して貰ってないというと、署長は何かを思い出したかのように引き出しを漁りタブレットを出してきた。

 パスワードは既に解除されている為、電源を入れると、すぐにスケジュール画面が立ち上がったが……。


「無かったのよ。」

「無かったって?」

 みやびに聞き返す。

「あの文章よ。オカルトって言っていた最後の文章が消えてなくなっていたの。」

「そんな……だって、確かに……。」 

 真理が驚く。

「れーじんは驚かないのね。」

 何も言わないライトを見て、みやびが言う。

「いや、この件に関してはもう何があってもな……。」

 ライトはあの時の体験を思い出す。


「なぁ、あの時、俺はまどかに会ったって言ったらお前ら信じるか?」

 ライトはみやびと真理の顔を見ながらそう告げると、二人はにっこりと笑う。

「れーじんがそう言うなら信じるよ。」

「あやちゃんが嘘つくわけないもんね。」

「……なぁ、俺が言うのもなんだが、もう少し疑っても……って言っても無駄か。」

「「無駄よ。」」

 二人が声を揃えて言う。

「大体、れーじんがこの件で嘘つく理由がないでしょ。……それで、まどかとなに話したの?」

「あぁ、俺自身、まだ夢現なんだけどな……、皆にも伝言があったよ。」

 そしてライトは、あの時体験した事を二人に話して聞かせる。


 ……。

 ……。


「……清文と幸せにって言われてもねぇ。あっちに言ってよ、まったくもぅ。」

 真理が目に涙を浮かべながらそんな事を言う。

「清文には『素直になりなよ』ってまどかが言ってた事を伝えてあるよ。」

 ライトはそう答える。

「……。」

「みゃーこ、どうした?」

 黙り込んでいるみやびが心配になって声をかける。

「れーじんは、まどかを選んだんだぁ?」

「それはまどかの夢だって……俺は、みゃーこを選んだって怒鳴られたんだぞ……大馬鹿野郎!ってな。」

「ぶぅ……まどか、他に何か言ってた?」

「あー、えーと、なぁ……。」

「何?やっぱり言えないような事なんだ?」

「いや、そう言うわけじゃなくてだなぁ……。」

 どう言おうか困っていると、真理が何かを察したように笑いながら言う。

「私お邪魔みたいだから、向こう行ってるわねぇ。」

「あ、ちょっと……。」

(ちゃんと伝えてあげなさいよ。)

 止めようとするライトに、真理は小声でそう言うと、まどかやミドリが遊んでいるビーチの方へ行ってしまった。


「ぶぅ……。」

 ご機嫌斜めのみやびの横に座り直し、肩に手を回すライト。

 一瞬身体を強張らせた後、そのまま体重を預けてくるみやび。

「……まどかがな、みやびに伝えてって言ったんだよ。」

「うん……。」

「俺の横にいるのが、みやびならいいってさ。みやび以外は許さないって……俺の意思は無視だそうだ。」

「クスッ、まどからしいね。」

「後、二人で幸せになってって言われたよ。」

 ライトはそう言ってみやびを見つめる。

「幸せに……してくれる?」

 みやびがライトを見上げる。

 潤んだ瞳がじっとライトを見つめてくる。

「保証は出来ないな。」

 ライトは照れ隠しに、ついそう言ってしまう。

 そうでもしないと理性が吹っ飛びそうだったからだ。

 それでも、みやびに引き込まれる様にその顔を近づけ……。


 バシャッ!

 二人に水がかけられる。

「イチャイチャ禁止やで!」

 大きな水鉄砲を構えたミドリが笑いながらこっちを見ている。

「ゴメンナサイ、ライトさん。」

 ミドリの後ろから、まどかが頭を下げる。

 監督していたはずの真理はニヤニヤしながら様子を見ている。

「ライトはん、ウチ等の写真はどないなったんや?ウチ等の水着姿を撮りたい言うとったやないか。」

「……誤解を招く言い方はやめて欲しいけどな。まぁ、折角だからお仕事してくるよ。」

 ライトは、みやびの唇に素早くキスすると、カメラを持ってミドリやまどか達の方へ向かう。


「バカぁ……。」

 みやびは指で唇に触れながら、そんな事を呟くのだった。


 ◇


「ねぇ、あやちゃん。そろそろ帰る時間じゃないの?」

 真理がそんな事を言ってくる。

 それもそうだろう。

 空はオレンジ色になりかけていて、もうしばらくすれば海に夕日が沈んでいく時間だ。

 すでに後片付けは終わり、帰り支度も済ませているのに、ライト達は動こうとしないのだから。

「あぁ、うん、夕焼けのシーンが撮りたいんだよ。悪いけどもう少し付き合ってくれ。」

「そういう事なら仕方がないわね。」

 真理はそう言うと、暇を持て余すように自分の髪を弄り始める。


 そんな真理を見ながら、ライトはスマホを確認する。

 みやびがライトのスマホを覗き込み、ライトと顔を見合わせる。

 そして、みやびは真理に近づき、何やら声をかけた後、ビーチの方へ連れだって歩いていく。


「えっとライトさん、何かあるんでしょうか?」

 怪訝そうな顔でまどかがライトに声をかける。

「あぁ、今日のメインイベントだよ。」 

 ライトはまどか達三人に、この後起きる事を説明すると、その後やる事を指示して所定の位置へと移動する。


「いよいよね。」

 いつの間にか戻ってきていたみやびが、横で楽しそうな声を上げる。

 浜辺には真理が一人残っている。

 真っ赤に染まった夕焼けの中、真理の影だけが長く伸びている。

 そして、もう一つの影が、近づいていく……。


 真理に近づいた男が片膝をついて何かを差し出している。

 真理は両手で口元を隠し、驚きを隠せないでいる。

 海に沈みかけた夕陽が、二人の顔を紅く照らす。

 やがて……真理が眼前の男……清文が差し出したものを受け取る。

 清文は立ち上がり、真理を抱き寄せる。

 ……二人の影が重なるのを、まどかとミドリは、その眼に涙を溜めながら黙って見つめていた。


 ◇


「別に一緒に暮らせばいいのにぃ。」

 みやびがキッチンを片付けながらそう言う。

「そうよねぇ、一体何考えてるんだか。……あっちの部屋終わったよ。」

 真理が掃除機を持って戻ってくる。

「一応な、ケジメってやつだよ。」

 ライトが段ボールを開けながらそう言う。

 

 ここはライトが今日から住むことになった部屋だ。

 1DKの狭い部屋だが、男の一人暮らしにはちょうどいい。

「でもさ……、ここみやびの隣だよね?ご飯も一緒だろうし、どうせ夜も……でしょ?」

 真理の言葉に、みやびが頬を紅く染める。

「部屋を出る意味が分かんないわよ。」

「いつまでも居候の身じゃぁ、中途半端だからな。それに「住所不定」じゃぁ、色々と手続きが面倒だろ?」

 ライトの答えを聞いて、真理がニマニマと笑う。

「そっかぁ、あやちゃんも、この町に骨をうずめる気になったんだね。」

「それはない!」

「何でよっ!」

 真理の言葉にライトが答えると、みやびが即座に突っ込む。

「先の事は分からないからな。……だけど今はみゃーこの傍にいたい。だからこの部屋を借りた……そう言う事だよ。」

 ライトの言葉に、みやびが顔を真っ赤にしてしがみ付いてくる。

「ハイハイ、イチャつくのは私が帰ってからにしてね。」

 呆れたように言う真理の言葉に、みやびがパッと離れる。


「後は二人だけでも大丈夫でしょ。私はお邪魔虫みたいだから帰るわね。」

「ウン、また後でね。」

「……引き留めないのね。」

 みやびが笑顔で答えると、真理は疲れたように溜息を吐いた。


 そんな二人のやり取りを見ながら、ライトはふと考える。

 結局、まどかの事件は何だったのだろうか?と……。

 あの時捕まえた男の自供で、まどかは事故ではなく、突き落とされたと言うことがわかった。

 しかし、きっかけとなった、タブレットの文章は最初から無かったかのように消え失せている。

 それから、まどかちゃんを助けたとき、彼女が発した言葉……「レイちゃん」……。

 まどかちゃんに確認したけど、あの時は茫然としていて、自分でも何を喋ったか憶えていないそうだ。

 そしてライトが体験したあの瞬間………。

 あれは果たして、夢だったのか、それともまどかの想いが見せてくれたものなのか………。


 ただ一ついえることは、ライトの心の奥底にたまっていた「何か」が軽くなったこと。

 そして、これから先の事を考えることが出来る様になったことは間違いない。


 窓から空を見上げる。

 青い空の中の積乱雲が夏を主張している。

 ライトの中で何かが終わり、また新しく何かが始まろうとしている……。

 そんな予感がする今年の夏は、まだ始まったばかりだった。


一応キリです。

6年越しに終える事が出来てホッとしています。

この後、1~2話蛇足的エピローグがありますが第二部を書くかどうかは未定です。

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