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遠い日の約束  作者: Red/春日玲音


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第23章 行方不明

『……ちゃん、美音子ちゃん!きいてる?』

「あ、ごめんなさい。少しボーっとしてました。まどかが帰ってないんですか?」

『……そうなのよ。きっとどこかで遊んでいるのね。帰ったら叱ってあげないと、いけないわね。』

「まだ帰ってないって……もう九時半過ぎてますよ!」

 美音子は壁にかかった時計を見てそう叫ぶ。

 真理が美音子に心配かけないようにと、務めて明るく言っているのは分かるけど、ちょっと遅くなったというような時間帯じゃない。

 そもそもこの街ではこんな時間まで空いているお店なんて殆どないから、遊んで遅くなるというのも考えられない。

「ミドリは?ミドリは帰っているんですか?」

『……それがね、ミドリちゃんもまだ帰っていないみたいなの。清君は今学校から、連絡網で問い合わせてるみたいだけどね。』

 少し沈んだ声の真理に美音子は明るい声で伝える。

「とりあえず、学校で一緒にいた子達に連絡を取ってみます。その後そっちに行きますので待っててください。」

『こっちに来るって……もう遅いわよ。』

「二人が見つからないのにじッとしてるなんて事出来ません!」

『……わかったわ、そっちの先生に変わってもらえる?私から事情を話しておくから。それから、迎えに行くから勝手に動いちゃダメよ。約束できる?』

「……はい、約束します。」

 本当はすぐにでも飛び出していきたいが、それをすれば迷惑がかかることは分かっている。

 それが分からないほど子供ではないつもりだった。


「大事な友達ですもんね……気を付けるんですよ。」

 電話を終えた院長先生が、そう言って私の頭を撫でてくれる。

 こんなことしてもらったの、いつ以来だろう……。

 知らないうちに、涙が溜まっていた目をこすり、電話を掛ける。

 相手は裕也とエイジだ。

 よく考えたら、同年代の男の子に電話を掛けるのは初めてだな、と考えているうちに相手が出る。


『よ、よう、どうしたんだよ、いきなり電話なんて。』

 裕也の声が上ずっているのが分かり、美音子は少し安心し、クスリと笑う。

 本当なら、ここでからかってやりたいところだけど、今はそんな余裕はない。

「裕也、まどかとミドリ知らない?」

 だから、挨拶もそこそこに、単刀直入に聞く。

『野原と霧島?知らないよ。学校で別れたきりだぜ。』

 拍子抜けしたように、裕也が応える。

「そう、ならいいわ。遅くにごめんね。」

『野原と霧島がどうかしたのか……ってオイ……』

 裕也が何か言っているが構わずに電話を切る。

 今は時間がないのだ。

 美音子は続けてエイジの所にも掛けてみるが、答えは裕也と同じだった。

 大体、裕也とエイジは、校門の前で別れた時、美音子はまだまどかたちと一緒にいたのだ。

 美音子が知らないのに、先に別れた裕也たちがまどかたちの事を知る由もない事は分かっていた事だった。

 それでもひょっとして、と思ったが、やはり二人は知らなかった。


 電話を終えたタイミングで玄関のチャイムが鳴る。

 美音子はバックを手にすると、玄関に迎え出る。

 そこにはライトが立っていた。

「早かったんですね。」

「こんな時、ただ待ってるのは辛いからな。」

 ライトがそう呟く。

 確かに、今じっと待っていたらどうにかなってしまいそうで、もし迎えに来るのが遅かったら、飛び出していたかもしれない。

 胡散臭い人だと思っていたけど、こういう心の機微が分かる人なんだと、美音子は感心する。


 まどかが憧れるのも分かる気がするね……。


「ん?何か言ったか?」

 運転席から声がかかる。

「いえ、まどかたちが心配で……あの子たちが真理さんや霧島先生に迷惑がかかる事なんてするはずがないのに……。」

「そうだな……だけど、アイツらはもう少し迷惑かけてもいいって思ってると思うぞ?子どもは大人に迷惑をかけるもんだけど、二人は聞き訳が良すぎるからな。」

 ライトの言葉に、美音子は少しムッとする。

「聞き訳が良くて何が悪いんですか?私達、もう子供じゃないですよ。」

「あはは、悪かった。ただな、「子供じゃない」って言ってる内はまだまだなんだよっ、と、着いたぞ。」

 美音子がさらに言い返そうとする前に喫茶ヴァリティにつく。

 言いたいことはまだあったけど、今はそれどころじゃないと思いなおし、美音子は店内に駆け込む。


 店内には、憔悴した顔をしている真理と、それを労わる様に寄り添うみやびの姿があった。


「何か連絡は?」

「まだ何も……。」


 美音子が店内に入ってから交された会話はそれっきりで、そのまましばらくの間、誰も口を開かなかった。


「あのっ……。」

 重苦しい空気に耐えかねて、美音子が口を開く。

「まどかは……最近何か言ってませんでしたか?」

 そう言う美音子を見て、真理が首を振り、逆に訊ねてくる。

「それは私達の方が聞きたいわ。まどかちゃんやあなた達、最近学校で変わったことない?例えばイジメにあっているとか……。」

 真理の言葉に、ふと脳裏に浮かんだのは、以前美音子を脅していた女性とのことだった。

「イジメは受けてませんけど、まさかアイツらが……。」

「あいつ等って!?」

 美音子の呟きに真理が反応する。

「いえ、以前私が脅されていた……。」

 美音子がそう言うと、真理はがっくりと肩を落とす。

「そっちは既に処理済よ。この2週間まったく接触していないのは確認取れてるし、さっきも捜査員が聞き込み済だからね。」

 みやびがそう教えてくれる。

 最近、残念な言動が多くて忘れがちだったけど、みやびは警察官だったと、美音子は思いなおす。

 きっと、すでに警察も動いていてくれるのだろう。


「美音子ちゃん、他に、思い当たることない?例えば文化祭の関係で何かを調べてるとか?」

「そうですね………。」

 美音子は考える……思い当たると言えば、例のことぐらいだけど……。

「あの……気を悪くしないで欲しいんですけど……、私達8年前の事故のことを調べていたんです。」

「まどかのことを……?」

 ライトの言う『まどか』が8年前の女の子の事だというのはすぐにわかった。

「最近、真理さんや霧島先生の様子が変だって……警察とかも来てるみたいだし、何か凄く疲れた顔してるから心配だって言い出して……。」

 美音子の言葉に、真理が気まずそうな表情を見せる。


「それで、聞いても教えてくれないし、何か8年前の事故が関係してそうだという事は分かったから、調べてみようって事になったんです。でも興味本位とかじゃないです。二人は少しでも真理さんや霧島先生の力になりたかっただけなんです!」

「君達が、興味本位でそんな事する子じゃないって事はわかってるよ。それより、調べても何もわからなかっただろ?」

 必死に二人を庇う美音子に、ライトは優しく言う。

「えぇ、ただの事故としか。」

「だろうな。」

「でも、ちょっと引っかかることがあって、明日現場に行こうって話だったんです。」

「引っかかること?」

 ライトが怪訝そうな顔をする。

「えぇ、実は新聞に書いてあった……。」


 美音子は、助けに入って溺死した男の存在がおかしいと裕也が言い出したことを話す。

「でも、実際は襲われかけたところを誰かに助けて貰った様ですし、助けたのがその男の人だったら、別におかしくはないんじゃないかって思うんです。そう話したら、ミドリが現場に行こうと言いだして、でも少し遅い時間だったので明日にしようって事になったんです。」

 話している内にライトの顔から表情が消えていくのを見て、不味いことを言ったのかも?と不安になる美音子。

「れーじん、どうしたの?」

 不審に思ったのは美音子だけではなかったらしく、みやびが声をかける。

 

「イヤ、さっきの話な、確かにおかしいんだよ。」

「どう言うこと?」

「まどかを助けたのはクニなんだ、それは間違いない。そしてクニを角材で殴って動かなくなったから、襲った奴らは怖くなって逃げ出した。まどかは()()()()()()()()()()から、助けを呼びに行った……じゃぁ、その男はどこにいたんだ?」

「あっ……。」

 ライトの言いたいことがわかったのか、みやびが息を飲む。

「そんなことより、今はまどかちゃん達の事よ。」

 真理が漁った声を出す。

「わかってる!俺は今から河原に向かう。みやびは警察に連絡を。真理は清文を呼びだして、後から来てくれっ!」

 ライトはそれだけを言うと店を飛び出していった。


 ◇ 


 キキーッ!

 かなり乱暴な運転で河原の近くの堤防に着いたライトは、そのまま車から飛び出す。

 河原まで来たものの、どこを探せばいいか見当もつかない。

 そもそも二人がここにいるという保証はどこにもなかった。

 だけど、ライトには「ここにいる」と確信していた。

 何故だかは分からないが、そう思ったのだ。


 ライトは取りあえず堤防の上まで上がる。

 とにかく少しでも高い所から周りを見回そうと考えたのだ。

 周りに何もないからそれなりに遠くまで見渡せるが、この時間では、街灯もぽつぽつとしかなく、薄暗いから、少し物陰にいるだけで見過ごしかねない。

 ライトは焦る心を抑え、走り出す。

 とにかく気になる所を虱潰しに探していくしかない。


 必死に辺りを探し回ったライトだが、辺りには人影どころか、ライト以外に動くものはなかった。

「……ん?アレは?」

 別の場所に移動しようと考えた時、ライトの視界に気になる建物が飛び込んでくる。

 外観やのぼりから判断するに、どうやらウィンドサーフィンのレンタルショップらしい。

「そう言えば、一時流行ってたって言ってたっけな。」

 この川は下流に近い為か、川幅が広くなっており、対岸までは優に100mを越えている。

 また水深も深く、水面は穏やかなため、マリンスポーツに向いていると、話題になった事があった。

 その流行に乗っかって町興しをしようと、河原の一部を改装したり、このようなショップを誘致したりしたらしいのだが、実際には、水面は穏やかに見えても、下の方では流れが早く、渦を巻いている場所もあったりして、川の中は危険な事、そして実際にボートから落ちた人が死にかける事故などが相次いだことなどから、一気にブームが過ぎ去り、今では、こうしてまだ壊されていない建物が当時の名残を残すのみとなっていた。


「隠れたり、隠したりするなら、最適な場所だよな。」

 途中、松林があったりして、堤防の上から見ると死角になる位置にその建物は立っている。

 遠くから見るだけでは気付かない場所だ。

「そこにいてくれよ!」

 その建物に向かって走り出し、かなり近づいたところで、人影を見つける。

 ライトはその人影に近づき声をかける。

「おいっ!」

 声をかけた人物はあからさまに怪しかった。

 黒いライダースーツに、夜だというのにフルフェイスのヘルメットをかぶっている。

 しかも、そのバイザー部分はスモークがかかっていて、外からでは顔が分からない……というか、あれで見えるのだろうか?と妙な心配してしまうライトだった。


「バカっ!声を出すなっ!」

 ライトが声を掛けると、その人物は、一瞬ビクッとした後、振り返りそう怒鳴る。

 声からして男のようだが、ヘルメットの所為でくぐもっていて、はっきりと断言はできない。

 それに、そんな事を気にする余裕はライトにはなかった。

 小屋の中から、何かが倒れるような音がして、バンッと勢いよくドアが開かれる。

 そして、一人の女の子が飛び出していき、その後を追いかけるように男が走って行く。

 小屋の中からは「はよぅ逃げるんや!」という女の子の声が聞こえる。

 

「ミドリちゃん!?」

 ライトが声を出すが、ライダースーツの男に遮られる。

「中の子は俺が助ける!アヤトは、向こうの女の子を!」

 ライトは言われるがまま、半ば反射的に走り出す。

 小屋の中から聞こえた声はミドリちゃんだった。

 だとすれば、さっき走って行ったのはまどかちゃんで、その後を男が追いかけて行った。

 状況が分からないが、このままにして置いたらマズいという事だけはわかる。

 ライトは、まどかちゃんが逃げたと思われる方へ向かって、全力で走って行く。


「ハァ、ハァ、ハァ……いた。」

 息を切らせながらも、まどか達を視界にとらえるライト。

 男は、まどかに向かって喚きながら、じりじりと追い詰めていく。

 それ以上後ろに下がるとまどかが川へ落ちる……そう思った瞬間、ライトは無意識のうちに飛び出し、男を殴っていた。


「まどかちゃん、大丈夫かっ!」

 ライトはまどかの前に立つ。

 まどかは少しでも足を滑らせたら落ちそうなぐらいギリギリのところに立っていた。

「ライトさ……レイちゃん?」

 まどかの口から懐かしい言葉が零れる。

「えっ?」 

 あまりの事に、ライトの思考が一瞬止まる。

「ライトさん危ないっ!」

 

 バッシャーン!


 一瞬何が起きたのか分からなかった。

 まどかちゃんの顔とまどかがダブって見えて……気づいたらこんなことに……。

 ライトは「あぁ、突き飛ばされて落ちたのか。」と、川の底へと沈んでいきながら、妙に冷静に現状を受け止めていた。


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