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遠い日の約束  作者: Red/春日玲音


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第22章 不審者

「……と言うのが、母さん達に聞いた話なんだけど、どうかな?」

 放課後、まどか達5人は昨日と同じように教室の片隅に集まって話をしていた。

 今は、丁度エイジが母親から聞き出した話を報告し終えた所だった。

 その話を簡単に纏めると、当時の杏南中はイジメが横行していたとのことだった。

 今より生徒数が多かった事と、今ほどイジメに関して過敏な反応する者が少なかった事もあって、結構な案件のイジメが見て見ぬ振りをされてきたとの事だった。


 そして例の事故の時、一時マスコミが「イジメによる自殺」と騒ぎ立てた事があったらしい。

 結局、学校側が否定した事と、警察が事故として処理したため、騒ぎは沈静化したが、その直後に校長を始めとする数人の職員が2学期の初めという中途半端な時期に異動したことや、一部の生徒が3年の半ばという大事な時期に転校していったりしたことなどから、本当はヤッパリイジメが原因だったのでは?と噂されているらしかった。


「その転校していった生徒って言うのが、実はイジメをしていた側だったらしくて、何人かはその直前に大怪我をしていた人もいたんだって。だからイジメた相手から報復されたから逃げ出したんじゃないかって話だよ。」


 エイジの話が終わると、続けて裕也が話し出す。

「コッチは多分、その当事者の話になるかな?話を聞いた先輩のお姉さんの彼氏の友達のお兄さんの話なんだけど……。」

「相変わらず、信頼性の薄そうな情報源ね。」

 美音子がツッコむ。

 裕也が手に入れてくる話はいつもこうなのだ。

 近そうに見えて遠い関係者からの話しで、いつもミドリか美音子が「それ赤の他人だよね」とツッコむところまでがお約束になっている。

「仕方がないだろ、実際そうなんだからさ。」

「それはいいから、その遠い他人のお兄さんがどうしたって?」

 脱線しかけた会話をエイジが軌道修正する。


「あぁ、その人の話なんだけどね、その人自身は加わってなかったらしいんだけど、友達が、当時イジメグループに入っていたらしくてさ。ある日、その友達から誘われたらしいんだよ、そのイジメてる相手の知り合いの女を襲うからお前も来いって。」

「おいっ!」

 話が不穏な方向に行きそうになったのでエイジが慌てて止める。

 間違っても女の子相手にする話じゃない。

 それに気づいたのか、裕也も「あっ」っと言って口をつぐむ。


「気遣ってくれてありがとう。でも大丈夫だから、続き聞かせて、ね?」

 まどかが顔を強張らせながらも、微笑むようにして裕也に続きを促す。

「あ、あぁ……でも、話を振っておいてなんだけど、あまり気分のいい話じゃないぜ?」

「大丈夫や、ウチらはそう言う話慣れとるさかいな。」

 ミドリも大丈夫と、続きを促す。


「じゃぁ……。で、結局その人は友人の勧めに従って現場に行ったんだよ。そこには呼び出された女の子が来ていて……で、わかるだろ?大勢で襲ったんだよ。」

 うっ、とまどかが口を抑える。

 美音子が、そんなまどかを優しく抱き寄せる。

「それで、襲われた女の子はどうなったんや?」

 ミドリだけが気丈に話の続きを聞こうとする。

「……ここからは、ちょっとはっきりしないんだけど、その人が言うには女の子に襲い掛かった人はいたけど、実際には女の子は襲われていないっていうんだよ。」

「ちょっと、どういう事やねん?」

「だからはっきりしないんだってば。なんでも襲い掛かった時に助けが入ったとか、怖くなって逃げだしたとかって話で。その後に、その襲うはずだった女の子が亡くなったって警察が事情徴収に来たらしいんだよ。」


「そんで、その人どうなったんや?」

「それだけだよ。警察に正直に話して、その場にいたけど何もしてないって……で、それっきり。あの時、誘いに乗らなきゃよかったって話してたらしいよ。」

 裕也の話が終わると、みんな黙り込み、その場を静寂が支配する……。


「なぁ、さっきの裕也の話に出てきた女の子って……。」

「そうね、たぶん、この被害者の子だわ。」

 美音子がノートのスクラップ記事を刺しながら答える。


「そうだと思う……そしてその人はお姉ちゃんの大事な友達だった……うん、なんかね、わかっちゃったかも……。」

 まどかが力なく微笑みながらそう呟く。

「分かったって、何が?」

 美音子がまどかの呟きに応える。

「昔ね、何でお姉ちゃんは、私の為にこんなにしてくれるんだろうって不思議に思った事が有るの。」

「せやなぁ、ウチもそう思うで。」

 まどかの言葉にミドリも同調する。


「ごめん、話が見えない。」

 エイジが聞いてくる。

「せやな……エイジたちは小学校が違うから知らんと思うけどな、ウチとまどかは5年前にこっちへ転校してきたんや。」

 まどかの代わりにミドリが話し出す。

「アンタ等も知っとるように私とおにぃは血ぃ繋がっとらへんねん。まどかもそうや、真理姉とは血ぃ繋がっとるわけやない。まったく知らん土地で、知らん奴らに囲まれて暮らすっちゅうのがどれだけ大変かって事はネコならわかるやろ?」

 美音子は黙って頷くが、エイジと裕也にはよくわからないようだった。

 そんな二人の顔を見て、翠は自嘲するように小さく笑う。

「二人には分からんやろうなぁ。でもええわ、もしエイジが、今日家に帰ったら知らへん女の子がいて、お母はんから「今日からアンタの妹やで仲ようしてぇな。」って言われたらどないするん?」

「どうって言われてもなぁ……。」

「困るやろ?」

 ミドリがそう言うと、エイジは決まずそうに頷く。


「で、や、その女の子が学校で友達泣かしたいうて、先生や相手の親が怒鳴り込んできたらどないする?」

「まぁ、そりゃぁ、何でそんなことするんだって叱る……かな?」

 エイジの答えにミドリは、フッと笑う。

「いや、その前に、その子に理由を聞くだろ?普通は。」

 いきなり会話に割り込んでくる裕也を、まどかが驚きの目で見つめる。

「ほなら、その女の子に理由を聞いたら、当然、ウチは悪ぅない。悪いんはアイツらだっていうわな。当然、相手はそんなことない、その子が手を出したのはみんなが見てるって言うんや……、さて、裕也はどうするん?」

 挑戦的な眼で裕也を見るミドリ。

 その視線に押されながらも、裕也は考えて答えを出す。


「その子が手を出したのなら本当なら……代わりに俺が頭を下げて回るよ。」

「……裕也らしい答えやな。」

 ミドリは軽く微笑む。

「でも……それじゃぁ、その女の子は救われないよ。誰も知っている人がいない中、一応「お兄さん」がみんなに頭を下げる……その子は悪くないのに、自分のしたことで「お兄さんに迷惑をかけた」って事だけが傷になって残るよね?」

 まどかが、小さい声だけどはっきりとそう告げると、裕也は何も答えられずに黙り込む。


「実際にあった事やで。その女の子は、偶然イジメの現場を目撃し、その子を助けるために渦中に飛び込む。やけど、しょせんは子供の喧嘩や。当然親が出てくるわな。訴えた子は、明るくてクラスの中心にいる女の子、片や転校してきたばかりで、周りに馴染んでいない女の子、しかも家庭に問題あり……どっちの言葉を信じるん?」

 ミドリの言葉に裕也とエイジは返事が出来なかった。


「普通ならエイジや裕也の言ったとおりの行動起こすんやろうなぁ。実際ウチの両親は謝ろうとしたさかい。でもなぁ、その時おにぃが言うたんよ。「ミドリは悪ぅない。手を出したのもそれだけの理由があったからや!」ってな。真理姉も「まどかを助けるための行動が責められるのは間違ってるし、そう出るなら考えがある」言うて、相手の親子を傷害と器物破損、名誉棄損で警察に訴えようとしたんやで。それからしばらくは、もう大事でなぁ……小さな子供の喧嘩が町議会の偉いさんまで巻き込む騒ぎになってもうてな……うちはもうええからって……頭下げようとしたんやけど、今度はまどかが許してくれへんでな……。」

「だって、仕方がないよ。きっかけはともかくとして、私達を信じてお姉ちゃんたちが動いてるんだもん、最後まで見届けなきゃ……。」


「………お前ら、そんな事があったのか?」

 エイジがそう呟く。

 まどかはエイジに微笑みを向けると話を続ける。

「結局、耐え切れなくなった向うの女の子が、私に対してイジメをしていて、それに怒ったミドリとケンカになったって事を親に白状してね、向こうの親が頭を下げに来て、その時は収まったんだよ。」

「せやけど、その事がきっかけで、あの小学校からイジメが無くなったんや。月に一回頼みもせぇへんのに婦警さんが見にきてなぁ。」

 ミドリが笑いながら言う。

「あの時は、何でお姉ちゃんたちがあそこまで必死なのか分からなかったけど……、友達がイジメにあっていて、それで亡くなったなんて事が有ったなら……。」

「せやなぁ……ウチやったら後悔しまくって、二度とウチの周りでそんな事が起きんようにって思うわなぁ。」

「うん、お姉ちゃんたちもそう思ったんだよきっと。」


 それから、しばらく沈黙が続き……、やがて、エイジが口を開く。

「話を戻すけどさ、結局、その事故のせいで、イジメが発覚したってわけだよな。……学校としてはイジメがあったというだけでも大きなイメージダウンなのに、それが原因で自殺したなんて認められないよな。」

「そうね、警察が事故って発表したから、本当に事故だったんでしょうけど、途中で異動になった先生っていうのは、責任を取らされたんでしょうね。」

 エイジの呟きに美音子が応える。


「でも、ヤッパリおかしないか?」

 そこにミドリが異を唱え、みんながミドリに注目する。

「だってそやろ?何だかんだ言うても8年前の出来事や。すでに事故って解決しとるんや?なのに、なんでおにぃや真理姉の所に警察が来るん?」

「そうだよね、それを調べようって事だったんだけど、結局何も分からないね。」

 まどかも力なく頷く。


 何か建設的な意見が出るわけでもなく、再び静寂がその場を支配し、たまにパラパラとノートをめくる音だけが教室内に響く。


「なぁ、コレって……おかしくないか?」

 スクラップ記事を見ていた裕也が、ある個所を指さす。

「ん?……「助けに入った男性が溺死」??何がおかしいんだ?」

 エイジがその個所の見出しを見て、裕也に訊ねる。

「いや、この助けに入った男性ってどこにいたんだよ?いつからいたんだよ?」

「そりゃぁ、近くに偶々いた……んじゃ……。」

 エイジの言葉が小さくなる……おかしいことに気付いたのだ。

 

「裕也、良く見つけたで!確かに変や。」

「だろ?女の子を呼び出した奴は、周りに人気が無いこの場所を選んだんだ。それなのに、この人がいたなら、場所を変えたはずだよ。」

 興奮気味に叫ぶ裕也。

「でも、女の子が襲われたときに助けが入ったんでしょ?それって、その人が助けたって事じゃないの?」

 美音子の指摘にシュンとなる裕也。


「……ここで考えても埒があかへんで。」

 ミドリが叫ぶ。

「だからと言ってどうするのよ?」

「決まっとるやないか、現場に行くんや。」

「今から?」

 美音子は窓の外を見る。

 まだ明るいが、河原まで行く頃には夕方になるだろう。

 施設の幼い妹達を迎えに行くのは、今日は美音子の当番だった。

「ごめん、今日は用があるのよ。明日の早い時間なら付き合うわ。」

 そう言って、美音子は帰り支度を始める。

「そうだなぁ、俺達も今からだとちょっと……。」

 エイジや裕也の家は川とは逆の方にあり、今から河原に行くと、帰る頃には暗くなってしまうだろう。

 いくら夏で日が長いとはいえ、さすがにそんな遅くまで出歩けるはずがない。

「悪いな、明日行こうぜ!」

 そう言って二人も帰り支度をし始める。


「なんや、友達甲斐の無い奴らやなぁ。」

「仕方がないよ。もう遅いからね。私達も帰ろ?」

 ブツブツ言うミドリを促してまどかも帰り支度を始める。


 ◇


「うーん、やっぱり気になるなぁ。」

 帰り道、ミドリがブツブツ呻いている。

「もぅ、まだ言ってるの?明日行くことになったじゃない。」

「でもなぁ……。」

 諦めきれないミドリを見て、まどかは仕方がないなぁと呟く。

「じゃぁ、私達だけで、ちょっと行ってみる?」

「ええんか?」

「ウン、明日の下調べって事で。私も少し気になってたし、それに……。」

「それに?」

「今から行けば、綺麗な夕日が見られるよ。」

 そう言ってにっこりと笑うまどかを見て、みどりは「せやな」と答える。

 この笑顔見て堕ちぃへんオトコはいぃへんやろうなぁ。

 まどかの笑顔を独り占めしている幸福感と、将来への不安が混ぜこぜになった気持ちを抱えながら、ミドリはまどかの手を取って駆けだす。


「ちょ、ちょっと、いきなり走ったら危ないよぉ。」

「急がへんと夕日に間に合わへんで。」

「あと30分あるから急がなくても大丈夫だよぉぉ。」

 まどかも、ミドリも、こんな他愛のない事で笑いあえる今という瞬間(とき)が大好きだと思った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……はい、お電話変わりました、根岸です。」

『あ、美音子ちゃん?よかったぁ、あなたはいたのね。』

 電話の向こうの相手が、心底よかったという声を出す。

「あの……何が……。」

『あ、ごめんね、ちょっと安心しちゃって……。変なこと聞くけど、まどかちゃんかミドリちゃんと一緒に居たりしない?』

 電話の相手……真理さんの声が固い……少し震えてるような気がする。

「ごめんなさい。二人とは学校で別れたきりなんです。……まどかたちに何かあったんですか?」

『あ、ごめんね、大したことじゃないのよ。ただまだ帰って来てないからちょっと心配になっちゃって……。』


 真理の言葉を聞いた美音子の胸に不安がよぎる。

 何かとてつもなく悪い事が起きようとしている気がした。

 

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