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遠い日の約束  作者: Red/春日玲音


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16/29

15章 まどかの日記

『10/1 

 今日学校で1/2成人式って言うのがあった。

 何でも成人式までの半分の年になったから、将来の夢を考えましょうだって。

 そして、お祝いにと、この日記帳をみんな貰った。

 折角だから今日から日記をつけてみようと思う。

 でも、みんな日記書くのかなぁ?

 真理やみやびは、この日記帳に書ける分は書くだろうけど、レイちゃんや清君、邦正はきっと三日坊主だね。

 でも、今日くらいはみんな書いていてくれるといいなぁ。

 居場所が違っても、今この時間だけは皆のことをお互いに思いながら日記を書いてる……そう考えるとなんかいいよね。

 みやびなんかに言うとまたバカにされるかも知れないけどね。』


 まどかの日記はこんな感じで始まっていた。

 この日記帳を貰った日のことは憶えている。

 どうせなら、もっと言いものがよかったと、みんなで文句を言ってたんだっけ。


 パラパラとページをめくる。

 まどかはきちんと毎日書いていたようだ。

 あるページで指を止める。


『10/8 

 ヤッパリみんな三日坊主だった。

 今日日記の話題がでたとき、書いてないって白状したよ。

 三日坊主と私が言ったら、清君は4日書いたから三日坊主じゃないって反論してきたけど、真理とみやびに論破されて涙目だった。

 邦正は初日だけ、レイちゃんは2日書いただけだって。

 まぁ、分かってたことだけどね。

 以前交換日記をグループでしたときも、レイちゃんや邦正の処で止まっていたからね。

 レイちゃんは『俺はこんな紙切れじゃなく心の中に書き綴ってるんだよ!」って言ってた。真理やみやびは笑っていたけど、私はちょっとキュンときちゃった。

 レイちゃんはたまにこう言うことをよく言うから文才があると思うの。

 レイちゃんが詩とか物語を書いたら読んでみたいな。』


 その後も日記は続いていく。

 殆どがその日の出来事と、その時どう感じたか?という内容ばかりだ。

 給食のメニューから誰かの悩み相談まで、内容は多岐に渡りその時のまどかの心情が余すことなく記されていた。

 そして、毎日仲間の誰かが日記に登場していた。


 さらにペラペラとめくり、2冊目を手に取る。

 この日記帳は半年分書くことが出来る。

 だから、偶然だとは思うが10/1から始まった日記は3/31で1冊目を終えていた。

 だから2冊目は5年生の4/1から始まる。


『4/1

 悔しぃ!完全に騙されたよ!

 今日みやびがこそっと言ってきたの。邦正が待ってるから一人出来てって。

 私は何だろうって思いながら言われた場所に行ったの。

 そこには邦正がひとりで待っていて、私の顔を見るとホッとしたように笑ったの。

 それから私に近づいてくると、いきなり、その場で片膝をつき、片手を私の方へ伸ばして「好きです!結婚してください」って言うのよ。

 私はパニクっちゃって。オロオロしながら邦正の手を取ろうとしたとき、レイちゃんが出てきて「なんちゃって!」って言うのよ。

 全部私をからかうための罠だったのよ。

 そりゃぁね、よく考えたら、去年私が真理に言って清君に仕掛けた事と同じ事をやり返されただけなんだけど……酷いよ。

 私は家に帰ってからずっと考えていた……どうしてこんなに怒ってるのかなって。

 邦正の事が好きだったから?

 何か違う気がする……邦正は確かにカッコいいし、頼りになって、それでいて優しい。

 でも、好きかって聴かれると……。

 ふと、飛び出してきたレイちゃんの顔が浮かぶ。

 あぁ、そうか、レイちゃんが関わっていたからこんなに怒ってるんだ。

 でも、何でだろ?

 レイちゃんがこんなくだらないことに荷担してたから怒ってる?

 ううん、普段もっとくだらない事してるし今更だよね?

 だったら何でだろう?

 ……………ダメだぁ、いくら考えてもわかんないよ。

 今日はもう寝よう。』


 そう言えば、こんな事もあったっけ。

 あの時は答えを聞くのがイヤで予定より早く飛び出して、後で皆に怒られたんだっけ。

 あれからしばらく、まどかは口を聞いてくれなかったなぁ。

 なんか懐かしいとライトは思う。


 この日記はタイムカプセルだ。

 ライト達が、未来は楽しいことが待っていると純粋に信じていたあの頃が詰まっている。

 だから懐かしくて……そして胸が痛い。


 懐かしさを噛み締めながら、日記をめくっていく。

 綴られた日常、なんて事のない普通の一日のはずなのにキラキラと輝いて見える。


『8/1

待ちに待った野外学習。

 今日は、山歩きをしたり飯盒炊飯をしたり大変だったけど、余りにも楽しくて興奮しすぎて眠れない。

 さっき真、みんなで星を見てたの。

 勉強不足だった先生に代わってレイちゃんが星空ツアーをし出したときはホントビックリしちゃった。

 星座って神話と関わりがあるんだって、だからそれぞれの星座に物語があって、それを語るレイちゃんは、なんか夜空のお星様と同じぐらいキラキラして見えたよ。

 特に七夕の星座の話は面白かった。

 前々から思っていたけど、レイちゃんってかなりのロマンチストじゃないのかなぁ。

 帰り際、「楽しかったね、れーじんの話面白かったね」と、しきりにレイちゃんの事ばかり話すみやびを見ていたら、胸の奥がチクっと痛んだ。

 コレって何だろうね……。

 明日の夜はキャンプファイアーと肝試しだって、楽しみだなぁ。

 みんなが呼んでる……この後は女の子だけの内緒話をするんだって、だから今日の日記はここまで。』


 女の子だけのナイショ話かぁ……小学生でも、女の子は女の子ってか。

 ライトは苦笑しながら先のページをめくっていく。

 思い出が詰まった日記帳……読み進めるほどに胸が締め付けられていく。


 二冊目を読み終え、三冊目を手に取る。


『12/24

 今日はクリスマスイブ……そして私の誕生日。

 色々あって書き切れない。

 私はクリスマスが嫌いだった、誕生日が嫌いだった。

 だって、いつも纏められるんだよ。

 誕生日パーティだって言うのにツリーを飾って、皆でプレゼント交換……なんかおかしいよね?

 今日も、みんなで集まって私の誕生日祝いとクリスマスパーティをすることになってたの。

 いつもの事だから、もう慣れちゃったけど……ホントは一緒にして欲しくなかったなぁ。

 だけど、今日は何か違った。

 邦正はひたすらクリスマスを連呼していたし、レイちゃんは誕生日をアピールしてくれていた。 

 二人とも何を意地になってるんだろうって思ったけど、理由は帰り際に分かったの。

 皆が帰る頃になって、私は邦正に呼び出された。

 「コレ、誕生日プレゼント。クリスマスとは関係ないからな。」

 そう言って小さな包みを押し付けて、逃げる様にして帰っていった邦正。

 みんなが帰った後、レイちゃんが戻ってきた。

 「メリークリスマス!……誕生日だけじゃなく、一応クリスマスもお祝いしないとな。」

 そう言って私に渡してくれるプレゼント。

 白い箱に赤いリボン、リボンには緑のラインが入っていて、ちゃんとクリスマスカラーになっていた。

 「知ってるか?クリスマスには奇跡が起きるんだってさ。いい事あるといいな。」

 そう言って帰っていったレイちゃん。

 二人の不器用な優しさに、なんだか胸の奥が暖かくなったの。

 この気持ちに、何て名前を付けたらいいんだろうね?』


 こんなこと言ったっけ? 

 ライトは日記を見ながら、こんな恥ずかしい事を言ったのかと見悶える。

 まぁ、クリスマスムードにあてられたという奴だ、うん、そうに違いない。

 他にはないよな、と思いつつ読み進めていく。


 四冊目を手に取る。

 なんか読み進めているうちに、女の子の秘密を覗き見しているようで後ろめたくなってくる。

 これは読み終えたら真理かみやびに預けようと思った。


『8/10 

 今日皆と約束した。

 大人になっても、毎年必ず会おうねって。

 きっかけは真理の声だったけど、私も真理と同じことを考えていた。

 だからこの約束は真理を安心させるためのモノじゃなく、私自身のため。

 いつまでも一緒、なんてことできないのは分かっている。

 でも、1年のうち、たった1日だけなら……一緒にいてもいいよね?

 1日だけならわがまま言ってもいいよね?』


 例の約束の事……まどかはまどかで思い悩んでいたみたいだった。

 いつもより短いその文章が、まどかの悩みの大きさを物語っている。

 全然気づかなかった……。

 ライトは思わずこぶしを握り締める。


『8/30

 犬を見つけた。

 捨て犬なのか迷子なのかは分からないけど、凄くやせ衰えていてお腹を空かせていた。

 うちでは飼えない、ママが嫌いだから連れて行くわけにもいかない。

 だけどこのまま放置したら死んじゃうと思った。

 どうしていいか分からず困っていた所にレイちゃんと邦正とバッタリ会った。

 二人のお陰で、どうにか、雨風を凌げる場所を作る事が出来た。ちょっとした秘密基地だった。

 ワンちゃんは、ご飯も少しだけど食べてくれて、今は眠っている。

 時間も遅いし、もう帰らないといけないけど、このままにして置きたくなかった。

 「俺が見ておくよ。お前らお所と違って、親が帰ってくるの遅いからな。」

 だからお前らは帰れと、邦正に追い出された。

 私は後ろ髪を引かれる思いで一杯だったけど仕方がなかった。

 私は初めて、早く大人になりたいと思った。』


 あの時の事か……。

 ライトは思い出して胸を詰まらせる。

 ライトにとって苦い思い出……。


『8/31

 今の時間は朝の7時……先程までの事を忘れないうちに書いておこうと思う。

 私はたぶんレイちゃんを傷つけた……そんな気はなかったのに……。

 昨日のワンちゃんの事が気になった私は寝むれずにいた。

 だから、親が完全に寝入った頃を見計らって家を抜け出そうと考えた。

 だけど、親が寝静まるのを待っている間に、私も少し寝ちゃったみたいで気付いたら時計は3時を指していたの。

 私はコッソリと家を出て、昨日の秘密基地へと向かったんだけど……そこには先客がいたの……レイちゃんだった。

 レイちゃんは私の顔を見ると驚いていたわ。

 「こんな時間に何しに来たんだよ」って言われたけど、それってお互い様だと思うの。

 その後は色々な事を話して時間を過ごしたんだけど、よく考えたらレイちゃんと二人っきりでこんなに話したのって、これが初めてじゃないのかな?

 話題に詰まると、レイちゃんは星の話をしてくれた。

 今の時期は秋の星座に移り変わりつつあって、秋は他の季節に比べて明るい星が少ないんだって教えてくれた。

 それからも色々話をしたんだけど、会話が途切れた時、レイちゃんがポツリと言ったの。

「クニはいいやつだよ」って。

 何故そんな事を言うのか分からなかった。

 直前までの話題で邦正の事ばかり話していたからなのかな?

 ただ、そう言われた時、そう言った彼の横顔を見た時、私の胸の奥がズキリと痛んだのよ。

 私が黙っていると、レイちゃんは何かをごまかすように「オリオン座が見えるよ」っていう。

 見ると、明るくなってきた東の空に、特徴的な三つ星が見えた。

 結局、日の出を見届けた後、私達は秘密基地を後にしてそれぞれ家に帰ったの。

 何でかな?なんでレイちゃんはあんなこと言ったのかな?それもあんな辛そうな顔して……。

 あの顔を見た時、あの言葉を聞いた時、私は分かっちゃった……この胸の痛みが何なのか?この思いをなんていうのか……。

 私はレイちゃんが好き……でもレイちゃんは私が邦正を好きだと思っている……だからあんなこと言ったんだと思う。

 私がもっと早く、この思いに気づけていたら……レイちゃんにあんな顔をさせる事はなかったのかなぁ?

 いつかきっと、この思いがレイちゃんに伝わりますように……。』


 夏のオリオンと苦い思い出……まどかの言葉の端々から伝わってくる想い……それは邦正に向けてのものだとライトは思い、自ら身を引くために言った言葉。

「ははっ、笑っちゃうぜ、全く……。」

 あの時から星を見る事が少なくなった……少なくともオリオンだけは目に入れないようにしてきた。

 オリオン座を見てしまえば、あの時の事を思い出すから……瑠璃色の空に輝くオリオン座と、彼女の笑顔……。

「ホント、想いはなんで上手く伝わらないんだろうな。」

 この時、お互いの想いがちゃんと伝わっていれば……また違う未来があったかもしれない。


 そして5冊目……6年の最後の日記だ。


『10/17

 楽しみにしてた修学旅行だけど、レイちゃんと班が離れちゃった。

 同じ班のみやびが羨ましいな。

 でも、明日の班別行動は、みやびと話を合わせて一緒に回ることにしたから、少しだけでも一緒に居られるからいいかな。』


 5冊目の日記の半分はライトが登場していた。

 まどか自身も無意識だったと思うが、何かにつけてライトの事ばかりに触れていた。

「まぁ、みやびが拗ねても仕方がないか。」

 みやびは、朝、この日記をライトに渡すと、何も言わずにさっさと出て行ってしまった。

 

『3/25

 今日は卒業式。みんなとも一旦お別れ。

 と言っても一緒の中学校だからね、会おうと思えばいつでも会えるよね。

 それに、夏になれば、約束が待ってる。

 約束さえあればきっと頑張っていけるよね。

 皆、卒業おめでとう。』


 残り少なくなったページをめくっていく。

 そこには、春休みの他愛の無い出来事がつづられている。

 そして6冊目……。


『4/1

 リベンジ成功!

 私が「好き」って言った時のレイちゃんの顔。

 今思い出してもニマニマしちゃう。

 中学の制服を着てレイちゃんに告白なんて、ちょっとやり過ぎだったかな?

 でも仕方がないよね、一番最初にレイちゃんに見て欲しかったんだもの。

 私が「なんてね。やーい騙されたぁー!」って言った後のレイちゃん、凄く怒ってたなぁ。

 もう来年からこの手の嘘は禁止されちゃった。

 でもね、レイちゃんには悪いことしたと思っているけど……嘘じゃないんだよ。

 いつか、エイプリルフールで誤魔化さずにちゃんと言えたらいいなぁ。』


 ……確かに、あの時は本気で言われたと思ったんだ。

 そんなことないと思いつつ、もしかしたら、と期待してしまった。

 それだけ、まどかの言葉が真に迫ってたから。

 だから、騙されたと言われた時は怒ってしまった。

 だけど、嘘じゃないのなら真に迫っていて当たり前だよなぁ。

「ホント、すっかり騙されたよ。」


 そして最後のページ……。


『4/9 

 今日、学校でみんなタブレットを貰った。

 メッセージを赤外線でやり取りしたり、スケジュール管理が出来たりするんだって。

 付属のタブレットペンを使えば、そのまま書けるみたいだからメモ代わりにも使えて便利なの。

 なんでも、このタブレットを作っている会社がこの町にあって、杏南中は全員購入して授業に役立てるんだって。

 こういうの、何かワクワクするよね。

 カレンダーのメモ機能使えば、日記代わりにもできそうだし、明日からこれに日記を書いていこうと思うの。

 最近、パパが私の日記を気にしてるみたいだし、読み返してみると、ちょっと人に見られると恥ずかしい内容が多くなってきてるしね。

 タブレットならパスワードを入れないと誰にも見られる心配ないから安心だよね。

 パスワード何にしようかな…………やっぱり、レイちゃんと作ったアレかな?

 皆とのつながり……残しておきたいからね。』


 日記はここで終わっていた。

 書いてあった通り、続きはタブレットの中に書いてあるのだろう。

 ライトは積みあがった日記に向かって呟く。


「なぁ、まどか、応えてやれないこの想いはどこに行くんだろうな。」


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