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第一章 ライト

「お前、明日から来なくていいから」


この先はカーブが続くので、運転に集中しなければ危ないのだが、ライトの頭の中では師匠の言葉が何度もリフレインしていた。


「お前にはこの仕事向いてないよ。今から別の職を探した方がいい。」


何度も繰り返される言葉・・・・・・わかってる・・・・・・でもどうしようもないんだ。


どうしたらいいんだよ!!・・・ライトは思いっきり叫んでみる。

その時「ぷわぁぁぁ~ん」とけたたましくなるクラクションの音。目の前に迫る大型のトラック。


ヤバイ!いつの間にか対向車線にはみ出している。


ライトは慌ててハンドルを左にきる。向こうも避けようとしてくれていたのか、ギリギリのところで衝突を避けることが出来た。


ミラーで後ろを見てみると、トラックを脇に止めたドライバーが何かを叫びながらこっちに向かってくるところだった。かなり怒っているようだ・・・当たり前か。


厄介なことになる前に逃げよう!そう思ったライトは車を急発進させる。


あそこからじゃUターンは出来ないだろう。こっちのナンバーもたぶん見られてないはずだ。車種もどこにでもあるような軽ワゴンだし、少し離れれば追ってきたとしてもわからないはずだ。


そう思いながらも、心臓はバクバクいってるし、手足は緊張で萎縮してしまい運転するのも一苦労だった。


それでも30分も車を走らせていれば落ち着いてくる。と同時に空腹感を覚える。


「そういえば、朝から何も食ってなかったなぁ」


ナビを見るともう少し走ったところにコンビニがあるみたいだ。そこで何か買うことにしよう。

ライトはそう決めると、車の進行方向をコンビニのある大通りへと向かわせるのだった。


コンビニで買い物を済ませ、更に10分ほど走せると、車を止めて休憩するのにおあつらえ向きの場所を見つける。


周りを見渡すと、左手のほうに大きな川が流れていて、ここからでも魚が飛び跳ねたりしてるのがわかる。


「懐かしいな」


買ってきたパンを食べながらライトは思った。


昔もこんな風によく川を眺めていた気がする。あのころは、もっと視線も低かったっけ・・・・・・。


――約束だよ――


ふと、頭の中に浮かび上がる言葉・・・・・・。


――それならさ、十年後に集まろうよ――


そういったのは、まどかだっけ?


――絶対に、約束だからね――


・・・・・・なぜ、今になって思い出したんだろう?

ずっと忘れていた・・・いや、思い出したくなかっただけなのか。


・・・・・・行ってみるか?


そんな考えが浮かんだことに、ライトは驚いた。


8年前のあのときから、二度と戻るつもりもなかったあの街へ自ら行こうと思うなんて、数年前の自分では考えられないな・・・どうかしてる。


ゴミをまとめて近くのくずかごに入れ車に戻ろうとした時、ライトの車のすぐ後ろにパトカーがとまっているのが見えた。

慌てて車の場所まで戻ると、ライトの姿を見た婦警が声をかけてくる。


「この車、キミの?」

「ええ、そうですが?」

答えながら婦警を見てみる・・・童顔。第一印象はその一言につきる。

整った顔立ちをしているが、綺麗というより可愛いという印象をうけ、制服を着ていなかったら誰も婦警とは思わないだろう。それどころか高校生だといわれても信じてしまいそうだ。

「ここはねぇ、駐禁なんだよ。わかる?駐禁?駐車禁止!」

本人はキツイ言い方をしているつもりなんだろうけど、外見から受けるイメージと口調のせいか、つい微笑んでしまう・・・癒し系ってやつだろうか?

ついついからかいたくなってしまうタイプだ。きっと署内でも人気が高いんだろうな。

「駐車禁止なんだよ・・・ってちゃんと聞いてる?」

「あ、あぁ聞いてるよ。今動かすところだったんだ。お勤めゴクロウサマデス」

そういって、車に乗り込・・・めなかった。

後ろからシャツを引っ張られて動けない・・・どうやら逃がしてはくれないようだ。


「免許証!免許証だして」

「ん~、なぜ?個人情報開示したくないんだけどなぁ」

素直に出すべきかどうか迷いながら、とりあえず聞いてみる。

こちらに落ち度がない限り、素直に見せる必要はないと先輩が言ってた覚えがある。

・・・・・・あの人の言うことだから、どこまで信じれるか怪しいものだし、どう見ても駐禁の場所に止めていたこちらが悪いんだけど、どういう反応するか見てみたかった。


「ここはねぇ、駐車禁止なんだよ。いいから免許証出して!」

手を出しながら少し怒った口調の彼女。そんな表情も可愛い・・・なんていうと余計怒らせそうだ。

「あ、ハイすみません」

ライトは謝りながら免許証を差し出す。


「春日部・・・・・・らいと・・・?」

免許書を見た婦警がつぶやく。


驚いた・・・・・・春日部礼人・・・・・・この名前を最初から正しく読めたやつはいなかった。

「礼人」がどうすれば「ライト」って読めるんだよ!って話だ。

教師でさえよく間違えたものだ。

おかげで小学校のころは・・・・・・。

「らいと・・・ライト・・・・れーじん?」

目の前の婦警の顔が近づいてくる・・・ドアップだ。

「やっぱりれーじんだぁ!」

「なんとなく似てるとは思ってたの。ちょっといやみっぽい言い方も変わってないしぃ。」

さっきまでと違い、満面の笑みを浮かべて話しかけてくる。

・・・やっぱり可愛い・・・と思いつつ、「れーじん」という小学校時代のあだ名を知っている目の前の彼女の事がどうしても思い出せない。


「誰だっけ?」

思い出せないので聞いてみることにした。

「キミみたいなカワイイ子、一度見たら忘れないはずなんだけどなぁ~」

とりあえず、フォローも入れておく。

「ハァ・・・そうだよねぇ~。れーじんってそういうヤツだったねぇ」

あきれたような顔で言う彼女・・・今の言い方、少しだけ思い出しそうな気がした。

「みやび。朝岡みやび。4年間一緒のクラスで、ついでに隣の席率80%のみやびだよぉ。」


朝岡みやび・・・改めて彼女を見てみる。

それほど高くない身長・・・155ぐらいだろうか?

少し丸顔で、くるくるとした目が印象的・・・いわれてみれば面影はある。

ただ、小学校のころは大人びた感じの印象でよく中学生と間違われていたのに・・・というか、よくよく見れば記憶の中のみやびの姿とあまり変わっていない・・・一部を除いて・・・。

「オィ、今すご~~くシツレイな事考えてたでしょ!」

みやびの声が近くで聞こえる。

「そんなことないぞ。変わってないなぁって思ってただけだ」

「その割には名前も覚えていないんだよねぇ・・・?」

「いや、ちゃんと覚えているぞ。ただ・・・」

「ただ?」

更に顔を近づけながらみやびが聞いてくる。

「ただ・・・変わらなさ過ぎてわからなかった・・・まさか成長してないとは・・・」

最後の一言はなるべく聞こえないようにつぶやく。

「はぁ・・・やっぱり失礼だよねぇ」

呆れ顔でみやびがつぶやく。


 みやびは、この春に配属された新米婦警で、普段は先輩婦警について回りながら仕事を覚えてる途中だとか。今日も近くの幼稚園で交通安全教室の仕事だったのが、必要な資料を忘れて取りにいく途中に違法駐車車両を見つけたので、駐禁ステッカーを貼ろうとしていた、というような事を話してくれた。

しゃべりだしたらとまらないのは昔から変わってないな、と思いながら、高校時代や警察学校時代のことを楽しそうに話すみやびに懐かしさを感じるライトだった。

「あ、そろそろいかないと、サボってるって思われちゃう。」

ホントはもっとおしゃべりしたいんだけど、また今度ねぇ~、といいながら、俺に何かメモを手渡し、去っていく。

 ふと時計を見ると、すでに30分以上の時間が過ぎていた。

 駐禁のことは見逃してくれたみたいだけど、確実に怒られるだろうなぁ。


 普段通らない道とはいえ、地元の近くまで来て気がつかないのもどうかしている。

更に忘れていたまどかの言葉を思い出した直後にみやびに会うなんて・・・何かに呼ばれているのだろうか・・・。

まさかね、そんな事あるわけないか。


 しかし、あのみやびが婦警さんねぇ。似合わないよな・・・などとつぶやきつつ車を走らせる。


ライトが生まれ育った町は大きな川沿いにあった。

向こう岸までは結構距離があり、川辺には砂丘が広がっているせいもあって、子供たちには格好の遊び場だった。

流れが早いこともあって川遊びは禁止されていたが、それでも、学校帰りに寄って遊んでいたものだった。


子供の頃のライトは、土手から川を眺めるのが好きだった。特に夕陽が反射してきらめいている水面を眺めていると、宝物を手に入れたみたいで嬉しかった。


「ここは変わってないな」


昔と同じように土手に腰を下ろしながらつぶやく。

いや、よく見ると砂浜だったところが少し狭くなっているようだ。

そして、桟橋のようなものが作られている。・・・・・・少し前に流行ったウォータースポーツの名残だろうか?・・・・・・どうでもいいか。


「これからどうするかなぁ」


高校卒業後、色々迷った末に大学にはいかずに決めた職業。自分向きじゃないと思いながらも、それでもやってみようと思ったこと。


この5年間頑張ってきたけど・・・・・・。


「ま、何とかなるだろ」


考えても答えが出ないことは後回しにしよう。それより、当面どうするかだ。特に住む所とかだ。

今までは、師匠の好意で研修生の寮に住まわせてもらっていたが、そこを出てきた今となってはあてもない。

 地元ではあるが、すでに両親もなく泊まる家のアテもない。小さな町だし、観光名所があるわけでもないのでホテルはもとより旅館なども存在せず。

「はぁ・・・・・・隣町までいけばネットカフェぐらいあるだろ。」

何も考えずにここまできたが、今夜のことを考えるとため息もつきたくなるというものだ。


ぼんやりと川面を眺めて、どれくらいの時が過ぎたのだろうか・・・。

そろそろ日差しも柔らかくなってきて、川面の煌きも黄色からオレンジへと移り変わって行く時間帯。

・・・そういえば、こんなとき決まって声をかけてくるヤツがいたなぁ。

ふと、思い出して苦笑する。

ライトが悩んだり考え事をしている時に限って声をかけてくるのだ。


「こんなところで何をしてるのですか?よかったら少しお話しませんか?」


・・・そう、こんなふうに・・・って、えっ?


ライトは驚いて振り返った。


「まどか・・・・」


ライトの口からこぼれた名前・・・・・・ここにいるはずのない人の名前・・・・・・




 初めての作品です。

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