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番外編1 凱龍王国バカストーリー 前編

・番外編1号は馬鹿とヨッシーの祖父母の物語です。


時は地球時間で68年前に遡る――――――――――――





凱龍王国 首都 竜江



 その日は暖かい陽射しの差す穏やかな日だった。


港は活気に溢れ、街には観光客が楽しそうに歩いている姿が多く見られた。


そんないつもと変わらない首都の一角、中心部から少し離れた下町の小さな公園には十人ほどの子供達が集まっていた。


学校帰りらしい子供達は、ベンチに座っている1人の少女を囲んでハシャイでいた。


「姉様、またあの歌を歌ってくれますか?」


王女様(・・・)、お願~~い♪」


「歌って!歌って!」


子供達は無邪気に少女、この国の第一王女である護龍(ごりゅう)光葉(みつは)に目を輝かせながらお願いをしていた。その中には光葉の弟、第三王子の護龍灯弥(とうや)も混ざっており、彼女は困り果てていた。


 そんな光景を公園の向かいにあるカフェから見ていた大人達は、何時もの微笑ましい光景を笑いながら見守っていた。


「もう、しょうがないわね。1回だけ歌ってあげるから、終わったら一緒に変えるわよ、刀弥?」


「ハ~~~イ!!」


「やった、姫様が歌ってくれるって!」


「みんなも呼ぼう!」


「呼ぼう呼ぼう!!」


 光葉は弟とその友達の押しに負け、1度だけ得意の歌を披露する事となった。


 これは彼女が下町で遊んでいる下の兄弟を迎えに来る度に繰り返されていた光景だった。


 彼女は下町の住民達の間だけでなく、国内外からも《凱龍の歌姫》と呼ばれるほどの美しい歌唱力を持った王女だった。


 国の催事などでなどではその歌を披露していた彼女は国民達からは絶大な人気を誇り、街に出ればこのように無邪気な子供達に囲まれて歌をおねだりされていると言う訳だ。


(もう、今日は賓客が来るってお父様が言ってたのに・・・・・。)


 弟の奔放ぶりに困りつつも、光葉は少し発声練習をすることにした。




----------------




凱王城 応接間


 同じ頃、国政の中枢である凱王城には異世界からの客人が招かれていた。


 招かれたのは、全員が外見上は(・・・・)十代の少年少女ばかりだが、その中の何人かは外見年齢とは不相応な空気を纏っていた。


「来るのが少し早かったみたいだね。伯父さんも、今は仕事で地方都市の会議に出席しているから帰ってくるのはもう少し後になるみたい。」


「そうか、少し急ぎすぎたみたいだな。」


 栗色のショートヘアの少年、響木(ひびき)ゼグは向かいのソファに座る黒髪の少年に予定より早く到着していた事を話していた。


「別に問題はないでしょ?おかげでゆっくりしてられるんだから。」


「そうね、時間ギリギリで来ていたら、こんな風にお茶を楽しむ暇もなかったでしょうしね。」


 別のソファに座っていた金髪の少女、サツキ=ハートウッドと露出の多い少女(?)のヴェラ=カンピオーニ(一部偽名)は紅茶を飲みながらくつろいでいた。


「全く、お前はたまに必要以上に急ぐからこっちはいい迷惑だ。少しはこっちのペースを考えろ?」


「は?お前に合わせたら浪費が増えるだけじゃないのか?」


「何だと?もう一度言ってみろ、ダン!?」


「まあまあ、落ち着けよお前ら!?」


「そうだよ、義兄さんも逆撫でるようなことを言わないでって!」


 火花を散らす男2人を他の仲間が宥めていく。


 義弟に宥められて落ち着いた黒髪の少年、大和(ヤマト)ダンは部屋のベランダに出て、城からの首都の景色を眺めていった。


(またやってしまった・・・・。)


 景色を眺めつつ、ダンは先ほどの事を悔いていた。


 この中の男子では最年長にもかかわらず、犬猿の相手の前ではつい大人げなくなり、毎回、最年少の義弟のナオキ(サツキの実弟)に宥められてばかりの自分にダンは嫌気を感じていた。


(まあ、こいつらはは喧嘩するほど中が良いと言うが・・・)


 ため息を吐きそうになりながら景色を眺めていると、部屋の外から誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。まあ、ダンは気配だけで足音の主が誰なのか分かっていたので特に驚いたりする事はなかった。


 だが、勢いよくドアを開けたと同時にその少年が叫んだ第一声に、ダンだけでなく応接間にいた11人全員が凍り付くような表情になる。


「みんな!兄さんを見なかった!?」


 息をきらしながら入っていた飛鳥勇輝(ゆうき)は顔を真っ青にしながら応接間の中を見渡した。


「待て、あいつがまたいなくなったのか!?」


「う、うん!僕がトイレに行っている隙に・・・・」


「嘘だろ!?」


「あらあら、フラグ成立かしら?」


「ろくでもないが付くがな・・・。」


 もはや天災の前兆でしかない事実に、差異はあれど、全員が厄介な事を確信していた。


「あああ・・・・国際問題になってしまう・・・・・!」


「勇輝!へこまないで、一緒に捜しに行こう!」


 床に手を付きながらへこむ勇輝をナオキが支えながら立ち上がらせる。


「狩るしかないな。」


「殺るわよ!」


「おい、今物騒なこと言った奴がいるぞ!?」


 何気にやる気のある面々、そしてダンもまた拳を鳴らしながら全員に向かって宣言した。


「――――――バカ狩りだ!!」





--------------------




 一方、問題のバカは仲間の殺気を知りながらも、自作の歌を口ずさみながら下町に出ていた。


「フフ~ン♪今日の俺は食べ歩き~♪」


「「食べ歩き~♪」」


 そこら中にある屋台や店で買った物を食べ歩きながら、飛鳥烈(バカ)は地元の子供達を引き連れ、面白そうな物はないか辺りを見渡していた。


 歩道の横を流れる水路には情緒ある船や異世界固有の珍生物の姿が見られ、見ていて飽きない光景が広がっていた。


「フフフ~ン、巨乳の乙女は我が真理~~・・・・ん?」


「「ん?」」


 不意にバカな歌は途中で途切れ、バカ達は足を止めた。


 周りでは住民達がバカの歌に引き攣った顔をしていたがバカはそれを気にせず、バカは何所からともなく聞こえてくる歌声に耳を傾けていた。


「あ!姫様の歌だ!」


「ホントだ、姫様が歌ってる!」


 一緒について来た子供達は満面の笑みで浮かべながらはしゃぎ出した。


 それを見たバカは、ニヤリと笑みを浮かべながら歌の聞こえる方向を指差した。


「よ~~~し!お前ら、お姫様のライブ会場にレッツゴーだ!!」


「「オ~~~~~!!」」


 バカは幼気(いたいけ)な子供達と共に下町を走っていった。


 これが後に、凱龍王国の非公式上の裏歴史の始まりとなる事を、見ていた住民達はまだ知らない。






・後編も本日中にアップされます。

・なお、バカはバカですが基本イケメンです。


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