第90話 7月31日横浜
・転生者編エピローグその3です。本当はこれで8章は完結させる予定でしたが、思った以上に長くなったので2話に分ける事にしました。
2011年7月31日 横浜
今朝は昨日の疲れで寝過ごしてしまい、久しぶりに最悪の目覚めとなった。
「蒼空~~~~、お兄ちゃんが起こしに来たぞ~~~~~♡」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
蓮は笑顔で俺の布団を剥ぎ取ってそのままベッドにダイブしてきた。
「打っ飛べ!!」
「グホッ!?」
あまりに久しぶりの状況だったため、俺は思わず蓮を部屋の外まで殴り飛ばしてしまった。
マズイ、魔力は込めていなかったが、ちょっと回転が加わっていたから流石に――――――
「・・・・効いたぜ?お前の拳・・・・!」
「バカだろ?」
どうやら思い過ごしだった。
一応、殴った場所を調べたが問題はなかった。
俺は適当に蓮を追い返すと、さっさと着替えて1階へと降りていった。
一階へ降りると、俺以外の家族は全員食卓についていた。
「兄ちゃん、今日は遅かったね?」
「蒼空、あなたが寝坊だなんて珍しいわね?昨日は夜更かしでもしたの?」
「―――――早く顔を洗ってきなさい。」
「蒼空、今日も兄ちゃんが――――――――――」
「するな!!」
俺は蓮にツッコみを入れて洗面所へと向かった。
昨日は色々あったからまだ眠気が抜けないが、今日はそうも言ってられないからな。
顔を洗って戻ると、テレビではアナウンサーが興奮した様子で昨日の事件をリポートしていた。
『――――――――が、昨夜30人以上の急患が運び込まれた〇〇総合病院前です!運び込まれた患者の中には、一昨日から行方不明になっていたとされる数名の男女も含まれているとの情報があり、地元警察署は患者の意識が戻るのを待って――――――――――――』
テレビに映されているのは、俺が住んでいる街からは少し離れた別の街にある救急病院だった。画面の隅には字幕で『関東各所で合計約1万人の意識不明の急患 中には行方不明者が!?』と表示され、昨日の夕方から東京を含めた近隣の各県の病院に大勢の意識不明の急患が運び込まれ、現在分かっているだけでもその数は1万人にも達し、その中には一昨日から首都圏各所で行方不明になった人物も大勢含まれていると報道されていた。
テレビの画面は次々に違う病院の映像を映していき、移された病院の前には大勢のマスコミや警察官の姿もいくつか見られた。
(どうやら、うまくいったみたいだな。)
俺は食卓の前に座ると、朝食を食べながらテレビから流れるニュースを聞いていった。
報道によれば、現時点で分かっている最初の急患が運び込まれたのは昨日の午後6時前、場所は茨城県のある町の救急病院で運び込まれたのは6人、次が千葉県と埼玉県と、その次が東京と神奈川と時間と場所がバラバラであった事と当初運び込まれたのは1つの病院でも10人に満たなかった事から警察はすぐに動かず、また、各所轄や県警との間で連絡が遅れた事から発覚までに6時間以上もかかったとのこと。
病院側からは命に別状はないが患者の一部は衰弱の症状も見られるとのことと、現段階では意識不明に至った原因は分からないとだけ発表されたらしい。
「(・・・兄ちゃん、あれって昨日の?)」
「(ああ、昨日も言ったが、みんなには秘密だぞ?)」
「(うん!)」
同じくニュースを観ていた龍星は小声で俺に訊いて来たので俺も小声で答える。
昨日の戦闘終了後、俺は解放された被害者達の診察を一通り見た後、小学生であることと家族が一般人であることから一足先に帰宅する事となり、ガーデンで俺を待っていた龍星を迎えにいってそのまま家に帰宅した。
その際、龍星にはしっかりと口止めをしていた。
「あ、そう言えば蓮兄ちゃんは何で制服なの?」
「ん?ああ、兄ちゃんは臨時の全校集会で学校に行くんだよ。クソッ!兄弟の親交を深める時間を奪いやがって!事件のクソ野郎!!」
「蓮!静かに食べなさい!」
学校グッジョブ!
被害者の多くが横浜の若年層だったから予想はしていたが、どうやら事件の影響で学校や教育委員会も動いたようだな。と言うより、被害者の中に蓮と同じ学校の生徒も混じっていたんだろうな。あの数からして可能性は高い。
俺達の計画、と言うよりギルドや向こうの政府の計画だと今回の事件は怪事件や都市伝説として片づけることになっている。《大罪獣》が起こした事件も、意識不明者の件とは別の事件として扱われるだろうし、民衆もこっちの方が大きすぎてそれを疑わないだろう。まあ、念の為に他にもいろいろ
やる予定らしいが。
「蒼空と龍星も、しばらくは外出を控えるんだぞ。」
新聞で行方不明事件の記事を読んでいた父は心配そうに俺達に忠告してきた。なお、今朝の新聞には「意識不明事件」の事はまだ載っていない。事件の発覚が遅れたので朝刊の発行に間にあわなかったのだ。お陰で今騒いでいるのはテレビだけであり、民衆への急激な影響もうまく抑えられているようだ。テレビと新聞の両方で報道されるのと、一方だけで報道されるのとではそれなりに影響力は違うからな。
「うん、わかった。」
俺は適当に返事をしておく。
忠告はありがたいけど、今日はいろいろ大事な用事がある。
「父さん大丈夫だって!2人は俺が守るぜ!」
蓮、いいから黙って食ってろ!
俺はさっさと朝食を済ませ、蓮や両親が家を出たのを見計らって外出した。
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同日 芦垣組本家
おそらくここへ来るのも今日で最後になるだろう。
昨日はここの連中の多くを巻き込んでしまった。
挙句、組長の娘である紫織をカースの“端末”にされ、人質にされてしまった。
「まあ、出入り禁止なら軽い方だろうな。」
命で償えと言われるかもしれないけどな・・・・・。
俺は覚悟を決めて屋敷の中へと入って行った。
予想とは裏腹に、組員達はいつもと変わらない素振りで中へ通してくれた。
そしていつもの部屋に入ると、昨日の件で呼び出されたのか、中には慶造や幹部達が全員揃っていた。
部屋の中は当然重苦しい空気だったのだが、俺は慶造の顔を見た途端目を丸くして絶句した。
「来たか・・・。」
慶造は普段と変わらない態度をとっていたが、今は凄く違和感が拭えなかった。
(何があった・・・・・!?)
俺の視界に映った慶造の顔はハッキリ言ってボロボロだった。
顔中に絆創膏や包帯が巻かれ、それからはみ出て青い痣が幾つも見えている、
横を見ると、幹部達は揃って首を反らした。
おい、よく見たらお前らもボロボロ!?俺が帰った約半日の間に何があった!?
「・・・一体、何があったんだ?」
「うっ・・・・・・・!」
俺が問いかけると、慶造も顔を反らす、その顔には冷や汗が流れている、
ああ・・・、何となく読めてきたぞ。
すると、不意に天井で何か物音が聞こえてきた。
「ん?」
「ジャ、ジャ~~ン!グッドモ~ニ~ング!」
天井を見上げた直後、上から3代目バカが落ちてきたので後ろに一歩下がる。
ドゴ!
チッ!生きてるか。
「おい、ここで何をしたんだバカ?」
俺は第一容疑者に尋問を始める。
犯人はお前だろ?
「タタタ、ヒデェな、何でみんな俺にそんなこと聞くんだよ!?」
「確信犯だからだ!」
やはりこいつは、あのバカの孫だな。場所を選ばないで騒動を起こす。
「大方、勝手に進入してヘソクリでも見つけて夫婦喧嘩を誘発したんだろ?」
「チゲェヨ!昨日買ったエロゲを届けに来たんだよ!女子高生系の新作4本だ!!」
「威張るな!!それより、その年でどうやって買った!?」
「バ~~カ、誤魔化したに決まってるだろ!」
おい、懐から出した物をすぐにしまえ!
というか慶造、お前はエロゲまで手を伸ばしていたのか?
「ん?今の言い方、知り合いだったのか?」
そう言えば昨日、こいつが来た時慶造はこいつの事訊いてこなかったな?
って、まだ視線逸らしている。
「おう!実は――――――――」
「――――――秋葉原で知り合ったみたいですよ?」
直後、場の空気を一瞬で氷点下にする声が俺の背後から聞こえてきた。
振り向くと、そこには自分の旦那を汚物を見るような目で見るこの屋敷の奥方、雪枝が立っていた。
今、全然気配がなかった気がしたのは気のせいか?
だが、俺はそれよりも今日ここに来た理由の一つを訊くことにした。
「――――紫織の様子は?」
俺が訊くと、雪枝は一瞬で表情を変えてニッコリとほほ笑んだ。
早業だな・・・・。
「ええ、今朝無事に目を覚まして朝食もペロリと――――――」
「そうか・・・・。」
俺は安堵の息を漏らす。
どうやら問題はなさそうだな、少なくとも今はだが。
「それはそうと、あんた――――――――」
「ヒッ!?」
また一瞬で表情が変わったな。
慶造、組長の威厳はどうした?
「――――蒼空さんに言う事があるでしょう?」
氷のような笑みを浮かべながら、雪枝は慶造に視線を送る。
言うことか――――手切れの話だな。
だが、俺の考えていることを察したのか、雪枝は俺が喋る前に否定してきた。
「蒼空さん、勘違いしているかもしれませんが、芦垣組は昨日の件であなたを責める気は全くありませんのであしからず。」
「え!?」
「Oh~~~!やっぱり、そんなこと考えてたのかYO~~~?」
俺が驚くと、バカがバカなポーズをとりながら雪枝にアイコンタクトをした。
「・・・・どう言う事だ?」
「―――――――それは、俺から話す!!」
さっきまで女房に怯えていた慶造が顔を引き締めなおして俺に言うが、どう考えても今の奴の顔は間抜けにしか見えない。
そして、慶造は俺に対する処遇について語り始めた。
・馬鹿と組長はアキバのとある店で出会い、エロ仲間としてメルアドの交換もしています。当然、この後は処刑されるのは決定事項、雪枝はこの程度で済ませる女ではありません。
・後半はいつも通り12時に投稿します。




