第7話 荒神
今日はメンテナンスがあるそうなので午前投稿です。
《土地探索》
【魔力】2,600,500/220,000(異常上昇中)
【属性】土 火
【状態】地中に神体反応あり。高魔力体実体化中。
勇吾は画面を閉じた。
夜になり、土地の保有する魔力は260万に達していた。だがそれ以上上がる事はなく、周囲からの魔力の吸収も止まっていた。
「気持ち悪ぃな・・・・。」
「我慢しろ。すぐにそれどころじゃなくなるからな。」
勇吾の後ろで、慎哉は目の前に広がる光景に気分を悪くしていた。
今朝の時点でもかなりの光景であったが、今はそれ以上だった。今はまさに地獄絵図のような光景だった。辺り一面が血の海の様になっていた。
時計はもうすぐ22時になろうとしている。
あの後、何度かメールでの連絡をした後、放課後に直接会って今夜の事を慎哉に伝えた。拒否される事も考えていたが、その心配は予想通り無駄に終わった。慎哉は昨日と変わらないノリで2人の誘いにのり、こうして夜の学校に来ていた。もちろん、家族に見つからないようにこっそりとだが。
勇吾は背中に黒い大剣を背負い、何時でも戦える体勢をとっていた。彼は自身の五感を研ぎ澄ませ、地中の存在の変化を見逃さないようにしていた。同時に、左手に1つの魔法を構成し、何時でも発動できるようにしていた。
少し離れて処には人型の黒王が同じように地中の『それ』に注意を向けている。2人が感じるそれは、例えるなら雛が孵る前の卵であった。周囲から集められた魔力や死霊が球体状を形成し、中から何かが今にも出ようとしているように脈打っていた。
そして変化は突然起きた。
「――――――来るぞ!!」
「え!?」
地中にいた『それ』は、文字通り突然弾け、そのまま打ち上げ花火の様に地上に向かって昇ってきた。
勇吾は剣の柄を掴んで抜く。そして慎哉をもっと後ろに下がらせ、左手に込めた魔法にタイミングを外さないように見計らいながら魔力を注ぎ込んでいく。
ドッ!!!!!!!!!!
視界が真っ赤に染まる瞬間、勇吾は左手に込めた魔法を発動させた。
「《スローワールド》!!!」
赤い魔力の光が満ちる直前、勇吾の左手から別の魔力の光が周囲の空間を飲み込んでいく。光は勇吾達、そして地中から出てきた『それ』を飲み込んで消えていく。
そして光がおさまると、そこに残ったのは夜の静寂に静まる学校だけだった。
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「ここ・・・は・・・・・!?」
「俺の作った空間の中だ。」
呆然と立ちながら予想通り問う慎哉にすぐに答えた。
周囲を見渡す。一見するとそこは先程と同じ学校や街の景色が広がっている。空を見上げれば晴れた夜空が広ががり、月や星の光が周囲を照らしてくれていた。だが、それでもそこは別の場所であることが慎哉にはわかっていた。
簡単に説明すると静かすぎたのだ。夜中とは言え東京。昼間ほどではないが道路には車も走ってるし、繁華街の方からは夜の時間を過ごす人々の喧騒が多少なり街に響いているはずだった。だが今、そこには人間は自分達しかいないかのように静まり、繁華街の方から漏れる光も消えていた。
「《静かに動く世界》、現実に似せて作った異空間を作り対象を移動させる空属性の魔法だ。俺達は『あれ』と一緒にここに来たんだ。」
「アレ――――うわっ!!」
「あれが学校の地下にいた元凶だ!」
勇吾の指す方へ眼を向けると、そこには巨大な異形が立っていた。
全体を濃い魔力の霧に包まれてはいるが、人間とは言い難い姿だった。
足だけなら人間と同じ二本足、だがそこより上はまともな形をしている。胴体からは10本近い腕が飛び出し、それぞれに槍や刀、仏具のような物を握っている。だが、その胴体そのものを構成していたのは数えきれないほどの死霊だった。まるで死体を無理やり集めて繋げ、よく見ると腕の何本かは同じように死霊が固まってできている。そして頭部は鬼の形相のような顔が幾つも重なっていた。
「な、何だあれ――――!?」
「あれがこの土地を犯していた元凶――――――荒神だ!」
「荒神?」
「《ステータス》を使ってみろ。」
勇吾に言われるまま、目の前の異形のステータスを見てみる。
【名前】??????
【種族】荒神(悪神) 【クラス】下級神
【属性】土 火
【魔力】2,600,500/2,600,500
【状態】暴走
「―――――っ神!!??」
『そうだ、あれは神――――。祭る者がいなくなった今となっては、名すら失い、周りに災厄を撒き散らすだけとなった悪神だ。』
声のした方を向くと、何時の間にか人の姿から本来の龍の姿に戻った黒王がいた。彼は、異形な神の方を向くと、憐れみを込めた目で見つめていた。
ステータスにも名前の部分は「?」としか表示されない。名を失ったと言う事はこう言う事なのだろう。
勇吾は目の前の神について慎哉に説明する。
「荒神とは極めて祟りやすい荒ぶる神を守護神として祀ったものだ。元々はインドで行われていた風習が仏教とともにこの国にも伝わったとされている。あれも昔はこの辺りを災厄を撒き散らしていた神、または悪霊だったのが祀られる事でこの土地の守護神になったものだろうな。」
勇吾はそう説明したが、実際の所は複雑である。一般的な意味で言えば勇吾が説明したとおり祟りをもたらす神を守護神として祀ったものであるが、その種類はさまざまである。大きく分けると屋内を守る「三宝荒神」と屋外を守る「地荒神」に分けられ、仏教の他に修験道や陰陽道、神道など様々な影響を受けた神なのである。
「守護神なら何で安全じゃないのか?」
「――――祀られている間はな。さっきも言ったが、荒神の多くは畏敬を示さないと祟る悪神が祀られる事で守護神になった。だが奴は祀られた社を失い、自身を信仰する民衆も失ったことで元に悪神に戻ってしまったと言う訳だ。」
『もう長話している暇はないようだぞ!』
「「!!」」
『『グオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!』』
『『ガアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!』』
静寂の世界に異形の悪神の咆哮が響き渡る。
もはや理性など感じさせない声を上げながら歩き出す。幾つもの顔はそれぞれ別方向を見ており、その眼は獲物を探す獣のようだった。そして顔の一つがこちら――――自分と同じかそれ以上の大きさの黒王を見つけると、腕の一本が巨大な刀を振り上げ、黒王に向かり振り下ろしてきた。
『避けろ!!』
「ちっ!!」
「うおっ!!」
振り下ろされる刀を黒王は翼を空へ飛んでかわし、勇吾は慎哉を片手で抱え魔法で強化した脚力を使って横へ跳んでかわした。
荒神の刀は獲物に当たらず地面に直撃する。だが次の瞬間、刀を中心に大地が爆炎に飲まれていった。
ゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!
「なぁぁぁぁぁぁ!!??」
爆炎は大地を切り裂き、周囲の民家やビルも一直線に破壊していく。その光景は特撮映画宛らだった。あまりの光景に慎哉は開いた口が塞がらなかった。
一方の勇吾は冷静に相手の様子を観察する。
「―――――魔力を無理やり込めて力任せに振るってるようだな。やっぱり暴走しているせいで力任せに破壊する事しかできないらしい!」
勇吾の推測を裏付けるように、荒神は残った全ての腕を振り回す。それぞれの腕が持つ武器が地面や建物にぶつかるとそこから同じように爆炎が生まれて周囲一帯を破壊していった。
黒王を狙った最初の一撃以後、荒神は獲物を探そうとはせずに力を振り回す事しかしない。暴走して自身への負荷など考える理性などないため、全身から血のように魔力が噴き出していた。
『放っておいても自滅するだろうが、その前にこの空間が持たないな。』
「その前に叩く!!」
荒神から十分に離れた所に着地し、抱えていた慎哉をおろす。
「慎哉、お前はここにいろ!」
「え、戦わねえの!?」
「今日は見学だと言っただろ!それに、腐っても神だ!今のお前が何かできるような相手じゃないのはわかるだろ!?」
「うっ・・・・・・。」
慎哉は反論することができなかった。
ステータスを見ただけでも敵いそうにないのは一目でわかる。いわば、レベル1のキャラがいきなりラスボスに挑むようなものだ。それも暴走状態の。
慎哉は既に自身の能力を試している。どれも適正レベルが高いおかげで一発目から発動させることができたがそれだけだった。氷術は砲丸サイズの氷塊を1個作り出して飛ばす位で威力も精々車1台を壊すのがやっとで連射もできない。体術にしても、そもそも格闘技など学校の授業で柔道を少しやった程度なので意味がなかった。どの能力もしっかりと修業しないと戦場では使い物にならないので、今の慎哉にできることなど何もないのである。
『グオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
咆哮とともに爆炎による振動が3人のいる場所にも届く。
『あの様子だとここも確実に安全とは言えまい。』
「わかってる。慎哉、とりあえずお前にはかけられるだけの防御魔法と補助魔法をかける。その後は俺達が戦うのをよく見ておけ!」
『お前が踏み込んだ世界をよく目に焼き付けろ!』
「――――――わかった!」
慎哉の顔がキッと引き締まる。
それを見た勇吾は慎哉に魔法をかける。無属性防御魔法、火属性防御魔法、肉体強化魔法、炎熱耐性魔法など自身が使えるだけの防御魔法と補助魔法をかけていった。
「これでとりあえず死ぬことはないな。後はここも危なくなったら迷わず逃げろ!」
「おう!」
『では、行くぞ勇吾!」
「ああ!!」
勇吾は体験を握りしめ、黒王の背中に飛び乗る。
「――――頑張れよ!」
「言われなくても!」
『任せろ!』
2人は笑みを浮かべながら返事を送り、すぐに視線を敵の方へ向ける。そして黒王は大きく翼を広げ、勢いよく羽ばたいて飛んで行った。
黒王が飛んでいく瞬間、慎哉の眼には勇吾が握る大剣が映った。黒王の鱗に似た色をし不思議な魅力を持つ刀にも似た大剣。そう言えばあの剣に銘などはあるのだろうかと疑問が浮かぶ。だが今はそれよりも目の前の戦場に集中すべきと切り換えた。
「―――――勝てよ!!」
拳を握りしめ、慎哉は2人が戦うのを見守るのだった。
勇吾の武器にはちゃんと名前があります。
レア度でいったら慎哉の武器よりずっと上です。