第86話 幕引き
・57話から始まった転生者編もこれで30話目です。ようやく本当に終盤になってきました。
・では、今日もお楽しみください。
丈が蒼空の元へと向かった頃、勇吾達と《大罪獣》、そしてカース(2人目)との戦いは激しさを増していった。
『ウオオオオ―――――《闇剣黒閃波》!!』
勇吾が戦っていた《傲岸の黒騎士》は持っていた剣を勇吾に突き刺すと同時に、その剣先から黒い波動を一直線に放つ。
「―――――――――!」
勇吾はそれを難なくかわし、相手に斬撃を放つ。
その直後、遠い後方で大爆発が起き、半径500m以上のクレーターが出来上がっていた。
『ハハハハ―――――――!力ダ、コレガ僕ノ力ダ―――――!!ミンナ、ミンナ僕ノ力ニ平伏セ―――――――!!』
「――――――下らない、所詮は紛い物の力だ。そんな力を使ったところで、お前は自分で自分を追いつめているだけだ!」
『ハハハハハ、僕ヨリ弱イ奴ガ綺麗事ヲ言ウナ!僕ハ最強!僕ガ正義!世界ハ僕ノ闇デ染マルンダ――――――――!!僕ノ覇道ヲ邪魔スル奴ハ消エルガイイ――――――――!!』
「・・・・・・コイツ、100%中二病何じゃないのか?」
戦うにつれ、相手の言葉に呆れ始めてきた勇吾はさっさと倒して次の敵を倒しに行こうと思い、一気に勝負出ようとする。
「―――――悪いが、お前の相手だけをしてる暇はない。話なら人間に戻ってから何時でも聞いてやるから、今はさっさと倒させてもらうぞ!」
『デキル者ナラヤッテミロ!!クラエ、《無限闇剣黒閃波》!!』
自分が勝つ事を微塵も疑わないアロガント・ブラックナイトは先程放った攻撃を手当たり次第に何十発も勇吾のいる方向へと放っていった。
だが、狙いを定めず放つその攻撃は破壊力こそ高いが勇吾にとっては容易に避けられる雑なものだった。
勇吾は攻撃を難なくかわしていきながら接近していき、攻撃が連射される時の僅かな隙に紛れ込んでアロガント・ブラックナイトの体を横一文字に斬った。
「《破魔・横一文字斬り》!!」
『エ・・・・・・・・?』
自分が斬られる事など全く予想していなかったのか、アロガント・ブラックナイトは間抜けな声を出したまま下へ落下する自分の下半身を見る。
その直後、布都御魂剣の浄化作用によりアロガント・ブラックナイトの体は呆気なく霧散して消滅し、その後には他の大罪獣と同様に“核”になった人間が残された。
勇吾は解放された中学生位の少年を受け止めると、爆発の際に避難していた結界内にあらかじめ用意しておいた「安全エリア」に転送する。後は蒼空に屋敷の中に転送してもらえば彼らはとりあえずは安心と言う訳である。
「――――しかし、随分派手にやったものだ。」
呟きながらある方向を見ると、そこには先程の攻撃でできたであろう無数のクレーターが存在していた。
今回は大雑把な攻撃をしてくる間に倒したからよかったものの、もし、追い詰められた相手が“切り札”の1つでも使っていたならば、最悪、原爆規模の大破壊が起きていたかもしれないと、勇吾は内心で思っていた。
(《大罪獣》が《幻魔》である以上、その気になれば一度に何万でも生み出すことができる。昔と同じ事が繰り返されてしまうのか・・・・。)
これからの事を考えると背筋に冷たいものが走る気がした。
だが、今は目の前の戦いに集中するべきと頭を切り換え、勇吾は次の大罪獣の元へと向かった。
現在、44体いた大罪獣もその数を半数近くまで減らしていた。
この戦果を出す要となっているのは、黒王とアルビオン、アルバスの龍族3人とロイヤルチートの良則である。
馬鹿が大罪獣達を分断したくれたお蔭で誰も多対一で襲われる心配もなくなった為、彼らは目の前にだけ集中して戦うことができた。
と言っても、実際は複数相手でも平然と戦える彼らは盛大に本来の力を発揮しまくり、良則は閃拳を相手にブチ込みまくり、黒王達は口からブレスを吐いたりするなどハリウッド映画など歯牙にもかけない派手な戦闘を続けていた。
「《サウザンド》!!」
良則はまた1体倒し次の大罪獣の所へと向かう。
ドゴ―――――――――――ン!!
上空でまた巨大な爆発が起きた。
順調に倒せているとは言え、カースが《真の大罪獣》と呼ぶだけあってレベル5の戦闘力は他の大罪獣とは別格だった。
互いの攻撃が衝突すれば軽く街ひとつが消えるほどの爆発が普通に起きる。馬鹿がいろいろやっていなければ地上の方も只では済まなかっただろう。
「―――――あと20体・・・・・!」
周囲の気配を探知し、残る大罪獣が半分を切ったことを確認する。
数分前、良則は地上の蒼空のいる場所から不穏な気配をいち早く感じていた。
だが、良則が動くよりも早く「俺が行ってくるぜ~♪」と、馬鹿からの念話が届いたので良則は大罪獣の方に集中していた。
それから数分が経ち、もう一度不穏な気配がした屋敷の敷地内の方を見下ろす。その直後、屋敷内から金色の光が柱となって立ち昇った。
「――――――あれは!」
〈ヨッシー!こっちは終わったぜ~~~~~♪〉
すると、馬鹿からの念話による連絡が来た。
「丈!」
〈王子様もお姫様も無事だぜ~~~~♪〉
「王子?お姫様って!?」
〈キスはなかったのが残念だったな~~~。んじゃ、後はヨロ~~~~~~♪〉
「?????」
いくら聡明な良則とはいえ、馬鹿が相手での場合だけはそうはいかなかった。
馬鹿は一方的に念話を切ったが、向こうの状況がいまいち分からなかった。
ただ、とりあえずは難は逃れたと言う事と、馬鹿の声が彼にしては珍しくどこか影があったことだけは伝わってきた。
気になりつつも、良則は次の大罪獣の元へと向かう。
新たな爆音が聞こえたのはその時だった。
ズドゴ―――――――――ン!!
爆音にしてはどこか奇妙な音が上空で響いた。
見上げると、そこには爆炎はなく、かわりに石が落ちて波紋をたてる水面の様に空間が振動している光景が広がっていた。
「―――――――銀洸!?」
視線の先に映ったのは波紋の中から出て来た銀洸とカース(2人目)の姿だった。
直後、戦場全体にカースの魔力が重力の様に降りかかってきた。
「―――――――――ッ!!」
一瞬ふら付きそうになりながらもどうにか姿勢を保つ。
上空では銀洸とカースの激闘が続いており、カースの方も手加減容赦なく大技を繰り出していた。
他の端末が馬鹿によって全滅された後、最後に残ったカースは銀洸への攻撃をより強めていった。
それは単に追い詰められたからと言う訳ではなく、むしろ何かの束縛から解放されたかのような、ようやく自由に戦えるようになったという印象があった。
『《闇の暴風》!』
カースの手から闇一色の風、というよりほとんど竜巻に近い者が放たれる。
銀洸はそれを紙一重にかわし、口から光球を連射する。
『数撃ち~~~~~~~~♪』
緊張感のない声を出しながら光球を放つが、放たれた光球はランダムに消えては別方向からカース向かって襲い掛かっていく。
『―――――僕が言うのもなんだけど、君も意外と性格悪いんじゃないかな?だけど、そういう手を使ってきたたのは、何も君だけじゃないよ?』
全方位からランダムに飛んでくる光球を、カースは何所から来るのか分かっているかのようにかわしていき、そのまま踊るように銀洸の周りを周回していった。
『・・・・・・・・・・・。』
『さてと、当初の目的も達成したし、今回用意した試作型の《大罪獣》も半数以上が倒された事だからそろそろ幕引きにしようかな♪』
『―――――――幕引き~~~~?』
『やるなら盛大にやらないとね、例えば誰も生き残れないような特大の奴でね♪』
ニヤリと笑みを浮かべながら、カースは片手を天に向かって掲げる。
すると、異空間の空から禍々しい魔力の波動が降り注いできた。
『―――――――――――――《闇空より来る破滅の流星雨》!』
深い闇色の光を放ち、空から無数の流星群が地上に向かって降り注いできた。その数は優に千を超え、後からも続々と落ちてこようとしてくる。もしかすると1万を超すのかもしれない。
「あれはアベルの―――――――違う、似てるが全くの別物・・・・・!!」
それを見た瞬間、勇吾は一瞬戦慄しそうになった。
空から地上に向かってくる流星群、それは以前名古屋で遭遇した「アベル=ガリレイ」が良則と戦った時に使用した技に類似していた。
だが、アベルが放った流星が眩い光を纏っていたのに対し、カースが放ったのは禍々しささえ感じられる闇色の流星であり悪意にも満ちていた。
「あれは不味いぞ!!」
『オオオ――――――――!何所を見ている!?』
正面から黒豹に似た大罪獣が攻めてくる。
大技を手当たり次第撃ってきたアロガント・ブラックナイトとは違い、今度の大罪獣は手数が多い上に素人目には分身して攻めているように見えるほどの高速戦闘型でその場から逃げる隙を見せなければ時間も与えない程の強敵だった。
『《疾風迅雷の猛襲》!!』
「―――――――速い!?」
全身に風と雷を纏った黒豹は音速すら超える速度で勇吾の全方位を隙間がないほどの勢いで動き回し、その鋼よりも遥かに硬度の高い爪と牙で襲い掛かろうとする。
同時に、上空からは無数の黒い流星群が間近まで迫っており、最早回避する事はできそうになかった。
「クソッ―――――――――!?」
良則もまた、2体の大罪獣に挟まれて後数秒で直撃する流星群から退避するタイミングを逃していた。
『《形ある物を破壊する咆哮》!!』
『ガァァァ!!《万物を熔解する竜の息吹》!!』
前方からは虎の獣人に似た大罪獣が咆哮を上げ、後方からは黒王と同サイズのドラゴンが煮え滾ったマグマを口から噴火の様に放出した。
「―――――――こうなったら!!」
良則は一か八かの賭けに出る。
拳にありったけの魔力を込め、前後上の三方向から来る攻撃をまとめて吹き飛ばすつもりで足場のない空中に拳撃を放った。
「喰らえ!!」
その直後、勇吾達に無数の流星が殺意を持って降り注いだ。
ドゴ――――――ン!!・・・・・・・・・・・・・
降り注いだ流星は、馬鹿が大罪獣達を分断する為に創った迷路を数発で破壊し、そのまま勇吾達や地上にいる者達に向かって落ち、数えきれないほどの爆発が延々と続いていった。
『―――――――――――――丈、みんな!!!』
『ハハハハ、君も消えてもらうよ。《ダークエクスキューション》!』
「――――――――――――――ッ・・・・・・・・・・・!?」
地上に向かって叫ぶ銀洸に、カースは禍々しさのある白い光を放ち、その光に銀洸の姿は飲み込まれていった。
『――――――――――満足とは言えなかったけど、そこそこ楽しめたかな?』
未だ降り注ぐ流星とそれに伴う爆発を眺めながら、カースは漆黒の12枚の羽を広げながら笑みを浮かべていた。
・主人公が死亡したので次回から新主人公登場(大嘘)
・感想&評価お待ちしております。




