第85話 『幻魔師』カースウェル=フェイク
・蒼空視点だったからなのか、今回は意外と長く書けてしまった。今後もこのように書いた方がいいのかもな?
『久しぶりだね、元ライナー=レンツ♪』
あの野郎・・・・・・・・・・!!
奴はあえて全身の姿を変えず、左半身だけ紫織のままにして俺に話しかけてきた。
その瞬間、俺の思考はいつも以上に高速に働き始め、今回の件に関する情報を1から分析し始め何故今の状況に至ったのか、瞬時にその答えを導き出した。
――――――――甘かった!
奴に対して、いや、『創世の蛇』に対して俺の認識は甘すぎた。
考えてみれば当然の事、俺を現世に転生させたのはカース、そして組織の意志そのものだったのだ。奴らの狡猾さは前世で属していた俺自身が十二分に理解していたはずだ。なら、俺の魂そのものに目印の1つでも施す事位奴らには造作もなく、後から気付かれないようにする事だって十分に可能なはずだ。
これはあくまで予想だが、俺が転生して前世の記憶を思い出した直後にでも消滅する目印を施したんだろう。場所さえわかれば、後はカースの“端末”を数人分配置すれば監視には事足りる。
そして今回の件、考えてみれば出来過ぎじゃないか。
俺が最初に遭遇した《大罪獣》、それが龍星の友人の母親だったなど偶然にしては怪しいと考えるべきだ。きっと、カースの奴は俺の周囲にいる人間の中から特に自分にとって面白そうな人間を選別して“核”の材料にしたんだろう。
そしてその後からの筋書きは――――――――――――
「――――――――護龍の2人を、俺から引き離す・・・・・・策か?」
俺の体が地上に向かって落下する中、俺は紫織に憑依しているカースに向かって問いかけると、奴は肯定ととれる邪悪な笑みを浮かべていた。
(―――――クソ、また死ぬのか・・・・・?)
頭の中で嘗て味わった“死の記憶”が生々しくよみがえる。
カースの性格からして、これは奴にとっての暇潰し、奴にとって人間など後からいくらでも増えていくだけの替えの利く存在に過ぎず、自分より――ほとんど存在しないが僅かにいる――格上であるか、または替えが決して利かない希少な存在以外は平気で捨て駒にできるのだ。
次第に遠くなる意識の中、俺の目はカースに体を支配された紫織の半身の姿を映した。俺の考え通りなら、彼女がカースの“端末”になったのは俺と関わった後の筈、彼女や彼女の家族、そして芦垣組の面々を俺のせいで巻き込んでしまったのが申し訳なかった。
そして俺の家族にも―――――――――
「―――――――――秘儀!《ベ〇マやザ〇リクっぽい魔法》!!」
意識が消えそうになった瞬間、空から気の抜けるような声が降ってきた。それと共に、俺の体は温かい光に包まれていくのが感じられた。
「―――――大丈夫か?」
目を覚ますと、俺は3代目バカに抱かれていた。最悪だ。
胸の方を見ると、シャツには穴が開いていたが傷は綺麗に完治していた。
「・・・・医者要らずな奴だ。」
どんな重傷も一瞬で完治とか無茶苦茶すぎる。
やはり、あの男の孫なんだと改めて思い知らされるな。
俺は起き上がると、周囲が戸惑いの声で溢れる中で悠然と俺の方を見ているカースを睨みつける。
「――――満足はできたのか?」
『・・・・50点、半々と言ったところだね。せっかく引き離しておいたのに、彼の《神眼》で中途半端な結果になってしまったよ。やっぱり、もう少し彼の事を知っておくべきだったかな?』
「あれ?俺ってストーキングされてんの?」
「・・・いっそ一緒になって道連れになって消えてくれたらいいんだがな。」
正直、ホントにそうなったら爽快な気分になる連中は五万と出るに違いない。
俺が立ち上がると、屋根に上にいたアルントがその横に降り立った。
「その趣味の悪い姿は人質のつもりか?」
『分かりやすくていいと思ってね、君にも、他の人達にとっても――――――――』
カースはチラッと横に視線を向けると、そこには唖然としたまま立ち尽くす慶造の姿があった。
俺の周囲でも組員達がカースに、と言うよりは紫織の変わり果てた姿に同じように困惑していた。
「・・・・・・・紫織!」
「驚いた、お父さん♪」
「――――――!!」
「カース!!」
カースは紫織の声で喋りだしてきた。
悪意のある笑みを浮かべながら、紫織のままの半身を慶造に向けながら彼女のフリをするカースに俺は反射的に怒声を放った。
『ハハハ、彼女の事は僕が誰よりも知っているよ。それが僕の“固有能力”だと言うのは君も良く知っている筈だよね?』
「―――――――《世界に広がり続ける幻影》、他人に己の精神の一部を憑依(寄生)させることで己自身を増やしていく能力だったな。」
『覚えていてくれて光栄だよ♪お蔭で余計な話をしないで済むんだからね♪』
「最低最悪の、反吐の出る能力だがな!!」
それは『幻魔師』の悪名をあらゆる世界に浸透させてきた、奴の最も忌むべき能力だ。
《インクリーシング・ファントム》、簡単に言えば自分の分身、劣化コピーを無限に増やし続ける事の出来る能力だ。
基本的な原理は《大罪獣》、つまり《幻魔》と大差はなく、生きた人間を材料に分身を生み出す。ただし、《幻魔》と違い、器に入れるのは魔法ではなく自分の精神、分霊した魂の一部を憑依させるので器が異形の姿になる事はなく、憑依された本人も何の自覚を持つことなく普段通りの生活を送れるので周囲の人間が気付くのは基本的には不可能なのだ。
奴は生み出した分身を“劣化品”と呼び、総称して『幻魔師の劣化品』と呼んだ。
フェイクの長所は周囲から気付かれない事の他にもたくさんある。1つは普段は器の人間の別人格として存在し、裏人格としている時は表人格である器の意識が見聞きしている情報を全て得る事が出来、元からあった記憶も好きなように探る事ができ、好きなタイミングで人格を交代させることができると言う事だ。
2つ目は《魂の連結網》である。
全てのフェイク、そしてカースの“本体”は互いに意識が繋がっており、例え違う異世界にいたとしても互いの情報をリアルタイムで共有しているため、その人格は常に1つのままでいられるので特定のフェイクが単独行動をとる心配はないのである。
それ故、カースのフェイクの事を“端末”として呼ばれる事も多いのである。
そして3つ目、劣化品とは言え条件さえそろえば基本的に本体と同等の能力を使用する事が可能な事である。器に憑依してからの経過時間に比例してフェイクの力は本体に近づいてゆき、最終的には本体と同等とまではいかないまでもその力は神にも劣らないものになる。
また、憑依してから数か月程度でフェイクから新たなフェイクを生み出す事ができるようになり、今では本体を消す以外対処ができなくなるほどまで増殖しているのだ。
「てめえ!俺の娘に何をしやがった!?」
慶造は履物を履くのも忘れて庭に飛び出してきた。
『下手に動かない方がいいよ。この体は間違いなく彼女の物、銃で撃っても死ぬのは僕じゃなくておじさんの娘だけだからね♪嘘だと思うならそこにいる蒼空くんにでも訊いてみたらどうだい?』
「・・・奴の言っている事は本当だ。」
俺が答えると、慶造は「くそっ!!」と言葉を吐きながら普段以上の剣幕でカースを睨みつけた。
慶造の気持ちは俺にも分かる。奴は紫織の体を自分が活動するための器としてでなく、俺達に抵抗させないための人質にもしたのだ。
紫織をカースから解放するためには《大罪獣》の時と同様に相手の“核”、今回の場合は彼女に憑依しているカースの魂の欠片を浄化系の力で祓うしかない。だが、俺もアルントも残念ながらその系統の力は1つも持ち合わせてはいなかった。
今ここそれができる者と言えば―――――――――
「お~~い、こっち来いよ~~~!」
「『――――――――――!?』」
『は?あいつ、何時の間に――――――!?』
気付くと、3代目バカはカースの真横に立って俺の方に手を振って招いていた。
意外にもカースも気付いていなかったらしく、真横に現れたバカの声を聞いた途端に驚いて反射的に空似飛びあがろうとしたが、右半身にだけは得た6枚の羽を根元から馬鹿に鷲掴みにされて飛べなくなっていた。
いや待て、端末とは言えカースがあの馬鹿に不意を突かれるなんてことがあるのか?だとすれば、紫織に憑依したあのカースは―――――――――!?
「おいおい、捕らわれのお姫様が逃げたらダメじゃねえか。お~い、蒼空も早くこっちに来いよ~~~、こういう時は王子様のキッス♡で助けるのがお約束じゃねえか♪早く来てキスしちゃえよ~~!!」
『―――――――――!!??』
「何言ってるんだお前は!!??」
「ふざけんじゃねえ!!!娘は誰にもやらんぞ!!!」
俺の怒声に続いて、慶造も怒声を俺に向かって言い放った。
おい、どう見てもあのバカの方を怒鳴るべきだろ!?
カースもマジ顔で困惑しないで、少しはこの空気を何とかしたらどうだ!『幻魔師』の二つ名が泣くぞ!!
「え~~~~、でも俺の見立てじゃコイツってほとんど戦闘力がねえし、キスしちゃえば簡単に消えちゃいそうだぜ?」
『―――――――マジか!?キスしろ、蒼空!!』
「驚く所が違うだろ、アルント!!」
ドス!
俺は軽く相棒にツッコみを入れながらカースの方を睨む。
バカに羽を掴まれた奴の姿は・・・・・何と言うか、滑稽を通り越した複雑で哀れなものだった。
だが、その光景が俺の推測とバカの暴露をより強く確信させた。
深く考え過ぎていたが、どうやらカースの奴が紫織に憑依したのはごく最近のことのようだな。なら、戦闘力が――バカを基準で――ほとんど無いのも当然だし、策を講じた理由も納得がいく。
俺は足を踏み出し、カースに近づく。
『――――――――暇潰しもここまでのようだね♪』
「大方、俺に構っている事も2重の時間稼ぎなんじゃないのか?俺という存在を餌にすれば否応なく横浜に注目は集まってしまう。その間に別の世界で何かをしてしまえば邪魔も少なくて済む。」
「そういや、“大体あってる”とか言ってたっけ?もしかして、俺とヨッシーにばかり敵が集中してたのって、勇吾や黒を叩く為じゃなくて、俺とヨッシーをココに来ないようにするためだったりして?」
「ああ、お前達2人は護龍と飛鳥の両方の血を色濃く受け継いでいる。特に飛鳥家固有の能力である《神眼》はカースにとっては天敵だからな。一目で誰が端末なのか見破られてしまう以上、お前たち2人は徹底的に俺の近くから離しておく必要がある。現に、良則の方は大量の大罪獣の相手でいまだ戦闘中だ。お前が早々に端末の1人を倒していなければ、俺は今頃あの世行きか、また奴らの悪趣味な実験台になっていただろうな。」
俺の推測は大方外れてはいないだろう。
その証拠に、バカに羽を掴まれたままのカースは僅かにだが余裕がなくなっているように見える。
奴にとってこの状況は予定外、本当なら別の端末がバカの相手をしていてココには血塗れの俺の死体が転がっていた筈なのだ。
だが、バカの能力はカースの予想を大きく裏切って端末の1人を撃破し、不意打ちを受けた俺の傷を呆気なく感知させた上で奴を鷲掴みにしている。
今の奴は不意打ちで俺を殺す事はできても、バカの動きを常に感知し続ける事ができるほどの能力は使えないのは今の状況から見て間違いない。
「―――――裏の目的までは知った事ではないが、今回はお前の負けのようだな、カース?」
『・・・・忘れてないかな?僕が彼女の中にいる以上は、彼女の生殺与奪権は僕の手の中だってことに?』
「――――――テメエ!!」
カースは自分の爪先を魔力を具現化させて鉤爪の様に伸ばして喉元に当てる。
あの野郎、相変わらず往生際が悪い、というより正確にはまだ悪くはないな。奴の本体がここにいない以上、紫織は奴にとって平気で捨てられる駒の1つに過ぎない。
奴は何時でも紫織を殺せる以上、確かに追い詰められているのは俺達の方か。
それに、端末が他にいないとも限らない。バカがまだ言ってないだけで、この中にもまだ端末が複数混じっている可能性はまだあるのだ。
「なあ、キスしねえの?」
『ハハハ、現実はお伽噺みたいにはいかないよ。それに、頼みの王子様が彼女にキスをすることにはあまり期待しない方がいいんじゃないかな?』
「何で?」
『―――――彼はまた失うのを恐れているからね。昔の彼は幼馴染の少女を―――――――――』
「黙れ!!!」
『―――――――――ッ!』
俺は《拘束魔法》を放ってカースの身動きを完全に封じる。
あの野郎、前世で俺が組織に入る以前のことまで知っていやがる。分かってはいたが、奴は“あの世界”でも根を張ってやがったのか。
「バ・・・丈、全部やってしまえ!」
「キスは?」
「するか!」「させるか!!」
慶造もそろってバカに怒声をぶつける。
父親なのだから当然の反応だろう、って俺の方を向くな!
『『『『――――――――させないよ!』』』』
――――――――!
俺達の頭上に堕天使化したカースが4人も現れ、俺達を屋敷ごと消そうと攻撃を仕掛けてきた。
やはり紫織以外にもいやがった。
俺は咄嗟に防御を展開しようとするが、その前にバカがカースを掴んだまま前に出て来た。
「―――――――――《災厄を祓う聖域》!」
その直後、俺の視界が眩い金色の光で埋め尽くされた。
『『『『『アアアアアアアアアア――――――!!!』』』』』
バカが鷲掴みにしているカースも含め、5人以上のカースが口を合わせて苦痛の声を上げた。
俺達には何の影響もないが、この光はかなり強力な《浄化魔法》をより高密度に改良したもののようだ。俺の目の前でカース達の姿があっという間に崩れていく。
しかし浄化が弱点とはいえ、ここまで声を上げて苦しむとなると、奴本体ももはや人間ではないのかもしれないな。と言うか、端末と繋がっている以上、本体も苦しんでいるのかもしれない。
「――――アルント!」
『分かっている!』
浄化は数秒で完了し、上空から4人の人間が落下してきたのでアルントは俺が言うよりも先に風を操って全員をキャッチして地上に寝かせた。
そして俺もまた、カースから解放されて倒れる紫織を寸でのところで受け止める。
今日は随分こんなのが多いな。
というか、この魔法を使えば大罪獣もイチコロなんじゃないのか?
「・・・・・そ・・・・ら・・・?」
俺の腕の中で紫織は朦朧としながら口を開く。
「・・・無理に話すな、今は眠っていろ。」
「わた・・・し・・・・」
「―――――――《スリープ》。」
「あ―――――――――」
無理をして話そうとする紫織に魔法をかけて眠らせるとそのまま抱き上げる。
すると、周りで見ていた慶造達が俺の元に集まってきた。
「――――――紫織!!」
「「お嬢!!」」
俺は言われる前に紫織を慶造に渡すと、慶造は何か言いたそうな顔をしながらも紫織の体を抱き上げて屋敷の中へと入っていった。
これは、もう潮時だろうな。
まだ正確な経緯は分かってないが、結果的に俺は紫織だけでなく芦垣組そのものを面倒事に巻き込んでしまった。手を切ると言われても仕方がないだろう。
そんな俺の視線の先に、敷地の外の方を見上げるバカの姿があった。
「・・・・・どうした?」
「――――――――俺、難しい事は分かんねえけど『創世の蛇』のやっている事は嫌いだな。みんな不幸になっちまう・・・・・・・。」
「――――――――そうだな。」
その時の丈の顔を見た俺は、ただ一言だけしか答えてやる事が出来なかった。
その時の丈の顔に、俺は確かな見覚えがあった。
第一印象から祖父譲りの性格のバカとしか思っていなかった俺は大きな勘違いをしていたのかもしれない。
その時のコイツの顔、それは良くも悪くもコイツの祖父、旧姓飛鳥烈に酷く似すぎていたのだ。
『創世の蛇』に人生の一部を奪われてしまった、アイツの滅多に人前に見せない悲嘆の顔―――――その顔が、今の丈と悲しいくらい重なって見えていた。
・バカがチートすぎて呆気なくカース5名退場です。
・次回は勇吾サイド、戦いは一気に決着に近づいていきます。




