第80話 傲慢の暴君
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「ハアッ――――――――!!」
勇吾は力強く敵を切裂く。
斬られた大罪獣は切り口から霧散して消滅していく。
「―――――――――これで7体目!」
その背後、青い炎を吐く狼型の大罪獣を黒王が口から放ったブレスで倒す。
『―――――8体目だ。《神龍術》をこう何度も使うのは久しぶりだな。』
「単に、使う必要のある敵が少なかっただけかもな。最近だとアンドラス戦ぐらいだったからな。」
『―――――そうだな、そもそも多用しなければならない状況など、あまり想像もしたくはないが・・・・・。』
黒王は冗談なしに答えていく。
一部の龍族、正確には『龍神』に選ばれた者のみが使うことができる《神龍術》、そのバリエーションは実に多く、アンドラス戦で使った「破魔系」、今使っている「浄化系」など様々なものがある。
だが、そのどれもが強力すぎ、戦略兵器と例えても過言ではなく、黒王自身も制約を課して可能な限り使用を控えている。
つまり、黒王が《神龍術》を何度も使う機会となれば必然的に戦争か、または神クラス以上の相手との戦いにほかならないのである。
「・・・・想像する前に起きてしまったけどな。それも、極めてタチの悪い奴が関わる類のがな。」
苦笑しながら、勇吾は次の大罪獣へと向かっていった。
その轟音が耳に届いたのはそれから8分後のことだった。
敵をさらに減らしていき、残るは目の前の1体となった直後、遠くから花火や落雷のような轟音が2人の耳に届いた。
「―――――今のは!」
『(横浜)駅の方だな・・・・・。』
轟音から少し遅れ、足場が僅かに揺れる。
駅の方角に視線を向けようとするが、ここの最後の敵が邪魔をする。
『ギャオォォォォォォォォ!!』
肉食恐竜に似た“傲慢”の大罪獣、《傲慢の暴君》は勇吾に向かって突進してくる。
全身を眼光と同じ赤黒い炎で覆い、通過した場所を高熱で焼いていくそれは、単純な物理攻撃だけでなく、強力な攻撃魔法も使う大罪獣だった。
「クソッ!」
『どの道、最後の1体を倒すまでは他を気にする暇はないな。』
「分かってる!コイツを倒したらすぐに行くぞ!駅前にはリサ達がいるはずだ!」
『・・・だが、急ぎすぎないことだ。隙を見せれば奴に付け入られるぞ。』
「―――――――!」
心を乱しかけた勇吾は、黒王の言葉で瞬時に冷静さを取り戻す。
勇吾はすぐに「すまない。」と言おうとするが、黒王の目は勇吾でも大罪獣のどちらも見てはいなかった。
『――――――――――――何時まで隠れているつもりだ、『幻魔師』カース?』
「―――――――――――!?」
勇吾は息を飲み、目の前のプライド・レックスと戦いながらも周囲への警戒を強めていく。
『ギャオォォォォォォォ!!』
「――――邪魔だ!!」
焔を纏って突進する相手を、勇吾は吹っ飛ばす。
全力を込めた一撃に、プライド・レックスは50m以上吹っ飛ばされた。
「黒!!」
『―――――――黙っているつもりなら、無理矢理にでも出てきてもらうぞ!』
「―――――――ッ!」
その時の気迫は、普段の黒王とは比較にならないものだった。
勇吾でさえ、思わず後ろに飛び退きそうになるその気迫を前に降参したのか、空から聞き覚えのある忌々しい声が聞こえてきた。
「ハハハ、バレちゃったなら仕方ないな~~~~~♪」
イタズラがバレてしまった子供のような声と共に、藍色の霧が勇吾達の視界一杯に現れる。
そして、現れた霧はステージのスモークの様に広がっていき、その中心から1人の少年が姿を現した。
「――――――――――幻魔師、カース!」
「やあ、また逢ったね?」
勇吾は鋭い視線でカースを睨みつけた。
カースが戦場に出現した直後、勇吾程ではないが、蒼空もカースを睨みつけていた。
「カース・・・・・・・。」
『―――――――相変わらず、嫌な空気だな。』
アルントは不快な顔をしながら宙に立つカースを一瞥すると、すぐに視線を屋敷の方へと移す。
芦垣組の屋敷内には今、勇吾達が倒した《大罪獣》の“核”にされていた人達が気絶したまま運び込まれ、蒼空達の手で介抱されていた。
本来なら外に適当に結界を張るだけででもよく、わざわざ芦垣組の敷地内に入れる必要はない。そもそもここの強面達は無償で人助けをするボランティアではないので、それが普通なのである。
しかし、組員の1人が《大罪獣》から解放された人の中に、たまたまここに居た幹部の息子を見つけたことから事情は変わった。
事態を聞いた慶造と幹部はすぐに門を開き、幹部の息子も含めた被害者達の保護に動いた。一応、任侠道に則った行動らしいが・・・・。
「先生!!うちのバカ息子の大丈夫なんですか!?」
大広間に敷かれた布団に寝かされている息子の横で、幹部の男は苦渋の顔で蒼空に息子の容体を訊いてきた。
「―――――命の心配はないが、体力と精神が消耗している。今は安静に寝かせ、目が覚めたら水分と糖分を摂取させれば取り敢えず問題はない。他の者達も全員同じ症状だ。」
それを聞いて安心した幹部は、深く頭を下げて礼の言葉を述べていった。
(まあ、薬も十分に用意してあるからとりあえずは大丈夫だな。)
患者達の容態を念のためもう一度確認すると、蒼空は庭に出て屋根の上に跳び移り、戦場の様子を見守った。
(今度は何を企んでいる・・・・・・・?)
「《夜斬り》!!」
勇吾はカースに斬りかかるが、命中した途端にカースの体は霧になって霧散する。そんな事が何度も繰り返されていった。
「くっ、またか!」
「残念!またハズレだよ♪」
カースの方は、舞台の上でショーを披露する感覚で勇吾をあしらっていた。
その目には真剣に戦っている意志など微塵もなく、服装と同様にマジシャンを演じるように戯れていた。
その間に混ざって、プライド・レックスが放つ魔法が勇吾を狙っていった。
『ギャオォォォォォ!!』
『フン!!』
勇吾を狙う熱線や爆炎を黒王が間になって防ぎ、闇を纏わせた右手の爪をプライド・レックスに突き刺す。
貫通こそしなかったが、黒王の爪は深く刺さってプライド・レックスは悲鳴を上げる。
『ギャオ―――――――!!』
『――――――並の相手になら絶大な威力を誇っただろうが、俺には効かん。』
全身に熱線を受けたにもかかわらず、黒王の体は全くの無傷だった。
『闇属性である以上、お前の攻撃は俺には決して聞かない。』
『ギャォォォォォォォォ!!』
黒王は爪を突き刺したままプライド・レックスを前方へ投げ飛ばし、プライド・レックスは家屋を破壊しながら数百m先まで飛ばされていった。
もし、プライドレックスの属性が違っていたなら、黒王もこうも一方的に勝つ事はなかった。だが、プライド・レックスの使う魔法は、見た目こそ火属性だったが、実際は全部が“闇”属性、黒王には全く効果のない属性だったのだ。
黒王には《闇属性無効化》という補正がある以上、その属性のみの攻撃手段を持たないプライド・レックスに負ける要素はなかったのだ。
『終わりだ――――――――――』
「―――――ハハハ、ダメだよ。それはつまらない♪」
『――――――カース。』
突然、黒王の視線の先に2人目のカースが立ちふさがる。
後方では勇吾が1人目ののカースと戦い続けている気配が伝わってくる。
「折角のショーなのに、簡単に終わらされたらつまらないと思わないかい?」
『お前のミスじゃないのか?』
「確かにそれは否定できないなあ。本当は異空間じゃなくて現実でやるつもりだったのに、僕の仕掛けたトラップを根こそぎ破って、あっさりと結界を発動させたりできるとは思ってなかったからね。彼ら、下手をしたら彼らより強くなるかもしれないよ?」
『・・・・・・それは、否定はできないな。』
「それに他のお友達―――――――トレンツくんだっけ?彼もなかなかの逸材だったよ。やっぱり、あの国の出身者は規格外な実力者が多いね。流石の僕でも、あの国の情報だけは自由に覗けないから驚かされたよ♪」
実に楽しそうに語っていくカース。
だが、黒王の視線はカースではなく、先程投げ飛ばしたプライド・レックスの方を向いており、カースも当然の様にそれに気づいていた。
「――――――――目聡いね?けど、今から行っても遅いよ♪」
ズド――――――――――――ン!!
カースの声と同時に、プライド・レックスの体が黒い火柱に変わって空を貫いた。
異空間の空を漂っていた雲は一瞬で蒸発して消え、戦場全域を熱波が襲う。勇吾と黒王は咄嗟に防御を張って熱波を防いだ。
『――――――――――!?』
「―――――――――――クッ!!」
「「さあ、今回のショーのとっておきの登場だ!」」
2人のカースは声を誤差なく合わせながらあげた。
すると、火柱は次第に細くなって消え、プライド・レックスが倒れていた場所には1体の黒い竜人が立っていた。
『グギギギ・・・・・・・・・・・!』
「何っ!?」
大罪獣特有の赤黒い眼光を鋭く光らせ、歯軋りに似た声を漏らしながら勇吾達に殺意を向けていた。
だが、勇吾は殺意よりも先に、竜人の全身から溢れてくる魔力に目を奪われ、反射的に《ステータス》を使った。
【名前】《傲慢の暴君》
【種族】大罪獣(Lv5)
【クラス】傲慢
【属性】闇 火
【魔力】5084000/5084000
【状態】操作
「レベル・・・・・5!?」
「「そう、このレベル5こそが《大罪獣》の真の形態なのさ♪」」
『今までのは成長途中の雛、いや、幼生体や蛹ということか。』
「「話が早くて助かるよ♪成長を遂げた《大罪獣》は爵位級高位悪魔に匹敵する。あと、これはまだ推測の段階だけど、個体によっては神すら殺すことも可能だよ♪」」
自分のペットを見せびらかすように、カースは立ったまま動かない《真の大罪獣》の自慢を続けていく。
「「今回はほとんど意識を操作させて貰っているけど、本来の《大罪獣》は“核”の人間の意識がハッキリと残っているよ。」」
『「・・・・・!」』
「「彼らは操られて暴れてるんじゃないよ。人間だったときに押さえ込んでいた感情、それが解放されて爆発して暴れてるんだ。まあ、レベルが上がれば理性も戻るから、レベル4以上は(操作されていないのは)自分の意志で動いてるって訳だよ♪」」
『なるほど、多重の意味で《大罪》と言う訳か。ならば、こちらの言葉も向こうに聞こえているのか?』
黒王の問いに、カースは困ったような表情を浮かべる。
「「意地が悪いなあ。とっくに気付いていたから、戦っている間も、君達は呼びかけていたんじゃないのかい?」」
『・・・・・。』
「長話はもういい、お前も大罪獣もまとめて倒すだけだ!」
布都御魂剣を前に突き出し、勇吾は戦意に満ちた眼差しでカースを睨む。
だが、カースはそれを嘲笑うかのような笑みを顔に浮かべながら、たった一言だけで場の空気を一変させた。
「――――――――――――甘いよ。」
その一言を聞いた瞬間、勇吾は異空間全体が凄まじい魔力と存在感に満たされていくのを感じた。
・「転生者編」もボスの登場で終盤に近づいてきました。予想以上に長くなりましたが、最後までよろしくお願いします。




