第78話 強欲の大群鼠
・リサ&ミレーナサイドの前半です。
異空間内 横浜駅前
利用客も駅員もいない無人の駅構内で、リサとミレーナは大量の《大罪獣》から逃げていた。
『『『チチチチチチチチチチチチチチチチチ・・・・・・・・!!』』』
「「キャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」
だが、その光景はネズミの大群から逃げる2人の少女だった。
彼女達を追いかける大罪獣は、1万に達しようかという数のネズミの大群だった。
ネズミと言っても、その大きさは猫並みに大きかったが・・・・。
「も~~~~~~、気持ち悪~~~~~~~い!!」
「Gじゃないだけマシだけど、やっぱり嫌~~~~~~~!!」
冒険者とは言えリサとミレーナも女の子、こういう類の存在には本能的に嫌悪感が沸きあがるのだ。
だが、彼女達が逃げるのはそれだけが理由ではない。2人を追いかける大罪獣の群、これらは今までに出現した《大罪獣》とは事情が違うのだ。
「ねえ、さっきのって見間違いじゃないわよね!?」
「ええ!《ステータス》で調べても同じだったわ!ほら!」
ミレーナは敵のステータスをリサに見えた。
【名前】《強欲の大群鼠》
【種族】大罪獣(Lv3)
【クラス】強欲
【属性】無
【魔力】――測定不能――
【状態】暴走
*【詳細】・人間《河原康太》を核に創られた《幻魔》の一種。
・本能のままに人を襲い、相手の体内に自分の特殊な魔力を流し、相手を同類に転化させる。
・常に人を襲って増殖し、数が増えるほどその力を増す。
・個体ごとに属性は異なり、全個体が消えない限り無限に存在し続ける。
「――――――増殖って、今更だけど凄く厄介な能力ね!」
「多分、最初の1体だけ倒せばいい相手じゃないわ!全部一緒に“核”を浄化しないとすぐに増えてしまうわ!」
《強欲の大群鼠》―――――――それは1個体を指す名ではなく、1万を超すネズミの大群そのものを指す名であり、その固有能力そのものをも指していた。
この《大罪獣》を最初に目撃した時、そこには数人の一般人も一緒に紛れ込んでいた。おそらく、馬鹿が結界を発動した時、タイミング悪くこの大罪獣に襲われて一緒に異空間に巻き込まれたのだろう。
その時には既に遅く、その一般人達はグリード・レギオンラット(以降、レギオンラットに略)に体の一部を噛みつかれて感染し、見る見るうちにその姿が小さくなってレギオンラットの一部に転化してしまったのだ。
「―――――あれ全部が人間って、何時の間にあんな数の人間が襲われてたのよ!?」
「きっと、一ヶ所じゃなくて不特定多数の場所で同時に増えていったのよ!それに、住所不定の人とかを選んでいたらそれほど騒がれないし、そうでなくても今は無縁社会だから、近くで数人が消えてもすぐには騒がれたりはしないのよ!」
「『幻魔師』には、利用し甲斐のある環境ってわけね!!」
「そういうこと!私達2人じゃキツイから、レアンとゼフィを呼ぼう!」
「ええ!!」
2人は魔法で身体能力を強化すると、天井近くの窓ガラスに向かって跳び上がり、ガラスを割って外へと飛び出した。
「――――ゼフィーラ!!」
「――――レアンデル!!」
2人がそれぞれ別の名を叫ぶと、頭上に光のサークルが2つ出現し、その中から2体の龍が飛び出してそれぞれの契約者を背に乗せて飛んだ。
リサが乗ったのは、黒王のように蝙蝠みたいな羽ではなく鳥のような翼も持ち、全身が黄色の混じった白い体毛に覆われたドラゴンだった。
ミレーナが乗ったのは、龍と言うよりは全身が細長い魚に近い姿をした、鮮やかなライム色の鱗に覆われたドラゴンだった。
『―――――久しぶりですね?』
『全く、久しぶりに呼ばれたと思ったら、とんでもない状況みたいだな?』
ゼフィーラはお淑やかそうな女性、レアンデルは十代の青年と言う印象の声で話しかけてきた。
その直後、背後の駅から窓ガラスやドアを突き破って大量のレギオンラットが飛び出してきた。
『『『チチチチチチチチチチチチ―――――――――――!!!』』』
気のせいか、サイズが二回り位大きくなっていた。
レギオンラットの個体それぞれが、炎や雷、風や氷などを纏って飛んでいるリサ達に襲い掛かってきた。
『何だありゃ、《幻魔》か?』
「ええ、《大罪獣》という新種よ!倒し方は知ってるでしょ?」
「ゼフィ、私の《浄化》とあなたの《浄化の風》が必要なのよ!それも、あれ全部に!!」
『―――――なるほど、あの忌まわしき『幻魔師』が再び動き出したと言う事ですね。見たところ、全個体をほぼ同時に浄化しないといけないようですね?』
「話が早いわ!1体でも漏らすとすぐ増えるのよ!!」
『・・・えげつねえな。』
レアンデルはあからさまに嫌そうな声で呟きながら、襲いかかるレギオンラットを水流で押し流していく。
水属性持ちの個体は魚のように流れに逆らって来るが、レアンデルは力押しで無理矢理押し流す。
『気持ちわりぃ~な?』
「待ってレアン、そのまま散り散りにしたらーーー!」
『分かってる!1匹残らず集めなきゃいけないんだろ?とりあえず、俺はネズミどもは俺が全部集めてやるから、お前は探知でサポートしてくれ!』
「ええ、わかったわ!」
ミレーナは周囲一帯に《マナ・サーチ》を使い隠れているレギオンラットの位置を探知していった。
すると、探知の網にレギオンラット以外のものがかかった。
「リサ、ゼフィ、後ろよ!!」
「『――――――!』」
ドゴ――――――――ン!!
ミレーナが叫んだ直後、近くのビルが崩壊し、そこから巨大な植物の根が飛び出してきた。
飛び出してきた巨大な根は周囲の建物を破壊しながら伸びていき、リサ達の目の前にある駅ビルにも突き刺さりながら伸びていった。
『チッ!!』
『・・・・これは!?』
ゼフィーラとレアンデルは無差別に伸び続ける根を避けていく。
すると今度は、根が出現した場所から大量の茨が上に向かって勢いよく飛び出してきた。
ドドドドドドドドドド・・・・・・・!
「何あれ!あれも《大罪獣》なの!?」
『・・・・ビオ〇ンテみたいだな。』
レアンデルは「うわあ~。」と空を見上げながら呟く。
地下から現れた茨は高さ200m以上まで伸びていき、その先端にはこれまた巨大なバラの花が咲いていた。
『見てくださいリサ、ネズミ型が取り込まれていっています!』
「えっ!?」
ゼヒィーラに言われて地上を見てみると、網の目状に伸び続ける大罪獣にレギオンラットが次々に吸収されていく光景が広がっていた。
『『『チチチィィィ―――――――!!』』』
まるで水分や養分を吸収するようにレギオンラットは吸収され、その数はあっと言う間に減らしていき、1分も経たないうちに地上からその姿を消したのだった。
ミレーナは念の為、すぐに広範囲に《探知魔法》を使ってレギオンラットの残数を確認すると、かかったのは広範囲に根を張った植物型の《大罪獣》と、離れた場所で暴れている他の《大罪獣》だけで、レギオンラットは1体もかからなかった。
「・・・ネズミは全滅したわ。」
『ダ〇ソン並みの吸引力だったな。』
「ふざけないで!!“核”にされた人達は・・・・・!?」
ミレーナは最悪の事態を想像し、顔を真っ青にする。
だが、それをゼヒィーラがすぐに否定する、
『大丈夫です。あの《大罪獣》の中に、たくさんの“生者の魂”が感じられます。まだ救う道は残されています。』
「ホント!?」
『ええ、ですが急いだ方がいいでしょう。《幻魔》については謎が多い以上、早急に対処するのが賢明です。』
「そうね、すぐに《ステータス》で調べて対処しよう!」
「わかったわ!」
リサとミレーナは大きく咲き誇っている紅いバラに視線を向け、同時に《ステータス》を使った。
【名前】《淫蕩な女王薔薇》
【種族】大罪獣(Lv4)
【クラス】色欲
【属性】木
【魔力】2,690,000/2,690,000
【状態】操作
※【詳細】・人間《水嶋真由美》を核にした《幻魔》の一種。
・自分以外の生物を吸収して成長し続ける。
・主人に意識を操作され、指定された敵を襲い続ける。
・ゼフィーラとレアンデルの詳細については次回載せる予定です。レアンデルは結構若いです。
・“レギオン”と聞くと、ガメラを思い出すのは作者だけでしょうか?
・感想&評価お待ちしております。




