第75話 僅かな幕間
・今年最後の投稿になります。
転移した先は、未だ濃霧に包まれた繁華街の中だった。
外に転移した直後はほとんどの人が突然の出来事に困惑していた。
「え、外!?」
紫織もまた、外に移動した事に実感を持てず困惑していた。
周囲の景色は暗闇から濃霧に変わり、数m先も見えない状況だった。
「ねえ、ここは外なの!?」
「多分・・・・・・。」
風夏や璃愛も隣で同様に困惑していた。
そんな中、勇吾は黒王と合流し、蒼空とアルントも交えて街を覆う霧について相談していた。
「なら、発生源を潰せばこの霧は消えるのか?」
「そうだ。この場合は、“端末”のどれかだろう。最も、カースの事だから性質の悪い演出を用意してるんだろうがな。」
蒼空は忌々しいと言いたそうな顔で話した。
無理もない。蒼空は前世では幻魔師を同じ陣営でよく見ており、最後は奴の手によって殺された過去がある。いい感情など、微塵も抱いてないに等しいのだ。
そんな蒼空に、勇吾は「なら、大丈夫だ。」と答えた。
「“端末”の事なら問題ない。こっちには《神眼》持ちが2人もいる。特にあの馬鹿は・・・・元祖と同系統と言えば分かるだろ?」
「あ・・・・・・!」
その時の蒼空は、失念していたと言わんばかりの、普段の彼からは想像できない間抜けな表情をしていた。
『・・・・毒を似って毒を制するか。』
アルントは嫌味をたっぷりと込めて呟き、誰も否定しなかった。
一瞬、黒王がアルントの方を睨んだように見えたが、それを訊く前に黒王は片目を僅かに動かして勇吾達に一言呟いた。
『―――――噂をすれば何とやらのようだな。』
「「―――――!!」」
黒王の呟きの直後、視界が全く効かない程の濃霧が嘘のように晴れていった。
真上には青空が顔を出し、霧の影響で涼しくなっていた空気も次第に蒸し暑くなっていった。
そして、勇吾達の頭に、頭痛を起こしそうな声が届いた。
〈俺、大活躍じゃね?〉
馬鹿は、念話でアピールをしてきた。
同日 芦垣組本家
十分後、勇吾達は蒼空に導かれて紫織の自宅にお邪魔していた。
本当なら紫織達を送り届けるだけに寄っただけだが、娘の危機を《ワーニングベル》から報せられていた組長夫婦に捕まって事情説明をさせられていた。
ちなみに、ここへは蒼空の空間転移できたのだが、黒王も龍の形態のままで来たので――《ステルス》は屋敷に張った結界の効果で解除された――敷地内で着いた直後は、その姿を見た芦垣組の組員のほぼ全てがビビって腰を抜かしたが、あくまで余談である。
「―――――――そんな事があったのか。」
組長の慶造は腕を組みながら勇吾と蒼空の説明を聞いていた。
なお、紫織達は汚れを落とすために一緒に入浴中である。
「蒼空さんにアルントさん、それに勇吾さんと黒王さんもお世話になりました。」
「だぁ~~~♪」
無邪気にはしゃいでいる蒼真を抱いた雪枝は頭を下げながら丁寧に礼を述べた。
なお、アルントはこういう場は苦手なのか、庭の方で待機している。
「――――俺は特に何もしていない。彼女達を助けたのは、主に蒼空と勇吾の2人の方だ。」
人型になっていた黒王は訂正するように言葉を挟む。
「それでも私達が恩を受けた事には変わりません。芦垣組の名に懸け、受けた恩は必ず返させてもらいます。ねえ、あんた?」
「――――――ああ、大事な娘を救ってもらった恩は必ず返させて貰う!断りはさせねえ!」
(・・・・・この感じ、馬鹿が喜びそうな感じだな。あと、慎哉やトレンツも・・・・・。)
(―――――などと考えてるのだろうな。)
極道映画のワンシーンのような展開に、勇吾と黒王はそれぞれ別の事を考えていた。
一方、風呂場の方では紫織達が恋バナに花を咲かせていた。
「ねえねえ、結局どこまで進んでるの?」
「もう!そんなんかないんだからね!!」
「あ、ツンデレよツンデレ♪」
「ちが~~~~う!!」
高級感のある檜風呂の中で、紫織は友人達からいろいろ追及を受けていた。
内容は言うまでもなく蒼空との関係であり、付き合ってるのだとか、デートはしたのとか、相手はどう思ってるのなどと、紫織は質問攻めに遭っていた。
当初は事情の説明だけで終わるはずだったが、《大罪獣》に関しては紫織自身も何も知らなかったので、自然に話の内容は恋バナへと移ったのである。
「言っとくけど、アイツは見た目は子供でも中身は年齢不詳なんだからね!」
「それってコ〇ン的な?」
「違う!!」
「黒い秘密組織に狙われてるとか?」
「・・・・・・それは――――――」
意味は違うが、外れてはいない。
「――――――ってことで、アイツは前世でアクドイ事していた魔術師で、うちとはただの取引相手なだけよ!」
「うっそ~~~~?」
「思いっきり名前を叫んでたじゃん!しかも泣いてたし!」
「あ、写メ撮ってるから!」
「「でかした!!」」
「何時の間に!?」
紫織は断固として否定したが、風夏達から見れば彼女が蒼空の事を意識しているのは明らかだった。ただ、本人達にその自覚があるのかどうかは別であるが。
「けど、実際のところ彼の精神年齢ってどれ位なの?」
「え?」
「お爺さんなの?」
「実はダンディなおじさんとか?」
3人は興味津々できいてくる。
その問いに対し、紫織はすぐには答えは出せなかった。
蒼空の過去、つまりライナー=レンツだった時の事は紫織も少しだけ聞いたことはある。正確に言えば、母親にーーお茶会という名目で誘った時にーー付き合わされて一緒に聞いていたのだが、その時の話を思い出しても答えは出せなかった。
(確か不老になったって言ってたから・・・・心・・も・・・?)
「あ、のぼせてるわよ!?」
「水!水!」
時間も忘れて考えているうちに、紫織は湯船に沈んでいった。
「何をしてるんだ・・・・・。」
蒼空は呆れながら紫織の治療を行っていた。
治療と言ってものぼせただけなので、魔法薬は使わず涼しい場所で休ませただけだが。
「(やっぱりできてるわよね?)」
「(絶対できてるわ!)」
「(できてなくてもフラグは確定ね♪)」
部屋の外では風夏達が面白そうに2人の様子を観察していたが、中にいる蒼空にはバレバレだった。
(全く・・・・・・・・。)
一方、勇吾と黒王は庭に出てアルントと立ち話をしていた。
『―――――しかし、噂には聞いていたがお前が契約するとはな。それも、王族などではなく普通の子供とな。』
「俺が誰と契約しようと、お前には関係のない事だろ。お前こそ、未だ契約を継続させているとはな、アルント?」
『フン、半分は俺の意志ではないがな。』
バチッ!
一瞬、黒王とアルントの間に、比喩ではなく本当に火花が生じたのを勇吾や外にいた芦垣組の組員達はハッキリと見た。
どうやら2人は旧知の縁(?)らしく、誰も会話に割り込ませないという意思を表すかのような思い空気が2人を包んでいた。
(まさか、黒にあんな一面を見せる相手がいたとはな・・・・・・・。)
相棒の初めて見せる一面に、勇吾は唖然としていた。
勇吾も黒王の過去の全てを知っている訳ではないが、このように敵意・・・と言うべきかは微妙だが、ここまで感情を激しく表に出す相手がいる事は今まで知らなかった。
「――――随分と丸くなったようだな?昔は食うわ、暴れるわの、羽の生えた悪ガキがここまで大人しくなっているとはな。最初に見た時は、別人かと思ったぞ?」
『そっちこそ、ボンボンの神龍が山奥にん十年も引き籠ってると聞いてたが、アマテラスみたいに騒がれて出て来たのか?」
「あいにく、俺が住んでた所には“バカ”年中騒ぎを起こしてたから騒がれても気づかなかったがな?」
次第に、ガチでバックに炎が見え始めてきた。
(おいおい、このグリフォンとはどういう関係なんだ?)
勇吾の知る限り、黒王は『D.C.決戦』の前後に組織と接触した記録も噂も存在しない。ならば、アルントの関係が始まったのは、蒼空の前世、ライナーと契約する以前と言う事になる。
真っ先に考えられる可能性の確信を得るため、勇吾はアルントに《ステータス》を使ってみた。
(―――――《ステータス》!)
【名前】アルント=グライフ
【年齢】223
【種族】グリフォン
【職業】守護者
【クラス】資格者
【属性】メイン:風 サブ:光 闇 雷
【魔力】6,255,000/6,410,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv4) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv2) 風術(Lv5) 光術(Lv1) 闇術(Lv2) 雷術(Lv2) 人化 神門
【加護・補正】契約した幻獣 物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv4) 風属性無効化 闇属性耐性(Lv2) 雷属性耐性(Lv2) 空の眼 幻獣神の加護 風王の加護
(同い年か・・・・・・。)
アルントのステータスを見て、勇吾は2人が幼馴染だと確信した。
仲が悪そうに見えるが、それはあくまで側面のひとつだろうと納得する。
勇吾にも、似たような幼馴染がいるので予想はできるのだ。
『久しぶりにやるか、おい?』
「時と場所を考えろ、マヌケ!」
そうこうしている内に、2人を包む空気はさらにヤバくなっていく。
と、その時・・・・
ド―――――――――ン!!
遠くから、何かが吹き上げるような音が聞こえてきた。
そして、それは1度だけではなかった。
ド―――――――――ン!! ド―――――――――ン!!
いろんな方向から、その音は聞こえてきたのだった。
「―――――ショーはまだ始まったばかりだよ♪」
・新年は何時から投稿できるか分かりませんが、元日も投稿できるよう頑張ります。




