第74話 聖槍(ロンゴミアント)
・本日2話目、最初は蒼空サイド、途中から勇吾サイドになります。
時は蒼空が紫織の元へ着く数分前まで遡る。
蒼空が繁華街に到着すると、一帯は深い霧に包まれていた。
「・・・この霧、カースの結界だな。」
その霧が自然のものではないのは一目で分かった。
蒼空はすぐに霧を《鑑定》で調べてみた。
《鑑定》
【彷徨う幻霧の牢獄】
・大気中の水分に魔法をかけて作られた結界の効果を持つ霧。周囲の水分を吸収する事で増殖し、術者が止めない限り何所までも広がっていく。
・霧の中に入った者の(肉体の)五感や精神に作用し、外に出ようとしても霧の中を彷徨わせる。
・霧内部の状況は外部には漏れず、あらゆる電子危機の探査を受け付けない。
「相変わらず、こういう事には手慣れているな。この霧なら、“あれ”余裕で隠せる訳か。」
蒼空は濃霧の中で蠢く巨大な何かの影に視線を向ける。
赤黒い眼光のあるそれは、高層ビルより高い大型の《大罪獣》だった。
その場から移動する様子はないが、その体内からは不特定多数の人間の気配が漏れ出ていた。更には、別の《大罪獣》の気配も。
「―――――――あの中か。念の為、アルントを呼んだ方がいいな。」
そう呟くと、蒼空は目の前の地面に光のサークルを出現させて相棒を召還した。
サークルが消えると、大きな両翼を広げたグリフォンのアルントがそこに立っていた。
『――――――面倒事か?』
「ああ、説明は移動しながらする。“あれ”の体内に侵入するぞ!」
そう言うと、蒼空は収納空間から青紫色のローブを取り出すとそれを纏いアルントの背に跨る。
「行ってくれ!」
『――――――ああ、しっかり掴まっていろ。今のその体じゃ、振り落とされるかもしれない。』
「分かってる!」
蒼空はしっかりとアルントにつかまると、アルントは勢いよく飛翔した。
〈――――勇吾、聞こえてるな。俺はこれから《大罪獣》の体内に侵入する。詳しい事は見ればわかる。〉
〈――――――おい!?〉
念話で一方的に伝えると、蒼空は目の前の巨大な《大罪獣》へと集中する。
片手を前にだし、相手を拘束する魔法を唱える。
「《大地への拘束》!」
ズズ・・・・・・・・
巨大な大罪獣の体が僅かに沈み、僅かに動いていた巨体もピクリと動かなくなった。
「――――今だ!」
『ああ!』
そして2人は紫織達のいる、大罪獣の体内へ侵入した。
数分後、《ステルス》を使用した状態で勇吾は黒王に乗って現場に到着した。
『――――――――あれだ!』
「でかいな。」
到着して目に映ったのはビルのように巨大な《大罪獣》だった。
その全容は濃霧で見えなかったが、ヴァニティ・ライオネスとはレベルが上である事が感じられた。
「――――蒼空の言うとおり、確かに見れば分かるな。奴の体内からいろんな気配が漏れている。どうやら、蒼空も中で戦っているようだな。」
『なら、俺達はこっちの方を倒す事に専念するか。』
「ああ!」
黒王は巨大な《大罪獣》へと近づくと、その全容が薄らとであるが見えてきた。
全身は他の大罪獣と同様に黒い毛に覆われ、頭部は牛、首より下はよく太った熊のような姿をしていた。
それを見た勇吾は、《ステータス》を使って調べてみた。
【名前】《巨怠獣》
【種族】大罪獣(Lv2)
【クラス】怠惰
【属性】空
【魔力】759,000/890,000
【状態】拘束
「――――蒼空が拘束していったようだな。それにしても、“レベル2”か・・・・馬鹿が喜びそうな設定だな。」
『今までの《幻魔》同様、成長するということなのだろうな。それよりも、どうやって2体同時に核を斬るかだ――――――』
「ああ、《大罪獣》の特性上、蒼空には最後まで対処はできない。だからこそ、昼間は逃走に徹していた。今も、俺が来るまで動きを封じるのに専念している筈だ。」
勇吾は巨怠獣の胸部に視線を集中させて“核”の位置を確認する。
同時に、内部にいる2体目の大罪獣の位置も確認した。
「――――――やはり動いてるな。数秒でも止めてくれれば同時に討てるんだが・・・・・。」
『やはり難しいか・・・・。』
勇吾には大罪獣を2体同時に倒す方法がある。
だがそれは、相手が少しでも静止しているのが条件だった。
そこに、再び蒼空からの念話が届いた。
〈―――――――いいタイミングだ!〉
「――――蒼空!」
〈これから、少し強めの魔法で奴の動きを封じる。その隙にまとめて始末しろ。〉
〈ああ、了解した!〉
念話はまたすぐに切れた。
その直後、勇吾はヒュージ・スラッグガードの体内で強力な魔法の発動を感じた。
「始まったか!」
蒼空が動き出したのを感じ取ると、勇吾は布都御魂剣を握りしめ、剣に語りかけるように呟いた。
「――――――――布都御魂、剣性を《聖槍》へ変更だ。」
直後、布都御魂剣は白い光に包まれ、全容を瞬く間に変えていった。
『――――――英雄の槍か。』
光が消え、布都御魂剣はその姿を剣から槍へと変えていた。
柄の先には鎖が繋がったままだったが、少し幅の広いその槍は、見る者を魅了するかのような美しい純白の槍だった。
「―――行ってくる!」
『ああ。』
勇吾は黒王から飛び降り、空中を蹴りながら攻撃の最適ポイントへと移動する。
その数秒後、内部で2体目の大罪獣の動きが止まったのを感じ取ると、投槍のように構えを取り、穂先に魔力を込めていく。
「―――――――――――今だ!!」
2対の大罪獣の“核”が一直線上にラインを狙い、勇吾は勢いよく槍を投擲し、その胸部に大きな穴を開けて突き抜けた。
『オオオオオオオオオオオオオオ――――――――!!』
槍がヒュージ・スラッグガードの核を貫いた瞬間、今まで沈黙していたのが嘘のような悲痛の叫びをあげた。
そして赤黒い眼光は消え、全身が霧になり始めるより前に、勇吾は槍が貫いた事によりできた穴に飛び込んでいった。
そして話は現在へと戻る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・
轟音を立て、大地震のように揺れている。
ヒュージ・スラッグガードの“核”が破壊された事により、その内部空間も崩壊が始まっているのだ。
「―――――消滅が始まったか。」
「ああ、流石にこれだけの巨体となると全身が消滅するまでには時間が掛かるだろう。その間に、全員を外に転移させることはできるか?」
捕らわれていた人々の悲鳴が聞こえてくる中、勇吾はほとんど「やれ!」と言っているに等しい口調で蒼空に訊き、蒼空もさも当然のように答える。
「問題ない。流石に万単位での移動はキツイが、この人数なら余裕だ。」
『その気になれば1000万人も可能だがな。』
「「「―――――――――。」」」
蒼空の後に続いたアルントの補足に、勇吾も黙って見ていた紫織達も揃って絶句する。
1000万人と言えばそこそこ進んだ国の総人口にも匹敵し、下手をすれば小さな途上国の総人口の数倍の数になる。それほどの人数を一度に瞬間移動させられるなど、魔法に関する知識のない紫織達からみても規格外すぎることだった。
そうこう考えている間にも、空間の崩壊は進んでいく。
「・・・・じゃあ、頼んだ。」
「――――ああ、行くぞ。」
そして、壁に覆われた世界に捕らわれていた人達は外へと転移し、その直後にその場所は霧散して消滅していった。
・布都御魂剣の能力、ようやく出す事が出来ました。
・《ロンゴミアント》、ロンギヌスの槍とも混同される聖槍です。アーサー王伝説に登場する槍で、アーサーはこの槍で息子(または甥)を殺しました。
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