第73話 嫉妬の雷牙
・今日の1話目はいつもどおり投稿できました。
地面に押し潰された大罪獣は殺意の籠った目で蒼空を睨みつけていた。
『グルルルルル・・・・・・・・・・・・・・!』
『あれが《大罪獣》と言う《幻魔》か?」
「ああ、昼間に見たのとはいろいろ違っているようだがな。」
空中で静止するグリフォンの問いに、蒼空は自分に殺意を向ける大罪獣に視線を向けながら答える。
(―――――この大罪獣、もしかすると・・・・・・。)
昼間に遭遇した大罪獣、《虚栄の人獅子》と比較し、目の前の巨犬型の大罪獣に違和感を感じた蒼空は《ステータス》を使って調べてみた。
【名前】《嫉妬の雷牙》
【種族】大罪獣(Lv2)
【クラス】嫉妬
【属性】雷
【魔力】854,000/857,000
【状態】操作
*【詳細】・人間《加原裕太》を核に創られた幻魔の一種。
・精神の一部を主人によって遠隔操作されている。
何だかアイテムのような名前だった。
それはさておき、蒼空はステータスの【種族】の欄に注目する。
「―――――“Lv2”か、そう言う事か。奴の考えそうなことだ。」
苦笑を漏らしつつ、もう一度目の前の大罪獣、《嫉妬の雷牙》に視線を向けようとした時だった。
『グオオオォォォォォォォォォ――――――――ン!!』
突然、ジェラス・ファングが咆哮を上げたと思ったら全身から雷を放出しだした。
「クッ!アルント!!」
『ああ!!』
蒼空はグリフォン――――アルントに合図を送ると同時に、蒼空は《土術》を使って自分達を囲む様に地面を隆起させて壁を造る。
その直後、ジェラス・ファングから放たれた雷撃が壁に衝突していった。
「「「キャァァァァァァァァァ!!」」」
「大丈夫なの!?」
「この程度なら問題ない!」
雷撃は5秒ほど続くと収まり、蒼空は壁を地面に戻す。
周囲では蒼空達以外の人達が風のドームに囲まれて守られていた。
「――――――――またレベルが上がったか。」
「え?」
蒼空の視線の先、そこには先程まで地面に押し潰されていた姿を変えて立ち上がっていた。
大きさは先程までの約1.5倍、本体の姿はほとんど同じだったが、全身の各所には毛の色と同じ黒い鎧を装着していた。
「――――――“Lv3”と言う事か。だが、この程度で・・・・・」
蒼空の言葉が言い終わるよりも早く、ジェラス・ファングは雷を纏いながら襲い掛かる。
「――――遅い!」
呟くと同時に右手を横に振ると、ジェラス・ファングの真横から地面が角柱状に隆起し、高速でジェラス・ファングの胴体に衝突し、その巨体を突き飛ばした。
『グォンン!?』
「―――――ん!流石に頑丈なようだな。なら、休む間もなく攻めるだけだ!」
今度は手を上に振り上げると、ジェラスファングの足元や周りから幾つもの柱、蒼空の力で圧縮されて硬度を増した幾つもの石柱が絶え間なく高速で突き出してきた。
ドドドドドドドドドドドド・・・・・・・!!!
『グォォォォォォォォォォォォォォン!!』
ジェラス・ファングは考えるよりも先に突き出してくる石柱群を回避するが、高速で何本も突き出してくる全てをかわす事はできず、槍のように突き出してきた石柱に足や胴、頭と全身を責められていき、身を護っていた鎧も次第に亀裂を刻んで10秒も経たないうちに破壊された。
『―――――俺の出番はなさそうだな?』
蒼空の一方的な展開に、空中で待機していたアルントは周囲に警戒しながらも観戦モードでいた。
だが、敵も何時までもやられてばかりではいなかった。
『グオォン!』
ズドドド―――――――――ン!!
ジェラス・ファングは全身から雷撃を放ち、襲い掛かる無数の石柱を全て破壊していった。
もし、ここに馬鹿がいれば「ピ〇チ〇ウみてえじゃね?」と言っていたであろう光景だった。
「チッ!魔力が多いだけはあるか・・・・・。」
『グルルルルル!!』
蒼空が軽く舌打ちする中、ジェラス・ファングは破壊された石柱の残骸の上に着地し、周囲に電気の球体みたいなものを一度に100以上も出現させた。
「《サンダーボール》か、だが・・・・・・」
『グォン!!』
蒼空は小声でブツブツと何かを呟きだし、その間にジェラス・ファングは200近い《サンダーボール》を蒼空に向かって一斉に放った。
「《グラビティアロー》!」
それに対し、蒼空は土属性の応用である《重力魔法》で作った矢を1000発放った。
ドドドドドドドドドドドド―――――――!!!!
『グオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!』
《サンダーボール》の5倍の量の攻撃の嵐にジェラス・ファングは悲鳴のような鳴き声を上げる。
だが、それでもまだ戦意は消えてない。遠隔操作されているせいなのか、恐怖などの感情の一部が欠落しているのかもしれない。
(――――魔力自体は俺よりずっと下だが、どうやら耐久力に特化した《大罪獣》のようだな。なら、少し強めの魔法を使っても問題ないか。)
『ラ・・・蒼空、どうやら大技を出してくるみたいだ!』
「――――――そうか!」
アルントの視線の先では、ジェラス・ファングが大きく口を開け、上下の牙の間に魔力を集中させている。それは例えるなら、SFに出てくるような発射直前のレーザー砲に近かった。
ジェラス・ファングの周囲では激しい放電現象が起き、全身の毛も逆立っている。
「ちょっと!本当に大丈夫なの!?」
蒼空の背後で紫織が不安の声を上げるが、蒼空は全く表情を崩していない。
「―――――問題ないと言っただろ。それに、いいタイミングだ。」
「え?」
それは、次で決めると言っているようにも聞こえた。
『グオォォォォォ!!!』
ジェラス・ファングの口から、雷を纏った極太のレーザーが放たれた。
それに対し、蒼空は右手を前に出し、目の前の敵への最期の魔法を唱えた。
「《紅き大地の怒れる螺旋》!」
ドゴ――――――――――ン!!!
蒼空の右手から紅蓮のマグマの奔流が渦を巻いて放たれた。
まるで火山の噴火のようなマグマは辺り一面を一瞬にして紅蓮に染め上げ、前方から迫るレーザーと衝突するが、1秒ともたずにレーザーはマグマに押し返されていった。
そしてマグマの奔流はジェラス・ファングに激突し、ジェラス・ファングは一瞬でマグマに飲み込まれて押し飛ばされていった。
『グオォォォォォォォォォォォ!!!!』
「―――――――――大地の炎に焼かれろ、大罪の《幻魔》!」
ドゴ―――――――――――――――ン!!!!
ジェラス・ファングを飲み込んだマグマの渦は、一直線にこの世界を囲む壁にぶつかって爆音を上げた。
爆発の瞬間、あまりの轟音に紫織達以外の人間の悲鳴も上がったが、爆音の中に消えていった。
『―――――――俺が避難させていなければ、大惨事だったな。』
アルントは溜息まじりに呟いた。
蒼空がジェラス・ファングと戦い始めたのと同じ頃、アルントは風を操ってジェラス・ファングの周辺にいた一般人達を強制的に避難させていた。
そのため、一面マグマに染まる一帯には人は誰もおらず、巻き添えでの死傷者は出なかったのだ。
「・・・・予想はしていたが、ここまでしぶといと呆れるしかないな。」
爆煙、いや噴煙の向こうに次第に黒い影が見え出してきた。
「グ・・・・ル・・・ゥ・・ル・・・・・」
あれほどの攻撃を受けたのにも係わらず、ジェラス・ファングは原型をとどめていた。
だがダメージは深いらしく、虫の息の状態だった。
『・・・本気だったら即死だったがな。』
「えっ?」
『あの程度の相手に本気を出す必要はないからな。それに、仮に本気を出したら俺やお前達以外は一瞬で消し炭は確実だがな。』
「・・・・・・・・・・。」
冗談ではないその言葉に、蒼空以外の人間は言葉を失った。
当の本人は関心がないかのように、前を向いたまま手を数度振りながら重力を操作する。
すると、ジェラス・ファングの体が溶けた壁の中から抜けだし、宙に浮かびながら蒼空の50m先で制止した。
「やれ、勇吾!」
ドーーーーーーン!!
直後、反対側の壁が音を立てて崩れた。
同時に崩れた箇所から、何かが侵入し、ヒュンと一直線にジェラス・ファングに向かって飛んでいった。
『グォッ!?』
奇声を上げたジェラス・ファングの胸に、鎖の付いた白い槍が突き刺さった。
白い槍が突き刺さると、赤黒い眼光は消え、全身は霧の様に霧散して消滅し、闇が再び深まっていった。
突き刺さった槍は鎖に引っ張られ、闇の中に消えていった。
「――――――とりあえず、2体を始末できたな。」
蒼空が誰かに向かって呟くと、真上から影が降りてきた。
「ああ。」
暗闇の中、勇吾は布都御魂剣を握りながら簡潔に返事をした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・
その直後、地面が音をたてて揺れ始めた。
・アルントの名前は、ドイツ語で「鷲の王」と言う意味から付けました。ちなみに、グリフォンはドイツ語では「グライフ」と呼びます。
・話がなかなか進んでない気がする・・・。
・感想&評価お待ちしております。




