第72話 暗闇の世界
・転生者編、主人公の出番が凄く減ってきている気がするのは作者だけでしょうか?
・とりあえず、2話目も投稿できました。
同日 蒼空のプライベートラボ
紫織が現実から消える少し前、幻魔師との戦いの準備をしていた蒼空は外界での異変をいち早く察知していた。
「――――――――紫織!?」
持っていたスマフォのバイブで合図を出し、蒼空は紫織に持たせておいた防犯用魔法道具、《小さき警鐘》が警報を鳴らしているのに気付いた。
芦垣組の女性陣に渡したあの魔導具には警報以外の機能もあり、そのひとつが警報発動時に特定の誰かにそれを報せる事ができる。
紫織の場合、両親や組の護衛担当、そして製作者である蒼空に報せが行くようになっており、各々が持っているケータイやスマフォに位置情報付きで連絡が届くようになっている。
「場所は繁華街、ファッションビルの中か!」
位置を確認すると、用意した魔法道具や魔法薬を手早く持ち運び用の収納空間に収め、出入り口を開くとそのまま外へと出る。
そして、《ガーデン》にいる勇吾達にも異変が起きた事を《念話魔法》で伝える。
〈――――――蒼空か、どうした?〉
〈どうやら奴が動き出したようだ。繁華街の〇〇〇ビルで異変が起きている!俺はこのまま現場へと向かう!〉
〈―――――――ッ!!わかった!俺達もすぐに向かう!!〉
〈ああ、だが全員で来ない方がいい!奴の事だ、えげつない事を幾つも起こすに決まっている!〉
〈――――――そうだな、何組かに分かれて動く。お前も気を付けろ!〉
念話をそこで切り、蒼空は警報が発動した場所へと転移した。
――どこかの異空間――
十分ほど経ち、次第に他の客や従業員達も自分達が知らない場所にいる事に気付き始め、不安の声を上げながら騒ぎ出す。
「おい、ここ何所だよ!?」
「やだ、怖い!!」
「責任者いないのか――――――!?」
「誰か分かる奴いないのかあ!?」
不安と恐怖に駆られ、聞こえてくる声の中にが従業員達に対する怒声の声も混じっていた。
異常な事態に対し、自分の精神を少しでも守る為に誰かに八つ当たりをして気を紛らわせたいのだろう。その声からは必死さも伝わってくる。
「ねえ、私達はどうする?」
璃愛はスマフォの光を抱きながら弱々しく紫織達に訊いてきた。
紫織達もまた、この異常な事態に不安と恐怖を隠せずにいる。それをどうにかギリギリで抑え込んでいるのは、互いに持っている小さな光源だった。
360度の暗闇の中で長時間精神を保ち続ける事などほとんどの日本人には難しいだろう。まして、紫織も含めた4人は普通の女子中学生、大人よりもその精神は無防備なのである。
「ど、どうするって言われても・・・・・・・。」
「動かない方がいいんじゃないの!?」
どうにかしようと考えても何も思い浮かばない。
周囲を見渡しても頼れそうな人は1人もいない。
完全に手詰まりな状況が続き途方に暮れる紫織達だった。
そんな時―――――――
『グルルルルルルルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・。』
暗闇の中に、突然犬の唸り声が響き渡った。
「な、何・・・・・!?」
「犬!?」
「にしても、大きすぎない!?」
異様に大きい唸り声に、風夏達は反射的に身を寄せ合う。
紫織1人だけは、すでに耐性が出来ていたので他の3人ほど驚きはしなかったが、それでも嫌な予感だけは全身で感じ取っていた。
(何・・・・・・?もしかして怪獣!?)
言葉に出さない、心の中で呟いた疑問に答えかのように、それは次第にその姿を見せ始める。
「あっ!!ねえ、あれ―――――――――!!」
杏が突然前方を指差し、紫織達はその方向へ視線を向ける。
すると、そこには2つの赤い光が宙に浮かびながらこっちに近づいてきた。
「「「―――――――――――!?」」」
『グルルルルルルルルル・・・・・・・。』
唸り声を出しながら、それはズン、ズン、ズン、と足音を立てながら紫織達の元に近づいてくる。
「ね、ねえ・・・・・・・・・!!」
「こっちに来るわよ!!」
「逃げるわよ!!」
全身の細胞が危険信号を発し、紫織は大声で叫びながら3人の手を引っ張った。
さっきは危険から回避できたのに、説得に手間取って避けられなかったことから、今度は有無を言わせずに無理やりにでも一緒に逃げようと行動に出たのだ。
幸いにも、恐怖を感じていた3人は紫織の手を振り払う事もなく、困惑しながらも紫織に引っ張られながら逃げ始めた。
だが、”それ”は紫織の鼓動を踏み弄るように彼女達の逃走を一瞬で止める。
『グオォ―――――ン!!!』
ドゴ――――――ン!!!!
「「「「キャァァァァァァァ!!」」」」
”それ”が吠えたのと同時に、紫織達の目の前に落雷が生じた。
落雷の瞬間、暗闇だったその場所全体が光に包まれてその全貌を現した。
そこは、四方を石壁で覆われ、その広さは東京ドームの総面積に匹敵している。頭上を見上げるとそこには天井はなく、四方を囲む壁が何所までも伸び続けていた。
『グルルルルルルル・・・・・・・・!』
バチチッ!バチッ!バチッ!――――――
雷光がおさまり、再び暗闇が世界を支配しようとした。
だが、暗闇は落雷の直前ほど深くはならなかった。
犬の唸り声と共に電気が弾けるような音が響き渡り、暗闇ではなく薄暗い光が僅かに世界を照らしていた。
「あ、光・・・・・・・・・・キャアアアア!!!」
「え、何――――――?イヤアア~~~~!!!!」
落雷のショックから復活した紫織達だったが、背後に立つ“それ”の姿を見た途端、喉の奥から絶叫を上げた。
(か、怪獣――――――――!!)
絶叫しながらも、紫織はどうにか気を保ちながら目の前に立つ巨大な黒犬の姿を凝視する。
全身を漆黒の毛が覆い、口や足には鋼のような牙と爪を伸ばし、その眼光は暗闇では赤く見えたが今は赤黒く、不気味に輝いていた。
そして黒い体毛の周りをバチバチと火花が、いや、雷が鎧のように全身に纏われていた。
「ギャアアアアアアアア!!」
「わあああああああああ!!」
「か、怪物ぅぅぅぅ!!??」
周囲から次々に悲鳴が出始める。
暗闇の恐怖から解放されたと思った直後に新たな恐怖、いや、絶望が充満していった。
『グオォォォォ―――――――――ン!!』
人々の悲鳴に興奮したのか、黒犬は鳴き声を上げながら紫織の方へ突進してきた。
「イヤアアァァァァァ!!」
「き、来た――――――!!」
突進してくる巨大な黒犬に紫織達は逃げようとした。
だが、今度は全身を恐怖が支配して体が思うように動かせなかった。
(殺される!誰か助けて!!)
心の中で助けを求めるが、その時にはすでに眼前まで迫っていた。
「キャァァァァァァ!!」
隣で杏が悲鳴を上げる中、紫織は彼女自身がもっとも強いと思う男の名前を叫んだ。
「蒼空ぁ――――!!助けて――――――!!」
絶叫にも近い声で叫んだ。
そして、その声が届いたかのように、その声が紫織の耳にも響いた。
「――――――――《大地の重弾》!!」
「―――――え?」
その声は、遙か頭上から聞こえてきた。
『ギャオッ!!』
直後、目前まで迫っていた黒犬の巨体は車に跳ねられたかのように吹っ飛んだかと思えば、十数m先で地面に押し潰されていた。
まるで地面に縫いつけられたかのように身動きのとれない黒犬の姿を前に、紫織は何が起きたのか分からなかった。
それは隣にいた風夏達も同じらしく、みんな口をポカンと開けていた。
『なかなか危ないところだったな。』
「―――――この声!」
『横じゃない、上だ。』
聞き覚えの声が響き、紫織は視線を上に向け絶句する。
そこには、紫がかった黒い両翼を広げながら飛ぶ幻獣と、それに跨る少年の姿があった。
「・・・グリフォン?」
呟いたのは風夏だった。
他の2人も呆然としながら、その雄姿に目を奪われていた。
上半身は紫がかった黒翼の鷲、下半身は美しい毛並みの獅子の姿は、宛ら空の王者を思わせる。
そしてグリフォンに跨っていた少年は、ヒョイと飛び降りて紫織の前に着地する。
青紫色のローブを身に纏い、知性に溢れたその顔を見た途端、紫織は糸が切れたかのように地面に座り込み、涙腺からは今まで我慢してきたものが溢れ出していった。
「――――――大丈夫か?」
蒼空は、懐からハンカチを取り出すと紫織に差し出す。
「だ、大丈夫じゃないわよ!!死ぬかと思ったのよ!?蒼空!!」
紫織は蒼空からハンカチを奪い取るように受け取ると、ビッショリと濡れた顔で怒鳴りつけた。
それを見た蒼空は苦笑を漏らしながら、優しく彼女の頭を撫でた。
「もう大丈夫だ。“奴”は俺達が片付ける。」
そして蒼空は、地面に押し潰されている大罪獣へと視線を向けたのだった。
・次回、蒼空が愛の力で大暴れ(嘘)ではないですが、活躍はします。
・感想お待ちしております。




