第71話 幕開け
・いつもは9時にも投稿してましたが、今日は2話目も出せるか微妙なのでこれが本日1話目となります。できる限り、2話目も今日中に出したいと思います。
――同日 横浜市 とある繁華街――
勇吾達が幻魔師との戦いに備えていた頃、異変は少しずつ進み始めたいた。
正午を過ぎた辺りから、街中のいたるところでパトカーや救急車が見られるようになり、国道では何か所も渋滞が発生し始めていた。
テレビでは通常番組を中止し、臨時ニュースとして市内各所で発生している事件の数々を報道し、SNSなどでは、それらの事件に関わった若者が中心になって興味本意で騒ぎ立てている。
書き込まれた情報の中には《大罪獣》に関するものもあったが、ほとんどの若者達はそれを本気にはせず、投稿者を揶揄したりしていたが、時間の経過と共に似たような内容の投稿が増加し、テレビやネットのニュースでも異常な数の事件の発生を報道している事から、特に横浜に暮らす若者達の一部で得体の知れない状況への恐怖が浸透し始めていた。
そして、若者を含めた横浜の住民達の恐怖に比例していくかのように水辺を中心に、市内各所で薄い靄が発生していき次第に街全体に広がっていった。
そんな中、芦垣紫織は同級生と一緒にショッピングを楽しんでいた。
服や雑貨など、若者向けのアイテムを扱うテナントが多く入っているビルの中を、3人の同級生の少女達と歩いていた紫織は、先程からの外の様子が気になり始めていた。
「ねえ、さっきからパトカーとか多くない?」
「あ、やっぱりそう思う?」
「あ、また通った!」
窓から外を覗くと、サイレンを鳴らしながらビルの前をパトカーが通過していった。
「事件かな?」
「紫織の家の人が犯人だったり?」
「やめてよ、ただでさえ厳つい連中ばかりで近所じゃ腫れ物扱いなんだから。」
友人の冗談に、紫織は不愉快な気分にされながら愚痴を零していく。
紫織が芦垣組組長の娘である事は友人3人は既に知っている。にも拘わらず、彼女達は紫織を恐れることなく普通に接してくれる、紫織にとっては貴重な存在だった。
紫織は幼い頃から、家族のネームバリューが原因で肩身の狭い思いをし続けざるを得なかった。
出かける際は、常に組員が護衛として付いてきてしまうので老若男女を問わず誰からも避けられ、幼稚園や小学校でも直接虐められる事はなかったが陰口を言っている所を何度も見てきた。
だが、中学に入って転機が訪れる。 中一のある日、その日は父親と喧嘩して家を飛び出し、当ても無く歩いていると他校の男子生徒達に絡まれた同級生の女子3人組を見つけ、八つ当たりのつもりで男子に殴りかかったのである。
母親の教育方針で習っていた空手の技を炸裂させ、相手の急所を容赦無く攻めてダウンさせた。
その時の勇姿(?)に惚れられ、助かった3人組、風夏、杏、璃愛とはそれ以来親しい仲となった。
「あ、ちょっと見て!ネットの書き込みチェックしてみたら凄いことになってる!」
「何何!?」
「見せて!」
「――――?」
杏が声を上げながら自分のスマフォを見せると、紫織達3人は画面に映った内容に目を丸くする。
――――近所に熊出現!どっかの爺さん病院行き!
――――今横浜にいるんだけど、目の前で爆発発生!
――――ヤバすぎ!交差点でトラックが横転して大惨事!?・・・あ!今、変な鳥がいた!!
――――さっきの続報!族の何人かが怪獣にさらわれたらしい!
――――怪獣イタ♪警官ヤラレテタ!
――――なあ、横浜中に怪獣が出てるってマジなの?
――――ニュース見たよ。横浜で百人以上が失踪したって言ってた!
――――○△×のリーダーが狼男に殺されかけたらしい!当事者からの情報だから間違いなし!
――――警官が拳銃を盗られた!みんな逃げろ!
「何これ?」
ネットで呟かれている内容に皆呆然としていた。
書き込みの多くは怪獣の目撃情報などの、普通なら荒唐無稽なものばかりだったが数が異常なほど多かった。
中には住所まで書き込まれ、報道されている事件とも混同されていた。
他の3人が困惑する中、紫織だけはある嫌な予感に襲われていた。
(もしかして、あいつが言っていたのってコレのことなの!?)
紫織は、以前蒼空に警告された時の事を思い出していた。
それは1年以上前のこと、芦垣組で蒼空が真面目な顔で話していた時の事だった。
その頃には、既に蒼空に対する芦垣組の信用は初めの頃と比べると天にも届く勢いで伸びており、蒼空も組の幹部達や紫織の前で自分の過去についても話すようになっていた。
その中で、この世界の闇に潜んでいる“危険”について強く警告していた。
『―――――いずれ、“組織”が動き出せば裏だけでなく表でも常識を越えた事件が多発することになる。昼間から怪獣が目撃されたりとか――――』
聞いた直後は半信半疑で、下手な冗談なのかと思う者がほとんどだったが、すぐに現物を目の当たりにすると疑う者は1人もいなくなった。
あの時の事を思い出すと、ネット上で騒がれている内容の信憑性が紫織の中で上がり始めていた。
(どうしよう、家かアイツに連絡した方がいいの?)
嫌な予感だけがこみ上げてくる。
だが一方で、素直に連絡をとるのには抵抗がある。
特に、蒼空に自分から連絡をするのだけは、紫織とっては意地でも避けたかった。ただ、それが“ある感情”の裏返しである事に、彼女自身はまだ気付いていない。
「ねえ、紫織はコレってどう思う?」
「――――――エッ!?」
風夏の声に紫織はハッとなる。
「聞いてなかったの?この書き込みって、本当だと思う?」
「え、え~と、集団失踪とかの事件の書き込みは信用できるんじゃない?ほら、ニュースにもなっているって書いてあるし!」
まさか、思っている事を素直に言えるわけもなく、紫織は適当に答える。
それに合わせるように自分のスマフォでニュースを調べると、そこには横浜で発生した何件もの事件速報が載っていた。
「って、えぇぇぇぇ!?」
「ちょっと、これっていくらなんでも多すぎない!?全部、今日起きたって書いてるわよ!」
あまりの事件の多さに4人は揃って唖然とする。
失踪から始まり、暴行、強盗、交通事故、爆発、火災、殺人未遂と都会とはいえ、同じ日に発生するには無理がある量だった。
死傷者が出ている事件もあり、報道されているニュース記事はどれも緊迫した内容のものばかりだった。
「ねえ、これってうちの学校の近所のことじゃないの!?」
「ホントだ!この写真に写ってるの、私の家の近くよ!」
記事に載せられた最新の写真には、4人が普段から見慣れている街の光景の一部が真っ赤に燃え上がっているのが鮮明に写されていた。
そして4人は写真に写った”それ”に気付く。
写真に写る燃え上がる家屋の中に、得体の知れない黒い影がカメラに視線を向けた形で写っている。その目は炎よりも赤く不気味に光っており、それを見た紫織達は全身に悪寒が走った。
「……何これ?」
紫織は恐る恐る画面をタッチして写真を拡大しようとした、その時だった。
リ―――――――――――ン!!
紫織のスマフォに付いていたベル型のストラップが高い音を鳴り響かせた。
それは普段はどんなに揺らしても鳴らないが、持ち主に危険が迫っている時にだけ警報を鳴らす、蒼空が作った《小さき警鐘》と言う防犯グッズだった。
「―――――!!」
「ねえ、今の音何!?」
「ビックリした~~~~!」
「紫織の着信音じゃないの?」
周囲に響いたベルの音に、紫織の表情に緊張が走る。
風夏達も不意になったベルの警報音に驚き、スマフォに付いているストラップに注目する。
(ど、どうしよう!逃げた方がいいの・・・・・・!?)
紫織はこの後どう行動すればいいのか戸惑っていた。
過去にも《ワーニングベル》が鳴った事は数度あり、その数分後に命に係わる危険が起きて紫織は運よく回避する事が出来た。
だが、その時は組員の護衛が付いていたからこそ無傷で回避できたわけであり、今はその時と違って護衛は1人も付いて来ていない。
かと言って、このまま立ち往生していたら自分の命は危険にさらされてしまう。何より、今は友人3人も一緒にいるのだ。巻き込まれない保証はどこにもない。
紫織はとにかく、この場から少しでも遠くに離れようと考えた。
「ねえ!別の店に行ってみない!?」
「ど、どうしたのよ急に!?」
「ねえ、さっきから何だか顔色がよくないみたいだけど・・・・・・大丈夫?」
「平気!それより、このビルから出ない?私、ここにはあまり良さそうな物がなかったから!」
紫織はどうにか3人を連れて今いるビルから出ようと3人を説得するが、彼女の急な慌てぶりに3人とも怪訝な表情を浮かべた。
(早く!早く出ないと!!)
一緒に避難しようと、どうにか説得しようとするが、その時は残酷にもやってきた。
フッ―――――――
「「「「えっ!?」」」」
何の前触れもなく、周囲が暗闇に包まれた。
すぐ隣には全面ガラス張りの窓があったにも関わらず、外から差していた日光が周囲から消滅し、照明などの光も残らず消えていた。
「キャアァァァァ!?」
「な、何!?」
「何で真っ暗なの!?」
突如として襲った暗闇に騒ぎ出したのは紫織達だけではなく、ビル内にいた客や従業員のほとんどが戸惑いの声を上げていた。
「待って!ケータイやスマフォの光は無事見たい!」
「あ、ホントだ!」
璃愛は、先程から紫織のスマフォが光っているのに気付き、自分のを出してライと機能をONにして周囲の様子を少しだけ照らしながら窺った。
それに倣って紫織達も同じように周囲の様子を窺うと、自分達と同じことを思いついた人達の光がチラホラと見え始める。
だが、そこで紫織はある事に気付く。
「ねえ……、もしかして壁がなくなってない?」
「「「え!?」」」
紫織の言葉に、3人は周囲を手探りで進もうとするがその手が触れられる物は近くにはなかった。
窓があったはずの場所に手を伸ばしてもガラスの感触は何所にもなく、雑貨のテナントがあった場所に進んでも壁や商品棚にもぶつかる事はなかった。
「どう…なってるの………!?」
暗闇で互いの顔もハッキリ見えなかった紫織だったが、自分を含めた4人の表情が血の気をひいたかのように真っ青になっていくのを感じた。
そしてすぐに気付く事になる。
決して周囲が暗闇になったのではなく、ビルの屋内にいた人間全てが知らない場所に移動させられてしまったのであると―――――――――
「さあ、ショーの幕開けだ♪」
何所からともなく、そんな声が聞こえたような気がした。
・感想お待ちしております。




