第70話 若い龍王と戦いへの準備
・今年も残すところあとわずか、この章の完結は新年まで飲みそうですが、楽しんで読んでいってください。
「―――――――――飛鳥、だと?」
その名を聞いた瞬間、勇吾だけでなくトレンツやリサ、ミレーナも同じ表情で驚いていた。それとは別に、良則は呆け、馬鹿は嬉々とした反応をしていた。
6人の反応に気付きつつも、慎哉は勇吾の問いに答える。
「・・・ああ、飛鳥悠って言ってたぜ!勇吾かヨッシーがいないかって言ってたから、2人ともいないって言っといたぜ?不味かったか?」
「――――――いや、いい・・・・・・。」
勇吾は良則の方に視線を送りながら答える。
良則は、分からないという顔をしながら首を横に振っていたが、その一方で心当たりがあるような表情もしていた。
(おそらく、『創世の蛇』の動きを向こうも察知したんだろう。なら、電話の目的は―――――――)
勇吾はもう一度良則の方に視線を向けると、考えが通じあっているかのように互いに頷き合った。
勇吾は基本的に良則を苦手に思っているが、それでも十年以上も付き合いのある幼馴染なので大抵の考えは喋らなくても通じる事が多いのだ。
「―――――――とにかく、俺達は会議室の方で対策会議だな。」
勇吾達が――馬鹿の襟を引っ張りながら――去っていき、残された慎哉は同じように残された亮介と龍星を見ながらこれからどうしようかと思っていた。
どうやら勇吾達はこの件に関わらせたくないらしく、カースの元へ行く前もついて来ないように何度も念を押していた。それは、敵の強大さを知っているからこその言葉だった。おそらく、琥太郎達にも似たような警告をしているのだろう。
「ん?黒は行かないのか?」
『―――――今は俺がいなくても問題ないだろう。それに、ライも何所かに消えた以上は誰かが子守をしなければならないだろ。』
『あれ~~、俺は~~?』
契約者同様、緊張感がまるでない銀洸は首を傾げながら黒王に問いかけてくるが、黒王は当然のように答える。
『お前も14の子供だろう。』
「マジで!?」
「えええ!?」
「スッゴク大きいのに!?」
衝撃の事実に、慎哉達は本日最大級の驚愕の顔になった。
『あ~~、そう言えば言ってなかったっけ?』
「嘘だろ!?黒よりデカすぎるだろ!!」
『同じ龍族でも、俺と銀洸は別の龍種、大きさも成長の仕方も異なっている。人間にも人種で姿と能力に差異があるだろう、それと似たようなものだ。』
『そう言うこと~~!』
「そう言うものなのか?取りあえず、ステータス見てみるか・・・」
黒王の説明を聞いてもまだ信じられない慎哉は、銀洸に《ステータス》を使ってみた。
【名前】銀洸
【年齢】14
【種族】龍族
【職業】龍王
【クラス】若き王者
【属性】メイン:時空 サブ:光 風
【魔力】6,103,000/6,103,000
【状態】正常
【能力】――《閲覧制限あり》――
【加護・補正】契約した龍 物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv5) 精神耐性(Lv5) 時空属性耐性(Lv5) 光属性耐性(Lv3) 風属性耐性(Lv3) 状態異常無効化 龍神の加護 狭間の王者 王の器 幸運 王の縁
【開示設定】一部制限あり
「って、王様かよ!?」
「ド○クエ?」
年齢よりも驚愕な事実があった。
『あ~、俺って結構いいとこ育ちなんだよな~♪』
銀洸の方は威厳など微塵も感じられない顔でヘラヘラと笑っていた。
それを見ていた黒王は僅かに目を引きつらせると、補足するように呟きだした。
『―――――王と言っても政をする訳ではなく、象徴に近いものだ。龍族の中でも特定の条件を持ち、現王と一騎打ちをして勝つか、それと同等以上の結果を出した者が新たな王になる。その玉座もいくつも存在する。』
「へえ~~!」
「銀洸って凄いんだね?」
『ハッハッハッハ!!』
亮介や龍星が感心の声を聞き、銀洸は有頂天になって笑いだした。
それを冷ややかに見ていた黒王は、伸びた鼻をへし折るように話を続けた。
『―――――銀洸の場合、たまたま空席だったイスに座っただけだがな。』
『ぐっ・・・・・・!』
「たまたまかよ!」
銀洸はガックリと頭を下げた。
「と言うか、龍王って何人いるんだ?神龍とじゃどう違うんだ?」
『決まった数がある訳ではないが、今は銀洸を含めて20と言ったところだな。昔は“八大龍王”もいたが、今は存命なのかも不明だ。“神龍”については、王クラスの力を有し、なおかつ、始祖である龍神にも認められる程の神格を持った龍の事を指す。』
「え~~と・・・・・?」
「つまり、”龍王”は職業で、”神龍”は神様みたいに強い龍ってことですか?」
知らない単語が混じった説明に混乱する龍星を見た亮介は、分かりやすいように要約し、それに黒王も頷きながら肯定した。
『そういう認識で問題ない。実際、龍王の中には神龍であるものが何人もいる。』
『あ!そ~~言えば、黒の家族にも王様いたっけ?たしか”夜闇”の龍王だっけ?』
「マジで!?」
『―――――従兄弟の1人がな・・・・・・・。』
特に自慢する訳でもなく、あまり興味のないような口調で答える黒王だったが、その表情がどこか複雑な感情を秘めているようだった。
『その辺りの詳細はいずれ勇吾達がいる時にでも話そう。俺も銀洸も――――――――、あいつらもすぐに戦う事になるだろうからな。』
『久々の総力戦だな~~~~~~♪』
黒王は険しい表情で語る。
この時、慎哉は黒王が口にした”あいつら”が勇吾達を指しているのだろうと思っていたが、後になってそれが間違いだったことを知るのだった。
慎哉が黒王達と話している頃、勇吾達は会議室に集まって現状の確認を行っていた。
室内に展開されたPSには、先程勇吾とトレンツが遭遇した2体も含め、横浜各所に出現した《大罪獣》の写真が何枚も表示されていた。
「―――――討伐できたのは67体中、良則が接触した6体だけか・・・・・・。」
「数が多すぎるのよ。それに、今はまだこの程度だけど、すぐに倍以上に増えるわよ?」
「数的に不利だよな?俺らと違って、幻魔師の奴は《大罪獣》だけじゃなくて”自分”も好きなだけ増やせるんだからな。」
「だが、数が足りないからと言って、今の慎哉達を戦わせるのは無謀だな。そもそも、俺は戦力にするためにあいつらを鍛えているわけじゃないからな。」
その場にいる全員が勇吾の言いたいことは理解している。
元々、勇吾が慎哉達に魔法などを教えたのは――琥太郎と晴翔はライの独断行動のせいだが――あくまで自衛の手段としてであり、積極的に戦わせる為ではなかった。
アンドラスの時は仕方なく手伝ってもらったが、今回の敵は今までの敵とはまるで格が違う。いや、今までの敵が――――下手をすればルビーやアベルさえ小物とさえ思えてしまうほど強大で危険な敵なのだ。
まだ会ってから――現実時間では――短いが、勇吾達は慎哉達を大事な友人と思っている。だからこそ、危険すぎる戦場に彼らを立たせたくはないのだ。
「―――――ミレーナ、ギルド側からの増援の見込みはないのか?」
「難しいわ。どうやら、こっち以外でも組織の事件が同時に発生しているみたいで、向こうはかなり大変な状況みたい。敵の正体も伝えてあるから、何らかの援助をしてくれるとは思うけど・・・・・・。」
「すぐには期待できないか。」
「なあ、ここはヨッシーの親戚を頼るってのはどうよ?」
重い空気の中、トレンツは気楽に提案してみた。
「・・・・・飛鳥家か。」
「そう言えば、さっき電話があったって言ってたわね?何でPSTの方じゃなくて固定の方に掛けてきたのよ?」
「さあな、そもそもあっちがここの番号を知っている訳が――――――――――おい、お前か馬鹿!?」
「あり?何で分かったんだよ?」
「「「・・・・・・・・・・・。」」」
簀巻きで逆さ吊りにされた馬鹿は、クネクネとしながら答えた。
ツッコもうとしたが、今日はこれ以上やっても無駄だと思った勇吾達はそのまま流す事にした。
「―――――で、実際はどうなんだ良則?」
「う~~ん、多分、頼まなくてももう動いているとは思うんだけど・・・。僕が直接頼んだら、僕は大丈夫でも竜兄達に迷惑を掛ける事になるかもしれないんだよ。」
今は冒険者をしているとはいえ、良則は凱龍王国現国王の実弟、王位継承権も持っている以上は傍系とは親族ばかりを頼れば反感を持つ国民が出てくるかもしれないのでそれは避けたい。凱龍王国の国民性を考えれば問題ないかもしれないが、それでも少なからずは出てくる可能性はあるし、何より外交の面で弱味になり兼ねないので良則も躊躇しているのだ。
「―――――『王家が、民ではなく親族ばかりを頼りにしている。』と言われる可能性があるか・・・・・。絶対ないという可能性がない以上、そのあたりは国王の采配に期待するしかないか。だが、向こうから来る可能性はあるんだろ?」
「うん、悠は僕よりも先見の明があるからそっちに期待した方がいいと思うよ。」
「そうか。だが、それはあくまで可能性として考えておいた方がいいな。幻魔師が何時再び動くか分からない以上、基本的には俺達だけで対処するしかないな。」
勇吾の言葉に、馬鹿以外の全員が首を前に振る。
そして、トレンツはカースと対峙した時の事を思い出したように勇吾に話しかけた。
「そう言えば、”挨拶は後”とか”ショーの本番”とか言ってたよな?」
「ああ、過去の事件から考えても残された猶予は数時間、夕方頃と考えた方がいいな。それまでに、ラボに言っている蒼空とも後で合流して作戦を検討した方がいいな。」
「だな♪」
「うん!」
「そうね。」
「ええ!」
「イヤ~~~~ン♡」
ズゴ!ドゴ!ボコ!
「―――――そうとなれば、俺達は戦力を集めておく必要があるな。馬鹿も既に銀洸をよんでいるし、お前らも”あいつら”を先に呼んでおいた方がいいぞ。」
「おう!総力戦だな!」
「もしかして、久しぶりに全員集まるんじゃない?」
リサに問いに、勇吾は頭を前に振って答え、良則の方に視線を向ける。
「特に良則、幻魔師が相手である以上、今回の主力は間違いなく”お前達”になる。だらから―――――」
「うん、”アルビオン”も呼んでおくよ。」
「わあ、怪獣戦争決定だな!」
「で、後は結界・・・・・ね。」
「ああ・・・・・・・・・。」
5人は同時に馬鹿の方を向く。
馬鹿は振り子のように揺れながら遊んでおり、緊張感の欠片もなかった。
「ホヘ?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」
その後、1分以上にもわたって微妙な空気が室内に充満し続けた。
かくして、勇吾達は残された僅かな時間で『幻魔師』、そして100は優に超えるであろう《大罪獣》との戦いの準備を進めていくのだった。
・人間以外のキャラも続々登場するフラグが立ちました。
・年末年始は書く時間が微妙ですが、毎日投稿できるように頑張ります。
・感想&ご意見お待ちしております。




