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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第8章 転生者編
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第68話 憤怒人狼

・また新キャラ登場です。




 最初は近隣で発生した傷害事件報せだった。

 所轄管内で地元の高校生が同級生にケガを負わせたという通報が届き、数人の警官が現場へと向かった。


 そのすぐ後、今度は国道沿いで大型トラックが横転、十台以上の自動車が巻き込まれる大事故に発展する事態が発生した。

 これには交通課の警官達は大慌てで現場へと急行し、署内から警官の姿が一気にいなくなった。


 さらにその後、住宅街で()を目撃したと言う通報が何件も入り、その直後には宝石店が強盗に襲われるという事件が立て続けに発生した。


 度重なる事件の発生に所内はハチの巣を突いた様な騒ぎになり始めた。

 さらに追い打ちをかけるように、最初の傷害事件に向かった警官らが重傷を負い、さらには所持していた拳銃を奪われて逃走されたという知らせが入ってきて大パニックになった。


「岸名!〇△町の暴行現場に行って来い!」

「課長、殺人未遂の方はどうするんですか!?」

「そっちは川田に行かせる!お前は暴行の方へ急げ!」

「わ、わかりました!」


 その日、神奈川県警西町警察署の刑事、岸名(きしな)遥花(はるか)は昼食を大混乱の渦中にいた。

 ほんの数分前まで、交通課の同期と昼食を終えたばかりだった彼女はまるで嵐でも来たかのような職場の現状に唖然とする暇もないまま立て続けに発生している事件の処理に追われ、自身も現場の1つに向かおうとしていた。


「岸名!早くこっちに乗れ!」

「はい、佐須さん!」


 先輩刑事の佐須(さす)桐吾(とうご)巡査部長が運転する車に乗り、遥花は大混乱の西町署から事件現場へと向かった。


 車を走らせ、国道から外れた飲食店の並ぶ通りに着くと、車内からもハッキリと悲鳴の声が聞こえてきた。

 悲鳴に混じってガラスなどが割れる音も響き渡り、車を止めた佐須と遥花はすぐに車から降りて現場へと走っていった。


「うわぁぁぁぁぁ!逃げろ――――――!!!」

「こ、殺される!!??」

「キャァァァァァァ!!」

「待てお前ら!何があった!?」


 現場と思われる飲食店から出てくる若い男女、彼らは全員腕や頭部から出血し、顔を真っ青にしながら逃げ出していた。

 佐須は逃げ出した男女の一組を捉まえると何が起きているのか問い詰める。


「テメエ、佐須じゃねえか!?」

「ん?お前はこの前の・・・・じゃない、一体何が起きてるんだ!客同士が暴れてるんじゃないのか!?」

「そ、そうだよ!!いきなり入ってきた優男がリーダー達とケンカし始めてたんだよ、初めはな!!」

「それが何でああなってるんだ!?」


 佐須は破壊され続ける(・・・・・・・)飲食店の店舗を指差しながら問い詰める。

 店の中は、まるで車が何台も突っ込んだかのような惨状をしており、もはや入口が何所にあったのか分からないくらいに破壊されている。中には生きているのかも分からない若者が何人も倒れており、散乱した瓦礫や壁にはたくさんの血が飛び散っていた。


「知らねえよ!最初はリーダーが押されてて、そこに他のメンバーが加勢して優男をボッコにしようとしたんだよ。」

「そうそう、そしたら何か頭が可笑しくなったみたいに叫びだして目が真っ赤に光った(・・・・・・・・・)のよ!」

「ああ、変だったのは最初からだったけど、さらにおかしくなっていったんだよ!」

「おかしく・・・・?どうおかしくなったのか説明してくれる?」


 興奮しながら話す男女に、遥花はより詳しい説明を求めた。


「・・・・ば、化け物になったんだよ!!」

「え?」

「おい、ふざけてるのかお前!?真面目に答えろ!!」

「マジだって!!叫びだした途端、アイツの体が大きくなったと思ったら、化け物に変身したんだよ!」

「本当よ!!あれって・・・そう、狼男よ!!」

「お前ら、薬に手を出したんじゃねえだろうな?」


 正気の人間の言う言葉とは思えない内容に、佐須と遥花は男女が幻覚症状が出ているのではと疑った。

 だが、男女の必死に訴える表情からは薬物中毒者特有の症状は見られなかった。


「佐須さん、とにかく中に入りましょう!君達、すぐに救急車が来るからここで待っていて!」

「おい、まずは俺が先に入る。お前は後からついて来い!」

「はい!」

「よせって、お前ら殺されるぞ!!」

「死んじゃうわよ!!」


 男女の制止の甲斐もなく、佐須と遥花の2人は破壊された店内へ入っていく。

 中に入ると、4、5人の男女が呻き声をあげながら倒れていた。


「―――――こいつはヒデエ・・・・・!」

「救急車・・・・・2台位じゃ足りませんね。」


 倒れている男女は既に逃げ出していた男女とは違い、明らかに重傷だった。

 ある者は全身が血で真っ赤に染まり、ある者は関節が可笑しい方向に曲がっている。それだけではなく、中には片腕が半分もなくなって出血し続ける者もいた。


「くそっ!そっちを押さえてろ!」

「ハイッ!!」


 佐須はネクタイを外し、出血の続く男の腕を縛って止血を施す。

 外からは救急車のサイレンが聞こえ始め、どうにか間に合いそうだった。


「岸名、お前はここでこいつらを見ていろ!」

「佐須さんは!?」

「俺は奥へ――――――――――」



           ドゴ―――――――ン!!



「「――――――――!?」」


 佐須の言葉を遮るように2人の背後にあった壁が爆音(・・)を上げて吹っ飛んだ。

 破壊された壁の向こう側から熱風(・・)が流れ込み、2人は反射的に火災が発生したのではと考えた。


「―――――佐須さん!!」

「ウソ・・・・だろ!?」


 だが、2人の直感は外れ、壁の向こうからは赤黒い眼を不気味に光らせながら1体の人狼が姿を見せた。


「狼・・・・男?」


 全身を黒い体毛に覆われ、右手からは青白い炎が燃え上がり、左手には若い大柄の男の頭が鷲掴みにされていた。

 鷲掴みにされた男はどうにか5体満足のようだったが、一目で分かる程の重体だった。


『グルルルルルルルル・・・・・・・・。』


 人狼は唸り声をあげながら佐須と遥花を交互に見ていた。


「・・・・・岸名、拳銃は所持しているか?」

「い、いえ、命令されてなかったので・・・・・・。」

「ちっ!刑事なら命令されなくても所持してろ!」


 佐須は懐に隠していた拳銃を取り出すと、威嚇するように構える。

 だが、人狼はまるで無関心かのようにゆっくりと2人の方へと近寄ってくる。


「佐須さん、危険です!!」

「岸名、俺があの化け物を引き付けているうちに害者達を外へ運べ!」

「佐須さん!!」


 遥花は何度も止めようとするが、佐須はそれを耳も貸さずに立ち上がって銃口を人狼へ向ける。


『グルルルルル・・・・・・・・。』

「さあ、相手をしてもらおうかワン公!」


 佐須は額から汗を流しながら一歩ずつ遥花から離れていく。

 人狼も、先に動き出した佐須の方へ視線を向け続け、少しずつ遥花から離れていった。

 だがその時――――――――――



「へえ、カッコいい刑事さんだね?」



「え・・・・・?」

「―――――誰だ!」


 突然、店内に不思議な声が広がった。

 遥花は周囲を見回すがどこにも声の主らしい人間の姿は見当たらない。


「ハハハ、こっちだよお姉さん♪」

「―――――――あ!」


 すると、人狼の肩の上に1人の少年が笑いながら座っていた。

 藍色のマジシャンスーツを着こなし、不敵な笑みで佐須と遥花を見下ろしていた。


「な・・・・あなたは!?」

「可愛い刑事のお姉さん、今僕を見て”この子”に食べられるって思ったでしょ?」

「――――!」

「けど、心配はいらないよ。この子は僕のペットだから、僕を襲ったりはしないから♪あ、そう言えば名前を言ってなかったね。これは失礼、僕の名前はカースウェル、気軽にカースって呼んでくれていいよ。そしてこの子は、《憤怒人狼(ラース・ガルー)》ていうんだ。よろしく♪」


 少年は人狼の頭を撫でながら遥かに話しかけるが、遥花の方は一体何がどうなっているのかと、思考が混乱し始めていた。

 そんな中、佐須だけは警戒心を保ちながら銃口を少年の方へと向ける。


「おい、お前がこれをやったのか?」

「刑事さん、そんな怖い顔で見ないでくれるかい?」

「答えろ!!」

「しょうがないなあ、だけど刑事さんの予想は大外れだよ?」

「何!?」


 カースは佐須の考えている事を全て見通しているかのような表情で話しだす。その顔は傍から見れば子供らしい笑顔だったが、遥花にはそれが恐ろしく感じられた。


(何・・・・この子・・・・・!?)

「だから、カースって言ったじゃないかお姉さん?」

「―――――――!!」


 今度は心を読んだかのように、カースは遥花の方を向きながら彼女の疑問に答える。


「で、さっきの質問の続きだけど、僕が来たのは刑事さん達が来た後だよ。それ以前の事は、この子が自分の意志(・・・・・)でやった事だから僕には何の責任はないよ。」

「そんな理屈がここで通ると―――――――――」

「それよりも、僕は刑事さんの方に興味があるんだけど?」


 ラース・ガルーから飛び降り、カースは佐須の前に立つと面白そうに見つめる。その顔は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようにも見えた。



「刑事さん、泣きそうな顔(・・・・・・)で銃を向けても全然怖くないよ?」

「な・・・・・。」



 銃を向けられた子供のものとは思えないそのセリフは、カースに警戒していた佐須の心に一瞬で深く突き刺さった。まるで、一瞬で魂を鷲掴みしたかのように。

 あまりに意表を突いたセリフに、佐須の顔は一瞬だけ別人のような顔に変わった。それは、先程までの強気など微塵も感じられない、例えるなら初めて犯人に震えながら銃を向ける新米警官のような顔だった。


「佐須・・・さん?」


 その時の遥花は、目の前にいるのが佐須とは別人の男ではないかと思わずにはいられなかった。

 だが、彼女は気づいていない。カースの言葉はそれ自体が魔力を持った猛毒であり、耐性のない者がたった一言でも間近で聞けばどれだけ精神を抉られるのかを―――――――。


「どんなにカッコいい人でも、人間である限りは“大罪”は持たずには生きられない。この子も、そして刑事さんもね♪」

「何を―――――!」


 カースは人差し指を佐須の胸に突きつけると、寒気のするような笑みを浮かべる。



「君も、解放してあげるよ♪」



 次の瞬間、カースの指先から暗い藍と黒が混ざったような炎が放たれ、佐須の体内に入っていった。


「佐須さん!!」


 遥花は大声で叫ぶが、その声が届くことはなかった。

 炎が全て吸い込まれると佐須の全身が燃えだし、その姿を変貌させていった。


「ガアアァァゴォアァァァ!!!」

「怠惰に組み込まれた憂鬱、つまり悲嘆が君の大罪だよ♪」


 カースは面白そうに話している間も変貌は続き、その大きさは天井を突き破ろうとしていた。

 現実とは思えない光景に、遥花は絶句しながら見ている事しかできなかった。



『グオオオオオオオオ!!!』



 重い獣の咆哮は店内だけに収まらず、外にまで響きわたる。

 赤黒い眼光を輝かせ、新たな《大罪獣》が誕生した。




「《嘆きの豪獣(グリーフ・ブルート)》、と言ったところかな♪」




 カースは楽しそうに、本当に楽しそうな声で笑っていた。









・岸名遥花25歳、彼氏なしの刑事です。ドジっ子ではないけど、先輩刑事の佐須にはよく怒られています。


・感想お待ちしております。


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