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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第8章 転生者編
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第67話 主人公は馬鹿に苦労する

・今年もあとわずか!大晦日まで毎日投稿できるよう書き続けます。



「ええ話やな~~~~~~~~~!」


 空気を読まない間抜けな声は、場の空気を一瞬で無惨に崩壊させた。

 その声を聞いた途端、勇吾のバックには地獄の業火が比喩的に現れ、勇吾は拳をブルブルと震わせながら自分の背後を振り返る。

 そこには、少しは周囲の視線を気にしてほしいと言いたくなるような恰好をした馬鹿が、ハンカチでワザとらしい涙を拭っている姿が忌々しくあった。


「「「―――――――――――――――。」」」


 蒼空も馬鹿の存在を視認すると、あからさまに嫌な物を見る目で馬鹿を睨みつけた。


「・・・・・・・一応聞くが、あれは”元祖”バカの孫だな?」

「ああ、そのバカの孫の1人だ!」

「そうか、凱龍の血でもあれはどうにもできなかったか。」

「ああ、幻魔師以上の天才だからな。あの馬鹿は・・・・・・。」


 蒼空は「とてつもなく(・・・・・・)大変だな。」という視線を勇吾に送ると、勇吾も「お前も(・・・)大変だったんだな。」という視線を返した。

 相手は違えど、2人は互いに同種の苦労をしている事を一瞬で理解した。

 そこへ、こちらの空気は全く読まない馬鹿が近づいてきた。


「なあなあ、どうよ俺の本日のコスプレバージョン2は?」

「蒼空!2人を早くここから避難させろ!馬鹿が伝染したら世界が終わる!!」

「分かっている!行くぞ、2人とも!!」

「「ええ!?」」

「あれ~~~?俺、酷い扱いされてね?」


 馬鹿が何か言って来たが、勇吾も蒼空もそれを無視して龍星と良樹をラウンジから避難させていった。


「おいおい、どこ行くんだよ~~~~?」

「来るな馬鹿!!」

「ぐへっ!?」


 勇吾は馬鹿の両足を蹴り払い、馬鹿はそのまま顔面を床に激突し、勇吾は他人のフリをしながらラウンジを後にしていった。


「――――――――ワザと(・・・)やるのもほどほどにしておけ。」

「・・・・・・・。」

 

 最後に残った黒王も一言だけ言うと、勇吾達の後を追って行った。





 ラウンジを出ると、診察室の前の通路には数人の警官と、警官達と何かを話している秘書らしき人物を連れた男性の姿があった。


「あ、パパ!」

「―――――――!良樹!」


 警官と話している男性の姿を見た良樹は声を上げた。

 男性――――良樹の父親である秋本勝義(かつよし)良樹(むすこ)の元気な姿を見ると秘書や警官の元から良樹の元へと駆け寄り両手で抱きしめる。


「パパ、お仕事はいいの?」

「大丈夫だ。今日は不毛な争い(・・・・・)の立ち会いだけだからな。母さんと良樹の命と比べる価値のないものだよ。向こうは今も税金を浪費する無駄話に夢中だから、あと数時間は放置しておいても問題ないから心配するな!」

「そうなの?」

(人前で言っていい台詞じゃないな。)

「議員、市民が聞いてます!!」


 蒼空は目の前の会話を呆れながら聞いていた。

 良樹の父は現役の市議会議員であり、何れは国政進出を狙っていると言う事は蒼空も良樹の口から聞いて知っていたが、母親とは似ても似つかない性格とノリに呆れ返っていた。

 良樹の父は秘書の青年に不用意な発言を注意されると、今気付いたかのように蒼空や勇吾達の方へ視線を向ける。


「良樹、この人達は友達かい?」

「あ・・・・うん、同じクラスの龍星とそのお兄さん、それとさっきここでお世話になったお兄さん達だよ!」


 良樹はあらかじめ勇吾に言われていた通りの説明を父親に話した。

 少し強引だったかもしれないが、勝義は息子と話を疑うことなく信じた。


「それはどうも、良樹の父の秋本勝義です。息子がお世話になっていたそうで―――――――」


 その後、簡単な挨拶を済ませると、蒼空は少しだけ良樹を呼び出して”ある物”を渡し、良樹は父親と一緒に事情聴取の為に警察署へと連れて行かれた。




 一方その頃、蒼空と龍星がいなくなった諸星家では――――――――


「お~~い!蒼空~~!龍星~~!何所にいるんだ~~~~~?」


 夏期講習から帰って来た蓮は、誰もいない家の中を腹をすかせながら彷徨っていた。

 スマフォに掛けても2人とも一向に出る事はなく、弟成分にも飢えた蓮はその後、仕事を終えて帰ってきた母親に見つけられるまで1階の床の上でイジケテいたらしい。





《ガーデン》内 とある会議室


 時刻は午後1時を過ぎ、勇吾達は諸星兄弟を連れ、別行動をとっていた良則達とガーデンで合流していた。

 合流後、蒼空の希望もあり龍星は慎哉と亮介に預けて今は勇吾宅でゲームを楽しんでいる。


「どうやら、良樹に持たせた通信機は問題なく作動しているようだな。」


 蒼空は使用済みスマフォを改造して作った魔法道具を見ながら呟いた。

 良樹と別れる際、蒼空は互いの状況などが分かるようにとストラップ型の魔法道具を渡していた。

 ストラップには様々な魔法が付加されており、例えば周囲の状況を蒼空側に映像や音声情報となって伝えられる《監視魔法》、離れていてもテレパシーで会話ができるようになる《念話魔法》、非常事態に陥った時に自身の周囲に障壁を張って身を守ってくれる《防御魔法》などがあった。

 今、会議室の空間には蒼空の魔法道具が受信した映像や、リサ達が収集した情報などを表示させたPSが何枚も展開していた。


「しっかし、スゲェな!?持ち主のいる位置から半径50m以内の空間の状況を見れるなんてよ?」


 トレンツは感心しながら表示された映像を見ていた。

 そこには、良樹のいる警察署内部各所の映像がリアルタイムで表示されていた。


「驚いてるのはこっちの方だ。さすがに、半世紀以上も経つと技術もかなり進歩してるな。」


 蒼空も、最新の異世界テクノロジーに感心していた。


「トレンツが驚くのも無理はないわ。個人でこれほどの魔法道具を用意に作れるなんて、規格外に近いわよ。組織のレベルの高さを思い知らされるわね。」

「転生チートだな♪」

「お前は何も言うな!」


 薄い本を読んでいる馬鹿。

 蒼空は馬鹿を細目で見ながら視線を良則の方へ移し、興味深そうに2人を見比べる。


「・・・驚いたな。あのバカ(・・・・)に、こんなまともな孫もいるとはな。」

「あ~~~、やっぱみんなそう思うんだな?」

「――――当然だな。」

「普通、信じられないわよね?」

「奇跡よね。」

「あれぇ~~~~♪」

「うぅ・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」


 蒼空の当然の感想に、勇吾、トレンツ、リサ、ミレーナの4人はものすごく共感し、馬鹿はワザとらしく首を傾げ、良則は気を落としている。黒王は、無言のまま僅かに目線を逸らしていた。


「前世の時は、俺もあのバカに散々振り回されてたからな。組織のラボに侵入した時は、研究員達に異世界のエロゲを布教しまくったり、ハッキングサーバーに大量のゲームや変な電子書籍を大量に入れまくったり、幹部達の秘蔵の茶菓子を残らずパクッたりして・・・・・・・・・ハア。」


 蒼空は、思い出したくない過去を思い出し、深く溜息をついた。


「・・・・・何だか、初めて聞く話も入ってたわね・・・・・・・・。」

「お爺様・・・・・・・・。」

「おい、ヨッシーが再起不能になりそうざぞ!精神的に!」

「気を確かに持つのよ!!」

「よ~し、ここは俺がエ―――――――」

「「「「何もするな!!!」」」」

「え――――――――――?」

「・・・・・・・お前らも相当大変なようだな。」


 蒼空は凄く同情の籠った目で勇吾達を見ていた。

 彼らとはうまくやっていきそうだと、蒼空は心の中で呟いた。




 その後、どうにか良則を復活させて一同は状況の整理に入った。

 会議室の中央にはこれまで集まった情報を整理して表示させたPSが大きく展開している。


「――――――――行方不明事件か。」

「発覚したのは全てほぼ同時期、その中には良樹の家の家政婦も含まれているな。おそらく、行方不明者の一部は――――――だろうな。そして、大半の行方不明者の方は・・・・」

「《幻魔》―――――いや、今回の場合は《大罪獣》と言った方が正確だな。」

「ああ、おそらくこの数十年でアイツが新たに創りだした新シリーズと言ったところだろうな。まだ1対しか見てないが、名前やクラスに大罪を意味する単語が入っていた。」


 勇吾と蒼空は、警察から盗聴して入ってきた情報を見ながら話し始めた。

 警察の情報では、この数時間で100人以上を超える行方不明者が発生しており、そのほぼ全てが昨日から姿を見なくなり今朝になっていない事に気付いたと言うものだった。


「けど、これって氷山の一角じゃないのか?ほら、世間体とか気にしてわざと捜索願を出さない家族とかいそうじゃん?」

「あとは、心配してくれる家族や知人がいない場合ね。《幻魔》の核にされる人って、そういう人達が多いんでしょう?」


 ミレーナの問いに、蒼空は「そうだ。」と答え、補足も付け加える。


「《幻魔》は心に隙のある人間、取り分け強い負の感情を抱えている者に幻魔師が『幻魔の種』を植え付ける事で創りだされる。今回の《大罪獣》に関してはまだ推測の段階だからおそらくとしか言えないが、強い大罪を持った人間を核にしているのだろう。良樹の母親の場合は虚栄心、つまり”傲慢”だった訳だな。」

「《七つの大罪》、か・・・・・。」

「ベタじゃね?ハガ〇ン読んでたりしてな♪」

「な訳ねえだろ馬鹿!」

「――――――いや、読んでるかもしれない。」

「おい!?」


 幻魔師の性格を思い出しつつ、蒼空は一瞬だけ視線を逸らし良則の方を見ると、次第に面白い物を見るような顔をし始めた。


「―――――――フッ!」

「な、何ですか!?」

「いや、お前は祖父よりも大叔父の方に似ていると思っていただけだ。《閃拳》といい、戦いに向かなそうな性格といい、お前はあの男に面白いほどよく似ている。」

「それ、父さん達にもよく言われます。そんなに似てるんですか?」


 良則は少し照れた表情をしながら問い返す。

 すると、蒼空は過ぎ去った日々を懐かしむ様に答えていった。


「ああ、直接会ったのは2、3回ほどだが、”元祖バカ”の兄とは別の意味で印象深い少年だった。そう言えば、奴は今どうしてる?一緒にいた”ユリナ”とか言う少女と結ばれたのか?」

「あ、そうです。今はこっちで家族と幸せに過ごしています。孫・・・・僕と丈の再従兄弟(はとこ)も5人いて毎年遊びに行ったりしていて、後去年、曾孫も生まれました。」

「―――――そうか。」

「お~~、何盛り上がってんだ~~~?俺も混ぜろよ~~~~!」

「お前は黙ってろ!!」

「ぐへっ!?」


 良則と蒼空の会話に混ざろうとした馬鹿は勇吾に黙らせられ、リサとミレーナによって簀巻きにされて部屋の隅に放置された。





 その後、馬鹿抜きで始まった「幻魔師対策会議」は、《大罪獣》への対処法を中心に進んでいった。

 しかし、その会議は常時展開中のPSに映っている警察署内部の状況の急変により中断を余儀なくされるのだった。







・いずれ、番外編として”元祖”バカの話も書いてみたいです。

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