第5話 その日の深夜
『何時もの事だけど、自分からトラブルを探してるとしか思えないわね?』
「ほっとけ!」
画面の向こうの少女に対し、昼間とは少し違う口調の勇吾。
彼は今、目の前に浮く画面に映る幼馴染の少女と通話中である。
彼女は現在この世界ではなく別の世界、勇吾の故郷から話しかけている。これは科学と魔法、両方の技術を結集したからこそできる異世界間でのテレビ電話なのである。通話自体は魔法単体でも行えるが、それだと使用者の能力に依存してしまう部分が多く、燃費もかなり悪い。それに比べ、この技術なら魔力さえあれば誰にでも使用でき、燃費も魔法単体の場合と比べると遥かに少なく済む。その利点の高さから”向こう”でも普及しており、勇吾も重宝している。
『で、しばらくは大丈夫そうなんでしょ彼?』
「しばらくはな。探知系の魔法は掛けれてはいないかすぐに何かが起きたりはしないだろうな。そもそも、どんな干渉を受けたのか自体、まだ何もわかってないんだからな。」
『それもそうね?じゃあ、こっちでも何かわかったら連絡するわ。みんなにも呼びかけてみるわ。』
「頼む。」
『じゃあそろそろ切るわね?あ、そう言えば家には連絡したの?』
「ロトになら毎日連絡してる。」
『なら良し!』
「そうか、じゃあな!」
親指を立てる幼馴染と適当に話を終わらせて通話を切る。
通信用の画面が消えると視線を別方向へ向けた。
「・・・・・。」
勇吾が立っていたのは数時間前に慎哉と待ち合わせをしていた学校の敷地内だった。
もうすぐ日付が変わろうとする時刻と言う事もあり、学校はもちろんの事、周囲の家屋などもからも光は消えている。繁華街の方角からはわずかな光が届くが気にするほどではなかった。
「・・・昼より強くなってるな。」
感覚を研ぎ澄ませる。
勇吾はこの場所の調査に来ていた。
数時間前、彼が黒王とともに慎哉と待ち合わせをした際この学校の敷地内に強い魔力を感じていた。学校の建つこの土地そのものから。
彼らの言う魔力とは生物だけでなく自然界にも存在するエネルギーの事であり、それは人体でいう血液に世界中に満ちており、地中や大気中を流れて循環している。東洋の文化でいる「気」と同じと考えてもいい。ただし、それは全体的に見た場合の簡単な見方によるものである。血液に様々な種類があるように、魔力にもまた様々な種類がある。同じ人間でさえ人種や育った環境が違えば魔力の質が違ってしまう。ただ、近親者同士では魔力の質は似る傾向があるので指紋よりDNAに近いかもしれない。そして勇吾達のような一定上の感知能力(霊感に近い感覚)のある者なら魔法を使わなくても五感で周囲の魔力の質を感知することができるのである。
「《スキャン》!」
対象をこの土地そのものに指定し、探索魔法を発動させる。目の前に探索結果が表示される。
《土地探索》
【魔力】1,000,029/220,000(異常上昇中)
【属性】土 火
【状態】周囲より自然魔力・死霊を吸収。地中に神体反応あり。
一目で異常であることがわかる。
魔力が土地の許容量を超えて上昇している。周辺の自然魔力だけでなく死霊なども吸収して今の魔力が上昇している。属性が土以外に火がある。本来、土地の属性に火があるのは基本的に火山地帯か、火属性を持つ何かが地中に存在する場合のみである。
「神体反応あり・・・・か。」
それが何を意味するのか勇吾はすぐに理解した。そしてこの土地で起きているの異常事態がなんなのかを。この世界の人間のほとんどは決して気づくことはないだろう。
「やはり予想通りか?」
「黒・・・・。」
最初からそこにいたかのように、黒王が隣に来ていた。
「どうだった?」
「この辺りの土地神に一通り訊いてきたが、大方予想どおりだ。この場所には元々、旅の修行僧の建てた社があったらしい。だが、戦争や開発などの時代の変化に流されて失われたそうだ。」
「そして今は学校が建てられたか。その修行僧については?」
「西から来たとしかわからなかった。」
「西か・・・・・。」
西から来た修行僧と言う情報に、勇吾は1つの推測を確信する。
そして再び地面に視線を向ける。
「片づけるなら顕現した直後を叩くしかないな。」
「ここに大穴をあけるわけにもいかないだろうからな?だが、今夜中と言う訳にはいかなだろう。俺の見立てでは明日―――――。」
黒王も地面に視線を向ける。この状況を作っている元凶がいるのは地中にいる。今すぐ片づけるとなるとここに大穴をあけなければならない。魔法を使ったしても、そんな事をすれば完全に隠し通すことは難しい。だが元凶が地中から現れた直後なら、勇吾の魔法で別の空間に閉じ込めて対処することができるので痕跡を残さずに済むのである。
「そうだな。俺の見立てでも24時間はかからないだろうな。それに都合がいい。」
「慎哉か?」
「ああ、早めにこちら側に慣れた方がいいからな。」
「その性格なら喜んでついてくるだろうからな。」
「ああ。」
あの性格からして断る可能性はないだろう。
2人は慎哉が来ることを前提に、今後の計画を決めていった。そして大体の内容が決まると、周囲に人がいないことを確認しながら学校の敷地から出ていった。見た目が青年の姿をした黒王はともかく、勇吾は見た目通りの年齢なのでこの時間に人目に付くのはまずいのである。
人通りのない道を進みながら、2人は明るいうちに作っておいた拠点へと向かっていった。
途中、不意に足を止めた勇吾は学校の方角を見ながらボソっとつぶやいた。
「―――――――――荒神。」
学校の地中に潜む元凶の名を。
通話越しですがようやく1人目のヒロインが登場しました。名前などはいずれわかります。