第65話 勇吾VS大罪獣
・主人公のターンです!
自分が何者かが張った結界の中に侵入したと気付いた直後、勇吾と黒王は同時に結界内部で起きている異変に気付く事となった。
ある方向から感じられる強大な魔力、自分よりも遥かに強い魔力の持ち主の存在に気付いた2人はその魔力の持ち主が異様な存在に追いかけられているのも感じ取った。
「黒!」
「すぐに現実から隔離した方がいい!このままでは大勢の人間に目撃されてしまう!」
その後からの対応は早かった。
「《スローワールド》!」
勇吾はすぐに自分達と対象の全てを己の異空間の中に飲み込んでいった。
周囲を埋め尽くしていた群衆の姿が消え、勇吾と黒は数日ぶりの異空間に立っていた。
無事に異空間が展開されたのを確認すると、黒王はその姿を人型から本来の龍の姿へと変えた。
『行くぞ!』
「ああ!」
勇吾は黒王の背中に乗ると同時に、収納用異空間から布都御魂剣を取り出して装備する。
勇吾が乗ったのを確認した黒王は両翼を大きく羽ばたいて飛翔した。
そこへはものの数秒で着くことができた。
最初に目に入ったのは赤黒い眼光を放ちながら家屋の屋根を跳び越えていく怪物の姿だった。怒り狂ったかのように咆哮を上げるその姿は、一目で危険と判断できるものだった。
勇吾が次に見たのは、両脇に2人の子供を抱えて怪物から逃げる少年の姿だった。明らかに尋常じゃない魔力を保有している少年は必死の形相で怪物から逃げている。それを見た勇吾は、彼がすぐに相手の正体よりも彼らを助けるべきと判断し、黒王の背中から飛び降りた。
右手に布都御魂剣握り締め、少年と怪物の間に割り込む。
目の前の怪物は突然現れた勇吾の姿を途端反射的に後方に跳び退き、少年の方は勇吾の方を振り向くことなく一言だけ勇吾に問いかける。
「――――――任せて大丈夫か?」
その問いに対し、勇吾はほとんど間を空けることなく、簡潔に返事を返した。
「ああ!」
そして勇吾は目の前の怪物、大罪獣ヴァニティ・ライオネスへ斬りかかった。
「もう大丈夫だ。」
屋根の上から地上に着地した蒼空は、抱えていた龍星と良樹を下すとポンと2人の頭を叩いて話しかけた。
さっきまで声も涙も必死に抑えながら怯えていた2人は恐る恐る目を開けると、さっきまで自分達を追いかけていた怪物の姿が見えない事を知ると安堵したように地面に座り込んだ。
「怖かったぁ~~~~!」
「兄ちゃん、怪物倒したの?」
「いや、どうやらヒーローが助けに来てくれたみたいだな。あそこを見てみな?」
蒼空は空の方を指差すと、そこには勇吾とヴァニティ・ライオネスが戦う姿があった。
さらにその真上にはこちらを見下ろす黒いドラゴン、黒王の姿があった。
「ドラゴンだ!!」
「カッコいい!!」
「そっちは大丈夫なのかお前ら・・・・?まあ、纏っている空気が違うからな。」
黒王の姿を見た途端、さっきまで怯えていたのが嘘のように2人は無邪気にはしゃぎ出した。
「さて、少しこちらの情報を伝えるか。」
蒼空は勇吾と黒王をしっかり認識すると、補助魔法の1つ《念話魔法》を使い、精神を通して2人に呼びかけた。
〈―――――聞こえてるか、そこの冒険者?〉
『「――――――――!」』
〈救援には感謝する。とにかくそのまま聞いてくれ!〉
〈―――――――念話魔法か。〉
〈詳しい話は後だ!とにかく、今お前が戦っている相手についての情報を伝える。《ステータス》を使ったかもしれないが、目の前の怪物『ヴァニティ・ライオネス』は『幻魔師』が創った新しい《幻魔》だ。ここにいる良樹のと言う子供の母親を核にしている。〉
〈――――――幻魔師だと!?〉
〈―――――『創世の蛇』か・・・・・。〉
蒼空からの念話に、勇吾は自分の心臓が大きく脈打つのを感じた。
勇吾も戦闘中に相手のステータスは見たが、敵の猛攻に全部を見通す余裕はなく、蒼空からもたらされた情報に大きく心が揺らいだ。
だが、すぐに気を引き締めて目の前の敵との戦いに集中する。情報通りなら、勇吾が戦っている怪物は元は人間だったと言う事になる。その気になれば一刀両断にできるが、下手に殺せば核になった人間も死ぬ事になる。
勇吾は自分の知識の中から《幻魔》に関する情報を検索し、有効な手段を見つけようとする。
それを見越していたのか、蒼空からさらなる情報が伝わってきた。
〈ヴァニティ・ライオネスは《大罪獣》と言う種族となったいるが、基本的には《幻魔》と大差はない。《幻魔》は簡単に言い換えるなら「呪われた人間」だ。その核を、浄化系の攻撃で破壊すれば幻魔師の術は解除されて元の人間に戻る。つまり、お前の剣なら殺さずに倒す事ができる。〉
〈―――――――!分かった!〉
〈・・・・・・・・・。〉
黒王は意味深長な沈黙をしていたが、その意味を勇吾にはあえて今は伝えなかった。
蒼空からの情報を即座に理解し、正面から襲い掛かるヴァニティ・ライオネスを凝視し、殺さない様に加減していた力を一気に解放する。
『グオオオオォォォォォォォォ!!』
「痛いかもしれないが、我慢してくれ!」
大きく牙を開き、鋼のような爪を突出しながら飛びかかるヴァニティ・ライオネスに、勇吾は手加減することなく必殺――殺すわけじゃないが――の一太刀をお見舞いした。
「《夜斬り》!!」
まるでチーズを切るかのようにヴァニティ・ライオネスの体は真っ二つに切り裂かれた。
『グオォ・・・・・・アァ・・・・・ガ・・・・・・』
何が起きたのか理解できていないような声を漏らすヴァニティ・ライオネス。
布都御魂剣の《浄化》の力はすぐに効果を見せ、斬られて数秒もしない内にその眼光は光を失い、次の瞬間には藍色の煙のように全身が霧散した。
カァ――――――――――――!
ヴァニティ・ライオネスの全身が霧散すると、目の前に直径1mほどの白い光の球体が現れる。
球体はすぐに消え、中から1人の女性が現れて勇吾が立っていたビルの屋上に落下した。
「――――――こいつが”核”か。」
勇吾は女性の首元に触れ、女性が死んでいない事を確認して安堵の息を漏らす。
勇吾は女性を両手で持ち上げると、7階はあるビルの屋上から地上へと飛び降りた。
異空間の中の別の場所で、幻魔師は面白そうにその光景を見ていた。
本来ならばこの異空間にはいないはずの招かれざる客、カースは勇吾達に気付かれる事無く平然とこの空間に侵入し、彼らの戦闘を観戦していた。
「あ~あ、やっぱりレベル1じゃこの程度みたいだね。結構、いい大罪獣に育つと思ってたんだけどなあ♪」
カースは片手に持ったクレープを食べながら戦いの終わった街の一角にもう一度見る。
カースにとって、今回のヴァニティ・ライオネスはこれから始まる本番の為の前座に過ぎなかったが、予想よりも呆気なく終わった事には本当に少し残念に思っていた。
「まあ、いいや。本番はこれからだし、僕もそれまでに彼らをそれなりに育てておかないとね♪」
そしてクレープを食べ終えると徐に立ち上がり、誰も見ていないのを知りながら冗談交じりの口上を述べていった。
「――――――『創世の蛇』ジェネラーレが1人『幻魔師』カースウェル=フェイク、これより盟主の名の元に《大罪の宴》を開始する・・・・・・・・な~~んてね♪」
最後は照れるように言うと、少しだけ勇吾達の方へ不敵な笑みを浮かべながらカースはその場から姿を消していった。
その日、横浜市内の各警察署には行方不明者が出たという通報や捜索願が殺到する。
当初は担当した警察官はあまり危機感を抱かず適当に対応するが、一刻も経たないうちに次々と似たような通報や捜索願が続いた事で次第に事態の深刻さに気付き、上司を通して県警本部にへと報告する事となった。
7月30日正午の時点で発覚している行方不明者は軽く100名を超え、午後以降には200名を超える勢いだった。行方不明者の多くは十代や二十代が大半を占めたが、四十代以上の行方不明者も10人以上存在していた。その中には現役の警察官も含まれ、警察はすぐに捜査本部を設置して事態の把握と情報収集を開始したのだった。
奇妙な事に、通報者を含めた行方不明者の家族知人達は揃って「昨日から見てなかったが、今朝になっていなくなっている事に気付いた。」と証言していたという。
・勇吾圧勝!雑魚には負けません!
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