第64話 虚栄の人獅子
良樹の方に気を取られ、後ろから飛び出してきた龍星に気付くのが遅れた俺は咄嗟に対応する事が出来ず、龍星を巻き込んで転移をしてしまった。
「―――――ッ!」
「うわっ!?」
「―――――――――ええ!?」
転移は一瞬で済み、俺達は良樹の目の前に到着した。
どうやら良樹の自室らしく、俺の自室より広い部屋の中で良樹が目を丸くしながら呆然と立っていた。
「え・・・・龍星・・と、お兄さん・・・・・?」
「え、良樹!?」
ドン!!ドン!!ドン!!
「「――――――!?」」
「き、来た!!」
龍星と良樹がポカンと見つめ合っていると、部屋のドアが強い力で叩かれる音が響いてきた。
よく見ると、ドアとその周りの壁には亀裂が走り、今すぐにでも破壊されようとしていた。
『グオオオオォォォォォォォ!!!』
「――――――こいつは!」
「に、兄ちゃん!?」
「あ、あれ!怪物の声だよ!!」
ドアの向こうから猛獣のような鳴き声が響き、龍星と良樹は揃って俺の背中にしがみ付いた。
俺はすぐに自分達の周囲に防御魔法を無詠唱で発動させる。
そしてその直後、目の前のドアが周りの壁と共に破壊された。
ドガッ―――――――!!!
『グオオォォォォォォ!!』
破壊されたできた穴の向こう側から、『それ』は獰猛な声をあげながら俺達に襲い掛かってきた。
その姿は、一言で言うなら「2足歩行のライオン」だった。
鬣がなかったから雌ライオンの獣人とも言うべきか、その怪物は赤黒い眼光をこちらに向け、肉食動物特有の鋭い牙と爪の先端を俺達に向けて襲い掛かってきた。
「「わああああああ!!」」
その怪物の姿を見た途端、龍星と良樹は悲鳴を上げてより強く俺にしがみ付く。
怪物はその鋭い爪を俺の首に目がけて突き刺すが、その数十cm手前で俺の防御魔法に阻まれその爪は弾かれた。
「こいつは、《幻魔》か!?」
俺の考えが当たっているならば、この怪物はアイツが作った人工の魔物であるはずだ。
俺は防御を保ちつつ、目の前の怪物に《ステータス》を使った。
【名前】《虚栄の人獅子》
【種族】大罪獣
【クラス】傲慢
【属性】土
【魔力】280,000/280,000
【状態】激昂
*【詳細】・人間《秋本春子》を核に創られた幻魔の一種。
・理性は失われ、昂ぶる感情のままに破壊を続ける。
「大罪の獣!?」
初めて聞く名だ。
だが、詳細情報にはハッキリと『幻魔』の二文字が載っている。
ならば、この怪物「ヴァニティ・ライオネス」は奴が、前世で俺を殺した『幻魔師』カースがその能力で創った人工の魔物と言う事だ。
しかも、今度の材料は良樹の母親だ。
「良樹!お前、最後に母親を見たのは何時だ?」
「え・・・・・昨日は帰ってから一度も会ってないよ?」
「チッ!なら、昼以降に―――――――――!!」
やはり短慮な行動だったか。
おそらく、昨日のプールでの出来事がきっかけで彼女の心は余計に狂い、そこをカースが付け入ったと言うところだろう。
《幻魔》は精神を病んでいる者、強い負の感情を抱いている者を材料にして創られる。
一度《幻魔》になった人間は創造主であるカースか奴から操作権を与えられた者の命令に従って動くか、本能のままに暴れ続けていく。
目の前のヴァニティ・ライオネスはおそらく後者、その名にもある《虚栄心》を傷つけた俺達を感情のままに殺そうとしているのだろう。
『グオォォォォォォォォ!!!』
「マズイ!良樹、この家にはお前と母親以外に誰かいるのか?」
「た、田中さんが!家政婦の人が1階にいるはず!!」
「―――――――そうか、そいつが・・・・・・!!」
俺はまた1つ確信する。
良樹の位置を確認した時、この家の中にあった魔力の反応は2人分だった。
なら―――――――――
「2人とも、俺にしっかり掴まっていろ!!」
「「え!?」」
(―――――跳べ!!)
俺は両手で涙を流しながらおびえる2人をしっかり掴み、屋根の上に向かって瞬間移動を発動させた。
一瞬で屋根の上に移動し、俺は龍星達が落ちない様に両手で掴んだままで屋根に着地する。
2人は一瞬で目の前の光景が変わった事に、泣いていた事も忘れて驚いた。
「ええ!」
「兄ちゃん、もしかして超能力者なの!?」
「今は何も聞くな、後で説明する!」
流石に2度目の瞬間移動を体験した龍星は、俺がやったのだと気付いていたようだが今はそれに構っている暇はない。
俺は家全体に結界を発動させ、家ごとヴァニティ・ライオネスを外部から隔離しようとする。
だが――――――
ドゴオオオオ―――――――――ン!!!
俺達が立っていた場所のすぐ横が真下から吹っ飛ばされた。
周囲に破壊された屋根の残骸が飛び散り、俺は反射的に2人を掴んだまま隣家の屋根に跳び移った。
『グオオオオオオオ―――――――――――!!』
破壊されてできた屋根の穴から、怒声に近い咆哮と共にヴァニティ・ライオネス飛び出してきた。
「しまった―――――――!」
俺は焦った。
隔離に失敗した今、このままでは他の一般人に目撃されるのは避けられない。
せめて、龍星達だけでも別の場所に転送させて避難させたかったが、その場合、良樹の母親を核にしたヴァニティ・ライオネスが俺と良樹のどっちを狙うのか分からない。
俺の方だけを襲うなら都合がいいが、もし違っていれば奴は良樹を探しに街中に飛び出す可能性が高かった。
(クソッ!こんな事なら隔離用の異空間を造っておけばよかったか!?)
最早後悔してももう遅い。
目の前で俺達を睨みつけるヴァニティ・ライオネスは全身に魔力を纏い、全身の筋肉を膨脹させながらこっちに跳びかかろうとしていた。
「龍星!良樹!しっかり掴まって口を閉じていろ!」
「兄ちゃん?」
「何で!?」
「いいから言うとおりにしろ!舌を噛むぞ!!」
俺は有無を言わせず言う事を聞かせ、2人を抱えた状態でその場から離れた。
同時に、ヴァニティ・ライオネスも屋根を蹴って跳んだ。
無詠唱の強化魔法で身体能力を底上げし、1回の跳躍で50m以上跳んでいく。
後ろを振り向くと、ヴァニティ・ライオネスも住宅の屋根を跳び越えながら俺達の後を追ってきた。
速度は今の俺とほとんど変わらない。
「クソッ!!」
俺は冷や汗を流しながら屋根の上を飛び越えていく。
後ろを振り向けばあの赤黒い目が俺達を突き刺すような視線を飛ばし、その口からは怒り狂ったかのような咆哮を上げていった。
『グオオオオォォォ――――――――――!!!』
街中に響くような咆哮に気付いている人間はおそらく一桁や二桁では済まないだろう。
俺の両脇では龍星と良樹が目と口を必死に抑えながら怯えている。
俺はどうにかして2人だけでも逃がそうと思考を巡らせていった、その時だった。
ピ――――――――――ン!
街全体に張っていた結界が、俺にだけ感知される信号を放った。
それは、外部から結界の中に特定の条件を満たした侵入者が現れた事を報せる信号だった。
「―――――ッ!次から次と・・・・・!?」
俺は強く歯を噛み締めながら侵入者の現れた咆哮へ視線を向ける。
直後、俺は視線の先で魔法が発動するのを感じた。
「―――――――――――――――これは!」
魔法の発動を感じたのと同時に、俺は周囲の空間が一変するのを感じた。
背後から響く咆哮の中に混じっていた雑音、群衆の声や自動車の走行音、工事現場からの騒音が一瞬にして消え去った。
「―――――――これは、異空間結界か!?」
『グオオオオオォォォォォォォ!!!!』
周囲の景色そのものはほとんど同じだったが、俺の感覚はここが現実の空間でない事を示している。
俺の唖然とした疑問の声、それは大罪の獣の咆哮の中で空しく消えていく。
その後も建物の間を跳び越えていくと、ひとつの黒い影が俺達を飲み込んでいった。
俺は反射的に真上を見上げ、影の主をその目に映すと思わず安堵の声をもらした。
「・・・・・・助かったと言うべきだな。」
本当なら関わりたくなかったが、今はそんな事などどうでもよかった。
俺は上空から飛び降りてきたその男に、背中を向けたまま話しかけた。
「――――――任せて大丈夫か?」
「ああ!」
俺の問いに、黒い大剣を握りしめたそいつは簡潔に答えた。
・ようやく主人公合流!
・蒼空も戦う事はできますが、もともと戦闘専門でないのと別の理由から直接戦うのを避けました。
・明日も休日なので2話投稿の予定です。




