第61話 7月30日
・本日1話目です。
―――――――また、あの夢を見る。
『――――――たす―――――――けて―――――――――――――――――――――』
以前とは違い、今はハッキリとその言葉に込められた思いも伝わってくる。
必死に助けを求める少女の叫び声――――――――
『誰か――――――助けて―――――――――――怖い―――――――――――』
向こうは声が俺に届いている事に気付いていないのだろう。
声は確かに届いている。
けど、こちらからそれを伝える手段はない。
『―――――――――――助けて!』
助けたい、と心から思った。
俺は彼女を何としてでも助けないといけない、とどうしようもなく思った。
使命感や義務感からではなく、本心から彼女を助けたいと、絶対助けると俺は俺自身に誓った。
そして、意識は再び現実に引き上げられていった。
2011年7月30日 《ガーデン》
時計は8時55分を差していた。
ガーデンの中央広場には馬鹿を始め、ライや慎哉達が集まっていた。
「今からコスプレしてくのか?」
「おうよ!」
馬鹿は某ラノベの主人公のコスプレをしていた。
どっちも馬鹿なので、凄く似合っていたのだが、誰も口が裂けても言えなかった。
「んで、結局これしか集まらなかったのかよ?少なくね?」
馬鹿はこれから横浜のイベントに出発しようとしていた。
馬鹿本人は大勢で行こうと考えていたようだが、そう都合よく全員のスケジュールが空く訳もなく、集まったのは本当に暇な者と暇じゃないけど抜け出して来た者だけだった。
つまり、馬鹿以外は社を抜け出したライと普通に暇な慎哉、塾があったけど影武者を立てて抜け出した亮介の男子4名だけだった。
なお、女子勢に関しては、先日、美咲が難病患者の病棟から普通病棟に移る事が出来たため女子だけでお見舞いに出かけている。
「まあ、みんな部活や仕事があるから仕方ねえんじゃねえの?あ、ちょうど9時になった!」
「しょうがねえ!あいつらの分のエロゲも買ってきてやっか!」
「いらん!!」
ドゴッ!!
「あ、勇吾!」
馬鹿の背後から現れた勇吾は馬鹿を蹴り飛ばした。
「全く・・・・・・・。」
「勇吾、お前も来るのか?」
「横浜までな。ちょっと、横浜で調べたいことができたからな。」
「素直じゃねえな~~~?行きたいなら俺―――――――――」
ドゴッ!!
「あの・・・勇吾さん?」
「大丈夫だ。何度も言うが、コイツは殺そうとしても死なない奴だ。少し強く蹴った処で―――――」
「復活!!」
「こうなる。」
「・・・・・・・・。」
その後も何度か馬鹿をツッコみ、勇吾達は横浜へと向かった。
時は少し戻り、勇吾が洗濯物を外に干し終えた頃、勇吾のPSTがメールを着信し目の前にメールの内容を表示させたPSが展開された。
「――――――予知を見た?」
差出人は名古屋に住む、二村七海だった。
From:二村 七海
Sub:予知
ついさっき、能力が発動して予知を見ました。
横浜が地獄絵図になっていました。
横浜の街を深い霧が包んで、その中でたくさんの怪獣が暴れていました。
私の予知は回避可能なのです。
今日、横浜に行く人もいるみたいなので連絡しました。
こっちのみんなにも教えておきます。
七海の予知の正確さは既に勇吾も理解している。
先日の台湾の件でも、彼女の予知が活躍し、台湾全土を襲う大地震を回避する事が出来た。
メールを閉じ、勇吾はすぐに外出の準備に取り掛かった。
同日 横浜
馬鹿の瞬間移動で横浜に到着した後、勇吾は1人で別行動に移った。
予知による情報だけではまだ情報が足りないため、地道に歩いての情報収集に入った。
「しかし、探知した限りでは特に異変は見当たらないな。」
すでに探知魔法を使用した勇吾だが、今のところ異変らしきものは何も見つけられない。
ネットなども調べたが、それらしいゴシップ情報は見つからなかった。
最も、ネットにそんな情報が載っていれば馬鹿がいち早く飛びついている訳だが――――――
「―――――土地神にあたってみるか?」
「黒――――――。」
背後を振り向くと、何時の間にか黒王がついてきていた。
「朝食後からいないと思ったら・・・・どこに行ってたんだ?」
「知り合いを見かけたのでな・・・・・。少し、話し込んでいた。」
「知り合い?同族か?」
「まあ、そんなところだ。それより、異変を探しているように見えたが?」
少し引っかかる節があったが、勇吾にはいつもの事なので追求はしなかった。
「七海が、また予知を見た。この横浜が霧に覆われ、怪獣達が暴れるらしい。だが、その兆しらしいモノが今のところ見あたらないんだ。」
「なるほど。それほどの事が起きる兆しなら、既にここの神達が見逃しはしないだろうな。そしてその情報はライにも届くはず・・・・・。それがないなら、土地神にあたるのは無駄かもしれないな。」
「ああ、ライはあれでもこの国の神には顔が広いからな。なら、この後はどうするか・・・・・。」
考えを巡らせながら、2人は横浜の中心街の外側まで歩き続けた。
そして、2人はその境界線を何も知らずに踏み越えた。
―――――――ハハハ
同時刻 横浜某所
蒼空は住宅街の屋根の上を、2人の少年を両手に抱えながら跳び続けていた。
「クソッ!!」
普段とは違い、今の蒼空は冷や汗を流しながら屋根の間を飛び越えていた。
後ろを僅かに振り向くと、視界に自分達をさっきから追ってくる獣の姿が映ってきた。
『グオオオオォォォ――――――――――!!!』
怒りの混じった声を上げながら、その異形は目を赤黒く光らせながら追いかけてきた。
その直後、新たな異変が蒼空に降り懸かる。
「―――――ッ!次から次と・・・・・!?」
遠くで、結界を越える者の反応に気づいた蒼空は歯を強く噛みしめていた。
物語は、ひとつの節目へと近づいていた。
・次回はまた蒼空サイドになります。
・感想&評価お待ちしております。




