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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第8章 転生者編
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第60話 芦垣組

・再び蒼空のターン!



2011年7月27日 横浜某所


 学校が夏休みに入り、俺は午後から1人で市内のとある高級住宅街に来ていた。

 夏休みに入ってからはほぼ毎日、午前中は――自分のは既に片づけた――龍星の宿題を手伝ったりし、午後からは外出をするのを予定にしている。

 さらに言えば、午後は夕飯や入浴の数時間を除くほとんどの時間を家族と関わらないようにしている。

 何故なら、これから向かう場所についても、裏でやっている事について、決して家族には知られる訳にはいかないのだ。



 最新のデザインの住宅が並んで見える道を気配を消しながら歩いて行く。

 しばらく歩いて行くと、先程までの最新家屋と違い少々年季の入った家屋が並ぶ地域になる。

 そこを更に進むと、他とは違う空気を纏った1件の日本家屋の前に辿り着いた。

 その家屋の正門には、『芦垣組』と目立つように書かれた表札が掲げられている。

 黒服の門番が守る正門の前まで来ると、俺は隠していた気配を少しだけ解放する。


「「―――――――――!!」」

「――――開けてくれるか?」

「何だこのガキ――――――!?」


        ゴンッ!!


 俺に向かって可愛い殺気を向けてきた門番の1人をもう1人の門番が殴って黙らせる。

 そう言えば、殴られた方は初めて見る顔だ。


「すみませんでした!こいつは今週から本家に入ったばかりなもので―――――――」

「構わない。今日も約束があって来たが、組長は御在宅か?」

「ハイ、既に中でお待ちです。どうぞ――――――」


 今では顔馴染みの門番の男は門を開き、俺は中へと入っていく。

 敷地内にはよく見知った強面が集まっており、俺の事を知る者達は揃って頭を下げて挨拶をしていく。

 俺は気にすることなく進んで行き、屋敷の中へと入っていった。


 使用人の後をついていき、毎回(・・)よく使っている大広間に入ると、そこにはこの屋敷の主である芦垣慶造と、その側近達が集まっていた。


「―――――来たか、入れ。」


 俺は無言で肯くと、今では定位置になっている場所に敷かれた座布団に座る。

 分かっていると思うが、ここは『芦垣組』と呼ばれる暴力団こ、つまりヤクザの総本家である。

 ここに集まっているのは芦垣組の組長である慶造と組の幹部達、そして秘書代りの組員である。


「例の物は持ってきたか?」

「出すのは同時なのが俺達のルールだろう?」


 ヤクザらしい重い声を向けてくる慶造に対し、そんなものなど涼しく感じていた俺は軽く奴以上の重い声で返す。

 しばらく静寂が続き、俺と睨み合った慶造は不意に笑い出す。


「フハハハ!相変わらず、とんでもねえ眼をしてやがるな?すまなかった。おい、何時ものを出しな!」

「ヘイ!」


 慶造の傍で控えていた組員は俺の前にトランクケースを開いて渡す。

 俺は底の見えない(・・・・・・)トランクの中身を確認する。

 あと、使用履歴(・・・・)も確認する。


「・・・エロ本を入れた形跡があるが?」

「(グ・・・・・!)」


 俺の言葉に、慶造や幹部達が揃って視線を反らす。


「まあいい、では約束の物だ。」


 俺は収納用の異空間に手を入れ、小瓶がいくつも入ったケースを取り出して慶造に渡す。


「注文通り、『若返り薬』『精力剤』『厄除け薬』『各種治療薬』だ。治療薬は取りあえず、リウマチや更年期、アレルギーのがそれぞれある。服用法は、いつも通りラベルや同封した紙に書いてある。あと、注文書に『凄くモテる薬』と書いたのは誰だ?」

「「・・・・・・。」」

「・・・とにかく確認しろ。」


 何人か動揺していたが無視する。

 これは、もう2年半も続いている、俺達の取引風景である。





 事のきっかけは俺の研究資金不足だった。

 記憶が目覚めてから数年、俺は時間を見つけては前世から引き継いだ異空間の研究室(ラボ)で研究に励んでいた。

 だが、すぐに資金や物資の不足という壁にぶつかってしまう。

 当初の予想通り、研究室の中の資料や物資の多くは、前世での死亡時にその多くを失っていた。

 無事だったのは魔法で保護されていた一部の文献や資料、魔法道具のみだった。

 幸いにも、無事だった収納用の魔法道具の中に器具や工具が入っていたことにより、身近な材料からでもある程度まで研究が行えた。

 しかし、それでもすぐに蓄えは底をついてしまう。


『何とかスポンサーを探さないと!』


 前世から続く生き甲斐を守るため、俺は現世でのスポンサー探しを始めた。

 とは言え、見た目が子供では相手をしてくれる者も限られるし、何より俺の研究を表沙汰にはしたくはない。

 いろいろ検討した結果、地元を拠点にしている芦垣組を選んだ。

 家族に隠れて下調べもし、準備を整えたある日の番に計画を実行した。


『何だこのガキは!?』


 深夜の港湾地区、そこで行われていたヤクザ間の抗争に乱入した俺は大暴れした。


『ギャア!!』『グハッ!?』『オエ!!』


 当時の戦闘力を駆使し、芦垣組を罠にはめて潰そうとしていた別の組を全滅させた。

 後で騒ぎになるのも面倒なので、薬で記憶をイジリ、最後は別の場所に転送した。


『何じゃお前は?』

『その傷、治してやろう。』


 敵の狙撃で深手を負った、今より老けた慶造の傷を魔法薬で治す。

 そして抗争の痕跡を残さないため、修復魔法で周囲の破損を元に戻していく。

 その光景を目にした当時の芦垣組一同の顔は今でもよく覚えている。

 大体の作業を終え、俺は外見とは不相応な空気を纏って慶造に取引を持ちかけた。


『―――――俺と、契約を結ばないか?』


 当時10歳にも満たない子供の誘いに、当然、当時の連中はすぐには乗らず、主導権を奪おうと俺には可愛いほどの殺気や威圧感を向けてきた。

 それを俺は、容赦ない気迫や魔力の放出で瞬殺して主導権を確固たるものにした。

 その後、俺は芦垣組の本家で魔法などを披露しながら交渉を進めていった。

 俺の話をすぐに鵜呑みにはしない慶造たちに対し、俺は論より証拠と慶造や数人の幹部に一服盛ってやった。


『おおお―――――――!!』


 盛ってやったのは『若返り薬』だった。

 漫画とかであるような一時的なものではなく、完全に肉体を若返らせる薬である。

 《空術》を使い、お茶の中に数滴分を転送して混ぜておいたのだ。

 それを飲んだ数十秒後、還暦の近い年齢ばかりの慶造達の姿は見る見るうちに若返り、みな40代位まで若返った。


『―――理解できたか?』


 その後の展開は詳しく書くまでもなかったが、ちょっとだけ書いておく。

 もしもの保険の為、慶造の妻、芦垣雪枝(ゆきえ)にも同じ薬をこっそり盛っておいた結果、これが予想以上に効果は覿面だった。

 50手前だった雪枝は30代にまで若返り、旦那より先に俺との信頼を築いてくれた。


『―――――あんた、貰った分の恩はちゃんとお返し!』『―――――蒼空さん、美容の薬とかもあります?』『あんた!何失礼な事言ってんだい!!』


 下調べでも分かってはいたが、どうやら予想以上に芦垣組は恐妻家の集まりだったようだった。

 今では極道の妻がチームを結成し、俺の支援団体みたいなのになっている。

 頼もし過ぎる(・・・・・・)後ろ盾を得て、俺は問題を大方解決した俺は、今まで以上に――今では趣味と言うかジャンキーな感じに――研究に取り組むことができた。

 芦垣組とは定期的に取引をし、向こうは資金と物資を、俺は魔法薬や魔法道具、それとたまに診察などをするギブ&テイクの仲を築き続いている。


 俺の事情については既に説明しており、俺の情報についても組全体で他言無用にするように釘を刺しておいた。

 まあ、それでもどこかで漏れる可能性はある訳だが――――

 ついでに最近は、若い組員の稽古なども見たりしている。

 体は子供でも、その辺は補助魔法で補えるので基本的な体術くらいは俺にも教えられる。

 あと、この世界の特殊な事情(・・・・・)も考慮して、横浜の一部には結界を張っている。

 結構複雑に構成した術式を使っているため、直接結界の中に入らない限りは結界の存在はもちろんの事、俺の存在に気づく事は出来ない。

 例え、最近異世界から来たあいつらでもだ。






「おや、いらっしゃい蒼空さん。」

「お、お前―――――――!」

「―――――御邪魔しております。」


 障子戸が開き、向こうからこの屋敷の奥方が赤ん坊を抱いて入ってきた。

 自分の妻の顔を見た途端、慶造の顔はさっきまでとは違い、一面真っ青になった。

 雪枝が中に入ると、続けて彼女と慶造の娘、芦垣紫織(しおり)が中に入ってきた。

 今年で15歳になる紫織は俺を見るとすぐに視線を逸らした。


「蒼空さん、御蔭様で息子の蒼真も無事に育っております――――――。ほら、紫織もちゃんと挨拶しなさい!」

「―――――どうも。」

「いや、俺がしたのは他の医者がするのと大差はない。特別やった事と言えば、薬を与えて若返らせただけだ。その分の対価も既に清算してもらっている。これ以上の礼は無用だ。」


 雪枝は今年産んだばかりの長男、芦垣蒼真(そうま)を抱きながら礼を述べていく。

 この件に関しては、俺も本当に大した事はしていない。

 俺の薬で若返った組長夫婦は、再び―――――――――で妊娠し、無事に待望の3人目(・・・)が誕生したのである。

 なお、名前は勝手に俺の名前の”蒼”の一字が使われていた。


「ところであんた、さっき『エロ本(・・・)』がどうとか聞こえたんですけど?」

「あ・・・いや・・・・・・!?」

「―――――詳しく聞かせて貰いましょうか?」


 俺と母親に抱かれてスヤスヤと眠る蒼真以外の男全員は、一瞬にして恐怖のどん底に落ちていった。

 その後の事は、もはや語るまでもないので黙っておく。



 今日の取引を終え、俺はトランクケースを持って屋敷から出ようとした。


「待ちなさいよ!」


 そこに、さっきまで俺に対して外方を向いていた紫織が俺に声をかけてきた。


「――――――何だ?」

「何時までうちに出入りする気なの?」

「取引の続く限りだが?」


 紫織の質問に、俺は嘘偽りなく答える。

 ここに出入りし始めた頃から、紫織は俺に対して友好的ではない。

 まあ、俺みたいな得体のしれない人間が家にいたら普通は不満を抱くのは当然だろう。


「あんたがいなくても、組は大丈夫何だからね!あんたの作る物なんか、別に必要じゃないんだから!」

「その割には、毎日使っている(・・・・・・・)ようだが?」

「う・・・・・・・!」


 俺の言葉に、紫織は言葉を詰まらせる。


 俺は対価さえあれば基本的に大抵の注文を受けている。

 毎回世間を騒がせるような指定暴力団と違い、芦垣組は所謂真っ当なヤクザであり、他の組織の様に違法薬物(ドラッグ)には手を出していない。

 俺は個人的にも違法薬物(ドラッグ)には嫌悪を抱いていたので、取引相手を探す際にはそう言う物を扱わない、外道でない組織を選んでいた。

 俺の目に適っただけの事もあり、俺も芦垣組をそれなりに信頼しているので注文があれば対価次第に応えている。


 注文の内容は俺には余裕で作れる物が多く、最初は『若返り薬』や特定の病気に対する『治療薬』、空港や警察の検査に引っ掛かる事のない『収納魔導具』を各種作って渡した。

 組内部で俺の評判はすぐに広まり、特に組員の妻達からは『若返り薬』の他に、『長寿薬』『各種美容品』『魔法洗剤』『旦那用毒物(・・・・・)』『ウソ発見器』『女性専用金庫』『防犯グッズ』など、一部用途を伺いたくなるような物まであった。


「べ、別に好きで使ってる訳じゃないんだからね!!」

「そうか、じゃあな。」

「あ――――――――」


 紫織はまだ何か言いたそうだったが、俺は構わずに芦垣組を後にした。


 時刻は午後3時の少し手前、俺は人のいない場所で《プライベートラボ・キー》を使用し、異空間の研究室に入った。

 トランクの中身を整理した後、俺は部屋に設置したパソコンで最近起きた怪事件の情報がないか確認する。


 今年に入ってから、この世界の裏側では異変が頻繁に起きるようになっている。

 俺の知る範囲でも、各地に神や悪魔が出没し始め、日本国内でもその件数は増加傾向にある。

 火のない所に煙が立たないと言うように、おそらくは陰で組織が『創世の蛇』が関わっているのだろう。

 一応結界などを張ってはいるが、それでもいつまでこの日常が続くかは俺にもわからない。

 今はただ、1日でも長くこの日常が続いてくれるのを願うだけだった。






・ツンデレ少女登場!フラグは既に立ってます!

・転生して生産系チートになった蒼空はいろんな物が作れます。組長達には秘密で奥さん達から依頼を受ける事も多いです。


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