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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第8章 転生者編
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第57話 ライナー=レンツ

・新章開始です。予定では昨日から開始する予定でしたが、ライの話が思った以上に長くなってしまったので今日からスタートします。また長くなりそうです。





 空で光と光が交差した。


 白い光と空色の光が衝突し、一方が斬られて落ちてくる。

 落ちてきたのは白い光だった。


「ギル!!」


 振動と共に崩壊が続く装置兼実験施設の上で、俺は思わずアイツの名、いつの間にか使うようになったアイツの愛称を空に向かって叫んだ。

 声は届いたのだろうか?

 わずかにアイツと視線があった気がした。


「ギルが・・・・負けた!?」


 俺はすぐにその現実を受け入れることができなかった。

 俺が知る限り、アイツとアイツの兄は世界でも最強に連なる男だったはずだ。

 同時に、あらゆる世界の知識を蓄えた最高の頭脳でもあったはずだ。


「あれは・・・・!」


 アイツより先に、一筋の光が海の中へ沈んでいった。


「デュランダル・・・・・」


 あれはアイツの愛剣、神話にその名が刻まれた伝説の聖剣デュランダル。

 主と共に敗北し、その姿を再び表の世から消していくというのか。


「スロウスだけじゃなく、ギルも・・・・・!」


 俺はそこで全てを見ていた。

 アイツらが計画し、数時間前に始まった実験

 『組織』が進める計画にも大きな役目を持つこの実験だったが、『あの若造共』との戦いの末、実験の要である装置が破壊されてしまった。

 そして、奴らと戦っていたアイツを含めた『組織』の最高幹部3人が敗れてしまった。


 (トレス)のスロウス、(クァトロ)のギルバート、(クィーント)のバイレイの3人が敗れ、既に敗れた者も含めると6人の最高幹部が奴らによって潰された。

 だが、その事自体に対して、俺はそんなに興味はない。

 俺が組織にいるのは、あくまで俺自身の知的好奇心故、もっと言えば単なる研究のためだ。




 何年も前になる。

 俺はある異世界の魔術師、または錬金術師だった。

 好奇心の赴くままに研究を続け、様々な魔法薬や魔道具を作っていった。

 だが、俺の欲求を満たすにはあの世界の文明は低すぎた。

 理想に現実が追いつかず、次第に息詰まった時、この組織、『創世の蛇』が俺の前に現れた。

 奴らの誘いに俺はすぐに乗り、故郷を捨てて新世界へ踏み込んだ。


 最初の数年はカルチャーショックの嵐だった。

 俺は異世界の文明、とりわけ”科学”には大きな衝撃を受け、最初の数年間を科学の習得に費やした。

 そして同時に、組織から不老の秘薬の製法を得る事にも費やし、その結果、俺は半永久的に研究を続ける体を得る事に成功した。


 次の数年間は組織が蓄えている様々な知識の吸収と応用に費やした。

 そんなある日、俺はギルに初めて会った。

 出会った当初は外見から同年代かと思ったが、すぐに数十歳も年上だと知ることになった。


 ギルは天才だった。

 故郷では神童と呼ばれていた俺など一瞬で霞むほどの万能だった。

 研究しか能のなかった俺に対し、アイツは剣術を始めとする戦闘術も天才だった。

 ギルには兄が1人いて、そっちも規格外の天才だった。

 規格外ばかりが集まる組織の中で、俺は次第に現実から目を背けるために研究に没頭するようになった。

 そんな時、ギルは俺を修行に誘いにきた。


「どうだい、たまには体を動かしてみては?」


 それが俺達の永い付き合いのキッカケだった。

 アイツにとっては単なる気まぐれか一種の研究だったのかもしれない。

 俺は渋々参加していくうち、アイツと一緒に居ることが多くなっていった。

 互いに愛称で呼びあうようになったのは何時だったのか今では思い出す事はできない。

 共同研究を行う機会も増え、一緒に異世界に渡る事もあった。



 時が経ち、アイツは組織の最高幹部の1人、組織の研究者の頂点に君臨していた。

 俺は権力には興味はなかったが、アイツの昇格には素直に喜べた。

 アイツの兄も最高幹部のNo.2になり、組織の力はさらに勢いを増していった。

 だが、ある日を境に状況は大きく変化していった。

 組織に抵抗する勢力が現れたのだ。



『創世の蛇』は、ハッキリ言えば悪の組織だった。

 その目的は世界征服とも、新世界創造とも言われ、構成員でも知る者は少ない。

 一度、ギルが俺に話してくれたこともあったが、俺には興味のないことだった。

 だが、目的の為の犠牲はすさまじく、いろんな世界で悲劇や惨劇をばらまいていったのは俺も十二分に理解していた。

 そこに、そのほとんどが十代の若造達が無謀にも正面から敵対してきたのだ。

 最初は気にも止めなかったが、その勢いは留まる事を知らず、不落だった幹部の一角が崩れるのに1年もかからなかった。



 そして現在に至る。

 組織の最高戦力でもある幹部クラスが次々に敗れ、ついにはギルも奴らのリーダーに敗北した。

 アイツの半身である聖剣の後を追うようにアイツも海に沈んでいく。

 十数分前に、同じ最高幹部、数字上ではアイツより強いはずのスロウスが『閃拳』の使い手に敗れた。

 残っている幹部はギルの実兄、カルだけだった。

 カルは狡猾であると同時に、残虐な手段も平然と使う男だ。

 聞いた話では、奴らの何人かはカルに家族を殺された者らしい。

 カルなら全員返り討ちにすると思っていた時だった。


「な・・・・・!」


 空よりも遙か上、宇宙空間で最後の戦いが終わる気配を感じた。

 だが、それは俺の予想を裏切るものだった。


「まさか、カルも――――――」

「うん、負けたみたいだね?」


 不意に、俺の背後から中性的な声が聞こえてきた。

 振り向くと、そこには見慣れた藍色のマジシャンスーツを着た、中性的な少年が立っていた。

 少年とは言ったが、正直なところ奴の性別は俺には分からない。服装から便宜上そう呼んでいるだけだ。


「カース!何でお前がここにいる!?」


 俺は有り得ない状況を前に、絶叫に近い声を上げた。


――――――『幻魔師』カースウェル=ダルク=プライド


 通称カース、それがコイツの名だ。

 見た目は中性的な少年、だがその実態は組織の黎明期以前から生きている、人であることすら怪しい怪物だ。

 何より、コイツの能力は恐ろしいの一言に尽きる。

 コイツはどこにでも現れる。

 どんなに警戒しようと、どの世界に逃げようとしても、その不適な笑みとともに現れる。

 その為、今も俺の前にコイツが現れる事自体は驚く事ではない。

 ある一点(・・・・)を除いては―――――――――


「お前、何故―――――――!?」

「酷いな~、そんな顔をしないでよ?折角の大イベントなんだから、アリーナで観戦したっていいじゃないか?」


 カースは親に叱られた子供のような顔をする。

 確かにコイツは、今回のような大規模な出来事には必ずと言っていいほど観に来ている。

 だが、それはあくまで”端末(・・)”越しでの話だ。


「そう言う意味じゃない!お前、それはまさか―――――本体(・・)なのか!!??」

「―――――――へえ、君にも分かるんだ?」

「――――――!?」


 悍ましいモノを見るように言う俺に対し、カースは笑みを浮かべながら肯定した。

 その笑みに、俺は戦慄した。

 だが、コイツはそんな俺をあざ笑う事もなく、周囲を見渡したしながら俺に向かって話しかけてくる。


「カルを倒したのは飛鳥(アスカ)家のお兄さんみたいだね?《閃拳》と弟君もだけど、彼らには驚かされてばかりだ。組織創設から数百年、決して1人も外敵から負ける事のなかった幹部達(ジェネラーレ)をここまで減らしただけでも凄いのに、『真なる眷属(オリジン)』の1人でもある”スロウス”まで倒すなんてね。正直、これは僕にとっても予想外だったな♪」

「――――スロウスが、オリジンだと・・・・・!?」

「あれ?もしかして知らなかったのかな?」


 カースの言葉に俺は再び驚愕される。

 『真なる眷属(オリジン)』、それを意味するのは――――――――――



      ドゴ――――――ン!!!



 俺の思考を無理矢理切り替えるかのように、近くで爆発が起きた。

 先程から続いていた足元の揺れもさらに強くなり、次第に足場が傾き始めていた。


「く・・・・ここもそろそろダメか!?」

「そうみたいだね?勿体無いけど、ここまで崩壊が進んだら放棄するしかないね。何より、持ち主が2人とも(・・・・)死んでしまったしね。」

「―――――――!死んだ!?何を言ってる、あいつらは”不死(・・)”だろ!!」


 そう、あの2人が死ぬ訳がないと俺は思っていた。

 長命なだけの”不老”である俺に対し、カルとギルの兄弟は揃って―――――いや、最高幹部のほぼ全員は殺しても死なない”不老不死”だったはずだ。

 全力で否定する俺に対し、カースはそれを平然と否定していく。


「確かのあの2人は不死だけど、不滅(・・)ではないよ。それに、世界中の伝説にもあるけど、不老不死には解除方法もあるし、あとは矛盾する言い方だけど、中には『不死殺し』の武器だって存在する。だからこそ、僕らの『盟主』は”不老”や”不死”を望む者全員に与えてるんだよ?」

「―――――――――まさか!」

「ハハハ――――――」


 カースは面白そうに笑い続ける。

 カースの言葉に、俺は全身の血が抜けるような感覚に襲われた。

 考えてみればおかしい事だった事に、俺は今ようやく気付いた。

 組織の頭、7人の『盟主』達はギルや目の前のカースのような幹部達だけでなく、俺のような一般構成員にも”不老”や”不死”を与えていた。

 だがそれは、下手をすれば裏切り者やクーデターを生み出しかねない行為でもあった。

 なにせ死なないのだから、何も恐れることなく組織の特権を得ようとする者が現れてもおかしくないのだ。

 だが、カースの話が事実だとすれば、組織の盟主達、もしかしたら目の前にいる本物の(・・・)は不死者すら殺す事の出来る存在だという可能性が生まれてくる。

 つまり、それは盟主達は組織に属する者全ての生殺与奪の権を完全に握っている事にならないだろうか。

 いや、それよりも―――――――


「――――ギル達の不死は・・・・・・!?」

「うん、僕が解除した(・・・・・・)し、ちゃんと処分も(・・・)したよ。もう、彼らの役割は済んだからね?」


 俺の予感は的中していた。

 それは、「用済みは捨てた」と同義なであった。

 そして同時に、その処刑人が俺の目の前に現れた事はそう言う事(・・・・・)を意味していた。


「――――――俺も用済みと言う事か。」

「それは少し早合点だよ。僕はただ、新しい実験(・・・・・・)の手伝いに来ただけだよ?」

「実験・・・・?」


 カースの言葉に、俺は心当たりを探ったが思い当たる節はなかった。


「うん、君達を使った(・・・・・・)実証実験だよ。」

「何――――――――――――――」


 俺の最後のセリフは、最後まで口から出る事はなかった。



        ビュゥ―――――!



 一閃―――――――――――

 藍色のレーザーが俺の急所を正確に貫いた。

 前を見ると、カースが俺に向かって人差し指を指している姿が見えた。

 苦痛と共に、俺の意識は一気に闇に沈み始めていった 。


「――――さようなら。けど、実験がうまくいけばまた逢えるかもしれないね♪」


 倒れた俺に、カースが何かを呟いている。


「じゃあ、イベントも終わったことだし、ここも危ないから僕は帰る事にするよ。それに僕が長居したら、仮初の勝利に沸く『空の翼』に水を差しちゃうから―――――――――には―――――――――――――よ。」


 だんだん声も聞こえなくなってくる。

 薄れていく意識の中、カースが何かを言い残すと、霧の様にその姿を消していった。

 その直後、俺が伏していた場所が一気に崩壊し、俺の体は冷たい海の底へと落ちていった。




 それが俺の―――――――――――ライナー=レンツの最期の記憶だった。






 そして、この世界(・・・・)の時間で66年が経った―――――――――








・時系列で言えば、地球時間では西暦1945年、太平洋戦争終結の年になります。本作でも重要なエピソードなので、本章の最初に書いてみました。


・感想お待ちしております。


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