第52話 ライの1日 Ⅰ
・番外編みたいな(?)ものです。
埼玉県 某神社――――――
よう、俺はみんなの人気者のライくんだぜ!
この前はスサノオの奴に嵌められて大変だったぜ!
普段はホームで同居人の神達と社を護っているが、勇吾に呼ばれれば何所にでも現れる超速の神様だぜ!!
今回は俺のとある日常を紹介するぜ!!
~ライの1日 6:30~
俺の朝はラジオ体操から始まる。
ご近所の皆さんと一緒にやるのが夏の早朝の日課だ。
「あらあら、天神様おはようございます。今朝もお早いんですねぇ?」
「アメさんおはよう♪俺は神さまだから寝坊はしないのさ♪」
今日のラジオ体操が終わると氏子のアメ婆さんが挨拶に来たぜ。
昔いろいろあって一部の人間には俺の正体は知られている。
と言っても、神社の関係者の数人の氏子のご老人方だけだけどな。
「――――天神様のお蔭で曾孫のトーマスが元気になりました。ありがとうございます。」
「おいおい、これで55回目だぜアメさん?俺はちょっと後押ししただけだぜ?」
アメ婆さんは何度も俺を両手で重ねて拝んでいる。
もう1年以上になるが、アメリカに住んでいるアメ婆さんの孫夫婦の長男、つまりアメ婆さんの初曾孫のトーマス君が来日した際に病気が発覚した。
病気自体は手術で治る者だったが、トーマス君はまだ幼かったから危険な手術になった訳だ。
そこでアメ婆さんが俺の所に願掛けに来たからちょっと力を使ってやったら手術は無事成功、退院後は一家そろってお礼参りに来たってわけだ。
それ以降、アメ婆さんは逢う度に拝んでいくってわけだ。
「それと、先日お参りに行きました孫娘が五つ子を授かりました。これも天神様のお蔭でございます!」
「マジで!?そういや、ノリでちょっとやっちまった事があったっけ。」
あ~~~、そう言えばそれっぽい姉ちゃんが来たことがあったな。
円満な家庭になりますように~~って願掛けしてたから、ちょっとノリでプレゼントを贈ったら五つ子ちゃん授かったのかよ?
あ、そう言えば、あの日は同居人のサルとウズメちゃんがイチャイチャしてたからその影響もあったのかもな?あの夫婦、国際結婚や安産とかの神もやってたからな。俺の加護と混じってハイブリッドな効果発揮しちまったのかもな。
「アメさん、それなら俺だけじゃなくサルやウズメちゃんにも礼言っといた方が良いぜ?」
「おお・・・猿田彦様方も・・・・!ありがたやありがたや~~~~!」
ああ、アメ婆さん座り込んで祈りだしたよ。
あ、巫女の桜ちゃん発見!こっち来てフォローしてくれ!
「―――――ライ様、どうなされたんですか?」
「あ、桜ちゃん!アメさん、ここでお礼参り始めちまったんだ!何とかしてくれ!!」
「分かりました。さあ、立ってくださいアメさん。ここではライ様にご迷惑ですよ?」
「ああ・・・・そうですね。天神様、お礼は一生かけて――――――――」
重い!アメ婆さん、俺に重いもん載せてきたよ!?
一生とか、棺桶目の前にしている人に言われたら俺だって心が痛い!
よし、そうだ桜ちゃん!そのままお家まで送ってあげてくれ!!
ふう、しばらくはアメ婆さんを避けた方が良いな。
~ライの1日 7:10~
最近は社にいる神は俺だけだったから、朝食は勇吾の所で取ってるぜ!
「――――――食いに来るなら連絡くらいしたらどうだ。作る方の気にもなれ。」
「いやあ、お前の飯って突然無性に食いたくなるから連絡とかってできないんだよな~~~。」
「ったく・・・・・・。」
う~~ん、毎回連絡入れずに来るから勇吾は御立腹だな。
ま、何時もの事だからスルーするぜ!
今朝のメニューはトーストにフルーツサラダ、オムレツにスープとヨーグルト♪いつもながら手抜きの無いモーニングだぜ♪
「―――――ライ、この国の神達はあれから何か言って来たのか?」
反対側で同じメニューを食べている黒王こと黒が話しかけてきた。
あ~~~、名古屋の件で俺が勝手にいなくなったりしたのを聞いたんだろうな。
だが、あの日からスサノオを含めた名古屋の神達からの連絡はひとつもない。
ここは正直に答えるだけだ。
「い~~~や、誰からも連絡はないぜ?」
「――――――そうか。」
重い!
アメ婆さんとは別の意味で朝から重いぞ黒!もっと軽くなろうぜ!?
「ライ、お前の土地で奴らの一味らしい人間は相変わらずいないのか?」
「勇吾、その質問何度目だ?自分の土地は常時俺が監視しているけど、それっぽい連中はいねえし、そもそも魔法だってお前以来は誰も使ってないんだぜ?」
そうそう、俺の領地で魔法が使われたら瞬時に俺が気付くようになってんだ。
俺と勇吾が契約した時以降、俺の領地で魔法は一度も使われてないから真っ白だぜ!
勇吾も、アベルから情報を聞いて以来、首都圏の調査をより徹底的にするようになってきた。
俺の社のある土地も首都圏に思いっきり入っているから、俺に念入りに訊くのは分かるんだが、そう毎日聞かれても困るぜ。
って、俺のサラダから苺ちゃんが消えてるじゃないか!
「おい、俺の苺食ったの誰だ?」
「―――――知らねえ♪」
答えたのは隣に座っているトレンツだ。
おいトレンツ、その笑顔とお前の口に中にあるのは何だ!?
「トレンツ、天罰落とすぞ!!」
「「「「苺で落とすな(さないで)!」」」」
勇吾、リサ、ミレーナ、良則の4人がハモって突っ込んできた。
おい、俺は被害者だぞ・・・って、すみません!ふざけました、だからその凶器置いてください!!
――――ん?おい丈、お前何やってんだ!?
「――――――丈、何をやってる?」
黒の声で、勇吾達も丈の方を見た。
丈は俺らの食事に、何か怪しい感じのチューブから何かを垂らそうとしていた。
「・・・・・・・・てへ☆」
おい、何だその「ばれちゃった~~♪」みたいな顔は!?
俺は神としての能力を発揮して、あの怪しいチューブの中身を分析する。
「―――――おい!!!!そのチューブ、ラートン印の薬だぞ!!!!」
「「「「「―――――――――!!!!!!」」」」」
丈以外の全員が俺と同じ顔になった。
うおっ!黒のあんな顔、久しぶりに見たぜ!
あ、ラートンって言うのは、主にアメリカに住み着いている超関わりたくない一応人間の男の名だ。
こいつがとんでもない奴で、付いた二つ名が『大魔王』!!色々規格外で、人間はおろか、俺も含めた神どもも一目散に逃げてしまうほどたちの悪い男だ!
俺が生まれる前から生きていて、実年齢は軽く300歳を超える人間なのかも怪しい奴だ。
本業は薬剤師でたまに医者もやってるが、こいつの作る薬がヤバすぎる!!
奴の作る薬には、エリクサー、仙丹、ソーマといった伝説級の薬もあるので欲深い馬鹿どもは強引にでも手に入れようと奴に近づく。が、奴の性格は腹黒以上に性質が悪く、気に入らない相手には碌でもない薬を渡して地獄に落としている。
つーか、丈の奴、何時奴から危険物買ったんだ!?
「おい、何だこれは?」
「・・・・・エヘ☆」
その後、丈がOSHIOKIされたのは言うまでもねえな。
ちなみに、丈が持っていた劇薬は「若返り薬」と言うベタな代物だった。
~ライの1日 8:10~
いろいろあったが、今日も1日頑張るぜ!
てな訳で、社まで帰るついでに散歩中だ!
「ん~、なんか面白いこと起きねえかな?」
あ!今、この辺の土地神から苦情きたな。ま、いつも通りスルーするぜ。
しばらく歩いていると、たまに会う若い奥さんが姑と揉めていた。
あの家は嫁は旦那にだけデレてるが、姑にはとにかく喧嘩ばかりする。姑もまたしかり、俺から見れば一種の同族嫌悪だな。
「まあ、家事もろくにしないで出勤?随分といい加減なのね。あなた、私の息子の嫁としての自覚が足りないんじゃないの?」
「お義母さんこそ、こんな時間から来るなんて余程暇なんですね。それとも、お義父さんに浮気でもされたんですか?」
わあ~、朝っぱらから火花散らせてるなあ。ああ言うのは人間も神も同じだな。
あれ?奥さんのあの感じはもしかして・・・・・?
よし、ここは俺が家族円満の為に協力してやるぜ!
「お義母さん、そろそろよろしいですか?私も主人と同じで・・・・あら、天神さん!」
「やあ、お早うございます奥さん!」
俺は通りすがりを装ってあいさつした。
ちなみに、アマガミと言うのは俺の偽名のひとつだ。
おいおい、姑よ何でこっち見て顔を紅くする?お前には旦那がいるだろ。
「聞きましたよ奥さん、あの噂って本当なんですか?」
「え、噂!?」
「まあ情けない!ご近所に変な噂をされるなんて、一体何をしたのかしら?」
姑はここぞとばかりに攻めてきた。
だが、その口を俺は黙らせるぜ!って奥さん、殺気出てる出てる!
「おめでたらしいですね?近所の人がツワリを見たそうですよ。あと、最近妙に気が立ったり食が細くなったりしてるとも聞きましたよ?病院で検査は受けたんですか?」
「はぁ・・・・・ええ!?」
おお、驚いてるな~~?
姑なんか、開いた口が塞がらない・・・・てか、魂が少し抜けてきてねえか?
ここで俺は強引だがもうひと押しする。
「あ、よかったらこれどうぞ!ご近所の皆さんからだそうです。」
俺は奥さんに”妊娠検査薬”を渡した。
何で持ってるかっていうと、神としての嗜みとだけ言っておくぜ。
「「――――――――――――。」」
あ~~~、沈黙してるな。
けど、奥さんには心当たりが必ずあるはずだ!俺の目は誤魔化せないぜ!!
「・・・・・・ちょっと失礼します。」
奥さんは俺から物を受け取るとそそくさと家の中に入っていった。
うんうん、数分後が楽しみだな。つーか、姑はいつまで固まってるんだ?
そんでもって5分後、呆然とした奥さんが玄関から出てきた。
奥さんはようやく正気に戻った姑と俺の前に来ると、うまく動かない口をどうにか動かして結果報告をした。
「で、で、で――――――――!」
「で?」
「出来ちゃった――――!!??」
その直後、奇声とも言うべき姑さんの絶叫がご近所一帯に響き渡った。あ~~、さっさとここから去りたくなったな。
「出来ちゃった!?」
「出来ちゃってました!!」
こうして奥さん(25歳)は自身の妊娠にようやく気づいたのだった。
俺は神なので、目で見ただけでそれが判別できるた。
俺の神としてのパッシブ効果つーかご利益は、家内安全と交通安全、あとは子供の健康なんだが、最近はあのバカ夫婦の影響なのか子宝や安産のまで付いちまった。そのせいか、俺のよく歩く所では出生率が明らかに上がってきているんだが・・・・・ま、別にいいよな?
「男!?女!?どっちなの!?」
姑よ、まだそれは分からないだろ。
てか、奥さんも出勤しなくていいのか?
あ、何だかご近所の皆さんまで集まってきたな、さっさと去るか!
てな訳で、俺は自分の社目指して散歩を続行だ!
あ、そう言えば奥さんのお腹の中にいた子供、何か複数あった気がするけど、それは後のお楽しみってな♪
・この作品はフィクションです。ライの住んでいる社は実在の神社とは何の関係はありません。(検索すれば何所をモデルにしたのかはすぐにわかります。)
・取り敢えずこの話は2、3日で完結できればと思っています。




