第48話 良則VSアベル
良則とアベルの攻撃の衝突は異界の名古屋全体を揺るがす大爆発となった。
地上にあった物は家もビルも関係なく破壊されて宙に舞いあげられる。爆発の直撃を受けなかった場所も、その衝撃と吹き飛ばされた瓦礫の嵐によって無惨に破壊されていった。爆心地の周囲一帯は舞い上げられた土煙などに覆われ、破壊された箇所も含めるとその範囲は半径1kmでは到底収まらなかった。
「街が・・・・・・・・・・・・。」
その光景を、爆心地から遠く離れた場所で亮介達は呆然としながら見ていた。
その横では、妙にテンション高く盛り上がっている者がいた。
「お~~~~~!ヨッシー、派手に暴れてるな~~!!」
「ちょっとトレンツ、空気読みなさいよ!!」
まるでSF映画のような光景に盛り上がるトレンツに、リサは間髪を容れずツッコむ。その周りには、亮介のように呆然と街の景色を眺めている少年少女達の姿があった。
彼らは全員アベルによって覚醒者になった者達だった。何も分からず突然この空間に捕り込まれ、アベルの余興に強制参加させられた彼らは、駆け付けた勇吾達によって一ヶ所に集められていた。
「嘘だろ・・・・・・・!?」
呟いたのは大羽士郎だった。
彼は養護施設の敷地内で他の3人の仲間と一緒に戸惑っていた処をトレンツに発見され、その後は加藤渉の能力でこの場所まで避難していた。
彼らは既に現状については一通りの事は聞いていた。だが、目の前で繰り広げられている戦闘風景には、皆一様に動揺していた。
そんな彼らをよそに、勇吾は覚醒者全員が避難完了したのを確認すると、背中に布都御魂剣を背中に背負いながらその場から戦場へ向かおうとしていた。
「俺はあっちに言ってくる。お前らはここを頼む。」
「って、2人で戦うつもりかよ!?俺も行くぜ!!」
「ダメだ!ゲームでも、奴と戦うのは危険すぎる。奴の力は間違いなく神クラス、並の相手じゃ近づくことすらできない相手なんだぞ。お前でも、それくらいは分かるだろ!」
勇吾は戦場を指さしながら慎哉に向かって怒鳴った。
勇吾の指す先では、白と青の光が飛び交い、何度も爆音と閃光を響かせている。火柱や竜巻も何本も発生し、初めて見る者もそうでない者にも、この戦いがどれだけ現実離れしているのかを思い知らせていた。
「そりゃ、そうだけどさ・・・・・。」
「慎哉、勇吾の言う通りだよ。僕達じゃ足手まといになるだけだよ。」
「悔しいけどな・・・・。」
納得のいかない慎哉を、琥太郎と晴翔は彼の肩を掴みながら止める。その声と表情からは、自分の無力さに対する悔しさが滲み出ていた。
「お前らの気持ちは俺も分かっている。俺もあの時は無力だった・・・・・。」
「勇吾・・・・?」
「何の話だ?」
「・・・・・・・・。」
慎哉達は聞き返すが、勇吾は何も答えなかった。
その様子を離れて見ていたトレンツ達は驚いた表情をしていた。
「(驚いたな?)」
「(ええ、断片でも勇吾があの事を口に出すなんてね。)」
2人は互いに小声で囁きあっていた。
(そう言えば、もうすぐ8年になるんだったな。勇吾の父さんが殺されてから・・・・・・・・。)
トレンツは口には出さず、心の中で呟きながら勇吾を見ていた。
「分かった。俺達はここを守ってるから、お前は絶対勝ってこいよ!」
「ああ、当然だ。奴に振り回されてばかりじゃ癪だからな。」
「そう言うことだぜ!」
勇吾が拳を突き出しながら言うと、慎哉も同じように拳を突き出して答える。それを真似るように、琥太郎と晴翔も拳を重ねてきた。
「何だかいいよね、こう言うのって♪」
「・・・そうだな。」
「ったく、お前らは・・・・。」
「おいおい、俺も青春に混ぜろよな?」
「トレンツ!?」
トレンツも加わり、5人は互いの拳を重ねあった。
「俺も、遠距離から支援するぜ!」
「――――――ちゃんと狙えよ?」
「分かってるって!心配するなら、俺よりも丈の方だろ?」
「・・・・・・そ、そうだったな。」
トレンツに指摘され、そう言えば馬鹿の姿が未だ見当たらない事に気付く。あの後、街中を捜したが馬鹿の姿はどこにもなかった。アベルのゲームには積極的に参加する意思を見せていた筈が、未だ馬鹿は戦場にも姿を見せてはいなかった。
一抹の不安を抱きながらも、勇吾はトレンツと共に戦場へと出発する。
「――――――じゃあ、行ってくる!」
「ここは任せたぜ♪」
「ああ、任せろ!!」
慎哉の声を最後に、勇吾とトレンツの2人はその場を後にして飛んで行った。
戦場では未だ戦闘が続いている。周囲をあらゆる属性の魔法が入り乱れ、混沌とした光景が広がっていた。
「クッ――――――――――――!」
『―――――本当に大したものです。その若さでここまで戦える者など、私が知る限りでは十指にも満たないのですから。』
「――――――余裕だな?」
『あなたが思っているほど、私も余裕ではありませんよ。それにしても、戦いに入ってから口調が少し変わりましたね?顔つきも、3番目のお兄さんに少し似てきています。』
「――――――――!剛兄のことを――――――!?」
アベルの予想外の発言に、良則は驚愕の顔になった。
『―――――――以前、遠目にですが彼の戦闘を見た事があるだけです。あの頃の彼は少し短慮な面もありましたが、最近はそれも改善されているようですね?』
まるで、懐かしい昔話を話すかのように語るアベルだったが、良則の目には、その仮面の向こうには過去を懐かしむのとは別の、何か好戦的な感情が潜んでいるように映っていた。
『フフ、余計な話をしてしまいましたね。それでは、そろそろ再開といきましょうか。』
「――――――――!」
アベルは左手を振り上げると、その手に光とともに1つの鞭が現れた。
アベルは握りしめた鞭に魔力を流し込むと、鞭はその長さを一気に伸ばしていく。よく見ると、鞭の色は赤・青・緑・茶と4色の色が重なって見えていた。
『―――――《四大の天鞭》―――――』
アベルは大きく鞭を振るうと、鞭は4本に割れ、それぞれ鞭状になった炎や水、風や土になって蛇のように良則に襲い掛かった。
「――――――《音越》!!」
良則は風属性の移動魔法を唱えると、その名の通り音速を超えるような速さでアベルの鞭を回避していく。だが、属性そのものとも言うべき4本の鞭は獲物を逃さない獣の如く追いかけていく。
『速いですね。ですが、それが全速力と言う訳ではないでしょう?』
「――――――――どうかな?」
『―――――少し楽しくなってきました。見学者は避難したみたいですし、少々大技を出させてもらいましょうか。』
「大技!?」
それは、今まで使ってきた技、あの大爆発すら小技だと言っているかのような口ぶりだった。
アベルは鞭を手放すと、良則を追いかけていた鞭はフッと消え去った。
『―――――――蒼天より降り注げ、鋼の文明を掃いし流星雨!』
「―――――あれは!!」
右手を天に向かって掲げ、天に向かって叫ぶかのように詠唱をしていく。すると、アベルの詠唱に呼応するかのように、青空の中に無数の光の点が現れ始める。それらは百から二百、次第に千を超える勢いで増えていき、そのれを見た良則を再び驚愕させる。
「―――させない!!」
アベルが放とうとする攻撃の危険性を察した良則は、全身から大量の魔力を放出する。まるで先程の大爆発に匹敵するかのような勢いで放出された魔力は、すぐに渦を成しながら良則の両拳を中心にに吸収されていく。
そして、アベルが詠唱を完了させると同時にその拳を天に向かって振るった。
『―――七大の名の元、神の栄光を妨げし者に聖なる鉄槌を!――――《聖天より来る断罪の流星雨》――――』
「―――――――《万を超えし極光閃拳》!!!」
異界の空で、人と天使の力が激突した。
――――――――制限時間 残り33分
・良則は戦闘が激しくなると少し性格が変わって見えますが基本的には普段と変わらないので大虐殺を起こしたりはしません。
・なお、今回アベルが使った鞭ですが、天使イェグディエルは鞭を持っているそうなので出してみました。




