第46話 熾天使イェグディエル
「て、天使!?」
青い閃光が収まると、勇吾達の目に映ったのは青い仮面をつけた1体の天使の姿だった。
背中には9対18枚の羽、頭上には天使の象徴である光の輪が浮かぶ。その姿は美しく、神々しい光を全身に纏っていた。
「やはり・・・・・・・イェグディエルか!」
勇吾は震えそうな声でその名を口にした。
勇吾の周りでは同じように天使に目を奪われている慎哉達が呆然とした表情をしている。隣には、馬鹿が写メを撮影していたが、勇吾は無視する事にした。
「イェグディエル、それが覚醒者を生み出した力の正体だな?」
『――――――そうです。』
勇吾の問いに、天使の姿になったアベルが答える。その声は先程まで聞いていたアベルのものだったが、どこか別人のような響きを含んでいるかのような声でもあった。
一方、まるで意味が分からない慎哉は勇吾に問いかけた。
「―――――どういう事なんだ?」
「俺が黒やライと契約してるように、奴も天使と契約していたと言う事だ。そして、自分の体に天使を融合させてあのように天使化しているんだ。」
そう言いながら、勇吾は天使の姿になったアベルに《ステータス》を使った。
【名前】アベル=ガリレイ
【年齢】47
【種族】人間
【職業】魔法騎士
【クラス】守護者
【属性】無(全属性)
【魔力】6,720,000/6,940,000
【状態】天使化中
【能力】――認識不能――
【加護・補正】魔法耐性(Lv5) 物理耐性(Lv2) 精神耐性(Lv5) 全属性耐性(Lv4) 隠蔽無効化 天使の器 熾天使イェグディエルの契約 王の加護 不老長寿
【開示設定】ON
「うわ!結構年上じゃん!?」
「うちのパパと同い年じゃない!」
「不老長寿って、反則だろ!?」
「―――お前ら、驚くところが違うだろ!」
勇吾は強さよりも若さに驚く慎哉達にツッコむ。
そんな中、良則だけは真剣な表情でアベルのステータスを見ていた。
「イェグディエル――――『神の賛美』と言う意味を持つ、正教会で七大天使の1人とされる天使だね。」
「ああ、努力し働く者達の擁護者、神の栄光のために働く者達の助言者にして守護者と言われる天使だ。階級はハッキリしてないが、どうやら最高位の熾天使だったようだな。まあ、ミカエル達と同じ七大天使なんだから当然と言えば当然なんだろうがな。」
勇吾と良則は変な方向に騒いでる慎哉達に聞かせる様に話すと、慎哉達もようやく脱線から戻ってきて2人の話を聞くようになった。
「アベル、お前がこの町に現れた日が金曜日だったのも、それが能力の発動条件だったからだろ?」
勇吾の問いに、アベルは微笑みながら肯いた。
『ええ、そうです。その様子だと、私が現れたのが金曜日だと分かっていた時点で気付いていたようですね?』
「―――――正教会では、イェグディエルは金曜日の天使と言われているからな。それに、お前が覚醒者を生み出す時に呟いた『祝福』という言葉もヒントになった。何より、覚醒者になった者達は例外なく何かしら苦労や努力をしている者ばかりだった。イェグディエルが関係していると気付くにはそんなに時間はかからなかったな。」
『―――――大したものです。手ごわいのは凱龍の王族だけと思ってましたが、あなたも十分に手ごわいようですね。あなたの推測通り、この力は《神の祝福》と言って、毎週金曜日にだけ使用可能なイェグディエルの能力です。人生の中で何らかの努力を積み重ねてきた者達に、その努力を対価にして祝福を授け、その内容は祝福された本人の願望と努力の量によって千差万別なのです。』
「攻撃系の能力がないのは何でだ?」
『それは単に、彼らが争いの力を欲していなかったからと考えてもらって結構です。』
アベルの返答はどれも辻褄のあう内容だった。難病と闘う少女は健康な体を願い『病を癒す力』を、親の虐待から妹を護ろうとする少女は逃げ場所を願い『秘密基地を創る力』を、自由に何所か遠くへ行きたいと願った少年には『何所にでも行ける力』をと、確かに覚醒者の多くは元々自分が願っていた事を実現させる能力を得ていた。まだハッキリと分かっていない者もいるのは、本人が自分の願望に気付いていないだけなのだろう。
自分達の集めた情報と、アベルが答えた内容はしっかりと符合している。勇吾は隣にいる良則の方を向くと、彼も同感だと言う顔で頷き、勇吾は全て真実であると確信を得たのだった。
『――――――今の回答はサービスにしておきます。これ以上の質問はゲームに勝たない限り、話す事はありません。』
「そのゲームは強制参加なんですか?」
『不本意な方もいるでしょうが、あくまでこれは私の挨拶も含めていますので命を奪ったりはしません。ですが、本気を出さないと大怪我をするかもしれませんのでご注意を。』
そう言うと、アベルは翼を羽ばたかせながら更に高く飛翔した。そして町全体が見渡せる高度まで来ると、町全体に響き渡るような声でゲーム開始を宣言する。
『―――――制限時間は今からちょうど時間です。では、スタート!!』
直後、街ひとつ巻き込む爆発が起きた。
ドゴ―――――――――――――――――――――ン!!!!
隕石が落ちたかのような大爆発、一瞬で軽く百を超えるビルやその他の建築物が跡形もなく破壊され、その衝撃で名古屋全体が直下型地震のような衝撃に襲われていった。
「ヒャッハア!アベルの兄ちゃんスゲェな~~~~~~~~♪」
「「「喜ぶな!!!」」」
クレーターとなった街のど真ん中で、馬鹿は歓喜の声を上げ、それ以外はその馬鹿をボコッた。
周囲が煙や土埃で覆われている中、勇吾は馬鹿が張った防御結界に守られていた。
「ビ、ビビったぁ~~~~~~~~~~~!」
晴翔は腰を抜かして地面に座り込んだ。その周りでは、琥太郎や慎哉も同じように地面に座り込んでいた。
「ゲーム開始直後に大爆発って、性質悪すぎだろ!?」
「今の、絶対殺す気だったぜ!?」
慎哉と晴翔は交互に文句を吐くが、上空にいるアベルには届かない。
アベルは一度地上を見下ろすと、すぐに別方向へ振り向き飛んで行った。その時のアベルの顔は、別の獲物を見つけたかのように楽しそうな顔を見せていた。
「あ、逃げたぜ!」
「そりゃあ、鬼ごっこだからな。」
「で、どうするのよ。このまま1時間経つのを待ってるの?」
「・・・・・・・・・・。」
リサに訊かれ、勇吾はしばらく考え込んだ。
このゲームはあくまでアベルが始めた余興のようなもの。強制的に参加させられたとはいえ、リタイアしても何かされると言う訳ではない。だが、勝てば彼からより多くの情報を得る事ができるという利点は勇吾達にとっては惜しかった。
仲間のほとんどが勇吾に視線を向ける中、良則と馬鹿は違う方を向いていた。
「よし!そんじゃ一丁遊んでくるぜ♪」
「おい!勝手に行くな馬鹿!!」
「でも、俺は行くぜ!!」
それだけ言うと、勇吾の制止を物ともせずに、馬鹿は何処かへ瞬間移動して消えた。
「―――――あの野郎・・・・・・。」
「おお!勇吾のバックに炎が見えるぜ!!」
「おう!俺にも見えてるぜ!」
怒りが沸上がる勇吾を、慎哉とトレンツは背後から面白そうに見ていた。
そこに、さっきから周りをキョロキョロしていた良則が少し慌てたようにしゃべりだした。
「――――――ね、ねえ!」
「ん?どうしたヨッシー?」
「ねえ、みんなさっきから気付いてないと思うんだけど、ライ、さっきから何所にもいないんじゃない?」
「「「――――――!?」」」
良則に言われ、一同は周囲を見回す。そこには自分達しかおらず、ライの姿は全くなかった。
「あれ?確かファミレスを出る時までは一緒だったわよね?」
「うん、僕も街に出た時までは一緒にいたのを覚えてるけど・・・・・・。」
「言われてみれば、何時の間にかいないな。」
先に突っ走った勇吾と良則はともかく、後から一緒に来たはずの慎哉達の誰もが何時ライがいなくなっていたのか気付いていなかった。
最初は、アベルがこの空間を創った時に省かれたのかと思ったが、遠くから僅かにライの気配が伝わってくるのを感じた。
「―――――――気配はある。ここから、北北東の方にいるみたいだ・・・・いや、待て!!」
「どうした?」
「良則、今すぐこの空間にいる人間を全て探知してみろ!!」
「――――――!分かった!」
「えっ!まさか―――――――――!?」
勇吾の言おうとしている事をすぐに悟った良則は、この空間全体に《ライフ・サーチ》と《マナ・サーチ》を同時に発動させ、すぐに表情を険しくした。
「――――――いた!!」
「いたって、何がいたんだ!?」
意味が分からず、慎哉が良則に問いかけると、良則は緊張した面持ちでその問いに答える。
「僕達だけじゃない。僕達以外の、今日会って来たばかりの・・・・・・、覚醒者全員がここに捕り込まれている!!」
――――――――制限時間 残り56分
・七大天使の構成は、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四大天使は基本的に同じですが、残る3体の天使については聖典や教派、時代によって大きく異なります。
・正教会の七大天使は、四大天使にイェグディエル、セラフィエルとバラキエルと言う構成になります。
・天使の階級については様々な説があり、当作品では七大天使は熾天使という設定になっています。




