第45話 アベル=ガリレイ
・馬鹿のターンです。
時間は少し遡り、勇吾達がファミレスで情報整理をしていた頃、馬鹿は誰にも気づかれない様に「はち丸」と入れ替わって街に抜け出していた。
若者達が多く集まる中心街を歩き、馬鹿の姿は違和感なく群衆に溶け込んでいた。馬鹿は意図的に周囲と自分を同化させ、普通に遊び歩いている姿、つまりいつもの調子で街の中を歩いて行く。途中、コンビニや本屋で買い物しながら歩いていると、ふと足を止めた。
「―――――――おっ?」
車道を挟んだ反対側の歩道、そこを歩く1人の男に馬鹿は一瞬だけ視線を向けて戻す。そして再び歩き出し、次の信号で反対側の歩道へ渡った。
反対側の歩道に渡ると、先程見かけたばかりの――200m以上先にいる――男に視線を向けないようにしながら後を追っていく。途中、男の行動を先読みしながら別の道も使って先回りし、男との距離を一定に保ちながらついて行った。
5分ほど経っただろうか、中心街でも人通りの疎らな通りにまで来ると、男は突然足を止めた。馬鹿もすぐに足を止めて様子を窺うが、そこから動く気配はしない。
「あらら~~~~~~?」
馬鹿は何を考えたのか、男の位置を確認するとその場所へ瞬間移動した。
馬鹿が次に見たのは、自分の目の前でニコニコと笑顔を向ける男の姿だった。
「あ~~~~、やっぱばれてたか~~~~?」
「―――――ええ、と言っても気づいたのはほんの2分前ですよ?それまでは本当に気付きませんでした。その尾行術は大したものです。御祖父さん直伝ではないですか?」
「あれ?もしかして、俺のこと知ってね?」
「ええ、噂でよく知っていますよ、護龍丈君?」
青い髪の男は全く警戒する様子もなく、一見すれば友好的な態度で馬鹿と会話をしていき、馬鹿も同じように警戒することなく暢気に会話を続けていった。
「――――――マジで?兄ちゃん、祖父ちゃんと父さんと知り合いなのかよ~~~~?」
「知り合いと言うかは分かりませんが、若い頃に何度か面識がありますよ?」
「お~~~!世間はマジで狭いもんだな。なあなあ、もしかして父さんの黒歴史とか知らね?」
もし、ここに勇吾達がいたら全員で馬鹿をツッコんでいただろう。目の前にいる青髪の男、カジュアルな服装を身に纏い、傍から見れば留学生、または外国人観光客に見えるこの男は馬鹿の尾行を見破り、尚且つ異世界人の丈やその家族の事も知っていた。これだけの情報があれば、勇吾ならすぐに目の前の男に警戒していただろう。
しかし、馬鹿は目の前の男の正体に気付きながらも、特に警戒する事もなく世間話を続けていった。
「―――――と言う事がありましたね。いやあ、懐かしい話です。」
「父さんやるな~~!俺ももっと芸を磨かねえとな!」
「ハハハ、周りからすれば迷惑な話ですけどね。」
「チッチッチ!甘いぜ兄ちゃん、あいつら・・・・・・・は?」
「―――――フフ。」
馬鹿がまた迷惑な事を言おうとした時、2人は周囲一帯に魔力の波が通り過ぎる気配を感じた。波と言っても僅かな波紋程度だったが、2人が気付くには十分な変化だった。
男は特に動揺する事もなく微笑むと、全身から一瞬だけ魔力を放出し、周囲に拡散した他人の魔力を軽々と打ち消した。
「―――――どうやら、君のお友達に見つかったみたいです。」
「あ~~~、今のはヨッシーだな?」
「ヨッシー・・・・・護龍良則君ですか。流石ですね、今のは見事な探知魔法です。一瞬でも私を捉えるなど本当に大したものです。」
「ま、ヨッシーはチートだからな!」
2人は暢気に笑っているが、同じ頃、ファミレスにいた勇吾達は大騒ぎになっていたのだが、彼らは想像すらしていない。バカじゃないだけで、この2人は似た者同士なのかもしれない。
「あ!そういや俺、兄ちゃんの名前まだ聞いてなかったんじゃね?」
「そうでした。これは失礼しました。」
うっかりしてました、と言い出しそうな顔をしながら男は上着の内ポケットから一枚の名刺を差し出した。
「私はこういう者です。」
差し出された名刺を受け取り、馬鹿はそこに書かれた名前を読む。
―――――――アベル=ガリレイ
ご丁寧に、馬鹿の母国語で書かれていた。
「おお、何か頭が良さそうな名前じゃね?」
「ええ、ファミリーネームでよく言われています。」
男、アベルは恥ずかしそうに顔を少し紅く染める。それを見て、馬鹿は調子に乗ってからかっていくが、途中で止める。
「で、兄ちゃんの名前は分かったけど、後ろの兄ちゃんの名前は何ていうんだ?」
「・・・・・見えてますか。」
アベルの纏っていた空気がここで僅かに変わった。
表情こそ変わっていなかったが、空気が変わったことで暢気から感嘆へと意味を変えていった。
「やはり、血は争えませんね。」
「あ、それ世界中で言われてるぜ!」
「ハハハ・・・。さて、そこまで見えているのなら、これ以上隠れている必要はないですね。お友達の方も、こちらに向かっているようですし、ここからは挨拶も含めひとつゲームを始めましょう。」
「おお!イベントスタートだぜっ!!」
馬鹿は本気で盛り上がっていた。
そんな馬鹿を見つつ、アベルは静かに魔法を発動させた。
「《静止した異界》」
次の瞬間、一部の人間達は抵抗する間もなくアベルの魔法の中へ取り込まれていく。それは、勇吾が使う魔法に少し似ていたが、その効果、精度、規模のどれをとっても別格だった。
「わお!封〇みてえだな、人は消えてるけど。兄ちゃん、もしかしてフ〇イ〇ヘイ〇?」
周囲から自分達以外の人間が消え、文字どおり時間が停止した世界で馬鹿はペースを微塵も崩さずにアベルへ問いかける。
その問いに対し、アベルは意味を理解した上で答えた。
「ある点で言えば似た者と言えますね。」
「ある点って何よ?」
「フフ、こういう契約をしているという点です。」
と言い終えた直後、馬鹿の目の前で、アベルは自身を中心に青い光の柱を放ち始めた。その光は青空の様に澄んだ青色に輝き、馬鹿の周りも青色に照らしていった。
「あ~~、○の柱みてえだな?」
「ハハ、驚かないんですね?」
「う~~~ん、驚かないほど見慣れてるってことじゃね?」
「――――――なるほど。」
アベルは納得し、少しだけ残念そうな顔をする。
そして、少しだけ自身を包む光の柱を太くするとその中を垂直に浮かび始めた。
「おいおい兄ちゃん、そのまま1人で宇宙に行ったりとかしねえよな?」
「大丈夫ですよ。少しだけ見晴らしのいい場所に移動するだけです。ほら、私達が話している間にお友達が来たみたいですよ?」
「おっ!勇吾にヨッシーじゃねえか。お~~~い!!」
アベルの視線の先を見ると、そこには驚愕しながらこっちに近づいてくる勇吾と良則の姿があった。それを見た馬鹿は、笑顔で手を振り、「こっち来いよ~~!」と2人を呼ぶのだった。
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「――――――あの馬鹿!!」
こっちに手を振ってくる馬鹿を見て、勇吾はまたブチギレしそうになった。
少し前、突然ガラスが割れたような音がした途端、周囲は一変して時間が止まったかのように全てが静止し、街中の群衆が一瞬で消え去った。それから間もなく、自分達が向かっている先から青い光の柱が立ち上った。
光の柱を見た途端、勇吾と良則は一瞬だが戦慄した。殺気や敵意こそなかったものの、あの光からは人間とは別の、より高位の存在が持つような存在感に満ち溢れていた。
「この感じ―――――――!?」
「俺の推測通りか!奴は――――――――」
目の前で光の柱の中を垂直に浮上していくアベルの姿を見た2人は、すぐに彼が『青い仮面の男』なのだと悟った。一目で確信させるほど、目の前で上昇していくアベルには理屈では推し量れないような存在感が満ち溢れていたのである。
「お~~~い!お前らこっち来いよ~~~~!!」
「いっぺん死ねよお前!!!」
緊張感0%の馬鹿に怒りをぶつけるが、馬鹿は相変わらず暢気に手を振っている。馬鹿を無視して上の方を見上げると、アベルは勇吾達ではなく、勇吾達が走ってきた方を見下ろしていた。
「―――――他のお友達も来たようです。」
「何!?」
それが自分達に対して言ったのだと瞬時に気付いて背後の方へ視線を向ける。そこには、ファミレスに置いてきた慎哉達がこっちに向かって走ってくる姿があった。
「お前ら!」
「おい!勇吾もヨッシーも勝手に突っ走るなよなあ!」
「ゴ、ゴメン・・・・。」
トレンツの一声に良則は即座に謝る。
全員が揃うと、取り敢えず勇吾やリサなどが馬鹿の頭をフルボッコした。
「・・・・・賑やかなお仲間のようですね?」
アベルは苦笑しながら勇吾達を見下ろしていた。
「――――――――お前が、ここで『覚醒者』を生み出していた仮面の男だな?」
「ええ、その通りです。」
気を取り直した勇吾の問いに、アベルは隠す事無く答えた。
「――――丈君にはもう名乗りましたが、私はアベル=ガリレイと言う物です。御存じの通り、一昨日の夜にこの町の十数人の子供達を覚醒者にした者です。」
アベルは軽くお辞儀をしながら応え、勇吾はさらに質問を続けていく。
相手が過激な奴らならすぐに戦闘態勢に入っていたが、目の前のアベルには敵意は全くなく、少なくとも今は勇吾達の質問にある程度は素直に答えようという顔をしていた。
「何故、こんな事をした?」
「仕事だからとだけとしか言えませんね。それ以上は私の口からは言えませんので、後で皆さんで検討なさってみてください。」
「異世界人で間違いないな?」
「ええ、少なくとも生まれはこの世界ではありませんが、この世界には長く滞在しています。」
「仕事と言ってたが、お前は何処かの組織に属していると言う事だな。その組織の名は?」
「それはまだお答えできません。ですが、ちょっとした小国規模の組織とだけ言っておきましょう。」
肝心な事については黙秘をし続けたが、アベルの言葉に虚偽はない事は直感的に理解できた。特に勇吾の隣にいる良則は《超直感》の持ち主なので、例え不自然さを見せずに嘘を言ったとしても良則はすぐにそれを見抜く事ができるのだ。
その後も必要最低限の質問を続け、黙秘を含みながらもアベルはその全ての質問に答えていく。そして最後に、直接関係はないが気になっている事を訊いてみた。
「――――殺人事件の事は知っているな?」
「ええ、起きてすぐ気付きました。私があの姉妹の家を去って数時間後、ちょうど日付が変わる直前に起きました。」
「――――!?」
アベルの返答に勇吾だけでなく、馬鹿以外の全員が息を飲んだ。
地元の神達さえ欺かれた殺人事件、アベルは直接関係はなくともいち早く気付いていた。それを知った勇吾は、即座に次の質問を言おうとした。
「なら――――!」
「質問はここまでです。」
勇吾は犯人についても訊こうとしたが、その問いを最後まで言う事はできなかった。
勇吾の問いを途中で止めたアベルは、その表情を僅かに険しいものに変えた。
「ここから先は、これから始めるゲームに勝てたら答えましょう。」
「ゲームだと?」
「お!ようやく始めるのか兄ちゃん?」
「ええ。」
「どういう事だ、馬鹿!?」
馬鹿の胸倉を掴んで問いただすが、馬鹿はヘラヘラしながら何も言わなかった。
「簡単なゲームです。例えるなら、何でもありの鬼ごっこです。」
「「鬼ごっこ?」」
良則や琥太郎が問い返すと、アベルは「ええ」とうなずきながら話を続けていく。
「これから私達は名古屋市内一帯を鬼を攻撃しながら逃げ回ります。鬼の役は、皆さんを含めたこの空間にいる私達以外の全員です。制限時間は内部時間で1時間、その間に一度でも私に直接触れる事ができれば皆さんの勝ち、逆に皆さんが全滅するか時間切れになれば皆さんの負けとなります。」
アベルは淡々とルールを説明していくが、そこで勇吾達はある疑問を抱いた。
「――――私達だと?」
「ええ、丈君にはとっくに気付かれてますが、皆さん全員に分かるように説明した方が良いですね。」
そう言うと、アベルは胸元から1つの青い仮面を取り出す。そして取り出した仮面を自分の顔に当てると、少しん大きめの声で『その名』を呟いた。
『―――――イェグディエル。』
次の瞬間、アベルを包んでいた光の柱が弾け、閃光弾のように周囲一帯を青い光で飲み込んでいった。
視界が利かない中、勇吾は僅かに明けた目でアベルがいる場所を見て再び息を飲む。ぼやけて映るアベルの陰から―――――――――
―――――アベルの背中から、10枚以上の翼が生えていた。
・馬鹿はバカですが頭はいいです。
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