第44話 2つの事件
・総合ユニーク2000突破しました。読んでくださる皆さんのお蔭でここまで書けてこれました。今後も当作品をよろしくお願いします。
「――――――――殺人!?」
勇吾と慎哉の元にミレーナからの連絡が届いたのは、勇吾が《スローワールド》を解除してからすぐのことだった。
亮介と接触した後、2人は困惑気味の亮介を落ち着かせながら事情を説明し始めた。最初に自己紹介を済ませ、自分達が亮介をはじめとする『覚醒者』を捜していた事とその理由、名古屋近辺で同じような事件が同じ日に発生している事などを説明していった。
幸いと言うべきか、亮介は既にこちら側の事についてはある程度知識として理解していたので、勇吾達の話にもすぐに理解を示してくれた。
その後、次は亮介から『覚醒者』になった経緯についての話を聞き、その内容が良則達からの情報と符合したことから、勇吾達もすぐに彼の話を信用する事が出来た。さらに、話を進めていくにつれ、彼は他の『覚醒者』と比較すると、僅かな差ではあるが仮面の男と沢山言葉を交わしていた事が発覚し、そこで男の喋った『ある言葉』から、勇吾はある確信を得る事が出来た。なお、亮介の能力の話なった際、慎哉は何時もの様に「チートじゃん!」と興奮した。
内部時間で1時間ほど話した後、お互いの連絡先を交換してから《スローワールド》を解除し、その後は勇吾の《空術》による瞬間移動で亮介の部屋を去ろうとした時だった。突然、目の前にPSが展開し、【緊急】と表示されたメールが勇吾達の前に現れ、冒頭に戻る訳である。
「おい勇吾、殺人って何だよ!?誰からのメールだ!?」
「――――ミレーナからだ。覚醒者のいた家で夫婦が魔法で殺害されてたのを発見したそうだ。覚醒者の方は無事に保護したが、犯人についてはまだ不明だと書いてある。あと、大きな声を上げるな。」
周囲が重い空気に包まれ、一緒に聞いていた亮介の表情にも緊張が現れる。おそらく、同じメールを受け取った全員が同じ空気に包まれているのだろう。
勇吾は送られてきたメールの内容を何度も読み直し、頭の中でこれまでに集まっている情報と照らし合わせながら状況を整理していく。
重い空気が続く中、状況が全く読めない事に耐えられなくなった亮介は勇吾に問いかけた。
「あ、あのう!何が起きてるんですか?」
亮介が緊張した声で問いかけると、勇吾は思考を一度切り替えて彼の方へ体を向けた。
「―――――ああ、勝手に進めてたな、悪かった。」
「俺も知りたいんだけど?」
「分かってる。今から説明するから黙ってろ。下には亮介の親も居るんだぞ。」
「あ、それなら大丈夫です!母はドラマに夢中になると夕方まで他の音は聞こえなくなってしまいますから。」
「うわぁ~~!うちの親と同じだな!」
「――――脱線しそうだから勝手に始めるぞ。ついさっき、市内のあるマンションの一室で殺害された夫婦の遺体が発見された――――――」
勇吾は、自分が分かっている範囲の事件の情報を2人に話し始めた。遺体発見時の様子や、被害者が虐待を行っていた話になると、2人とも顔を青くしていったが、勇吾は途中で止めずに最後まで話していった。そして異空間で姉妹が保護された話になると揃って安心していた。
「―――で、警察はもう呼んだのか?」
「いや、遺体が石英の中に閉じ込められている状態で呼べばそれだけで騒ぎになるし、そもそも、何で2人が家の中に入ったのか訊かれる可能性が高い。その辺の準備が終わるまではすぐに呼べないだろうな。多分、同じメールを受け取った良則達が現場に向かっているはずだ。」
「あのう、その犯人は僕と同じ――――――」
同じ覚醒者が犯人なのか、と訊こうとする亮介に、勇吾は最後まで言う前に首を振ってそれを否定した。
「その可能性は極めて低い。全員確認したわけじゃないから絶対とは言えないが、仮面の男と遭遇した人物は皆何かしらの苦労や努力を積み重ねている未成年者ばかりだ。誰かに殺意や憎悪、負の感情を抱いている人物は1人もいない。それに、覚醒者達の能力の全てが攻撃力を持たないものばかりだった事からも、犯人は亮介達と同じ覚醒者じゃないだろう。おそらく、俺達が追っている件とは別の事件だ!」
「別の事件・・・・?」
「もしかして、異世界人なのか!?」
慎哉の問いに、勇吾はまだ分からないと言った表情をした。
「それはまだ何も言えないな。今言えるのは、俺達以外の異世界人が少なくとも1人は名古屋に来ていて、そいつは同じ日に10人以上の覚醒者を生み出しているという事だけだ。」
まるで分からない事が多かった。
同じ日に覚醒者を生み出した『青い仮面の男』、その男の正体と目的――――
覚醒者の姉妹の家で夫婦を魔法で殺害した男――――――――
ほぼ同じ時期に発生した2つの事件、直接関係があるとは思えない。しかし、偶然では簡単に片づける事も出来なかった。
「・・・・・・・・・・・。」
「勇吾?」
「勇吾さん?」
勇吾は再び頭の中で状況の整理をし始めていた。
最初は馬鹿の気まぐれで名古屋に来た事から始まり、その後にライが持ってきた厄介な神からの正式な冒険者への依頼、そこから覚醒者探しが始まって――――――――――。
そこで、勇吾はある事実に気付いた。
「――――――――やられた!!」
「な、どうしたんだよ!?」
「慎哉、俺達は何で覚醒者探しをしていたか覚えているか?」
「え?何でって、最初はライが持ってきた厄介事がギルドからの正式な依頼としてきたからじゃねえの?」
「その依頼は誰が何で出した?」
「それって、スサノオが名古屋に・・・・・・・・・・ああ!!」
勇吾の問いに答えていくうちに、慎哉は勇吾が何を言いたいのか気付いた。
1人だけ何の事だか分からない亮介は、2人を交互に見ていた。
「―――――俺達に依頼を出したのはスサノオ、日本神話の中でも上位の神の1人だ。今回、スサノオはこの町に侵入者が現れ、そいつが覚醒者をたくさん生み出した事にも気付いてその調査と解決をライを通して俺達にさせようとしている。一昨日に発生した事件をだ!」
「それっておかしいだろ?神様ならすぐに気付いて、ライやギルドに連絡する事はできたんじゃねえのか?大雑把だったけど、覚醒者全員の居場所まで知ってたんだぜ!」
勇吾だけじゃなく、慎哉も興奮しながら話し始める。
「考えてみれば、ライの知り合いの神の時点で胡散臭いと思うべきだったな。スサノオの奴、本当は覚醒者の件はすっ呆けるつもりだったんだろう。けど、そのすぐ後に別の事件が起きてしまった。しかも、覚醒者の姉妹の家での殺人事件だ。それとこれはおそらくだが、殺人の方の犯人の方は本当に分からなかったんだろうな。こっちの事件には、間違いなくスサノオクラスの神を欺く程の大物が関わっている!」
「けど、メールの内容からしても、スサノオの性格ってアレだよな?きっと、素直に本当の事は言えないから、覚醒者の調査を依頼にしたんだぜ!」
「覚醒者の件を調査すれば、必ず殺人の方も調べる事になると踏んでたんだろう。本当の依頼は『青い仮面の男』の調査じゃなく、神すら欺く『殺人犯』の方だったと言う訳だ。」
勇吾はすごく不機嫌そうな顔で話していく。慎哉も似たような顔をし、自分達が神様にいいように使われていた事に不愉快そうに感じていた。
その様子を黙って見ていた亮介は、どう反応したらいいのか迷っていた。
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数時間後、勇吾達はまだ名古屋に留まっていた。
時刻は夕方、あの後、勇吾と慎哉は一度亮介と別れて仲間達と合流していた。
「しっかし、結局殺人の方は進展なしか。」
トレンツはコーラを飲みながらポヤいていた。
現在、勇吾達は市内のファミレスの中にいた。夕食時には少し早いのでドリンクのみを注文し、今までに分かっている情報を互いに共有しあっていた。
しかし、殺人事件についてはほとんど警察任せだった。あの後、勇吾達も誰にも見られないように犯行現場に集まり、魔法を駆使して調査を行ったがミレーナ以上の事は分からなかった。
仕方なく、良則が遺体にかけられた石英の魔法を強制解除し、姉妹には予め用意しておいた粗筋通りに警察に話すように言い含めておいた。
その後、匿名の通報で警察が到着して姉妹は保護され、今は近くの病院で診察を受けている。
『仮面の男』についても同時に調査をしていったが、こちらもほとんど足取りを追う事はできなかった。年の為、発見した覚醒者達のアリバイも確認していったが、全員がシロだと判明したため、2つの事件が別件であることが確定した。
「いやあ、まさか俺まで欺かれるとは思ってなかったぜ。」
ハハハ、と笑いながらライは苦笑する。彼も一応神であり、今回の件では『殺人犯』に気付けなかった神の1柱でもあった。
「本当に知らなかったの?」
「ああ、何か強い奴が数人日本にいるのは感じてはいたんだぜ?けど、その中の1人が俺らの目を欺いて殺人やってたのには、さっき気付いたばかりなのは嘘じゃないぜ。」
「神を何人も騙すって、どんだけ強いんだよ?」
「少なくとも、俺らの中で言えば良則と馬鹿にしかできないわね。て言うか、馬鹿は実際に騙しまくってるし・・・・。」
「マジで?」
「マジだぜ?異世界の神からの被害届けとかも出て、俺らの国じゃワイドショーにもなって大騒ぎだったしな!」
トレンツが笑いながら言うと、勇吾や良則は嫌な思い出を思い出して顔を引き吊らせていた。
リサやミレーナも複雑そうに苦笑しながら、その馬鹿の方を向く。そこには、ストローをくわえた「はち丸」が座っていた。
「「「「「・・・・・・・・。」」」」」
数秒間、ファミレスの一角に沈黙が生まれた。
「おい、馬鹿はドコ行った?」
勇吾は今にもブチギレしそうな声でその場にいる全員に問いかける。
「さっきまでいたよな?」
「うん、そこでクリームソーダを飲んでたの見てたし・・・・。」
琥太郎の答えに、他も首を縦に振りながら同意する。そこには確かに馬鹿が座っていたが、何時の間にかゆるキャラのぬいぐるみに入れ替わっていた。
ライは頭に手を乗せながら、やられたと言いたそうな顔をしながら笑い始めた。
そんな中、良則が何かに気付いたかのように声を上げる。
「あ!もしかして、1人で『仮面の男』を捜しに行ったのかも!?」
あくまで良則個人の直感だったが、彼の直感の鋭さを知る幼馴染み達はすぐに馬鹿の魔力の追跡を始めた。しかし、いつもの悪知恵を働かせているのか、勇吾やトレンツの探知魔法の網にはどちらも引っかかる事はなかった。
「―――――駄目だ!俺の網には引っかからねえ!」
「―――――私も!」
「良則、お前ならどうだ!?」
「待って、今やるから!」
勇吾に言われ、良則は目を閉じながら探知魔法で自分の感覚を半径数十kmまで拡大していく。良則の探知は数万、数十万と大勢の人間の魔力を判別してゆき、その中のひとつ、巧妙に自身の魔力を一般人レベルに偽装して市街を移動する馬鹿を捉えた。
「――――いた!!」
「よし、ひっ捕らえるぞ!!」
勇吾は立ち上がって外に出ようとする。
だが、それに良則が待ったを掛けた。
「待って!他に誰か・・・・うっ!?」
「どうした!?」
突然、良則は頭痛でも起きたかのように頭を手で押さえた。
「・・・・・魔法を弾かれた。丈じゃなくて、もっと強い別の誰かに―――――!」
「なっ―――――!?」
勇吾は絶句した。
勇吾の知る限り、良則は同年代の中では間違いなくトップクラス、世界全体で見ても規格外と呼ばれてしまうほどの実力者である。その彼の魔法を弾く者など、勇吾の知る限りでは馬鹿を含めた彼の親族か、または間違いなく最強クラスの猛者達のみである。
現在、この町に相当な実力者がいる事は勇吾達にも予想できた。だが、良則の魔法を弾き、なおかつ彼に馬鹿よりももっと強いと言わせるとなると―――――――。
「――――クソッ!」
「勇吾!?」
「良則、場所を教えろ!」
「――――うん!!」
「ちょっと、2人とも落ち着きなさいよ!!」
勇吾と良則が立ち上がり、そのまま外へ出ようとする。
リサは慌てて止めようとするが、2人は止まらずにファミレスから出ていった。
「行っちまったぞ?」
「ったく、しょうがない奴らだな。俺らも行くか!」
「おう!あ、ここの代金、誰が払うんだ?」
「ハア、私が払っておくから先に行って!」
ミレーナが財布を出しながら言うと、トレンツと慎哉を先頭にして他のメンバーもそれに続いていく。ライだけは何だか意味深な笑みを浮かべていたが、誰もそれに気付く事無くファミレスを後にしていった。
ファミレスを後にし、一同は先に出ていった勇吾と良則を探すが、街には大勢の人で溢れていて2人の姿を視認するのは難しかった。
「トレンツ、2人の魔力は追えてる?」
「モチ!あっちの方に向かってるぜ!」
トレンツがある方角を指すと、一同はその方角へ走り出そうとした。
その時――――――――
ピシッ――――――――!
「「「――――――!?」」」
ガラスが割れるような音が走った瞬間、街の景色が一変した。
さっきまで視界を埋め尽くすほどの群衆が一瞬で目の前から消え、車等の騒音も消えて周囲一帯が静けさに包まれた。
「―――――これって!」
「――――《スローワールド》か!?」
それは、勇吾が使う異空間にも似ていた。
しかし、そこにいた全員が直感的に『別物』であると悟った。
「―――おい!あれ見ろ!!」
不意に晴翔が声を上げ、ある方向を指を指しだした。全員がその方向を見ると、そこには一本の光の柱が空を貫くように立っていた。
それは、青空のような青い光だった――――――――――――
・スサノオの神話は八岐大蛇退治が有名ですが、全体で見ればよからぬ話の方が圧倒的に多いですね。お姉さんもいろいろ苦労させられていたみたいです。
・はち丸は名古屋のゆるキャラです。普段は名古屋城周辺に出没しちぇいるそうです。風呂敷を背負った殿様を見たら握手しましょう。




