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第452話 接敵

――日本海上空――


 暗い雲海の上を幾つもの巨影が音も無く奔る。

 音速を超えているにも拘らず周囲に衝撃などの影響などを微塵も与えずに移動するそれらは進行方向の策に見える、空を覆い尽くそうとする巨大な大蛇の姿を確認、減速する処か更に加速していく。中でも先頭を奔るそれは後続を引き離す勢いで突き進んでいく。

 しかし次の瞬間、大蛇の方に変化が生じる。


〈――――感付かれたな〉

〈撃て!〉


 直後、巨影――――黒王(ヘイウォン)の真上から紫電の嵐が襲い掛かってきた。

 だが同時に、黒王は眼前の大蛇に向けて息吹(ブレス)を放つ。最大限界出力で放たれたそれは一筋の光線(レーザー)となって空を裂きながら大蛇の胴体に直撃する。


――――カッッッ!!!!


 刹那の閃光の後、巨大隕石が落下したかのような轟音が空を飲み込んだ。

 遅れて衝撃波が襲い掛かる。大気の急膨張と魔力の発散による二重の衝撃は音速を優に超え、空や地上ごと黒王を飲み込み破壊しようとするが、途中で不可視の壁に阻まれて黒王は勿論の事、地上にも及ぶことは無かった。

 紫電の嵐もまた何かに阻まれて直撃する事は無かったが、止んだ直後にガラスが砕けるような音を立てながら阻んでいたものは砕け散った。


「……今ので無傷か」

『……』


 黒王の頭上で勇吾は呟く。

 彼の視線の先では巨大な大蛇――――『天界神』天之常立神(アメノトコタチ)がまるで何も無かったかのように無傷の姿で佇んでいた。

 無論、手加減は一切していなかった。黒王の放った息吹は地上に向ければ大地どころか星そのものを抉る程の威力が込められていたのだが、実際には相手の体を抉るどころか傷一つ付けられない結果に終わっていた。


(何重もの障壁や結界は全て貫通した。けど、直撃前に威力が減衰させられた?)


 勇吾は目の前の状況を瞬時に分析していく。

 天之常立神の周囲には100を超える障壁や結界が展開させられていたが黒王の息吹はそれらを全て貫通させている。その際に威力を僅かに殺されはしたが、それでも直撃すれば高位の神を消滅させるほどの威力はあった筈だった。だが効かなかった。

 それに直撃時の爆発と衝撃は当初の想定よりも小さい。だとすれば障壁を突破してから直撃するまでの刹那の間に威力が殺されたと推測された。


(だが、それでも無傷の理由には少し乏しい………っ!!)


 分析は途中で遮られた。

 加速させていた勇吾の思考速度でさえ余裕を与えない速さで敵の第二撃が迫ってきたのだ。



――――黒鳴神(くろなるかみ)



 先程のとは比較にならない規模の雷の嵐が襲い掛かってきた。

 勇吾と黒王だけでなく、後続の者達、それどころか半径300㎞の範囲の全てを焼き尽くすが如く猛威を奮い、閃光と轟音、そして衝撃が空を蹂躙していった。

 それが10秒近く続く。


「『――――――ッ!!』」


 その間、凄まじい猛攻に勇吾達は耐え続けた。

 だが、一方的に守りに徹していた訳ではない。守っている間にも横から攻めてくる“敵”にも対処しなければならない。

 勇吾達が広範囲攻撃に耐えている間にも横から襲ってくる数多の攻撃、それらを迎撃しながら尚且つ姿を消している“敵”を散らしていった。


(50……いや、80は居るな)


 天変地異に等しい暴力に曝されながら勇吾は思考を更に加速させて分析を再開する。

 攻撃を仕掛けてきている“敵”の姿は視認できない。だが、攻撃の種類やパターンなどから大体の人数は把握する事が出来る。そしてその情報をリアルタイムで仲間と共有させていく。

 そして雷撃が止むと同時に反撃に移った。


「行け!」


 勇吾の掛け声と共に彼の背後から幾つもの影が飛び出す。

 同時に敵側にも微かな気配の揺れが生じ、大きく3つに別れたのがわかった。1つは飛び出した影に反応して追いかける気配。2つ目は後方に退く気配。そして3つ目は全く動じない気配だった。

 ()()()それを見逃さず、各々で最善の行動へと移っていった。


――――冬神の世界(エターナル・ホワイト)


 大寒波が生まれ空一面を一瞬にして凍てつかせていく。

 一面を白一色に染め上げる冷気は勇吾達以外の全てに縛り付き、その動きを急速に減衰させながら純白の氷像にするべく浸蝕していった、


――――天翔ける幾千の流星(ホーミング・メテオ)


 無数の綺羅星が白一色となった世界に降り注いでいく。

 不規則な軌道を描き、星々は不可視の“敵”を捉え牙を剥いていった。


――――神龍爪衝(ネイル・ストローク)


 紺碧の龍が飛び出し動かぬ“敵”へと鋭利な爪を振り下ろす。

 凍てついた世界に衝撃と轟音が生まれた。


――――千影万刃


 勇吾の背後から飛び出した千の影、それらが次の瞬間に十倍もの数の刃へと変化する。

 万に増えた刃は自らを追尾してきた“敵”へと無慈悲に襲い掛かっていった。


――――夢へ誘う風(ヒュプノス・ゲイル)


 勇吾達の反撃の前に不可視の“敵”にも一部に隙が生まれる。

 そこに場違いなほどに温かく心地好い風が空一面を満たしていった。


「「…………ッ!?」」


 勇吾からしても明らかに動揺している気配が感じ取れた。

 最後に放たれた心地良い風――――彼の後方にいるリサと風龍ゼフィーラによる肉体と精神を強制的に休眠状態へと誘導する精神攻撃によって心身の均衡を大きく崩されたからだ。お蔭で気配は大きく乱れてより正確な“敵”の位置を捉える事が出来た。


(――――そこだ!)


 狙いを定め、勇吾は跳んだ。

 布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)を揮い、漆黒の剣閃が乱舞する。


「がっ!!??」

「ぐわっ!?」

「ギャッ!!」

「……チッ!!」


 1秒に満たない間で5人以上の“敵”を斬り捨てた。

 だが、何人かは勇吾の剣を避け、或いは凌ぎ切った者が居て直ぐに反撃に移っていた。弾丸、光線、拳撃、戦慣れしている事が一目れ見て取れる攻撃が一斉に勇吾に襲い掛かるが、勇吾はそれらを一瞥するだけで迎撃する素振りはしなかった。必要が無かったのだ。



()()



 黒い重力波が生き延びた“敵”の全てを()()()()()

 重力を受けた“敵”は問答無用で遥か下の海面に激突し、そのまま海底へと全身を叩きつけられて沈黙したのだった。


『雑兵は粗方片付いたようだ』


 漆黒の魔力を纏いながら、黒王は周囲を見回す。

 不可視状態で襲ってきた“敵”――――『創世の蛇』の戦闘員らはその殆どが勇吾達の手によって沈黙していた。

 黒王が放った重力攻撃で海底に叩きつけられた者達以外は、勇吾によって斬り捨てられ、トレンツやアルバスによって氷漬け、良則によって撃墜、レアンデルに屠られ、リサとゼフィーラによって無力化させられるなどして片付けられていた。

 あの雷撃の嵐から約20秒、激しい戦場と化していた空の世界に僅かな静寂が戻っていた。

 だが、そこには静寂には似つかわしくない巨大な存在が、今だ眼前に存在していた。


「……不気味なほど何もしてこないな?」

『だが、奴の()()()()()は間違いなく此方に向いている。刹那も警戒を解くな』


 眼前の空を覆うほどの大蛇――――『天界神』天之常立神を前に更に30秒ほどの膠着状態が続いたが、相手は未だに次の攻撃を仕掛けては来なかった。

 その間にも地上の方から戦闘の気配が幾つも伝わってくる。日本は勿論、地球上の至る所で『創世の蛇』との戦闘が始まっているのだ。

 日本国内は慎哉を始めとした日本人組が対処しており、それ以外の処では此処には居ない第二班が()()()()()に対処しているので、勇吾達は“本命”に集中する事が出来るのだ。

 そして目の前に、その“本命”の1つが居る。



『――――何時までそうしているつもりだ。―――の制約を破り、世の理を犯せし()よ』



 膠着状態を破ったのは白の龍皇(アルビオン)だった。

 アルビオンは黒王の前に出ると、天之常立神に向けて話しかける。その声は普段とは異なる空気を纏っており、一体に深く染み渡っていくようだった。

 そして、アルビオンの声に対し―――――それは答えた。






『――――――――あくまで調()()()()()()か。忌むべき秩序に組せし……旧き白の皇よ』









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