第445話 プロローグ1
大分お待たせしました。
最後の更新から1年近くなったので少しずつ更新していきたいと思います。
――???――
『………アルビオンか?』
『やはり此処に居たか』
四方八方を暗闇に覆われた空間、終わり無き無と静寂が支配する世界に純白の光が降ってきて無の闇に溶け込んでいた存在――――『黒の龍王』黒王に話しかける。
『あれから早5日、此処では何年の時が過ぎているか……未だ、此処に居続けるのか?』
石像のように闇に溶け込む黒王に、『白の龍皇』アルビオンは呆れを込めた声で問いかける。
外界から隔絶されたこの闇の世界は時の流れも異なる。外界では5日しか経ってなくても、この世界では何年もの月日が経過していたのだ。否、もしかすると何十年かもしれない。
『――――罪に対する相応の罰だ』
質問に対して、黒王は簡潔に答えた。
『鬼神』オウキ=カグラマとの戦いから日本時間で5日、彼の戦いで禁忌を犯し『黒の龍神』本体を現世に召喚した黒王はその全ての責任を負ってこの「黒き久遠の牢獄」に投獄されていた。
黒の氏族の技術の粋を投じて創られたこの牢獄からは外部から開けて貰わない限りは脱出は不可能、過去に投獄された龍族は誰一人として脱獄する事は出来ず、何時終わると知れない孤独の闇の中で精神だけでなく魂をも疲弊させ消えていった者も多かった。
謂わば龍族の重罪人専用の牢獄であり、龍族全氏族共通の禁忌である「龍神召喚」をやらかした黒王はあの戦い翌日、自らの氏族の郷里に戻り仔細を同胞達に報告、隠居している元・龍王達も交えた裁きの儀の末に投獄され今日に至るのだが、アルビオンは中々出て来ようとしない黒王に業を煮やして様子を見に来たのだった。
『黒の氏族の総意で決まった投獄期間は既に過ぎている。あの禁術は始祖を危険に脅かす重大な禁忌だが、神々の取り決めである制約が解かれた今となっては、禁忌に対する罰もそこまで厳しいものでは無くなった』
『だが、明らかに危険な場所に召喚した。あの場に居た『鬼神』が相手では万が一どころか百に一は有り得た筈だ』
『それは否定しない。あが、これはケジメだ。そう易々と覆す訳にはいかない』
『先日の件で飛龍氏族からも減刑を嘆願が来ている。他にも“金”、“銀”、“黄”、“赤”からも。無論、我らもだが』
『……』
黒王の罪に対する抗議は氏族の壁を越えて集まっていた。
本来ならば永久投獄も避けられない禁忌だったが、数十年不在だった『天嵐の飛龍王』の復帰にも貢献し、悪名高い『創世の蛇』の大幹部を追い詰めた功績などから飛龍氏族を始め、数多くの氏族から減刑を求める声が出ていた。
本来ならばどれ程嘆願が集まろうとも減刑は認められないのだが、今回に限って言えば前例の無い事が続いている為、黒の氏族内でも意見が揺らいでいた。
それに加え、鶴の一声とも言える“有り得ない託宣”があった。
『――――『龍神』からの御声があった』
『……クロウ・クルワッハか?』
『ほぼ全員からだ』
『!!』
有り得ない事実に、黒王は今度こそ唖然となった。
今回の処罰に対して龍族の頂点である『龍神』が動く事自体は黒王も想定している。特に『黒の龍神』に加え、あの戦いに参戦した『金の龍神』クロウ・クルワッハが何かしらの動きを見せる事は想定内だった。あと加えるならば『銀の龍神』応龍だ。
だが、それ等以外の『龍神』が他の氏族の龍王に干渉してくるなど想定の埒外だった。
しかもアルビオンの口振りからして冗談ではないのだろう。
『明確に告げられた訳ではないが……「此度の件、好きにしろ」という内容が各氏族に伝えられている。龍神達も、この時期にお前を失うのを避けたいようだ』
『……』
『既に《盟主》の封印は全て解かれ、奴らは完全なる復活を遂げている。龍神を含めた神々の参戦には未だ制限がある以上、龍族の最大戦力は我等“王”だ。黒の氏族だけ“王”を欠かす訳にはいかないという神意だろう』
『俺の代わりは居るだろう。弟ならば龍王として申し分はない。それに、今の勇吾達ならば従兄上を再起させる事も可能だ』
『これ以上無駄な話は止そう。結論を言う。今回の禁術使用の件、特例中の特例により一応不問、当代『黒の龍王』は今すぐに牢獄を出た後、契約者と合流し“決戦”に備えよ』
『アルビオン……』
『そういう事だ。理解したなら直ぐに此処を出ろ。既に皆は決戦に向けて準備を始めている。お前だけ遅れる事は許さん』
その言葉を最後にアルビオンの気配は白光と共に牢獄の中から消失した。
再び静寂が戻った闇の世界に取り残された黒王は呆然としたまま固まっていたが、暫くすると溜息を吐きながら重い巨体を起こし始める。
久しく動かしていない巨体は微塵の違和感を見せる事無く起き上がり、暗闇の中でも光を見せる黒眼は暗闇の奥よりも遥か遠くを見つめていた。
『…………誰の書いた筋書なのだろうな?』
黒王の呟きは暗闇の中に消えていく。
白の龍皇は何も言わなかったがこれはあまりにも都合の良すぎる流れだった。龍族ならば子供でも知っている掟を覆す様な特例、それに賛同する古参の龍王、黒王には予め用意された“筋書”があったのではと疑っていた。まだ若輩者である彼には知らされていない「暗黙のルール」が存在するのではと。
『考えるだけ無駄か』
首を横に不利ながら疑問を振り払う。
例えそうだったとしてもそれを問い質す事が今すべきことではない。今はただ、この処遇に感謝しつつ外で待ち続けているであろう者達のもとへと向かうのが優先すべきだ。
そして、黒王は両翼を大きく羽搏かせながら飛翔する。
それと同時に暗闇の世界の中を暴風が吹き荒れ一筋の光が差し込み、飛翔した黒王を導くように光の道を創りだしていった。
『――――待っていろ』
それは誰に向けた言葉なのか。
黒王はその眼にある覚悟を宿し、暗闇の世界を後にする。
かくして最も新しい『龍王』は再び戦地へと赴く事になる。
今世に一つの決着を迎える大いなる戦の舞台へ―――――
これは、ひとつの物語の最後の戦いの一部始終である。




