第43話 美緒と藍
・本日最初の投稿です。
・年末年始の投稿はどうするか検討中です。流石に、毎日2話投稿はきついのですから。
殺人現場となったマンションの一室にいたミレーナと琥太郎は、被害者の夫婦の子供の捜索を行っていた。
リビングから風呂場、トイレ、夫婦の寝室を別れて探すが誰もいなかっ
た。最後に残った部屋を探そうとすると、そこのドアは酷く傷だらけだった。
ドアのあちこちがガムテープで補修され、ドアの周りの傷跡から見ても、殺人犯が付けた者ではない事は一目で分かった。
「これって――――――――!」
「DV・・・・でしょうね。」
おそらくは殺された男性がやったのであろう。あまりに痛々しく映るドアのノブを握り、ゆっくりと開けていく。その中はドア同様に、子供部屋と言うには痛々しい部屋だった。壁中に物をぶつけてできたと思える傷跡がそこら中にあり、部屋の隅に敷かれた布団や枕も所々が破かれていた。
「酷い・・・・・!」
「枕は2つあるわ。1つの布団を2人で共有していたみたいね。あの男、生きてたら私が半殺しにしてるわ!」
死体はないが、あまりに凄惨な部屋の光景に琥太郎は顔を真っ青にし、ミレーナは憤りを感じていた。
その後、2人は部屋の襖の中も調べるがやはり誰もいなかった。
「ねえ、もしかして殺した犯人って・・・・・。」
琥太郎の頭に恐ろしい想像が生まれそうになった。
『覚醒者』を探してきた家で起きた殺人、魔法で作られた石英、虐待を受けていた2人の子供、これらから連想されるのは1つしかなかった。
だが、ミレーナはそれをすぐに否定した。
「――――それはないわ!玄関の靴は小学生以下の女の子用の物だし、子供が犯人なら靴が残っている説明はできないわ。親を殺した子供が、死体の発見を遅らせる細工もする余裕があったのに靴を履かないで逃げるなんて辻褄が合わないわ。それに、あの石英に残っていた残留魔力を念の為調べたけど、あの魔力は男性のものよ!」
「えっ!そこまで分かるの!?」
「修業すればね。魔力にも老若男女でそれぞれ特徴があるのよ。あれは、若い男性の魔力、多分私達と年の近い人間だと思うわ。」
ミレーナは簡単そうに言ったが、実は彼女が言うよりも高度な技術だったりする。ミレーナは戦闘能力自体は低いものの、それが気にならない程の分析力を有している。これは《ステータス》だけでは確認できない部分であり、一緒にいる勇吾達だからこそ見抜ける彼女の長所の1つなのである。
「ミレーナって、僕と同い年生まれなのに凄いなあ。」
「―――――まあ、良則とかと比べたら霞んじゃうけどね・・・・・。」
「あ、そんな意味で言ったんじゃ・・・・・・あ!じゃあ、この家の子供達はまだ居るって事かな!?」
少し暗くなって苦笑するミレーナに慌てた琥太郎は、急いで話題を戻した。
「――――ええ、だけど他に探していない場所は・・・・・・・あ!待って!!」
「どうしたの!?」
部屋の中を何度も見渡したミレーナは、部屋の隅に注目すると急いでその場所に駆け寄った。そこはボロボロの布団が敷かれた場所のすぐ傍の壁があり、ミレーナはその壁を何度も触ると何かを確信したかのように琥太郎を呼び寄せた。
「ここ、触ってみて?」
ミレーナは壁のある箇所に触れながら、琥太郎にも同じように触らせた。すると、琥太郎の手に違和感が伝わってきた。
「・・・・・コレ!?」
「そう、異空間の入り口よ!」
只の壁に見えたそれは、最近は琥太郎も毎日触れている異空間へ続く入口だった。
「コレ、中からロックされているから、中に誰かいても外からじゃ普通は気付かなかったでしょうね。」
「そっか、僕の家にある出入口と同じ・・・・!」
もし、馬鹿が勝手に作ったガーデンへの出入口を琥太郎が使ってなければ、彼は壁に触っても気付く事はなかったかもしれない。
ミレーナは、驚愕する琥太郎の横で内側からロックされた異空間への入口を強引にでも開けようとしていた。
すると、少し強めに魔力を込めてみると、意外と呆気なく入口は開いた。
「あ、開いた!」
「え、もう!?」
手際の良さに驚く琥太郎だが、これは馬鹿がバカやった時にいつも異空間に逃亡していたため、彼の幼馴染みは全員嫌でも身についてしまった技術なのである。
「じゃあ、中に入るわよ?」
「う、うん!」
ミレーナを先頭に、2人は異空間の中へ入って行った。
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「えっ!?」
外から入口が開けられた事に、この場所の主である佐々木美緒は瞬時に気付いた。
彼女は隣でぬいぐるみで無邪気に遊んでいる妹の手を握り、必死に抱きしめあげた。
「お姉ちゃん?」
「大丈夫だからね。藍はお姉ちゃんが守るから!」
美緒はポカンとしている妹の藍を抱きしめながら部屋の隅へと隠れようとした。
あの夜、青い仮面の男によって彼女達は『覚醒者』となった。姉の美緒はすぐにそれを理解したが、まだ幼い妹の藍はほとんどその自覚はない。実際、この空間を創ったのは美緒の力であり、藍はまだ自分の力を一度も使っていなかった。
美緒の力、それは『どこにでも出入りできる秘密基地』だった。入口を美緒の意思で好きな所に作る事ができ、家の中からでも外出先からでも自由にこの異空間に出入りする事ができる。また、外に出る時も、行った事のある場所になら何所にでも出る事ができるのである。さらには、この中では心身の疲労の回復が早くなる効果もあった。
何故こう言う力が自分に目覚めたのか、美緒はすぐに理解できた。
美緒と藍の姉妹は父親の虐待に苦しめられていた。父親と言っても実の父ではなく、母親が数年前に再婚した義理の父親だった。再婚した当初は、特に問題ない日々が続いていたが、ある日を境に義父は美緒に暴力を振るようになった。最初は母親も止めに入ったが、義父への恐怖心と依存心のせいで次第に見て見ぬふりをするようになった。
『お姉ちゃんが守るからね!』
誰も頼れない中、美緒はただ必死に妹を守る事だけ考えてきた。
そんなある日の夜、何の前触れもなく青い仮面の男は姉妹の前に現れた。
『―――こんばんわ。』
『――――ッ!!??』
突然現れた男に対し、義父からの虐待で大人の男性に過敏になっていた美緒は恐怖に襲われ、眠っている妹を守るように抱きしめた。
『やめて!いい子にするから妹には――――――!!』
思わず、毎日義父に言っている言葉を叫ぶ美緒。全身を震わせながら部屋の隅に逃げようとするが、男は現れた場所から一歩も動かず優しい声をかけてきた。
『―――大丈夫です。あなたも妹も変われる時がきました。』
その後の事は美緒もハッキリとは覚えていない。ただ、優しく抱きしめられたような感覚した後、自分に特別な力が生まれた自覚とその使い方についての知識が頭の中に刻まれた事だけ不思議と理解できたのだった。
男が何時の間にか去った後、部屋の外から義父が帰宅する声が聞こえ、美緒は咄嗟に手に入れたばかりの力を発動させた。部屋の隅に入口を開き、その中に眠っている妹と共に中に入ってすぐ入口を閉じた。そしてそのまま2日近く中に閉じこもっていたのだった。
(安全な場所・・・・・。)
その空間は、美緒が虐待に耐える中で望んでいた『理想の逃げ場所』だった。妹が喜びそうなオモチャが溢れ、水も食料も十分に蓄えられている夢のような場所だった。
朝になって目を覚ました藍は、すぐにはしゃぎ出して美緒と一緒に遊び始めたのだった。外で何が起きているのか知らずに――――――。
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「誰かいますか?」
「――――――!」
入口の方から知らない人の声が聞こえた途端、美緒は全身に恐怖が走るのを感じた。義父ではないが男の人の声、美緒は震えながら藍を抱きしめ、部屋の隅のオモチャの陰に隠れる。
幾つかの足音が近づき、美緒は目を閉じながら足音の主がいなくなるのを願った。
「――――――――大丈夫?」
「!!」
声は耳元から聞こえてきた。
美緒はビクッとしながら恐る恐る目を開けると、そこには優しそうな顔をした少年の姿があった。
「だ・・・・誰!?」
「―――大丈夫、君達を助けに来たよ!」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「・・・・お姉ちゃん、泣いてるの?」
「え・・・・・・?」
腕の中で藍が不思議そうな顔で姉の顔を見つめる。何時の間にか、美緒の眼からは大粒の涙が零れ出していたのだった。
一度自覚すると、零れ出した涙は更に多く流れだし、自分では止められなくなっていった。
「あ・・ああ・・・・うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!!」
美緒は糸が切れたかのように心の底から泣き出し始めた。
目の前の女の子、まだ10歳にも満たない様な小さい女の子とさらに幼い女の子を見つけた時、琥太郎は思わず「助けに来たよ。」と声をかけていた。
特に考えて言った訳ではなかったが、琥太郎の声を聞いた途端、大きい方の女の子が声を上げて泣き始めた。
「―――罪な男ね・・・・。」
「ご、誤解を招くこと言わないでって!!」
後ろで冗談交じりに言うミレーナに反論しつつ、琥太郎は泣き出した女の子、、美緒をそっと優しく抱きしめた。小さい方の女の子、藍は相変わらずキョトンとしながら美緒と琥太郎を交互に見ていた。
「取り敢えず、私はみんなに連絡しておくわね。後は、リビングの方を何とかしてから警察に通報しておかないと!」
「うん、僕はこの子達の面倒を見てるよ。」
「・・・・・・・・。」
「何?」
「別に何でもないけど、あの馬鹿がいたら―――――――――――。」
その後はあえて何も言わず、ミレーナはPSを展開してメールを作成し始めた。
ミレーナの『馬鹿』と言う単語に一抹の不安を感じつつも、琥太郎は幼い姉妹を優しく抱きしめ、美緒が泣き止むのを静かに待っていたのだった。
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琥太郎達が美緒と藍を発見したの同じ頃、名古屋郊外のとあるホテルの一室では―――――
「――――――――――見つかったようだな。」
窓辺のソファーに座っていた男は、読書をしたままおもむろに呟いた。
すると、ベットの上で携帯電話を弄っていた高校生位の少年、いや青年は眉をピクッと動かしながら男の方へ問いかけた。
「見つかっただと?」
「ああ、どうやら別件を調べていた連中が死体を見つけたようだな。すぐに警察も動きだすだろう。」
「クソッ!何だよ別件って!?聞いてねえぞ!!」
「―――――関わる気はなかったから言わなかったんだがな・・・・。」
男は本に栞を挿して閉じると、青年の方へと視線を向ける。
「長居は無用だ。すぐに名古屋を発つぞ。」
そう言うと、男は自分の荷物をまとめていく。
青年はまだ文句がありそうだったが、渋々同じように自分の荷物をまとめていった。
その後、すぐにホテルをチェックアウトし、ホテルが用意したバスに乗ってどこかへと去って行った。
幸か不幸か琥太郎とミレーナのお蔭で、勇吾達は名古屋の町で彼らと関わる事はなかったのだった。
・琥太郎はロリコンではありません。小さい女の子に懐かれ易いキャラなだけです(笑)
・ミレーナは情報系では優秀な冒険者です。




