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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第443話 エピローグ3

――《ガーデン》――


 時は数時間程遡る。


 無事に攫われた慎哉(しんや)瑛介(えいすけ)の2人の救出に成功し、地球世界に侵攻した『鬼神』の一派を退ける事に成功した一同は《ガーデン》にて全員無事に合流することが出来た。


 最初に帰還したのは今回の拉致被害者と彼らを保護した良則(よしのり)、そして「白の氏族」を率いていたアルビオン、十数分程あけてトレンツとアルバス、日本に残っていた冬弥達日本勢といった順序で続々と集まり、勇吾達が到着したのは一番最後だった。



「慎哉!!」


「冬弥!!」



 合流すると早々に、慎哉と冬弥の2人は互いの存在を見つけると互いに駆け出して再会の抱擁をしあった。



「本当に心配したんだぞ……って、何で白髪!?」


「あ、覚醒したっぽい!」


「主人公かよ!?」



 再会を喜び合う双子だが、冬弥は慎哉の容姿が黒髪から白髪に変わっている事に大いに驚き、当の本人は特に気にするでもなく軽い調子で説明していった。ちなみに、慎哉の毛髪の色は任意で変更可能であることが数分後に判明する。


 そしてもう1人、慎哉と共に救助された瑛介は落ち着きの無い仕草で誰かを待ち続けていた。無論、敵地で再会した、もう6年以上も前に事故死したと思っていた彼の実の父――その正体は人間ではなく、龍族の中でも「飛龍氏族」と呼ばれる種族の当代の龍王――のことである。


 あまりに唐突な再会だったので碌に話す事も出来なかった瑛介だったが、勇吾達が彼らを蝕んでいた「神毒」を解呪したと後になって良則達の口から聞き、可能ならば今すぐにでも飛び出して直接会いに行きたいという衝動に駆られていた。



「……」


「少しは落ち着いたら?はい、ポ〇リ」


「良則……落ち着けと言われても落着けない事くらいわかるだろ?買い物していたら拉致されて、しかも拉致された先であったのが父さんが消えた元凶の1人で、そこで頭が痛くなるような話を聞かされたと思ったら戦争が起きて唐突に行方不明だった父さんが現れたんだぞ。しかも碌に話も出来ずに慎哉と一緒にお前に抱えられて此処に連れて来られたんだからな」


「それは解っているけど、あの時は時間との勝負だったんだよ」



 足下が落ち着かない瑛介に良則がスポーツ飲料を渡すが、瑛介はこの短期間に色々とあり過ぎたせいで大分苛立っており、ヤツ当たりだと理解しながらも良則に愚痴を零していた。


 渡された飲料も一気に飲んで空にし、視線を四方八方に動かしながら全身で父親に会いたいという空気を漂わせていた。



「大丈夫だよ。シドさんもヴェントルさんも終わったら此処に来るから」


「それは、敵に勝つか生き残れたらが前提だろ?幾ら父さんが龍王でも、あの化け物が相手じゃ……」


「……『神話狩り』ペリクリス=サルマント。直接対峙したんだったね」



 強く握り締められた瑛介の手から汗が溢れ出しそうになるほど滲み出ていた。


 1日以上もの間近くにいたからこそ理解できる。


 あの『神話狩り』と呼ばれる『創世の蛇』の大幹部の異常ともいえる力量と、異常としか表現できないその存在の在り方(・・・)が。


 間違いなく瑛介が此れまで会ってきた者達の中でも最強と呼ぶにふさわしい男であり、瑛介自身はおろか、今も隣に立つ良則が逆さになっても決して敵わない相手であると確信できる。間違いなく人間の枠を超えているのだ、あの男は。


 その相手に、自分に父親とその契約者が果たして勝てるのか。瑛介は絶対の確信を持つ事だ出来なかった。


 一度は敗れた相手である以上、最悪、今度は殺されるかもしれないという最悪の未来を想像してしまう。『神話狩り』と長時間接触した事で無意識の内に疲弊しきっている彼の精神は前向きに働きにくくなっていた。


 だが、瑛介の不安を良則は笑顔で否定した。



「大丈夫だよ。瑛介のお父さんは必ず帰ってくるから」


「何を……」


「敵は、龍の逆鱗に触れた(・・・・・・・・)


「!!」



 瑛介は息を飲んだ。



「瑛介も龍族に覚醒した今なら解ると思うけど、あの故事の例えのように龍族は触れてはいけない憤怒の急所(逆鱗)がそれぞれ存在する。そして、それに触れた物は例外無く身を滅ぼす。逃げ切る事は決して出来ない」


「……」



 瑛介は黙って良則の言葉を聞いた。


 瑛介は元々は龍族ではなく人間――――正確には龍族と人間の混血(ハーフ)であったが、今年の夏に凱龍王国に旅行に行った際にひょんな事から自分の出生の秘密を知り、様々な出来事があった末に龍族の血が覚醒して龍族の一因となった。


 そして生まれてから16年間を人間として過ごしてきたからこそ瑛介は人間と龍族の差異を正確に感じ取っていた。特に精神面の変化には覚醒当初は時折戸惑う事が多く、俗にいう“逆鱗”と呼ばれる部分が自分の心の中に生まれた事には直ぐには慣れそうに無かった。


 触れられたら確実にキレてしまう精神の急所、それが“逆鱗”である。精神的な存在であり個人によって場所も耐久も異なるそこは、外部から精神的に踏み躙られると理性を喪失する程の憤怒の感情を呼び起こし通常よりも能力が格段に上がる。


 元より人間を含めた他種族と比較しても圧倒的に強い種である龍族が一度“逆鱗”に触れられれば、そこには天変地異としか言い表すに相応しいほど蹂躙劇が起こるとされる。場合によっては世界すら滅ぼした例も過去にはあったと良則は知識として知っていた。


 今回の場合は『天嵐の飛龍王』と呼ばれた瑛介の父ヴェントルに対して、『創世の蛇』が盛大に“逆鱗”に触れた言っても過言ではない。良則が勇吾達と共にヴェントルに会った時はその様な素振りは見せなかったが、息子を人質にとられて内心では噴火寸前になっていた筈である。


 そして、“逆鱗”に触れられた龍族は容赦が無く、何より執念深い。



「今回は相手が相手だけど、少なくとも死ぬことも負けることも有り得ないと思うよ。それに何より、瑛介のお父さんが家族を残して死んだりする事は絶対に無いよ。あの時、瑛介達を助けた時に見たあの顔は……


「絶対に帰るから先に待っていろ」って語っていたから」


「……俺より詳しそうだな」



 瑛介は良則に対してほんの少し妬みを抱いた。



「昔、アルビオンも同じ顔をした事があったんだよ。だから、何となく分かっただけだよ。瑛介のお父さんの事は、やっぱり瑛介の方が詳しい筈だし……本当は分かってるんじゃない?ただ、今すぐにでも会いたいから待つのが辛いだけに見えるんだけど」


「……かも、しれないな」



 顔を俯かせながら、瑛介は自信なさげな声で呟いた。


 自分の心は自分でも分からない事は多い。彼もまた、今の自分の心境の正体が何なのかハッキリと理解することは出来なかった。


 父親の生死に対する不安なのか、それともただ父親に会いたいだけの焦燥なのか、良則の言葉に肯きはしたが答えを出せずにいた。


 だが一方で、誰かに不安を否定された事で安堵感も得ていた。



「ありが――――」



 だから、良則に対して感謝の気持ちを伝えようとした。


 その時だった。



「勇吾達が来たぞ!!ついでにバカコンビも!!」



 誰かが大声で叫び、言葉を遮られた瑛介の意識も反射的にその方向へと移った。


 其処には音も立てず静かに着地する黒王(ヘイウォン)銀洸(ぎんこう)の姿があり、それぞれの背中から勇吾と丈が飛び降りてきた。



「「「勇吾!(それとバカ!)」」」


「――――今戻った」


「あれれ~、俺だけ歓迎されて無い?」



 その場にいた全員が勇吾の下へと集まっていった。


 その時何人かは勇吾が人間ではなく“神人”になっている事に気付いたらしく顎が外れるほど驚愕していたが、殆どの者は勇吾達の勝利の凱旋に歓喜の声を上げていた。


 勇吾の生還、それはつまり、彼が今回の事件の首魁である『鬼神』に勝利した事を意味していた。



「勇吾!勝ったんだな、あの『鬼神』に!」


「マジかよ!勇吾まで進化しちゃったよ!?」


「なんてご都合主義……」


「体は大丈夫?」


「途中から見失ったけど、一体何があったんだ!?」



 勇吾に対し全員が一斉に詰め寄り質問をぶつけていく。


 まるで収拾がつかない状態がその後30分近く続き、その間に勇吾は自分の記憶映像をPSを通して全員に見せながら自分達と『鬼神』との戦いの経緯を説明し、途中からリサを始めとした女性が悲鳴に近い声を漏らしながらも事の一部始終を理解し、映像が終わると一斉に声を上げた。



「「「何て無茶をしたんだ!!」」」



 勇吾だけでなく黒王も怒鳴られた。


 映像を通して今回の敵がどれ程ののものか全員が理解し、そんな強敵に対し勇吾と黒王達だけで戦いに挑んだ事に全員が今になってツッコんだ。勝機があるからと勇吾達に任せたのが間違いだったと、頭を抱え込む者までいる。


 黒王もまた、アルビオン達から厳しく叱責を受けている。龍神本体を召喚するという禁忌を犯した事も含め、今回の戦いにおける黒王の問題点を正確に突いていった。



「ご、ごめん……俺が悪かった。すまん」


『……反省している』



 勇吾も黒王も反論する事は無く、素直に非を認め謝罪した。これによりこの場でのお説教は一先ず終わった。


 直後、頭を下げていた勇吾の胸元を瑛介が掴む。



「父さんは!父さんは何処に行ったんだ!?」


「瑛介……」



 勇吾の記憶映像の終盤には瑛介の父、『天嵐の飛龍王』の姿も映っていた。その映像を観た瞬間、瑛介は今までの不安が一気に霧散する程喜び、契約者であるシドも含めてその圧倒的な実力に胸を熱くさせていた。


 良則の言うとおり、心配する事などなかったのだと理解した。


 だが、直ぐにならば何故此処に父親の姿が無いのかと疑問にいたり勇吾に詰め寄ったのだ。



「……それは……」



 対して勇吾はそっと視線を丈と銀洸に逸らした。


 彼らは暢気にコーラを飲んでいた。



「……ん?」


「ペ〇シ、美味しい~♪」


「「「……」」」



 全員の視線が2人に集中する。


 そして、勇吾は微妙な表情をしながら戦闘後にあった一幕について説明し、直後に瑛介は激怒して―――――跳んだ。



「適当な事を―――――言ってんじゃねええええええええええええええええええええええ!!」


「「フンギャアアアアアアアアアアアアアアアア―――――!!」」



 撃沈。


 瑛介の見事な一撃の前に問題児2人は地に沈んだ。



「家庭崩壊なんかするわけねえだろおおおおおおおおおおお!!弟妹達もしっかり父さんの顔を写真とかで目に焼付けてるんだよおおおおおおおお!!あのメリケンサックは縁日で当てたおもちゃだから殺傷力はゼロに決まってるだろうぅぅぅぅぅぅ!!」



 まさかの家庭崩壊疑惑は只の杞憂だった。


 瑛介の弟妹はちゃんと父親の顔を覚えているし、今も何時帰ってきてもいい様に家のお掃除も欠かさず行っていたので昼ドラの様な泥沼的展開は万が一にも起き無い様だ。


 それを聞いた勇吾は蔭で安堵の息を零した。



「ギャアアアアアアア!で、でも~!」


「瑛介ママン、最近太極拳とか始めてたよ~?誰に使うつもりなの~?」


「生活に余裕が出来たから始めた趣味だよ!?」


「「でも、その割には実戦的な指導を受けてたけど?」」


「……」



 バカどもの反論に瑛介は黙り込んだ。


 どうやら歴代最強の飛龍王は一発分の覚悟は必要なようだ。まあ、如何に忍耐強い健気な妻にそれ位の権利は許されるだろう。



「――――で、肝心の父さんは!?」


「……今、シドと一緒に買い物中だ」


「は!?」



 バカに詰め寄る瑛介に、バカに代わって勇吾が説明する。



「そこのバカ共が、長年家族を掘ったらかしにしておいて手ぶらで帰る気かと、相手の良心を巧みに突いて……追い込んでいったんだ。しかも今日はこの世界だとクリスマス・イブだから、妻子へのプレゼント位用意しないと好感度が奈落の底まで墜ちるとか言って……」


「それで慌ててショッピング……今、お店やってるかな?」


「本当に碌な事をしないわね!?」


「お前らが家庭崩壊を煽ってるんじゃないのか!?」


「クリスマスの疫病神が!!」



 一緒に話を聞いていた皆もこぞってバカ共をボコッていった。


 そして怒りが少し落ち着いたのか、瑛介は両手で頭を抱えながら地面にしゃがみ込んだ。



「どうしたらいいんだ……母さんに知られたら逆に……ああ、今は爺さん達も……そういえば俺もプレゼント飼う途中だったんだ……悠月(ゆづき)達が楽しみにしているのに……あああああ!」


「おい、どうすんだよ、これ?」


「……」



 勇吾はそっと視線を逸らした。


 今となっては勇吾に打てる手はない……かに思えたが、まるでタイミングに見計らったかのようにその者達はやってきた。



「あ、瑛介パパン!」


「その手に引っ掛かる……父さんっ!?」


「やっほー!ヴェントルぅ~イイ物買えた~?」



 丈と銀洸(バカども)が手を振る先には、大荷物を両手と背中に持ったシドとヴェントルが居た。


 ついさっきまで『神話狩り』と死闘を繰り広げ、『鬼神』と彼に憑依した《盟主》の欠片を葬った2人とは思えないシュールな光景がそこには在った。


 家族に対して後ろめたさが有りまくりだった2人はあの後、丈と銀洸に唆され……とまでは言わないものの、時期的な理由でも手ぶらで帰るのはマズイという結論に至ってすぐさま一緒にショッピングに出かけていた。


 今回の事件による一連の騒動によりまともに営業している店はあるのかと思われたが、幸いにも日本は怪異が発生した一部地域を除いて通常営業を行っていたのでショッピングには問題は無かった。随分と買い込んだようだが……。



「瑛介……」


「……っ、父さん!!」


 周囲の目を気にする間もなく瑛介は父親の胸に飛び込んでいった。


 考える余裕など一切無かった。


 目の前に記憶の中にあるのと同じ顔で現れた父親、その姿を目にした瞬間、彼の中で何かが決壊してそのまま溢れ出すものに流されるままに父親の胸に飛び込んでいったのだった。








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