第435話 天之尾羽張剣
――高天原――
「はあ!?野郎が狭間から出てきただとぉぉ!!」
「いや、アレはおそらく化身か欠片あたりだろう。正確なところは、場所が場所なだけに我等では手の出しようが無い。我等の管理する世界とは完全に隔絶された「新世界」そのものだからな」
「俺が居ない間にラスボス戦とか!!」
勇吾が『鬼神』オウキと戦っている頃、日本の神々が住まう天界の1つ高天原では天神雷鳥ことライが知己の神から『創世の蛇』の《盟主》の1柱、『天界神』天之常立神が動き出した事を知り声を荒げていた。
ここ数日、ライは《盟主》の復活に伴う世界の異変に関する仕事が大量に雪崩れ込んでいたせいでずっと高天原に缶詰めにされていた。日頃の行いが悪いので厳重に。
そして漸く解放されるかと思った矢先に『鬼神』の進攻、しかもライの契約者である勇吾が戦っていると聞いて直ぐ様飛んでいこうとするが現世への路が外部からの干渉で破壊され、一部復旧したときには勇吾達は『鬼神』の創造した新世界に隔離されていた。
それに続いて今度は高天原の誰もが知る《盟主》、『天界神』天之常立神の一部降臨という非常事態の発生で、ライでなくとも大パニックだった。
「続報~!シェムハザとクロウ・クルワッハに続いて今度は龍神本体が召喚されたぞ~!しかも黒の奴だ~!」
「はあああああ!?」
情報は次々と入ってくるがライにはどうすることも出来なかった。
普段からは想像しずらいかもしれないが、契約者を持つ神とはいえ、あのライにも行動には制限が存在するのである。
「本体だと?それは禁忌を……」
「愚かな。龍王自らが禁術を行うなど」
「下手すれば“黒”の概念が消滅する!」
周囲から龍神本体を召喚した黒王への非難が溢れ出す。
無理もない。
神の一部を召喚するのとは違い、本体そのものを召喚するのは神にも人間にも多大なリスクを生じさせる行為なのだから。
その意味を理解しているからこそ、ライは非難を口にする者達を責める事は出来ない。
「一体何が……って、あり!?」
高天原から動くに動けず愚痴を零す事しかできないらいは歯痒い思いをしていた時、まるで不意打ちの様にライの足元に光のサークルが出現して彼を逃がさないように捕えた。
突然の異変に近くに居た他の神々もギョッとして視線を向ける。
「馬鹿な!高天原だぞ、此処は!」
「路はまだ殆ど閉ざされているのに召喚!?」
「何処の大魔王の仕業……ギャアアアアアアアアアア!!」
「ああ、奴に濡れ衣をかけるから……」
「哀れな……じゃなく、誰がライを召喚して……!?」
「大御神を呼べ!」
神様達は大パニックだった。
一部、時空の壁を越えてお仕置きされた者も居たが、ライはそれどころじゃなかった。
「これって勇吾の仕業?アイツ、何時の間に高天原から強制召喚が出来るまで腕を磨いたんだ?チート過ぎるだろ!」
「おおお?ライよ、今から出陣か?」
「あ、猿田彦!何か呼ばれているみたいだから行ってくる!」
「おお!逝ってこい!」
「縁起でもないな~」
「「「お前ら、何でそんなに能天気なんだ!?」」」
苦笑をしながらも、ライは神友に手を振りながら高天原から消えていった。
その様子を見ていた神々は呆然とするしかなかった。
------------------------------
――暗き世界――
勇吾達に向かって5本の光柱が降りてくる。
漆黒色、海色、夜色、青色、そして黄金色――――
勇吾達の呼びかけに応えた4柱の神々が降臨し、吸い込まれるように勇吾達の中に入っていく。
(最後の1柱まで応えてくれたのは嬉しい誤算だった)
そして全てが1つに融合すると同時に、彼らの力は爆発的に増幅された。
勇吾が人間だった頃なら確実に失敗し大事故に発展していただろう。
人間のまま、高位の神々を複数その身と融合させる事が出来るなど、器の容量が超が沢山つくほど規格外な人物でなければ不可能であり、そうでない者ならば大抵は神の力に耐え切れず死に、運が良ければ勇吾やトレンツのように「神人」や「半神」に進化する事があるがこれは稀なケースである。
話を戻そう。
勇吾達は進化した能力《超越融合神装者》を使う事で契約を結んでいる神や加護を貰っている神を強制召喚し、そのまま自分達と融合させ、通常の武装化とは比較にならない程の能力向上を起こした。
今だこの世界の外部に取り残されているジルニトラを始め、勇吾を庇ってオウキに倒されたネレウスも神界に居る本体又は新しい分身体を、高天原に拘束されていたライも力技で召喚し、契約したばかりの黒の龍神も同じく召喚した。
そして最後に、正式に契約を結んでいる訳ではないが勇吾を始め、凱龍王国の国民の殆どが生まれた時から加護を授かっている神にして建国の始祖神である『凱龍王』も勇吾達の声に応えてくれた。
ただし、正式に契約している訳ではないので降臨した『凱龍王』は本体ではなく、若干格の低い分身体だったが、それでも子孫である勇吾と相性が極めて良い様で、勇吾達の強さを格段に引き上げてくれた。
――――ドドドドドドドドドドド!!
影の軍勢が互いに連携をとりながら勇吾達を包囲しながら攻めてくる。
そして軍勢を上手く利用しながら天之常立神の化身と融合した『鬼神』オウキが両手に剣を構えて迫ってくる。
影の軍勢は勇吾達の目測では1人1人が英雄と呼ばれる過去の猛者クラス、個々で相手をしていたらジリ貧になってしまうのは明らか、故にまとめて一掃する。この、両手で持った一振りの神剣をもって。
『――――天之尾羽張剣』
まるでペンを振る様に、身の丈を超える神剣を弧を描く様に振るう。
放たれるのは黒い衝撃、数多の力が集約された斬撃が全てを破壊する衝撃となって敵の軍勢を全て薙ぎ払う。
武器ごと全身を砕かれる者が大半を占める中、中には楯などで耐えきった者も居たが多くが五体満足の姿をしておらず、しかしそれでも戦意が折れないのか、残骸となった武器を握り締めて再度勇吾達へと攻め入ろうとする者も居た。
『……』
『!』
もっとも、それよりも先にオウキの方が勇吾達の下へと辿り着こうとしており、オウキは二振りの剣の先から何千何万もの光線が複雑な軌道を描きながら放たれ、それらは直ぐに形を変えて蛇や竜の姿になって勇吾達に牙を剥く。
それらは囮、勇吾達がそれらに対処している間に距離を詰めて勝負を付けようというシンプルな戦術だったが、現状で圧倒的な力を持つ者同士では逆に複雑な戦術よりも単純な戦術の方が効率が良く、且つ確実だという考えなのだろう。何より、互いに時間が限られている以上は無駄な小細工は命取りになる場合がある。
(かと言って、無視するには数が多い。なら、《極地の不死鳥》!)
背中の両翼から無数の鳥が生まれ、光の軌跡を残しながらオウキの放った蛇や竜と激突していく。
1羽1羽が激突する度に広範囲にわたって冷気が広がり、勇吾達の一振りに耐えて再度攻め入ろうとしていた影の軍勢を飲み込み氷像へと変えていく。
影の中には槍や矢を放ち、それらは神器のように軌道を変えながら勇吾達に向かって飛んでいくが、それも途中で氷山の餌食となっていく。
そして勇吾は余計な対処をする事無くオウキへと神剣を振るった。
『―――甘い!』
『―――ッ!』
影の軍勢を薙ぎ払った神剣を、オウキは正面から受け止める。
だが、受け止めるのに多少の無理をしたのか、オウキの手元が僅かに震えているのを勇吾達は見逃さなかった。
『その身に呼べる全ての神を降ろしたか。だが、此方は100の鬼神に加え《盟主》の化身を賜っている。いい加減、勝機は無いと悟れ!』
『数だけは多いが、その割には大して伸びていないようだな。効率が悪い様に見えるが?』
『ッ!』
『図星か』
正面からの力と力の押し合いの中、勇吾達は初めてオウキに目に見える動揺を出させる事に成功する。
(考えてみればば当然だ。100柱もの神と融合したという割に、『鬼神』の力は小さい。おそらく、『大魔王』や他の『剣聖』が同じ事をすれば奴と比じゃない結果を出せたに違いない。強過ぎて気付くのに遅れてしまった!)
「効率が弱い」、それがオウキの力の欠点であると勇吾達は確信した。
今の勇吾達は勇吾を中心に黒王、そして龍神や『凱龍王』を含めた5柱の神が1つに融合している状態であるが、100柱の鬼神と天之常立神の化身と融合しているオウキと渡り合っている。それ自体がおかしなことだった。
オウキが最初に融合した鬼神達は弱い者でも中級神であり、羅刹王や阿修羅王、夜叉王と呼ばれる鬼神は上級神、そして暗黒神に至ってはそれすら超える最高神クラスといい神である。
これらの神を100柱以上も融合しており、尚且つ勇吾以上の戦闘技術を持ち合わせているにも拘らず今では5柱の神と龍王と融合した勇吾達と拮抗する程度の力しか発揮できないのはおかしかった。
(天照大御神も言っていた。『鬼神』は元々、《真なる眷属》の中でも下位の存在だったと。何らかの切っ掛けで“Ⅲ”になるまで伸びたが、能力そのものの本質は昇格前からは殆ど変っていない。奴の能力は、融合した神の力の全てを自分のものにして行使できるほど万能ではない。間違いなく、俺の《超越融合神装者》の方が上だ!)
それでも効率が悪いとはいえ、使役する神のどれもが強力である為に今の今まで勇吾達は気付くのが遅れてしまった。
何より、ステータスに表示される最大魔力量を見れば、その異常な数値にばかり気を取られ、そんな弱点があるとは殆どの者は思い至らないだろう。気付くとすれば同様の行為が出来る者か、余所で同類の力を身を以って体験した者だけだろう。
『おそらく、今のお前でも『神話狩り』には敵わないんだろ?』
『……』
オウキの顔が歪む。
つまり、肯定ということである。
『鬼神』オウキは他の幹部よりも遥かに強いが、それよりも上の『神話狩り』と『幻魔師』は更に強いと言う事らしい。
あまり嬉しくない真実だが、今はそれで十分だった。
『お蔭で確信した。この戦い、俺達の勝ちだ!』
『驕るな!如何に能力が進化していようと、我が彼の2柱より格下であろうと、お前達が敗れる事に違いは無い』
『そうだな。戦闘技術だけだったらなら、負けていた。けど、これはルールの定まった試合じゃない。だからこそ、お前は負ける!』
『何を……っ!貴様!!』
オウキの額に冷や汗が浮かぶ。
『――――圧せ!天之尾羽張剣!』
『させん!!掃い捨てよ、常立之御双剣!!』
最後の攻防が始まる。
勇吾達が振るうのは日本神話で伊弉諾命が持っていた最古の神剣の名で呼ばれる神剣、対するオウキは《盟主》の力の殆どを集約させた二振りの黒剣。
どちらも尋常ならざる力を持つ剣を振っていく。
両者の剣戟は周囲を見境無く消し飛ばしてゆき、既にオウキが召喚した影の軍勢も勇吾達の出した鳥の群れも剣戟の余波で消滅していた。
『―――――ッッ!?』
どれだけの速度で剣戟を交わしているのか、最早オウキ自身にも分からなかったが、何度もぶつかるごとに大きくなる違和感に焦燥を深めていく。
最初に違和感を抱いたのは龍神を仕留めそこない、直後に勇吾達の剣を受けた時だった。
見違えるほどの戦闘技術を見せる勇吾達に、成長系の能力を発現させたと判断したオウキだが、今の状況はそれだけでは説明がつかなかった。
(今も尚成長を続けているだと?否、これはもう成長などという域ではない!)
勇吾達はこの最後の攻防の中でも目まぐるしく強くなっていた。
まるで戦っている最中にオウキの戦闘技術を盗み、更には応用していっているかのように。
『……っ!』
オウキは先程の勇吾達の言葉を理解する。
(最高効率……!効率良く急成長する能力!)
例えるなら一を見て十を覚える。
一度見た動きから十の技術を覚え糧とする。
それも、覚えたてとは思えない洗練された形で。
オウキは戦慄するが、その推測は正確には違っていた。
しかし、その事に気づけるほど今のオウキには余裕は無かった。
(たった、たった数秒の間に我が数百年の研鑽の全てを奪われるなど……!)
気付けばオウキは圧されていた。
勇吾達はオウキの剣技の大半を吸収して自分のものとし、技術の格差を埋めていきながらオウキを追い詰めていく。
そして更に――――
――――バキッ!
『!!』
オウキの剣に亀裂が走った。
亀裂は直ぐに大きくなって刀身全体に広がっていく。
(バカ、な……)
それは有り得ない事だった。
オウキの二振りの剣は《盟主》天之常立神の力を集約し“創造”を以って彼自身が生み出した壊れる事の無い、『神器』と言っても過言ではない代物である。
それに亀裂が入ると言う事は、《盟主》の力そのものが勇吾達の力に圧し負けたという事である。
勇吾達の神剣が2本の十握剣、『布都御魂剣』と『神度剣』を1本に融合させた代物である事はオウキも見ており、故に『天之尾羽張剣』と呼んでいると結論付けていた。紛い物であると。
だからこそ、勇吾達に勝機は無いと判断していた。
本物の『天之尾羽張剣』はもうこの世には存在しないのだから。
(アレは、《盟主》が……)
頭を過ぎるのは神代に起きた《盟主》と神々の戦争の顛末。
『天之尾羽張剣』はあの時に《盟主》達の手によって失われた筈だった。
だが、目の前には自分の剣を砕かんとする神剣が確かに存在し、納得できなくても認めるしかなかった。
失われた至高の剣の神が勇吾達によって復活したと。
けど、認めた時にはもう遅かった。
『おおおおおおおおお――――ッ!!』
『!?』
勇吾達はオウキへと迫る。
剣がこれ以上もたないと判断したオウキは背中から数十本の腕を生やし、各々の手から黒焔や黒雷など様々な術を放って迎撃しようとし、中にはブラックホールを発生させる程の高重力が込められたモノなどがあったが、勇吾達は躊躇わず神剣を降り下ろした。
『《大神斬り》!!』
躊躇い無く降り下ろされた神剣、その刃は全ての障害ごとオウキの全身を縦に斬り裂いた。




