第42話 事件発覚
――名古屋市内 某児童養護施設――
トレンツとリサは市内にあるとある児童養護施設に来ていた。
神情報によれば、ここも侵入者が出没した地点となっている。2人は施設の入り口近くまで来ると、自然な素振りで《マナ・サーチ》を使い、施設内に『覚醒者』が複数いる事を確認した。
「――――全員じゃないみたいだけど、3人・・・・4人いるわね。」
「ああ、それも覚醒したばかりの割には魔力が多いみたいだな。普通、一般人が覚醒したって1万近くはないだろう?」
「例外はどこにでもあるってことよ。それに、今回は自然覚醒じゃなくて人為的覚醒だから十分おかしくはないと思うわよ?」
「――――まあ、そうだな。じゃあ、取り敢えず中に入ろうぜ!」
そして2人は僅かに気配を消しながら施設の敷地内へ入っていった。
トレンツとリサが敷地内に入ったのと同じ頃、施設内のある部屋の中では4人の子供達が集まっていた。子供達と言っても、1人は男子高校生、残る3人のうち2人が女子中学生であと1人が男子小学生という組み合わせである。彼らがここに集まっているのは、互いに持っている『凄い力』の検証を行う為である。
「じゃあ、確認するぞ?」
4人の中で最年長の男子高校生、大羽士郎は他の3人の前に立ち、今までの情報を確認し始めた。
「まず、渉の力は『どこにでも行ける力』、これはぶっちゃけドラ〇もんのあのドアみたいな力みたいなものなんだな?」
士郎が確認すると、ここにいる中で最年少の加藤渉は頷き、補足を入れる。
「正確には俺を中心にした一定の生存可能空間を創って移動するんだ。だから、海底や宇宙にも生きて移動する事もできるよ。」
「だそうだ。次に七海の力は『未来予知能力』、1週間以内に起きる回避可能な事件を見る事が出来るんだな?」
「そうよ。」
次に訊かれたショートヘアの少女、二村七海は簡潔に答えた。
「そして唯花は『いろんなのと契約する力』で、精霊とか神とかと契約交渉したり、仲介したりするものでいいんだよん?」
「ん~~~~、私はみんなのと違ってまだ試してないのよねぇ。だから、どこかで使えればもっと分かると思うんだけどね。」
ウェーブのかかった髪の少女、平田唯花は少し複雑な表情だった。彼女の力は少々特殊なため、他の3人とは違ってまだ実際に試していないのだ。
「最後に俺!俺の力は『BPを消費して、スキルを購入したりステータスを上げる力』だ!!」
「無茶苦茶だ!」
「―――チート。」
「ん~~、何でそうなったのか謎ね?」
士郎の能力に対し、3人は大ブーイングだった。
士郎の能力、それは頭の中で起動するように念じると、自分を含めた利用者にだけ視認する事の出来る画面が現れ、そこに表示されるカタログの中から、一緒に表示されるBPを消費して様々な能力を獲得するという、まるでゲームを現実に持ってきたかのような力だった。
「そう言うなよ。俺だって、どうしてなのかわかんねえんだから!知ってるとしたら、あの仮面男だけだぜ?」
その反論に、3人ともそれ以上のブーイングを止めた。
あの夜、4人はそれぞれの力と力に関する知識、そしてそれらが最初から自分のものだとする自覚を手に入れていた。そして翌日、ひょんなことから自分以外にも同じ事があった事を知り、集まったと言うわけである。
お互い、力の使い方は分かっていても。何で自分の得た力がコレになったのかまでは分からないのだ。
「その話、詳しく聞かせて貰うぜ?」
「「「「!?」」」」
知らない声に驚き、部屋のドアの方を振り向くと、そこには見知らぬ男女が立っていた。
「初めまして♪俺はトレンツっていうんだ。」
「私はリサよ。」
突然の珍客に戸惑う士郎達。そんな彼らの様子に気付きつつ、トレンツとリサは尋問を開始するのだった。
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――名古屋市内 某住宅街――
「――――――そうか。」
「またメール?」
「ああ。」
人気のない場所でPSを操作する勇吾に慎哉が話しかけると、勇吾は簡単に答えて届いたばかりのメールの続きを読んでいった。
メールの差出人はトレンツとあり、つい先ほど立ち聞きした内容と、覚醒者達に接触に成功して話を聞いていると書かれていた。
「ここも『青い仮面の男』か・・・・・。」
「新手のヘンタイじゃね?」
「丈ほどではないだろうな。」
既に良則達からも似た内容のメールが届いている。馬鹿からも「ゲットだぜ!」と、あからさまに不安にさせる内容のメールが届き、まだ連絡がきてないのはミレーナと琥太郎だけだった。
「仮面の男は『祝福を』と言って相手を覚醒者にしている。しかも、普通の覚醒とは違い、全員が特殊な能力を有しているか・・・・・。」
「ユニークスキルってことだな?」
「ああ、意図的にそんな芸当ができるとなるとかなり限られるが、俺の知ってる奴の中にはいないはずだ。そして『祝福』と言うキーワード、もしかすると―――――――――」
「心当たりがあんの?」
「・・・・まあな。」
勇吾の頭の中を、「ある可能性」が過ぎる。味方なら頼もしいが、敵に回ればあまりに厄介な「その存在」、それが侵入者の正体だとすればいろいろ辻褄が合うのだ。
(―――だとすると、かなり厄介な相手だな。それに、目的もハッキリしていない。)
現状での限られた情報を整理し、勇吾なりに筋書きを推理するがまだ情報が足りなかった。今推理できるのは、『覚醒者』を増やした手段のみであり、動機までは分からないのだった。
「なあ、これからどうするんだ?」
「―――――とにかく、少しでも多くの情報が欲しい。時間も限られているし、少し荒業でいくか。」
時間が限られていると言っても、急がせているのは依頼主なのだが、正式な依頼である以上は解決を急がなければならない。
勇吾は数十m先にある『覚醒者』のいる家の方を向くと、片手に魔力を溜め込んでいつもより小規模範囲で魔法を発動させた。
「《スローワールド》!」
勇吾を中心にし、半径200mが静寂の空間に変わっていった。
ネトゲを楽しんでいた亮介は、突然の出来事に呆然としていた。
「え・・・・何!?」
亮介はさっきまで普通にネトゲを楽しんでいた。初心者用チュートリアルを済ませ、これからクエストに挑戦開始といった最中だった。
前触れもなく周囲の空気が一変したような感覚がした途端、たった今までゲームをしていたノートパソコンの画面が消えていたのである。それだけではない、1階の方から響いてくるテレビの音や外からの騒音も一瞬で静まってしまった。
「――――あれ?」
試しにノートパソコンの電源を押してみるが全く反応がない。何度も押しても変化はなく、一度は停電を疑ったがそもそもバッテリー内臓のノートパソコンがすぐに停電の影響を受けるとは思えない。バッテリーが切れたのなら直前に本体にそれを知らせるメッセージやランプが表示されるはずなのである。それに、停電だけでは外の静けさの説明がつかない。
「どうなってるんだ?」
何かが起きた事だけは亮介にもわかる。だが、それが具体的になんなのかは分からなかった。
戸惑う亮介に、開けられたままの窓から答えが返ってきた。
「――――異空間に強制移動させた。俺達と、お前の3人をだ。」
「――――っ誰!?」
窓の方を振り向くと、そこには2人の少年が土足で部屋の中に上り込んでいた。
「まずは挨拶からだな。」
困惑する亮介を前に、勇吾はゆっくりと自己紹介から話し始めた。
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時は少し遡る――――――――。
ミレーナと琥太郎はとあるマンションの一室の中に入っていた。
2人は地図に印の付いていた地域で《マナサーチ》を何度か行った。しかし、いくら繰り返しても『覚醒者』らしき反応は全くなかった。腐っていたとしても神の情報なので間違いと言う可能性は低いため、当初は何所かに外出中なのではと思っていた。
仕方なく、他の地点に移動しようとした時、ミレーナの《千里眼》が異様な物を捉えたのである。別に覗き見をしようとした訳ではなく、最後に一通り見渡そうとしたら『それ』が見えてしまった。『それ』を見た途端、ミレーナの表情は険しくなり、琥太郎の手を「こっちよ、来て!」と言いながら引っ張っていった。なお、その時の琥太郎は「えええええ!?」と間抜けな声を出しながら顔を真っ赤に染め上げていた。
そして、2人はとあるマンションの一室に勝手に不法侵入し、今に至る訳である。
「うっ・・・・・・・・!」
「これって―――――――!」
その光景を前に、琥太郎は嘔吐感に襲われ、ミレーナも口を手で押さえながら目の前の光景をしっかりと見ていた。
「――――――死んでるわ。」
そこにあったのは2人の死体らしき物体だった。
夫婦らしき2人の内、男性の方は暴行受けた痕が全身に刻み込まれ、女性の方は多少の傷はあるものの男性と比べるとほとんどなかった。
「これって・・・・・・石英?」
琥太郎は死体が入っている物体に恐る恐る触れ、コンコンと叩いてみる。死体は、透明な結晶の中に閉じ込められていたのである。
リビングの大半を埋め尽くす量の無色透明な結晶、その中にある夫婦の死体は恐怖のどん底に落とされた様な表情をしていた。
「調べてみるわ。《鑑定》!」
【人工石英】
【分類】魔法
【詳細】・魔法によって人為的に作られた石英。時間が経つと消滅する。
・付与効果:気配遮断 腐敗遅延
「やっぱり魔法で作った石英みたいね。付与効果からすると、発見をできるだけ長く遅らせようとしてたみたいね。」
「強盗じゃないよね?」
「それはないわ。魔法を使う強盗なんて、異世界にはいてもこの世界にはまずいないわ。それに、暴行を受けたのは夫の方だけだから怨恨の可能性が高いわね。奥さんも一緒に殺されたって事は、この家そのものに恨みを持っていたかもしれないわ。」
ミレーナは現場の状況を見ながら推理を進めていく。
「何だか探偵みたいだね?」
「あくまで私の主観だけどね。それより、この家には他にも家族がいたみたいよ?」
ミレーナは玄関の方へ視線を向ける。玄関には何組かの靴が散乱しており、その中に明らかに夫婦の物ではない靴も何組か混じっていた。
「―――――子供だ!!」
「探すわよ!」
転がっていた靴のサイズから子供の物だと琥太郎は最悪の事態を想像し、ミレーナと共に家の中の捜索を始めていった。
・士郎の能力、作者も欲しいです。




