第433話 限界突破
――暗き世界――
((――――見える!))
敵の動きが見え――――いや、対応することが出来た。
残像を含めた技の駆け引き、虚実にも惑わされる事無く対応し、これまでに積み重ねてきた全ての経験を十二分に発揮している。
勇吾達自身がその事に一番驚いてはいるが、今は高揚していられるほどの余裕は余っておらず、全神経を目の前の敵との戦いに集中させていく。
『……』
オウキの視線が此方に向けられる。
直後、黒雷が矛となって勇吾達へと襲い掛かあり、全てを避ける事は出来なかったが大半を神剣で薙ぎ払うことで深手を負わずに済んだ。
だが直ぐに次の攻撃がやってきて、彼らに気を休める暇など微塵も無かった。
((けど、これならいける!これが奴との――――))
『――――完全に混ざってるな』
『!!』
オウキの言葉に驚きながらも剣を振るう。
流石というべきか、敵は勇吾達の現状をこの短時間で看破して見せた。
以前だったら動揺して剣が鈍る処だが、最適化された今ならばその様なミスを犯す事は無かった。
((これも、全ては大勢の仲間のお蔭だ!))
彼らだけの力ではこれ程までには至れなかっただろう。
しかし、大勢の仲間や味方の助力によって彼らは今此処に立っていた。
今は敵の本拠地を攻めている良則達、蒼空とアルント、シドとヴェントル、仲間ではないが勇吾を蘇生したシェムハザ、分身体のクロウ・クルワッハ、そして、決闘の末に勝ち契約を結んだ『黒の龍神』――――。
((これが、今の俺達の全てだ――――っ!!))
彼らは、己の全てをぶつけた。
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――回想――
『――――――――見事』
決闘は一発勝負だった。
完全に回復していない勇吾と無傷の『黒の龍神』、普通に考えれば勇吾には勝ち目のない勝負だったが、彼は己が道を貫く為に龍神に全てを賭して挑み、そして賭けに勝ったのだった。
『我の“核”を避けた上で急所へと一撃、これで負けを認めぬならば我は神でも龍でもないな』
龍神は視線を自分の体に向ける。
鋼などよりも遥かに硬い黒い鱗に覆われた龍神の体の一角、其処に1本の神剣が深々と突き刺さっており、その場所は龍神の急所とも言える箇所の1つであった。
あと宣告の後、勇吾は龍神との血統に挑み、手加減の無い全力の龍神の神威の奔流に襲われながら、同じく手加減の無い龍神の攻撃に正面から立ち向かった末に懐に入り、そして急所へと神剣の1本を突き刺して勝ったのである。
『幾重にも張られた我が障壁を全て斬り掃うとはな』
「ハァハァ……それが、この『神度剣』の力だからな!」
龍神を突き刺した布都御魂剣とは別に、勇吾の手には父親から受け継いだもう一振りの神剣『神度剣』が握られている。
別名『大葉刈』とも呼ばれるこの神剣は大国主命の息子である阿治志貴高日子根神が所有していた剣ではあるが、その仔細については記紀神話の中でも殆ど記されていない謎の神剣でもある。
だが、勇吾は神霊フツノミタマから効かされた「概念属性」という存在を知る事で再び神度剣と意志を通わせ、その真の力を理解する事が出来た。
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【神度剣】
【分類】神器
【属性】土 (神剣・破壊・祓除)
【品質】最高品質
【詳細】
・十握剣の一振りにして天****の欠片。
・数多の障害を払いのけ、神器さえも切断し破壊する。
・以下の効果がある。
〈神刈〉 :神の命を刈り取る事が出来る。
〈荒魂の刃〉:感情の起伏によって力を増減させる。
〈万物破壊〉:現世の物質全てを破壊できる。解放済。
〈災厄大祓〉:所有者に害をなす事象を払い除ける。解放済。
〈神気祓斬〉:神に由来する物及び事象を斬ることで排除する。解放済。
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布都御魂剣に負けず劣らずの脅威の性能を持っていた。
京都の事件で父親から受け継いだ直後はこれらの能力のうち、上の2つしか判明していなかったが、今回の数々の窮地によって「概念属性」を知り、その上で神度剣の意志と対話することで真の力を解放することが出来たのだった。
此度の決闘でも神度剣が盾となって龍神の猛攻から勇吾を守ると同時に本来なら破る事のできなかった龍神の防御も〈神気祓斬〉によって一掃、龍神の急所に布都御魂剣を突き刺す事が出来たのである。
無論、手の内を曝した以上は次も同じ手が通じるとは限らず、また、この剣はあくまで神との戦いに特化しているので神格を持っていない通常の敵に対してはよく斬れる神器程度の力しか発揮できないのだが、それは兎も角として、勇吾は自分の武器と改めて意志を通わす事で勝機を見出す事が出来たのである。
(初見殺しの神器だな~。もしかすると、『神話狩り』が父さんを狙ったのはこの剣が関係しているのかもしれない……)
結果的に勝てたとはいえ、勇吾はこれは運が良かっただけだと理解していた。
そもそも、龍神が最初から神度剣を鑑定するなり看破するなりしていれば初見殺し自体が通じず、あっさりと倒されていただろう。
そうしなかったのは勇吾に対してのハンデではなく、単に決闘なので対等な条件で戦おうとしたのだると勇吾は読んでいた。勇吾の方が先に龍神を鑑定していたら向こうもしたかもしれない。
とはいえ、勇吾は龍神に勝った。
『汝は我に、この『黒の龍神』に挑み勝利した。神に挑み勝利した者には勝利に見合った戦利品を与えるのが古よりの掟である。今度は受け取ってくれるか?』
「ああ、相応の戦利品を受け取らないのは余程の事が無い限りは無礼になるからな。それに、これなら俺の流儀にも適う」
『フフフ、やはり汝ら親子は実に面白い。だからこそ、縁があるのやもしれぬ』
「あ、それ気になってたんだが、父さん達とも面識が?」
『うむ。我にとってはつい先程の事だが、我は過去にも二度ほど汝の血筋の男と出会う機会を得ている。2人とも、汝にも劣らぬ胆力を持っていた』
「……そうか」
龍神と天雲家の意外な接点に驚く勇吾だが、同時に父と祖父を褒められた事が嬉しく思い頬を赤くしながら笑みを零していた。
『――――では、これより契約の儀を執り行う』
こうして、勇吾と黒王は『黒の龍神』との間に加護を含めた契約を結ぶ事となった。
儀式自体はほんの一瞬、黒く心地よい光が彼らを包み込む光景が広がっただけだったが、龍神と契約を結ぶ事による影響は直ぐに現れた。
「こ、これは……!?」
『ほう、我の契約で限界を超えたか?然もありなん。元より1人の人間が複数の神の加護を持つのも稀有だと言うのに、汝等は複数の契約を結び《神殺し》。我との契約により、『神人』に至る条件を満たすのは必然である』
「し、神人!?それはトレンツと……」
勇吾の全身を神気が包み込む。
龍神はそれを人間から神人へと進化の兆しであると告げ、勇吾は先日の『黎明の王国』での決闘騒動を思い出す。
あの決闘で、勇吾の幼馴染の1人は人間を辞めて神人へと至った。それと同じ現象が勇吾の身にも起きていると言っているのだ。
『――――神人へと至る条件は人によって異なる。1二桁以上の加護と契約が条件の者もおれば、一桁の者もおる。稀に、幾ら契約を結ぼうとも至ろうとせぬ者も居るな。まあ、此度は我の神格が強過ぎたのかもしれぬな』
「自慢話かよ……あああああああああああああああああああ!!」
『勇吾!?』
「……これは珍しい現象に立ち会えたな」
『蒼空、マッドな顔をしてるぞ?』
肉体そのものが変わるせいか勇吾は激痛に襲われ絶叫する。
黒王は何の苦も無いらしく慌てて勇吾の傍へとより、それ以外の者は他人事のように見物していた。
かくして、勇吾は自らの信念と流儀を押し通した末に龍神と契約を結び、その結果、人間を辞めて神人へと進化したのであった。
龍神を召喚した黒王にとっても、これは想定外の結果だったのは言うまでもない。
だが、彼らはこの後直ぐにこの事態の外因を知ることとなる。
【名前】『黒龍の契約者』天雲 勇吾
【年齢】15 【種族】神人
【職業】超越者(Lv1) 黒の使徒(Lv1) 勇者(Lv1) 【クラス】神意を越える者 New!
【属性】無(*全通常属性) 陰陽 勇気 希望 信頼
【魔力】10,000,000/10,000,000
【状態】正常
【能力】黒神人之魔法(Lv5) New! 神聖魔法(Lv5) New! 森羅術(Lv5) New! 神仙隠形術(Lv5)New! 神聖武闘術(Lv5) New! 究極解析 New! 布都御魂剣 神度剣 超越融合神装者 New! 共鳴之眼 消え去らぬ軌跡
【加護・補正】物理攻撃無効化 New! 魔法攻撃無効化 New! 精神攻撃無効化 New! 全通常属性無効化 New! 概念属性耐性(Lv3) New! 全状態異常無効化 New! 神速思考New! 並列思考New! 超速回復New! 超速再生New! 完全詠唱破棄New! 不老不死New! 不撓不屈New! 先見の明 限界突破New! 空間認識New! 神話の契約者 愛されし者 奇縁者 鍛練者 超越者New! 殲滅者New! 剣の継承者 神の代行者New! 復活者New! 家族の祈り 人間卒業者New! 神殺し 龍殺し 堕天使殺し 悪魔ハンター 凱龍王の加護 龍神クロウ・クルワッハの加護New! 熾天使シェムハザの加護New! 神剣布都御魂剣の契約(+1)New! 神剣神度剣の契約New! 龍王黒王の契約(+5)New! 守護龍ジルニトラの契約 海神ネレウスの契約 天神雷鳥の契約 龍神イーヘイの契約New! 剣と魔の成長期 職業補正 職業レベル補正
ぶっ飛んでいた。
同じ神人である幼馴染よりもぶっ飛んでいた。
能力もさることながら、加護の欄も――――
「奴らのせいか!!」
何時の間にか闖入者であるシェムハザとクロウ・クルワッハの加護が加わっていた。
おそらくは勇吾を蘇生した際に仕込んだのであろうが、契約でなくても加護だけでも強力であるらしい2柱の有難迷惑(?)な恩恵が勇吾の神人に至る切っ掛けを作っていたようだ。
『だが、お蔭でまだ戦えるようになった。今はそれで良いだろう?』
「それは……ああ、そうだな」
ツッコむのは後にしようと話を戻し、勇吾は新たに変化したステータス情報を確認するとそれを元に今後の策を練っていき、早速新しい力を発動させて元の時間軸へと戻っていった。
無論、元の時間より刹那分だけ時を遡ったタイミングで。
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『《双黒牙》ッ!!』
『――――ッ!』
二振りの神剣が相手を噛み砕く様にオウキに襲い掛かり、オウキは黒焔と黒雷で防ごうとするがガラスのように砕け散る。
『……』
オウキは勇吾達と距離をとる。
今のやり取りで彼は確信したのだ。
勇吾が、自分と同じく「概念属性」を発現させているという事を。
それも自分の持つ属性と相性的に有利な属性にであると。
『……』
『……』
両者は対峙したまま静止する。
オウキの方は余裕が殆ど消え、勇吾の方も僅かに余裕を残しつつも目の前のオウキに集中していく。
(流石に持久戦に入るのはマズイな)
勇吾達は今の自分の状態に時間制限がある事を確認する。
今の彼ら、勇吾と黒王は《超越融合神装者》により一時的に一つの存在に融合している。
この能力は《神龍武装化》から進化し続けた上位互換にあたる能力なのだが、彼らの意識はその絆の深さもあって完全に1つになっており、魔力の量と質も2倍近く、身体能力も神人(人間?)と龍族の両方の特徴を兼ね揃えているが代わりに両方の弱点も一部持っている。
その姿は漆黒のコートに黒龍を彷彿させる鎧や籠手などを装着した姿をしており、腰まで伸びた黒髪を後ろで束ねて靡かせ、背中からは半透明な黒翼を生やしている。
これに加えて二振りの神剣とも意識を同調させる事で体の一部となり、今まで以上に馴染む様になっていた。
基本スペックだけなら既にオウキと遜色の無い域に彼らは立っているのである。
(もう、お前の前で無様な姿は曝さない!)
一つの意識なった彼らの闘志がオウキへと向けられる。
その勇姿は黒一色に包まれながらも、まるで黄金の太陽の如く暗き世界を照らしているようだった。
『――――仕方がない』
オウキは小声で何かを呟く。
その声は勇吾達にも届き、それだけで彼らは敵が切り札を出そうとしているのだと察知した。
その直感は当たっており、未だ余力も十分にあるにもかかわらず、否、余力が残っているからこそオウキは温存していた切り札を使うことを決意したのだ。
勇吾達を此処で確実に葬る為に。
『全てが無駄だったと後悔しながら滅するがいい』
『させねえよ!』
勇吾達もまた決着をつけるべく構えをとる。
得たばかりの《超越融合神装者》はそう長くは発動を維持させることは出来ない。
チャンスも残り少ない以上、次の攻防で決着をつけなければならない。
両者ともに次の一手で決着をつけようとしていた。
そして、長かった彼らの戦いはいよいよ決着を迎えようとしていた。
主人公が人間を辞めました。




