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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第426話 圧倒的な進攻

――『創世の蛇』の界~外縁部~――


「は?」



 最初、青年指揮官は普段ならあり得ない程思考が停まっていた。


 相手に斬られた。それは解っている。


 だが、どうしてこんな風に(・・・・・)間抜けな顔をしながら宙を舞い、視界の端で自分を斬った相手が視線を一切動かさず、足も止めるどころか速度も落とさずに進行を続けているのか一瞬理解できなかった。


 だけど直ぐに思考が何時も通りに動きだした事により理解する。



(嘘だ!有り得ない!そんな事が起こりうるはずがない!嘘だ!嘘だ!嘘だ!)



 頭の中で必死に否定するが、現実は彼の否定を無惨にも否定していく。



「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!?」」」



 また大勢の戦闘員が散った。


 悲鳴を上げ、鮮血を撒き散らし、青年と同じ様に(・・・・・・・)戦場から退場していくのがハッキリと見えた。


 もし、青年指揮官が《不老不死》でなければその事実を目にする事も理解することも無かっただろう。


 だが、他でもない彼自身が築き上げたステータスが全身を両断された後も意識を失う事を許さず、その現実を否応なく突きつける。


 自分と同じ様に(・・・・・・・)シドの剣の一振りで排除されていく戦闘員(ぞうひょう)達の姿が単身で彼に挑んでいった自分とハッキリと重なり、青年指揮官は自分がシドにとってはその他大勢のどうでもいい雑兵の1人に過ぎなかった事を嫌と云うほど理解してしまった。


 そして、青年指揮官の心は――――折れた(・・・)



(ハハハ……僕は……雑草と同じということ……ですか……)



 ステータスの恩恵で肉体が再生されていく中、青年指揮官の瞳から光が消えた。


 修羅の道を究めるが如く強者との戦いに明け暮れていた彼の長い半生の全てを賭した彼の攻撃行動は、シドからすれば進路を邪魔する長く生い茂った雑草を刈るのと差異が無かったのだと理解してしまった。


 なまじ、『蛇』の中でも幹部クラスの実力がある故に、彼は自分を両断したあのひと振りが他の戦闘員に向けられたものと全く同じであると理解できてしまったのだ。


 シドにとってはこの防衛線に居る者は全て同じ。


 個人ごとの戦力差など五十歩百歩でしかなく、ましてや加害者集団である彼らの“本気”に報いてやる義理など微塵も無いのだ。


 青年指揮官は己自身の強さ故に、心を折られてしまったのだった。


 だが、彼はまだ気付いてはいない。


 確かにシドの一振りは全て同じものであり、その効果も等しく同じではあったがその内容はとても雑兵に対して使われるものではなかった。



――――概念属性(・・・・)「刃斬」、刃物を介して森羅万象を斬る。



 シドは敵をタダ斬ったのではなく、何でも斬れる斬撃で敵の強さの全てを両断、敵のステータスに表示させる全ての情報を切断(・・・・・・・・)してしたのだ。


 例えるならRPGでレベルがカンストした主要人物(キャラクター)を問答無用にレベル1の村人(モブ)Aに変えたという事であり、幸いにも効果が発揮されるには数秒ほどの誤差があったので、青年指揮官を始めとした防衛線に居た全ての戦闘員がその事に気付いたのは致命傷などが再生した後だった。


 だが、その時を見計らったかのようにシドに斬られた傷が再生した直後に彼らは何の力を持たない一般人になってしまう。


 まして、彼らが今居るのは海の上(・・・)であり、船舶や幻獣・魔獣の上に乗っていた者以外は魔法や能力を用いて海面や空中に立っていたが、その力もシドの一振りにより消失している。


 この後、彼らにどんな未来が待っているかは語るまでも無い。



「……『殲滅の剣帝』、いや、第二の『剣聖(・・)』よ。此処より先は通る事は罷りならん」



 そして防衛線に立っているのは壮年の指揮官1人だけになった。

 

壮年指揮官は全身から冷や汗を流しつつも自身の獲物である斧槍(ハルバード)を構え、今名を進行の足を緩めないシドに向けて構えをとる。


 シドの遥か後方では『天嵐の飛龍王』が巨大竜巻を起こして戦闘員達が空に巻き上げられているのが見えるが、壮年指揮官は一切意識する事無くシドに向かった踏み出す。



「――――いざ!」



―――――スッ!



「……これ程までか……!」



 またも瞬殺だった。


 達人の熟練された技ですらもシドの一振りの前に呆気なく破れ、これにより転移地点を防衛していた全ての戦力が失われた(・・・・)


 そして敵を一掃し終えたヴェントルがシドの真上まで飛んでくると、シドは振り返ることなく垂直跳びをしてヴェントルの背中に飛び乗った。


 シドを乗せたヴェントルは背後を振り向かず、一路目的地に向かって飛翔した。




「『――――待っていろ!』」




 2人の覇気が奔流となってこの世界に流れ込んでいき、大陸本土に激震が襲った。








------------------------


――『創世の蛇』の界~サルマント邸~――


「――――旦那様、防衛線は壊滅致しました」


「そうか。お前達は手筈通りに動け」


「「「畏まりました」」」



 執事とメイド達はペリクリスに一例をすると静かにその場から去って行った。


 庭園に残ったのは屋敷の主であるペリクリスと、客人兼人質の慎哉と瑛介のみとなり、1人武装しているペリクリスはある方向を見つめたままその場を動こうとしなかった。



「たった2人で主戦力の2割を2分弱で全滅させるか。ジョナサン達でも足止めをする事は適わなかったか。流石だ」


「何を言って……」


「お前達の役目は終わった。此処から先は好きにするといい。丁度、お前達の仲間も(・・・・・・・)隠れて(・・・)此処に向かってきているところだ。どうするかはお前達の自由だ」


「「はあ!?」」



 2人にとっては怒涛の急展開だった。


 外の情報を満足に得られない為に現状を正確に理解できない彼らは、ペリクリスの言葉から仲間達が敵地に突入して自分達を助けに来ている事、『蛇』の軍勢の2割が壊滅したという事だけは読み取った。


 ペリクリスは自由にしろといったが、こういう時どう行動すればいいのか分からなかった彼らは即決できず、端から見てもわかる程戸惑ってしまう。



「……如何に力があろうとも、やはり経験が足りないか」



 2人が即断即決できない様子を感じ取ったペリクリスは無意識の内に表情を緩め、その唇は薄らと笑みを浮かべていた。


 まるで何かを懐かしむように。



「わ、悪かったな!けど、何時か――――」


「――――絶対お前よりも強くなってみせる。必ず、か」


「んな!?」



 つい啖呵を切ってしまった慎哉だったが、言おうとした言葉を先に言われてしまい思わず間抜けな声を零してしまった。



「お前達の年頃の男はよく言うセリフだ。正直聞き飽きた」


「~~~~!」


「……慎哉」



 顔を真っ赤にする慎哉を瑛介が優しく宥める。


 まるで何かの茶番であるかのような光景だったが、それも屋敷の敷地内を突風が襲う事で中断された。




――――ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!




 常人なら吹き飛んでしまう程の暴風が吹き荒れ、庭園の木々が大きく仰け反る中、ペリクリスだけは髪ひとつ揺らさずに悠然と立ち続けていた。


 慎哉と瑛介の2人は互いに障壁(バリア)を展開させながら暴風に耐え続けていたが完全には防ぎきれず、暴風の一部が障壁を通過して彼らの視界を妨げていった。



「な!何で防げないんだ!?」


「知るか!という過去の風、何処かで……何処でだ?」



 暴風に襲われる中、瑛介はこの暴風が記憶の何処かで引っ掛かっていた。


 ごく最近、何処かで似たような風を浴びた様な、何処か心地よい懐かしさがあると感じていた。


 かくして、その疑問の答えは更なる暴風と共に現れた。



「――――待っていたぞ。『戦慄の剣聖』シド、『天嵐の飛龍王』ヴェントル(・・・・・)


「……え!」



 屋敷の敷地内を巨大な影が覆い、ペリクリスはその名を告げ、その名を聞いた瑛介はハッとなって真上を見上げた。


 そして、彼ら3人を見下ろす2つにして1つの影は静かに彼らを見下ろしながらゆっくりとその口を開いた。




「『見つけたぞ』」




 その重い言葉に慎哉はただ一人声を失ったかのように口を開けたまま黙ってしまい、瑛介は初めて見る姿でありながらもその正体を迷う事無く確信した。


 何年も前に失ったと思いながらも、求め続けてきた憧憬の存在を――――




「……っ父さん!!」




 瑛介とヴェントル、『創世の蛇』が描いた理不尽な運命により引き離された父子(おやこ)が、6年の時を経て再会した瞬間だった。








瑛介、ついにオトンと再会!


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