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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第421話 闖入者

――???――


(何故、今回に限ってこうも邪魔ばかりが入る?)



 『鬼神』オウキ=カグラマの心は未だ嘗て無い苛立ちが膨れ上がっていた。


 『創世の蛇』の創設メンバーであり最高幹部《真なる眷属(オリジン)》の一角を担う彼は今日この時ほど事が上手く進められずにいらだちを募らせたことは無かった。


 この数百年、同じ《眷属》である『幻魔師』や『神話狩り』のように結社の表で堂々と最高幹部を名乗る事の無かったオウキは、その存在を隠し通しながら様々な異世界で暗躍し、結社の最重要目標の1つ「《盟主》の封印」の“鍵”の捜索に明け暮れ、時に新たな同胞達の育成や、幹部の入れ替わりの激しい“Ⅳ”の研究者や“Ⅷ”の魔導士達の研究に協力するなど裏方に徹し続けてきた。


 転機が訪れたの彼の現実時間(・・・・・・)で役80年前の事だった。


 当時、結社が過去最大の活動期に入り大規模な計画を始動させていた頃、彼らに表立って宣戦布告をする勢力が現れた。


 組織というには数の少ない勢力だけで次々と結社の関連施設を潰し、古参の構成員達を倒し、ついには《眷属》を含めた当時の幹部勢を倒して結社を事実上の半壊にまで追い込まれたのだ。


 更には『天嵐の飛龍王』とその契約者による一方的な蹂躙、これで更に多くの《眷属》が失われてしまう。


 この時は『神話狩り』と《盟主》の1柱自らが動く事で難を乗り越えることが出来たが、最高戦力を多く失った結社はついに裏方で動いていたオウキ達を召集、今ではオウキは“Ⅲ”の筆頭となり、最高幹部として名を広める事となった。


 そして今回、《盟主》直々の命によりこの地球世界に渡ってきたオウキは部下共々各地で怪異事件を起こし、多くの犠牲者を出す流れにした上で結社の脅威となりうる“敵”の排除に赴いたのだが、この極東の地で排除対象である天雲勇吾らと接触して以降、彼の思惑は徐々に外されてきていた。



(―――対象の戦闘力については想定範囲内。「大特異点」の恩恵による急成長は驚愕に値するが、それ以外はペリクリスの話と差異は無かった。『黒の龍王(黒王)』及び『黒き魔術女神(ジルニトラ)』とも引き剥がし、残る契約神である『海の老人(ネレウス)』も片付けた。諦めの悪さだけは想定以上ではあったが、温存していた力を解放した時点で勝敗は決した筈だった。にも拘らず、ライナー=レンツを始め、不測の事態が連続して起こり過ぎ(・・・・・)ている)



 支配下に置いてある100柱以上の鬼神だけでなく、切り札の1つである暗黒神(マハーカーラ)まで出した事もあって一度は追い込む事が出来た。


 だが、そこへ現れたのは嘗ての“Ⅳ”に所属していた研究員ライナー=レンツの転生体と『幻獣王』アルントによりトドメを妨げられる。


 懐かしい“魂”に若干関心を引かれそうになったが彼もプロ、今は“敵”である彼ら諸共排除しようと2つ目の切り札である《創造之皇天》により“世界”そのものを創造、外の時空から完全に隔離された絶対空間に閉じ込め、ようやくトドメを刺した――――筈だった。



『《黄金の息吹(ディバイン・ブレス)》』


『《生死調律理技(ライフ・アドミニストレーション)》』



 完全な不意打ちだった。


 例え同胞であろうとも外部からの侵入を一切拒絶するこの世界への闖入者、それも“破滅”と“暗黒”の「概念」に満たされた世界での力の行使、これは勇吾も気付いていないことだが、オウキの創造したこの世界では彼と同じ「鬼神」に属する力以外の行使は阻害され、消耗も激しくなる理が働いており、それは行使する力の大きさに比例する。


 蒼空とアルントが呆気なく無力化されたのはこれが理由だった。


 もっとも、それ以外にも認識阻害に似た力も働いていたのでオウキより格下の者は誰もその事に気付く事は出来ないのだが。


 にも拘らず、この闖入者達(・・・・)は勇吾達の体を部位欠損も含めて一瞬で再生させ、更には心肺停止直後の勇吾を難なく蘇生させてしまった。


 この世界の“理”そのものを無視して――――






「次から次へと……それも、お前達か(・・・・)



 オウキは闖入者達を憎々しげに睨んでいた。


 眼前に立つ2人の闖入者、1人は6対の白翼を広げ、もう1人は全身を黄金の鱗に覆われ頭部に2本の巻き角を生やした神々しい龍。


 勇吾や蒼空をも圧倒する力を纏った闖入者は、オウキもよく知る者達だった。



「『蛹屋(シェムハザ)』、『金の龍神(クロウ・クルワッハ)』……」



 嘗て『蛹屋』と呼ばれる人間に成りすまして世界を流浪していた堕天使の長シェムハザ、そして神代に『魔神』バロールによって生み出された太陽と月、生と死を司る龍神クロウ・クルワッハ。


 どちらもオウキが仕える《盟主》らと因縁のある者達である為、その動きに関しては他の《眷属》と共に警戒していたが、完全に不意を突く形で遭遇してしまった。


 だからこそ、彼の脳裏にある疑問が生まれる。



「――――この世界は無論、地球世界そのものも外部からの侵入は不可能の筈だが?」



 オウキが直接創造したこの世界だけではない。


 現実の地球世界そのものも(・・・・・・・・・)外界から侵入不可能(・・・・・・・・)になっていた。


 地球世界から異世界に移動すること自体は未だ可能だが、侵入することは出来ないように世界そのものを強力な障壁で覆われ、主だった異世界間を繋ぐ“路”は『蛇』によって破壊されていた。


 それは敵側が余所の世界から応援を呼ばせない為の策の一環であると同時に、近い内に始まる「別の計画」の土台作りの為でもあった。


 そして此度の作戦が開始された際、両者は間違いなく地球世界の外に居た。


 如何に神の領域に立つ彼ら2人でも、オウキに気付かれる事無く侵入することはまず不可能だった。


 だが、当の本人達は大したことの無さそうに疑問に答えていく。



『愚問だ。何を根拠に、全ての路を塞いだと結論付けた?』


「……」


『この俺は本体じゃなくて《分身》だけどな。1度だけしか使えない裏道(・・)を用意させてもらった。俺の方はもう最低限の役目を済ましたし、あとは適当に引っ掻き回して消えるだけだ』


「……そうか」



 それ以上の回答は求めなかった。


 自分達が把握し切れていない“路”が存在することは予め想定はしており、何時の間にか(・・・・・・)神毒から解放されて現れたヴェントルとシドの存在からも確信しており直ぐに対策も打たせておいた。


 それでもまだ足りなかった、という事だろうとオウキは結論付けた。


 これ以上の思案は今は無駄と判断したのだ。



「それで、お前達も我等の邪魔をするのか?ならば、此方も全力で排除するまでだ」



 口ではそう言ったが、オウキは内心では舌打ちしていた。


 既に配下の者達が全滅しているのは彼も把握している。


 地球世界各所に各氏族の龍族が大軍で配下の者達と戦い、特に当代の飛龍王(ヴェントル)が復活した事で勢いを増した飛龍氏族の勢いは凄まじく、広大なアジア圏の配下と使役下に置いた神や魔物達はほぼ全滅している。


 それに加え、ヴェントル自身と契約者のシドは出鱈目だった。


 最初は久方振りの戦場を前に腕の錆を落とすようにゆっくりとした攻め方だったのが一転、群れる事無く単独で敵と定めた者達を排除している。


 その彼らの相手をするのは自分であると、オウキは確信していた。


 現時点で地球世界に居る『蛇』の勢力で彼の2人の相手が務まるのは自分だけ、それは相手側も同じでオウキに確実に勝てるのはヴェントルとシド、次点で『白の龍皇(アルビオン)単独(・・)だった。


 自分を無視して拉致された仲間の救出、特にヴェントルは息子の救助に向かう可能性はあったが、彼の戦場での冷静な戦いぶりを直接目にした事のある彼は、ヴェントルが敢えて地球世界に残る可能性も十分にあると考え2人と同時に相手どる時の為に力を温存してきた。


 必要最低限の力で勇吾達を殺し、万全の状態で結社の仇敵である2人の首を討ち取る筈だった。


 だが、今回に限ってその目論見は悉く崩され今に至っている。



(場合によっては、予定を崩す必要がある。『終焉幾千(サウザンド・ルイン)』まで敗北した以上、これ以上の戦力低下は避けなくてはなるまい)



 幸い足元には今だ拘束が解けていない勇吾の体が転がっている。

 肉体の蘇生は完了していたが、黒焔の拘束が解けていない以上は暫く戦力外であると判断した。


 彼の背後に控える鬼神達にも緊張が走る。


 そして、新たな戦いの幕が上がる。


「――――還れ」




――――――シャン!




 暗き世界に錫杖の音が鳴り響くと同時に、先に消えた阿修羅を除く残る鬼神全員がオウキの中へと還っていった。


 そして『鬼神』の最大の力が発揮される。



『終われ』


『貴様がな』



 次の瞬間、オウキとシェムハザが激突し大地と海を引っ繰り返すほどの衝撃の嵐が世界を襲った。








------------------------


(どうして……?)



 意識を取り戻した直後、勇吾は目の前の光景に対して疑問ばかりしか思い浮かばなかった。


 感覚から蘇生されたところまでは理解できたが、目を開けた瞬間に見えた存在に対して「どうしてあいつらが此処に居る?」という疑問を抱かずにはいられなかった。


 アメリカでのラジエルの一件で出会った堕天使の長と、ここ暫く会っていない友人が契約したと銀洸(バカ)経由で知るだけの龍神の1柱クロウ・クルワッハ。


 この2柱が参戦するなど勇吾は聞いていない。


 そもそも、連絡を取る手段は彼個人には無く、それこそ(バカ)を縛って訊き出さないといけない。



(バカか!?またあのバカ共がやらかしたのか!?「面白そうだから強制参加だ~♪」みたいなノリで!?)



 真っ先に思い付いたのは愉快犯にして常習犯である(バカ)達の顔である。


 あいつ等がやりかねないと、取り敢えず結論(仮)付けた勇吾は直ぐにこの状況から抜け出そうと、オウキの拘束を抜ける手段を模索し始める。


 止む事無く激しい爆音と閃光、そしてそれに伴う衝撃の嵐に堪えながら全身を縛る黒焔を消そうとあがくが一向に消えそうにない。



〈……蒼空!聞こえているか、蒼空!〉


〈大声で送るな。頭が痛くなる〉



 同じく宙で拘束――鬼神がオウキに還ると同時に空中に張り付けになった――されている蒼空に〈念話〉を送ると、少々不機嫌な意志で返事が返ってきた。



〈随分と予想外の展開だが、またあのバカ共が犯人か?〉


〈最有力容疑者だが、今はどうでもいい!それより、この焔を消せるか?〉



 蒼空も現状を招いた犯人を丈達と断定していた。



〈いや、どうやらこの焔自体に拘束対象の能力を阻害する効果があるようだ。おまけに魔力や闘気を放出しようものなら直ぐに燃やされてしまう。解析も満足に行う事が出来ない。流石《眷属》、良い能力を持っている〉


〈感心している場合か。ったく、この焔もだが、一体何でできているんだ?属性そのものが解らない〉


〈……あくまで推測だが、この焔というよりは暗黒神(マハーカーラ)の力は既存の12属性の何れでもない、未知の属性かもしれない〉


〈未知の属性?そんなものが……?〉



 勇吾は目を見開く。


 直後に流星群の様な光の雨が世界に降り注ぎ、黒い轟雷と激突した。



〈知っての通り、俺達が今まで常識として知っている属性は火、土、水、風、氷、雷、木、時、空、光、闇、無の全12属性だ。これは人間だけでなく神や悪魔にも当てはまるものだ。此処までは解るな?〉


〈ああ、《ステータス》でも表示されるからな。そうか、《ステータス》はそもそも《神眼》の複製能力だった。なら……〉


〈以前から仮説として挙げてはいた。神眼(オリジナル)》とは異なり、汎用能力である《ステータス》では表示されない情報も存在するのではないかと。そもそも、《神眼》の持ち主自体が胡散臭い存在だからな。素直にオリジナルと寸分違わぬ能力を広めるとは思えないし、寧ろ意図的に一部手を加えていると疑う方が現実的だ。後になって「ビックリした?」とニヤつきながらネタばらしに出てきそうだ〉


〈確かに!〉



 自分や他人のステータス情報を視る能力ステータスは、元々良則と丈の祖父の能力《神眼》をベースに創られた誰もが利用できる汎用能力だった。


 その便利さから今では色んな世界に広がってはいるが、蒼空は《ステータス》そのものに以前から疑問を抱き、オリジナルでは表示されても汎用版の《ステータス》では表示されない情報の存在があると考えていた。


 その中に、“未知の属性”も含まれているのではないかと。



〈まあ、そもそも《神眼》は特定の血統にのみ表れる固有能力、そう易々とその他大勢にも使えるなら苦労はしない。普通は拒絶反応が起こる上に、最悪適合できずに死ぬケースもある。安全半分遊び半分で簡易化、または下位互換化させているというのが俺の見解だ〉


〈遊び10割の方じゃないのか?〉


〈…………兎も角、そういった事情からまだ把握されていない属性が存在しても不思議ではない。一般的な12属性以外の属性を奴が――――正確には暗黒神(マハーカーラ)が持っていることもだ。元よりあの神は世界の根幹に携わる神の1柱だ。人間が使えない力を持っていても何らおかしくは無いし、寧ろ俺は納得はできる〉


〈その通りだと仮定して、この状況を打開する手段は思い付くか?俺よりも研究職のお前の方が得意だろ?〉


〈……〉



 蒼空は暫くの間深い思考の海に潜っていった。


 その間にも暗い世界では『鬼神』と闖入者による激闘が繰り広げられ、戦況はやや『鬼神』よりの流れになっていたが、劣勢の筈のシェムハザとクロウ・クルワッハは表情を崩さずに戦い続けている。


 特にクロウ・クルワッハは勇吾達を回復させた時点で役目を果たしたと言っていた為か、分身体である自分が負ける事に何の怖れも迷いも抱いていないようだった。


 シェムハザも、オウキが数多の神の権能を複数同時に発動させても眉ひとつ動かさずに対応している。


 流石は堕天使の長というべきか、アメリカで勇吾達が遭遇した堕天使たちとは明らかに別格の力を持っており、クロウ・クルワッハが居るとはいえ、100を超える鬼神の力を得ているオウキと対等に渡り合う姿には勇吾も息を飲まざるを得なかった。



(これなら時間は稼げるか?だが、この世界の時間の流れが分からない以上は油断できない。かといって、動きが取れない以上は俺にできる事は無い。この恰好じゃ剣も握れ……剣?)



 勇吾はある違和感に気付いた。


 オウキに両腕を斬りおとされるまで握り締めていた2本の神剣。


 気配が近くにある事からすぐそこに転がっていると思っていたのだが、それは考えてみると少し変だった。


 あれほど自分達に手を焼かされたオウキが、敵の得物を、それも『神器』を近くに放置させるほは到底思えない。


 普通なら回収するか、相手の手の届かない場所に破棄する筈である。


 にも拘らず、勇吾の感覚は近くに2本の神剣が存在することを捉えていた。


 だがその時、彼の全身を危険信号が駆け巡る。




『――――《終焉死雷(ニッダナヴィヂュート)》』




 直後に鼓膜を確実に破壊する雷鳴が鳴り響く。


 勇吾は内側から魔力を操作――外に魔力を出さなければある程度は使えた――で鼓膜を保護したので聴覚を失わずに済んだが、そっと視線を逸らすと先程までの景色が一変していた。


 それは『黎明の王国』での決闘風景を彷彿させる破壊と崩壊の一幕。


 大地と海が消滅し、辺り一帯は星屑だけの世界と化していた。


 勇吾達が考え事をしている間に、戦いは世界を滅ぼす規模にまで発展していたのだ。


 オウキによって創られた世界とはいえ、此処はあの決闘試合の時の仮想空間ではなく紛れもない現実である。


 それが簡単に崩壊するのを目にし、勇吾は『鬼神』の力に戦慄する。


 しかも、まだまだ力には余裕がありそうである。


 戦いが終わるまでにどれだけ消耗するかは不明であるが。



(取り敢えず、あっちは暫く大丈夫そうだな)



 今は自分の事が優先と切り替え、改めて神剣の位置を探り直す。



「……布都御魂(ふつのみたま)?」



 試しに精神世界で出会った神剣の化身を呼んでみた。


 反応は直ぐに返ってきた。




『だから呼ぶのが遅いのじゃ――――ッ!!』




 巫女少女が勢いよくドロップキックを勇吾にお見舞いした。









闖入者はシェムハザとクロウ・クルワッハでした。

クロウ・クルワッハは本体ではないですが作者の別作品からの友情出演です♪どちらも生と死を司る存在なので死者蘇生はおてのものです!

そしてラストに神剣幼…少女再登場です!


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