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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第416話 日本の鬼神

――日本 東北部――


『けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!』

『鬱陶しい!凍れっ!!』


 そこら中から溢れ出てくる小鬼の群れを冷気の乱舞が一掃する。

 一瞬で氷像と化した小鬼達は上空へと飛ばされ直後に粉々に粉砕されて消滅していく。

 冬弥は1匹残らず小鬼を始末したのを確認すると、直ぐにビルの屋上を足場代わりにしながら次の“敵”を片付けるべく移動を開始する。

 その様子は建物の中に隠れていた人々を始め、小鬼が大量発生した街の住人の多くが目撃し、至る所からカメラのシャッター音やフラッシュが湧いていた。


「スゲエ!現代に巨大怪獣出現!」

「狼!マジリアル狼!」

「〇ーに投稿しなきゃ!」

「映画の撮影じゃねえって!あれモノホンだって!」

「銀の狼……銀〇伝説?」

「ままー!ウル〇ラマンが出てくるかな~?」

「さあ?良い子にしてたら出てくるかもね。シュワッチって」

「いや、出てきたらヤバいから!銀河レベルで街がヤバイから!ゼッ〇ンとかバ〇タンとかも一緒に出て来ちゃうから!」


 危機感が足りていないのか、または危機が現在進行形で訪れてきている事を自覚できていないせいか街の住人達は白狼化している冬弥に対して好奇の目でしか見ていなかった。

 空は相変わらず不気味な赤一色に染まっており、テレビでは世界中で起きている異常事件について番組編成を変更してまで報道しているにも拘らず、対岸の火事であるかのような雰囲気しか見て取れず、一瞥した冬弥は苛立たしさ感じていた。


(下手したらこの世界が滅びるかもしれないってのに、何でそんな能天気でいられるんだよ!?)


 かと言って大声で警告しようは思わなかった。

 冬弥もほんの数ヶ月前までは一般人だったので、直接目の前で死に繋がる被害が発生しなければ危機を実感しない事は理解していたから。

 まして、今の自分の様なファンタジーか特撮を思わせる現実とかけ離れた存在が相手では正しく危機を理解することは難しいのかもしれないとも。

 街で暴れていたのが小鬼という可愛らしい部類の異形だったのも理由の1つかもしれない。

 現代人は良くも悪くも教科書(マニュアル)によって育成されており、予め想定された危機には対応できても想定不可能な事態を前にしたら思考を放棄してしまうのかもしれない。


(……慎哉。兄さん。絶対に助けに行くからな!)


 一般人の危機感の薄さについては考えることは止め、冬弥は今自分にできる事に集中する事にした。

 盗聴のリスクを最小限にするために《念話》の使用は控えているので仲間の動向は正確に把握することはできないが、時折空を通じて感じる気配の変化から皆順調に敵を翻弄している事だけは解っていた。


『――――次はあそこか』


 風よりも早く宙を駆け抜け、次の標的の居る街に到着する。

 周囲を山に囲まれた盆地に広がる人口5万人前後の町で、中心部から離れたところを高速道路が走っていたが、その高速道路から遠目でもハッキリと見える規模の火の手が上がっていた。


『なっ!?』


 炎の化身が其処には居た。

 全身を紅蓮の炎に覆われた巨人が高速道路を破壊しながら横切り、周囲を炎上させながら町の中心部に向かって直進していた。


(……鬼、か?)


 頭部には2本の角が伸びており、その姿は巨大な鬼そのものだった。

 右手には持ち手と比べるとそれほど長くは見えないが人間からすれば並の家屋の高さよりも長い刀を携え、進路を邪魔する物を全てその刀で破壊していく。

 鬼の周囲はかなりの高温によりガスやガソリンが発火して爆発していくのが見えており、このまま町の中心部に進攻されれば大惨事になるのは一目瞭然だった。

 それ以上に、鬼からは小鬼とは比べ物にならないほどの膨大な妖気が宿っており、少なくとも冬弥が此処まで来る間に倒してきたどの敵よりも。


(まずいだろ!アレは!)


 鬼の危険度を悟った冬弥は一気に加速する。

 あの鬼は決して人里には入れてはいけない類の、「生きた天災」と例えるべき存在だと頭の中で街から引き離す方法を模索していく。

 幸いにも脚の速さは冬弥の方が遥かに上だったので中心部に着く前に鬼の前に出ることが出来た。


『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!』

『こっから先は通行止めだ!』


 呻り声を上げながら鬼は冬弥に向かって刀を振り下ろす。

 それを回避し、鬼に向かって突撃する。

 全身に《聖鋼の狼鎧(ディバインウルフアーマー)》で守っているお蔭で鬼の熱気によるダメージを受ける事は無く、鳩尾にいたい一撃を当てることが出来た。

 だが、当然たったの一撃で倒れるほど鬼ではなく、体勢を崩れかける中で冬弥の首に向かって刀を振り下ろそうとする。


『あぶねえ!』

『……ぅぅぅ……オオオオオオオオ!!』

(何だ、コイツ?)


 鬼の反撃を避けた冬弥だったが、鬼の様子に違和感を感じ一瞬足が止めてしまう。


『オオオオオオオオオガアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッ!!』

『ゲッ!!』


 突然、鬼は叫声を発した。

 すると全身を覆っていた炎が一気に大きく燃え上がり、周囲を一瞬で火の海に変えてしまう。

 幸いにも今鬼が立っている場所は稲作地帯であり、今は農閑期だったので被害はそこまで大きくはならなかった。


(……思ったよりヤバいかもしれないな。けど……)


 脳内で警鐘が鳴り響くのを感じながら、冬弥はどうやって目の前の厄介な鬼を退治するか思考を巡らせていく。

 何時もは隣に立っていた双子の兄は今はいない。

 久しぶりに1人で戦う事になった冬弥だったが、それでも囚われている兄の為に今も戦ってくれている仲間に報いる為、そして自分の手で慎哉()を救出する為にも此処で後れを取る訳にはいかないと戦意を滾らせていく。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『うるせえ!直ぐに滅してやるぜ!!』


 ニヤリと笑みを浮かべながら冬弥は鬼へと飛び掛かっていった。




悪路王(あくろおう)

 坂上田村麻呂により討伐された鬼の頭領。

 その正体については諸説あり、有力とされているのは当時大和朝廷と争っていた蝦夷の酋長の1人とされているが、他にも盗賊の頭だとも言われ、同じく坂上田村麻呂に討伐された蝦夷の指導者アテルイと同一視される事もあり正確なところは不明である。

 東北を中心に各地に伝承が残っているが、遠く離れた栃木や滋賀でも関係があるとされる伝承や旧跡が残っている。





--------------------


――日本 飛騨地方――


 琥太郎は何時もの面々で各地に出現し始めた悪鬼妖怪の駆除に勤しんでいた。

 本人達は良則達と一緒に国外の敵の排除を希望していたが、国内の脅威も蔑ろには出来ず、尚且つ国外の方はアルビオンや黒王、ヴェントルら龍王達によって呼び寄せられた龍族の大軍勢というやや過剰戦力がいる上、彼らよりも実力が上のトレンツやリサ達が向かうので却下された。

 何より外国よりも日本国内の方が怪異の発生率が高く、一つ一つの規模は外国よりも小さいものの数が多過ぎるので放置する訳にもいかなかったのである。

 既に国内で最も大きい怪異は勇吾と黒王によって片付けられ、2人は今回の敵の頭目を迎え撃つべく九州に向かっているので琥太郎を始めとする日本人組の多くは国内の問題の解決に集中することとなり、琥太郎は晴翔や暁といった何時もの面々で首都圏や中部地方の怪異に対処していった。

 そして現在、飛騨地方にまでやってきたのだが……


「……大〇神?」


 晴翔は呆然とそれを見上げていた。


「それって、この前観た昔の映画だよね?」


 琥太郎は“それ”から視線を逸らさず答える。


「けどよ、どうみたって……」

「映画のは腕と脚が4本も無かったと思うけど?」


 “それ”には4本の腕と、同じく4本の足があった。


『顔も2つあるし……』


 “それ”には前と後ろの2ヶ所にそれぞれ顔があった。


『神気放ってるし……』


 “それ”は神だった。

 全身から漏れ出す神気がその証拠だ。


『……全員、しっかりと現実を見ろ』


 夜鋼は溜息を吐きながら彼らを諌めた。

 だが、彼らが呆然とするのも無理も無い。

 今、彼らの目の前にはどこぞの特撮映画に出てくるような武者鎧を身に纏い、異様な覇気を放ち続ける巨人が立ち塞がっていたのだから。

 大きさは目測でも100メートル強、武器こそ装備はしていなかったが4本ある巨大な腕そのものが凶器であり、岩山でさえ殴られただけでも粉砕されそうな迫力があった。

 だが、今の処は微動だにせず周囲に危害を加える様子は無かった。


「あれ、何て神様?」

『《鑑定》すれば解るだろ?』


 琥太郎は“それ”に注意を向けながら正体を探る。


【名前】両面宿儺(りょうめんすくな)

【種族】神(鬼神) 【クラス】守護神

【状態】隷属(*****)

(*以下略)


「鬼神?」

「おい、それって今回の敵の親玉と同じ名前だよな?それに守護神?」

『敵の方は二つ名、アレは種族としての「鬼神」だろう。聞き覚えがある。この国の記紀神話(日本書紀)に出てくる神の1柱だな。当時の朝廷の敵として悪者として書かれているが、実際にはこの地で暴れた毒竜を始めとする魔獣を討伐して民を護った英雄神と聞いている』

「ああ、負ければ賊軍という奴か。何時の時代も政治家のやる事は変わらないな」


 首を傾げる晴翔らの代わりに夜鋼が眼前の敵(?)について説明する。

 付近から大勢の視線が向けれれているが構わず説明を続ける。


『元々は2メートル弱だったと聞くが、おそらくは信仰や使役された事による影響だろう。人と変わらぬ姿の神が時代の流れの中で巨人と拡大解釈されそのまま巨大な神の姿になる事はそう珍しくは無い。過去の人間からすれば2mも100mも大差無かったのだろう』

『いやいや、大差あるだろ!?』

「結構大雑把な信仰だな」

「大雑把って……言い過ぎじゃないかな?」

『いや、あながち間違ってはいないな。何時の時代の人間も既存の神々を自分達の都合の良い様に解釈し信仰する。現代風に言えば「ボクらの考えたサイコーの神様♪絶対間違いない☆」といったところだ。実際、神に直接会っているのだから解るだろう。結局の処、現実はあのようなものだ』

「『『あ、わかりやすい!』」」

「ちょ、ちょっと!見てるから!他の人が見て聞いているから!」


 何気に言葉に毒のある夜鋼や同意する晴翔達に、琥太郎は慌てて諌めようとする。

 彼らから少し離れた場所、つまり両面宿儺からも少し離れた場所では警察と自衛隊が非常線を張って侵入しようとするマスコミや地元住人らと格闘していたのだが、さっきから人目を憚らず大音声で言いたい事は言い続けている彼らに呆然としていた。

 人間の琥太郎の晴翔は別として、サイズの大きい夜鋼達の声は遠くからでもよく聞こえていた。


『―――――聞けば伊弉諾命イザナギ伊弉冉命イザナミは夫婦喧嘩のし過ぎで子や孫に見限られた挙句に新参の神に倒され鶏のエサにされたらしい。流石に天照大御神(アマテラス)も堪忍袋の緒が切れたのだろう。だが、その影響か龍脈にも若干の影響が出たのだろう。邪神の類ではない両面宿儺のような英雄の神が“奴等”に使役される隙ができたのはそのせいかもしれないな。あくまで推測だが』

「うわ、とんだとばっちり!余所の宗教(かてい)の問題の余波で奴隷になったのか!」

『謝れよ、天津神!』


 微妙な空気になった。

 戦いが始まる前に日本の神々の上層部のスキャンダルが暴露され、しかも今回の一連の異変の原因の一部であるとばらされてしまった。

 マスコミ達は面白いネタに盛り上がっていたが、宗教関係者は顔を引き攣らせていた。

 特に神社関係者は自分達の主神の家庭内スキャンダルに開いた口が塞がらず、しかもこのままでは異変の原因となった神を信仰する一派として世間から叩かれるかもしれないと不安を抱き始めていた。

 ハッキリ言って緊張感の無い状況だが、主に暴露している夜鋼も何も考えずにスキャンダルを語っている訳ではなかった。



『………………アマ……ツ………カミ……』



「「『『!?』』」」

『……反応したか』


 今まで微動だにしなかった両面宿儺が動き始めた。

 それに気付いたのは琥太郎達ではなく、非常線の前に集まっていた警察やマスコミ達も驚いて両面宿儺の方へと目を向ける。


『……シ…ンリャク…シャ……!』


 はっきりとしない口調で何かを呟く両面宿儺に周囲の空気は一気に緊張感に染まる。


「あ、首が!」


 琥太郎が声を上げる。

 突如、両面宿儺の首が時計回りに動きだし、表の顔と裏の顔が入れ替わったのだ。

 そして入れ替わって前に出た顔は先程までの大人しそうな顔ではなく、正しく鬼神と呼ぶに相応しい荒々しく攻撃的な顔であり、額からは長い2本の角が生えだしていた。


「どういう事!?」

『あくまで推測だったが……両面宿儺は2つの顔を持つ。土地を守護する穏やかな守護神の面と、土地を脅かす敵と戦う鬼神または戦神の面。嘗ての侵略者であった天津神の話をすれば動き出すかと思ったが、正解だったな』

「はあああああ!?」

『何でわざわざ……!』

『両面宿儺の特徴……権能だ。守護神の面を前に出している間は討滅不可能(・・・・・)だ。倒すには戦神の面を出さなければ傷ひとつ付けることは出来ない。放置すればいいと思うかもしれないが、あのまま放置すれば奴の意志に関係なく周囲に神気を放出し続けて天変地異の元になりかねない』

「「『『!』』」」


 夜鋼の言葉を琥太郎達は理解する。

 一見無害そうに見える両面宿儺だがあくまで現状は“隷属”の状態にあり、黒幕の指示通りに動いているに過ぎない。

 本来現世に溢れていてはいけない神気が大量に放出さればどのような問題が発生するかは彼らにも予想は出来ず、最善手が戦って倒す事だけだった。


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 両面宿儺が咆哮する。

 それは衝撃となって周囲にあるものを吹き飛ばしていく。


「やる気だ!翠龍!」

「暁!夜鋼!」


 両面宿儺と同様に琥太郎達も戦闘態勢に入る。

 大気の流れが変わり、彼らを中心に渦を巻いていく。


『おそらくは、鬼使いである『鬼神』の駒として配下の者が用意したものだろう。奴を倒せば僅かでも戦況は良くなるはずだ』

「なら、僕らで倒さないと!」


 夜鋼の言葉に更に気を引き締める琥太郎は刀を強く握りしめる。

 丁度この時、東北では冬弥が「悪路王」と接触し、九州の方では勇吾達が『鬼神』と接触し戦闘を開始させていた。

 現代日本を舞台に3つの鬼退治が幕を上げたのだった。








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