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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第411話 蒼穹の覇者

一昨日は予約投稿するのを忘れてしまいました。


――太平洋――

 海獣ケートスは日本に向けて太平洋を北上していた。

 進路を阻む船舶は1隻残らず海の底へと沈められてしまい、乗組員もその多くがケートスの餌食となって命を落としていた。

 人工衛星やソナーといった電子機器に対して一切の反応が無いケートスを追跡するのは当初不可能と思われていたが、太平洋に面する国々の多くには“専門家”が上層部に在籍していた為、電子機器以外での捜索により随時ケートスの現在位置を捕捉する事だけは出来た為、一部の国々は様々な思惑から軍を動かしケートスへの干渉を始めようとしていたが、不運にもケートスの進路上を航行していたことにより接触を果たしてしまった軍艦があった。


『ボオオオオオオオオオオオオオ!』


 進路を遮る者に差異など無いと言わんばかりにケートスの前進は速度を落とす事無く続く。

 対する軍艦側は嘗て無いほどの緊張感に包まれ、艦長を始めとする乗組員達は作り物ではない本物の海獣を前に恐怖しそうになるのを鍛えられた精神力で抑え込みながら砲身をケートスに向け、本国からの指示通りに攻撃を開始した。


――――ドン!!ドン!!ドン!!


「――――目標に命中!」

「うむ!このまま攻撃を続けろ!」


 現代の科学技術の結晶が海獣に襲い掛かる。

 直進を続けるケートスは軍艦脳攻撃を避ける素振りを一切見せず、それどころか攻撃をされている認識すらしていないのか、ほぼ全ての砲撃や魚雷をその身で受け続けていた。

 それを見た艦長は微かに違和感を抱いたものの、相手が殺せない存在だとは微塵も疑っていなかったために攻撃の続行を指示を出し続けたのだが、その判断が大きな誤りだったことを直ぐに気付かされることとなる。


「――――も、目標……む、無傷!損傷は確認できず!」

「馬鹿な!?」


 ケートスは無傷だった。

 現代兵器による攻撃を一身に受け続けたにも拘らず、その体には一切の傷が付いてはおらず、進行速度も遅くなるどころか逆に加速しはじめていた。


『ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

「も、目標、本艦に向けちょ……衝突します!!」

「回避ィィィィィィィィィィィィィ!!」


 心のどこかで簡単に倒せると思っていた艦長を始めとする乗組員達は、予想外の出来事に平静さを失う。

 理性で抑え込んでいた恐怖も一気に膨れ上がり、外の様子が見れない乗組員の中には現状を直接その目で確認しようと命令を無視して甲板に飛び出す者も現れ、その者は眼前に迫る海獣の姿を前にして絶叫を上げ事態をさらに悪化させていく。


「何だ今のは――――ああああああああああああああああああ!?」

「貴様!持ち場を勝手に離れ……えええええええええええええええええええええええええ!?」


 同僚の悲鳴に引き寄せられるように、次々と他の乗組員が甲板に集まり、未だ続く攻撃が一切効かず、自分達の乗る艦に向かって直進してくる海獣の姿を前に絶叫していく。


「うわあああああああああああああああああああああああ!?」

「ば、化け物!?」

「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」


 未知なる恐怖が彼らの強固な精神を貫通していく。

 これが他国の軍艦が相手だったならば彼らもここまで恐怖に飲まれ、甲板に尻餅をついて身動きが取れなくなることは無かっただろう。

 彼らとて日々の厳しい訓練で鍛え上げられた軍人、それも数多くいる兵の中から選び抜かれ、祖国の為にこの最新鋭艦に乗艦する事を許された精鋭集団、例え眼前に敵艦が迫っていようとも最後の一瞬まで艦と共に戦い続けていたことだろう。

 だが、それは訓練の中で予め想定された事態を前にした時にのみの話である。

 今回の様な事態――――映画やお伽噺の中にしか出てこない様な巨大怪獣を、それも近代兵器が一切通じない“前代未聞の未知の敵”を前にすれば話が違う。

 有効な策も武装も無く、それどころか本国から敵の詳細情報も渡されていない状況、そんな中でぶっつけ本番で怪獣退治しろというのは、幾ら鍛え上げられた軍人たちと云えど無茶な話である。

 特撮映画の中で巨大怪獣と逸早く遭遇して呆気なく餌食になる軍や自衛隊、そんな真っ先に消えるポジションに彼らは立っていたのである。


「艦長!艦内が混乱しています!」

「か、艦長!何故か本艦の操舵が出来ません!?」

「何だと!?」


 彼らはケートスから逃げることが出来なかった。

 操舵士が幾らやろうとも艦は操作を受け付けず、接近するケートスの進路を回避するどころか、逆に艦の方から接近し始めていた。

 感知出来ない力にでも引き寄せられているかのように。


「目標、レッドライン通過っ!本艦と衝突します!!」

「攻撃、未だ効果を確認できず!!」

「艦長!?」

「あ…ああ……」


 想定外の連続に艦長の思考は停止(フリーズ)していた。


「艦長しっかりして!!」

「駄目だ、ぶつかる!!衝撃に備えろ!!」


 そしてケートスと軍艦が衝突する。

 衝撃が艦全体を襲い、甲板に出ていた者達は為す術無く海へと放り出されてしまう。


『ボオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 ケートスは艦内の様子などお構いなしに艦に噛み付こうと口を大きく開き、禍々しい数百の牙が彼らに向けられたことで恐怖は一気に決壊する。


「「「うわあああああああああああああああああああああああ!!」」」


 艦と共に海に沈んで死ぬのではなく、目の前の凶悪な牙で捕食されて死ぬ。

 おそらくは生きたままあの牙で噛み砕かれて捕食されるのだろうと彼らは理解する。

 絶体絶命、その言葉が生温く聞こえるほどの恐怖と絶望が彼らの精神を一瞬にして飲み込み、眼前でオッ際の躊躇いも無くケートスの牙が迫る。

 彼らの命運は今尽きようとしていた。



『《疾風の突撃(ゲイル・ストローク)》!』



 一瞬の衝撃が軍艦を襲う。

 雄叫びにも似た声が聞こえた瞬間、艦内が大きく揺れたと思った直後に揺れは収まり、同時に先程まで鼓膜を破れそうになるほど脳内にまで響いていたケートスの鳴き声がピタリと止んだのだ。


「……は!状況は!?報告!」


 最初に正気を取り戻したのは艦長だった。

 気付けば凪いだ海の上にいるかのように静まり返った艦内に立っていた艦長は恐怖で言葉を失った者や気絶した者達を叩き起こし、直ぐに状況の確認を行わせた。

 彼らの最後の記憶が正しければ自分達はあの海獣に艦と一緒に咬み殺される寸前だったが、信じられない事に自分達の乗る軍艦は沈没しているどころか海上で静止したまま浮かんでおり、付近には海獣の姿は無く、代わりに海に落ちた乗組員達がどうにか回収されているのが確認できた。

 状況確認が進むにつれて困惑に包まれていく艦橋だったが、ある通信士が甲板から発信された乗組員の報告を聞き、慌てて声を上げた。


「う、上です!!目標、正体不明(アンノウン)と上空で交戦中です!!」

「「「!?」」」


 全員が目を丸くする。

 当然だが現代艦に搭載されているレーダーは海上だけでなく上空を飛行している生物や物体にも対応しており、どんなに早いミサイルでも即座に反応することが出来る。

 だが、レーダーには何の反応も無く、海獣どころか航空機の影すらなかった。

 一瞬通信士の言葉を疑いかけるが、元より怪獣がどのレーダーにも反応しなかったことを思い出し疑念を振り払う。


「甲板より目視で確認とのこと!」


 ほぼ条件反射だった。

 艦長と一部の者達は艦橋(ブリッジ)を飛び出し、速足で甲板に飛び出し空を見上げた。

 幸いにもこの海域は雲一つない快晴であったため、目視で全体を見渡す事が出来た。

 そして、彼らは絶句する。


「「「――――!!」」」



 美しい蒼穹の中で、海獣(ケートス)と、海獣よりも巨大な飛龍(ドラゴン)が戦っていた。


「ド、ドラゴン……!」

「ハハハ……これは夢か?」


 まるで神話の1ページを目撃しているかのような錯覚を彼らは感じていた。

 それほどまでに衝撃的な光景が其処にはあった。

 自分達を喰い殺そうとした海獣と、一目見ただけで圧倒的な畏怖を感じさせる黒き飛龍、その戦いを前にして、彼らは本能で絶対に手出しをしてはいけないと悟り、ただジッと見届ける事しかできなかったのだった。


『ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 海獣は全身から雷電を放ちながら触手を高速で伸ばしながら相手を攻撃、巨大な口からも衝撃波や水流を放つ。

 水棲生物の外観とは裏腹に、まるで泳ぐ様に空を移動していたが、そこをツッコむものは生憎と此処には1人も居なかった。

 対する飛龍は海獣の攻撃を無駄ひとつない動きで回避していた。


『ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 海獣は尚も攻撃を続けるが、相手に当てるどころか加速し続ける相手の姿を捉えられなくなっていき、次第に的を絞らず手当たり次第に攻撃を放ち出す。

 しかし、空一面に放たれた雷が飛龍に傷をつける事は無かった。

 次の瞬間、飛龍の姿は全ての視界から消失する。


『ボッ――――――』

『――――終わりだ』


 海獣――――ケートスの頭が弾け飛んだ。

 軍艦の上からそれを見ていた者達の目にはそのように見えた。

 気付いた時にはケートスの頭部が胴体を離れ蒼穹の中を回転しながら舞っており、残された胴体は闇雲に触手を呻らせている。

 そして消えていた飛龍がその雄々しき姿を再び現す。

 自身の死を自覚せぬまま動き続けるケートスに引導を渡すように、「飛龍の王」は咢を開く。



――――《龍王の咆哮》



 咢から放たれた巨大な一閃が蒼穹の全てを飲み込む。

 その場に居る全ての者の五感を貫く程の轟音と閃光が一帯を埋め尽くし、頭と胴を切り離されていたケートスはその中で抗う事無く消滅していったのだった。

 そして閃光が収まった後に残されたのは、蒼穹に1人君臨する“龍王”のみだった。


『…………』


 数秒の静寂の後、此処での「敵」を排除し終えた“龍王”は他を一瞥することなく飛び去っていった。

 音速を優に超える速度に誰も反応する事はできず、某国の(つわもの)らはただただ呆然と空を見上げ続けるのだった。

 絶望と恐怖のみを彼らに焼き付けたケートスとは異なり、それらを消し去る程の圧倒的な畏怖と勇猛さを兼ね備えた“龍王”。彼らがその存在の正体と名を知るのはもう少し先の事である。









そろそろストックが尽きかけているので更新の速度が下がるかもしれません。


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