第410話 反撃開始
――日本――
時間は少しだけ遡る。
無事にシドとヴェントルに接触して「神毒」の解呪に成功した勇吾達は、彼らを伴って日本へと帰還した。
『……また此処に来れるとはな』
「此処にお前の妻子が暮らしているんだったな。だが、再会は邪魔を全て排除してからだ」
『言われるまでも無い。他人の家の団欒を邪魔する者は灰燼も残さず消し去る!』
帰還直後は久々の日本の空気にヴェントルが感動に奮えそうになるのをシドが制していた。
ヴェントルも本心は今すぐにでも妻子の下に駆けつけたいのだろうが、確実に家族に害を成すであろう『創世の蛇』の殲滅が優先するべく戦意と闘志を燃やしていた。
なお、ヴェントルだけでなく黒王やアルビオン達は龍の姿のままでいられるように魔法等で一般人には姿を見られないように細工し、且つ時間の流れを外部と切り離した結界を銀洸に即席で作らせてあるので一般人の目も時間も一時的に気にしないで済む様になっている。
「それにしても……ちょっと離れている間に大分嫌な空気が増してきたな……」
勇吾は空を見上げ、只でさえ不気味な色に染まっている空を見つめながら周囲に不穏な空気が漂っているのを肌で感じた。
今立っている場所が神社の境内、日本の宗教上では最も神聖な場所であるにも拘らず地肌に伝わってくる不穏な感覚に、事態が加速度的に悪化しているのを理解した。
それは勇吾達以外も同様で、何時もはバカ全開の丈と銀洸の2人でさえ「うわ~」と若干引いた態度をとっていた。
『これは随分と……』
アルビオンが険しい顔で西の方を見つめながら声を漏らす。
気付けば此処に居る龍王の全員がアルビオンと同じ方角を見つめていた。
『敵は随分と派手に動いているようだ。此処からでも夥しい量の血の臭いが感じ取れる』
ヴェントルは顔を顰めながら言う。
『既に10柱以上の神が顕現しているようだ。それも依然と同じ邪神や悪神、戦神の類ばかり。他にも随分と昔に討伐された筈の者どもが暴れている』
黒王は誰から見ても不機嫌な表情を見せながら言う。
『うわ~!どれもこれも性質が悪いのばっかりだ~!あ、なんか地元住民を踊り食いしている神を発見!え~と、あれは吸血鬼の真祖?UMAっぽいのまでいる~!』
「マジ!?撮影して雑誌に投稿しようぜ!〇ーに!」
銀洸は持ち前の“眼”で地球全土を見渡しながら暢気な会話を丈と交わしていた。
かなり重大な状況にもかかわらず、彼らにとっては現状も娯楽の一部にすぎないのだろう。
実際、彼らは既に千里眼系の能力を応用しながら現地の光景を念写している。
(相変わらず不謹慎な事を息を吸うみたいに喋りやがって……ったく)
勇吾は心の中で愚痴を漏らしながらも、それを口に出す事は無かった。
一見すれば他人の神経を逆撫でしているバカ2人だが、その裏では別の行動も同時に行っているのに気付いたからである。
単に時間の無駄だからという理由もあったが。
「それで、此処からの行動だが……」
『敵が見境なく派手な行動に出て此方を掻き乱そうとしているのなら、此方も同じ手で敵の動きを掻き乱すのが良いだろう』
これからの行動について話そうとすると、勇吾の言葉を遮ってヴェントルが口を開いた。
『「神毒」が解呪された事は既に大元である『楽園の蛇』も気付いている事だろう。当然、今までに溜まり続けた鬱憤も含めて仕返しをされる事も想定済みの筈。今頃は守りを固めているか、別働隊を動かしている頃だろうが……まあ、“奴”は動かず待ち構えているのだろうが。兎も角、此処までは数の差を利用され攪乱されてきたのなら、今度は此方が数と質の両方で敵を攪乱するのだ』
自分達なら十分に可能だと言わんばかりに、ヴェントルは強く話す。
それに対してアルビオンは「成程」と、肯いてその意見に納得しながらヴェントルが言いたい事を推測し語り始める。
『相手に増援も対応もさせる余裕を与えないという事か――――。これまではこの世界への影響を考え、“此方側”の存在を隠匿する事を重視して動いてきたが、それも奴らによって水泡に帰した。最早この世界に対して隠れて動く意味も無くなった以上、加減する必要も無いか』
もう世間には自分達が立つ世界の存在がバレたも同然なので、何時もの様に周囲の目を誤魔化さずに堂々と動けばいいと、遠慮せず全力を揮えばいいのだと。
『その通りだ、アルビオン。我等が遠慮して加減する必要は最早皆無だ事後処理の一部はこの世界の組織が勝手にやってくれる。今一番重要な事は、邪魔者を全て排して2人を救出すること。この2つだけだ。他を気にしてしくじる事だけは避けねばならない』
最も重要な事を忘れるな。
1番の目的は拉致された慎哉と瑛介の2人を無事に救出することであり、それと比べれば世界に対する隠蔽工作は遥かに優先度が低いのだ、と。
この中で最も強い被害者はそう締め括った。
反論する者は1人も居なかった。
「――――此処からは各々に分かれて行動する。そして頃合いを見て、今決めたメンバーが天津神らが開く“路”を使って敵地へと侵入、2人の救出を行う」
その後、経験が豊富な面々を中心に細かい作戦が練られていった。
人間より遥かに長い月日を生きている黒王やアルビオン達は勿論のこと、勇吾とは比較にならない程の修羅場を経験してきたシドの意見にはまだ10代半ばの勇吾達にとっては驚愕の連続であり、同時に良い勉強にもたった。
そして作戦を練り終えると丈と銀洸の能力を(何時も通りに力ずくで)利用して敵勢の正確な位置を看破――最早呆れることだが、敵の高過ぎる隠形能力を完全無視して捕捉、リアルタイムで現在地が解るようにした――し、その情報を全員で共有できる道具をこれまた即席で作らせて全員に装備させた。
「い~や~!皆が俺はイジメる~!」
『未成年者の虐待だ~!』
『『『龍王は一律成人扱いだ』』』
『やー!』
隅っこで騒ぐ者がいたが、これも何時も通り誰も相手にしなかった。
勇吾は黒王と共に一番近い場所に居る敵の位置を補足し、他の者も各地にいる敵勢の位置を補足して各々に動くべく準備を始める。
その際、シドは勇吾達に幾つもの便利な道具を与えてくれた。
「良ければ使って欲しい」
「――――っ!これ、本当に良いのか?」
貰った物の価値に気付いた勇吾は目を丸くした。
それは、世界によっては普通に国宝や秘宝として扱われてもおかしくない代物ばかりだった。
「君達に対する大恩と比べれば安いものばかりだ。それに、この作戦で出し惜しみをする事の方が危険過ぎる。少しでも戦力を強化した方が良い」
「なら、遠慮なく貰っておく。それにしても凄いな……」
それは異世界を放浪している際に発掘した品々だとシドは語った。
「神毒」を受けた後、自力での解呪を目指して様々な世界を渡って調査をした際に遺跡などで見つけたが、今日まで使う機会も無く死蔵してきたらしい。
自分には無用の品ばかりだが、大恩人の役に立てるならと、少しでも自分達の戦力を底上げした方が良いと言って渡された品々を勇吾達はまじまじと見つめた。
「うわあ……これ、とんでもない効果が付与されてるよ。普通に『神器』と遜色のないものまである」
「こんな物を沢山発掘するなんて……」
「マジか!?ロトの父さん半端ねー!」
指輪や腕輪、ネックレスといったアクセサリータイプの物から靴や手袋の様な防具タイプの物まで様々な物を貰った勇吾達は早速それらを装備していく。
余程高い技術力で作成されているのか、サイズが合わない物も自動的に調整されてピッタリと体に嵌った。
『準備は出来たか?』
「ああ、何時でも行ける!」
全ての準備を整え終えた勇吾達は直ぐに作戦を開始する。
銀洸が周囲に張っていた結界を解除すると、誰よりも早くヴェントルが黒い両翼を羽ばたかせて飛翔し、周囲には激しい突風が吹き荒れる。
そして地上からは豆粒サイズに見えるまで飛翔すると同時に数千体に増殖し、四方八方へと散っていった。
「マジか……本当に一騎当千かよ……」
唖然とする声が勇吾の近くから聞こえてくる。
ヴェントルはその固有能力で増殖して世界中へと飛んでいった。
瑛介の持つ固有能力《多重千変万化》とは異なる効果のようだが、能力としては同系統らしく全ての分身体が本体と完全に同等の力を持っていると本人は語っていた。
「っと、ぼうっとしてないで俺達も行くぞ!」
「お、おう!」
「あービックリした!じゃあ、手筈通りにな!」
『では、行くぞ』
「ああ!」
そして勇吾達もそれぞれの敵に向かって動き出した。
勇吾が最初に目指すのは日本の内陸部、日本でも最も有名な大妖怪の1体の伝承が残る、温泉地としても有名な場所だった。
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そして現在に戻る。
敵の1人である白衣の女と、女が復活させた大妖怪『白面金毛九尾の狐』を補足した2人は即座に分かれて各々の敵の排除に入った。
まず、勇吾は布都御魂剣と神度剣で九尾の狐を切り刻み、黒王は白衣の女に本気の攻撃をくらわせる。
「神殺し」であった白衣の女は黒王の初撃を耐えきったが其処までだった。
全く手加減の無い全力の二撃目により女は即死、山は真っ二つに割れてしまった。
『……少々(・・)やり過ぎたか』
割れた山の地下から噴き出る温水を浴びながら黒王は呟く。
今までも決して手を抜いていた訳ではない。
だが、やはり龍王や神龍としての強大な力がこの世界に与える影響を鑑み、また、この世界が張ってある「制約」により、これまでは此処まで堂々と全力を揮える事が無かった。
しかし今は非常時、下手な手加減は事態を悪化させかねない上に仲間の命も掛かっている。
そしてこの世界の神々からも既に話は付けてある。
お蔭で不意打ちに近い形で全力で敵を葬る事に成功した。
ちなみにこの「手加減容赦なく本気を揮える状況」、これは黒王に限らず契約者の居る全ての存在にも適用される。
『クォォォォォォォォォォォォォォン!!』
「五月蠅え!!大人しく―――――なれっ!!」
一方、九尾の狐の相手をしていた勇吾の方も殆ど苦戦はしていなかった。
大妖怪というだけはあって多彩な妖術を行使する九尾の狐だったが、白衣の女によって自我を封じられている事と、伝承で語られる通り魅了や変化といった搦め手を得意とする類だったこともあってか、物理的な戦闘は勇吾の方に分があった。
九尾の狐は常時魅了の妖術を使ってはいたが、色々あって状態異常に対する耐性が極めて高かったので効果は無かった。
「――――終わりだ!」
分身に気を取られている隙を突いて距離を詰める。
左右の神剣に雷を纏わせ、九尾の狐の核となる場所を正確に狙って振るった。
――――《疾雷双覇斬》
九尾の狐は全く反応することが出来なかった。
次の瞬間、其処には幾百もの雷に全身を切り刻まれ力の象徴でもある全ての尾を失って絶命した巨大狐の姿があった。
「木克土、古来より土行は木行に弱いと相場は決まってる」
天神が居ればもっと早く片付いたのに、と心の中で呟きながら勇吾は黒王の下へと戻っていく。
絶命した九尾の狐の体は倒れる事は無く、立った姿勢のまま全身を光の粒子に分解され、大気に溶けるように徐々に消滅していった。
『終わったか?』
「悪い、待たせた」
『問題無い。次は西の方へ行くぞ』
「ああ!大物が着く前に雑兵を片付けるぞ!」
遥か西方から接近しつつある脅威を気にしつつ、勇吾と黒王は次の標的を目指して移動を開始する。
勇吾を背中に乗せた黒王は雲上へと飛翔し、西に向かって空間を飛び越えながら消えていった。




