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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第408話 動乱?

――『畜生の世界』――


 地球世界の状況変化は勇吾達にも伝わっていた。

 空気の流れが変わるのを感じる様に、勇吾の隣に立っていた黒王(ヘイウォン)は空を見上げながら表情を曇らせる。


『……不味い。向こうの死者が多数出始めている』

「クソッ!タイミングの悪い!直ぐに向こうに戻らないと!」

「どうやら、想像上に悪化の速度が早いようだな?」

「ああ、こっちの動きに感付いたのか、それとも端から計画していたのかは分からないが、人目を気にせず堂々と虐殺を始めたらしい」

「なら、こっちも早々に動くべきだな。此処からは速さの勝負だ」


 勇吾達の言葉で現状を把握したシドの動きは早かった。

 彼が利き手を空に掲げパチン!と指を鳴らすと空に巨大な光の魔方陣が出現し、中から複数の巨大な影が飛び出し、それらは大きな衝撃と共に勇吾達の周囲に着地した。


「これは!?」


 目を丸くする勇吾を余所に、シドは魔方陣から出てきた“彼”に歩み寄っていく。


「久しぶりだな。といっても、お前からすれば最後に別れた日は昨日の事のようだろうな。ヴェントル?」

『そんな事は無い。またお前と共に戦えるこの日を何十年も待っていた。シド!』

「……『天嵐の飛龍王』!」


 勇吾達の前に着地した巨大な影はヴェントルだった。

 驚愕しながら周りを見回すと、其処にはよく知った者達の姿もあった。


「え……勇吾?」

「ちょっと今のって、強制召喚!?」

「凄い……抵抗する間も当てず全員同時に召喚されたわ!」

「おおお!?勇吾ってことは、そっちも成功か?」


 そこに居たのは別働隊――飛龍王(ヴェントル)の解呪に向かったチーム――の良則達が尻餅をつきかけた体勢で勇吾達を驚きの目で見ていた。

 シドが出現させた先程の魔方陣は彼の《召喚魔法》――(異世界も含め)別の場所に居る存在を強制的に召喚させる魔法――の中でも彼自身が独自にアレンジを加えた、白の龍皇(アルビオン)神殺し(良則と丈)の様な力有る者さえ抵抗させる間もなく召喚させる強力な代物だった。

 その事に勇吾も驚愕しつつも、今はそれに構っている話題ではないと直ぐに本題に入った。


「良則!()が動いた!」

「っ、急がないと!」


 たった一言で状況の全てを察した良則はアルビオンに視線を向け、アルビオンの方もそれだけで彼の意志を読み取り両翼を広げる。


『――――最短の路で行く』


 その一言で場の空気が引き締まる。

 が、それを考え無しにぶち壊す者がいた。


「『え~?ちょっと観光した――――』」

『黙れ』

逝け(・・)

「お前らは留守番!」

「働きなさい!」

旅行(マイペース)か!」

「1年肉(食用)無し生活よ」

「『ゴメンなさい』」


 が、即座に大人しくされた。

 その光景を見ているのか無視しているのか、横で数十年ぶりの再会を果たしたシドとヴェントルの2人は気にも留める訳でも無く勇吾達に話しかける。


「再会を喜ぶのも互いの自己紹介も後に。今は為すべき事に専念しよう」

『我等に仇名した事を、『蛇』と《眷属》共に後悔させるぞ!』


 雄々し過ぎるその姿に勇吾は息を飲んだ。

 潜り抜けてきた修羅場の数の桁が違い過ぎる。

 そう悟ってしまう程の気迫を感じた勇吾は、シドらの姿に故郷の物語に登場する龍と共に世界を救う英雄の姿を幻視した。

 この中で彼らと肩を並べ合えるのは、それこそ同じ龍王であるアルビオンか黒王ぐらいではないかとも思った。

 ちなみに銀洸については常識の埒外なので完全にスルーである。


「――――俺達が通ってきた(みち)を使えば直ぐに日本に着く!直ぐに出発しても問題無いか?」

『無論』

「問題無い」


 圧倒的な気迫に耐えながら直ぐに出発する旨を尋ね終えた勇吾は、隣の黒王に“路”を開くように視線を送り、それに肯いた黒王は地面に余裕で全員が入る程の魔方陣を出現させて『根源回廊』への入口を開く。


(無事に開いた。日本側の出入り口はまだ無事のようだな)


 無事に“路”が開いたのを見てホッと安堵する。

 日本側で問題が生じれば開けない可能性もあったが、少なくとも日本側の出入り口のある神社の方は今の処無事のようだ。


『ほう?これは根源の神……国之常立神(クニノトコタチ)あたりが授けたな』

「随分と太っ腹な事を」

(――――!一発で見抜くのかよ!?)


 一挙手一投足で全てを見透かすのかと勇吾は驚く。

 勇吾でさえ今日知ったばかりの“路”の存在と価値を、この2人は既に知っていたようだ。


「―――――では、征こう!」


 そして微塵も躊躇い無く飛び込んでいく。

 ヴェントルもそれに続く。


「……なんか、思った以上にトンデモねえ奴だな、瑛介の父さんもロトの父さんも」

「……ああ」


 若干引き攣っている幼馴染(トレンツ)の意見に同意しながらも、勇吾も黒王と共に彼らの後に続いて“路”に飛び込んでいく。

 問題児の丈と銀洸は最後まで残ったが、そのまま放置する方が危険と判断されたのか放置される事無くアルビオンによって強制的に連行されていった。








----------------------------


――日本――


 ネットやテレビを通じて日本中が騒然となった。

 本来なら二次元(*一部三次元)の中の架空の存在でしかなかった怪物達が現代の地球各所に出現し、人間社会を蹂躙し始めた。

 日本国内で最初に目撃されたそれはテレビの生放送中の出来事だったことと、その衝撃の大きさから対応が遅れたせいもあり、()からの指示で映像が中継映像が止められた時には多くの日本人がその事実を認識することとなり、また、違法を承知の上で録画した中継映像を動画サイトに投稿する者も出た事で瞬く間に国内外に知られる事となった。

 ただし、やはり常識に凝り固まった一部の者達はこの事に否定的であり、多くがマスコミの暴走ではないかとSNS上で指摘していた。

 逆に直ぐに信じた者達はというと、10分と掛からずにネット上で盛り上がっていた。


――――マジで本物(リアル)!?

――――クリスマスのドッキリじゃね?

――――バカ!生々し過ぎるだろが!

――――ヒャッハー!人☆類滅☆亡♪

――――俺、ちょっと変身してくるw

――――検証組によると、アレはギリシャ神話系の魔物っぽいらしい

――――女神(アテナ)よ!我に力を!


 自分に直接の危険が無いのが一番の理由なのだろうが、彼らはテレビの向こう側の出来事を対岸の火事程度にしか認識せず娯楽のネタとして扱っていた。

 ある意味では、その事が国内の混乱を最小限に抑えていた。

 だがその一方、国の“真”の中枢に立つ者達は一般国民には知られてはいけない事実がバレてしまい混乱の極みとなっていた。


「一体どうなっている!?」

「何故、この様な事に……」

「このような事例は起きない筈ではなかったのか!?」


 国の裏側にも関わっている代議士達は会議室の中で狼狽えていた。

 此処に集まっているのは“表の政治”にのみ関わる普通の代議士(・・・・・)ではなく、“裏の政治”にも深く関わっている者達だった。

 彼らの多くは古くから(まつりごと)に携わる家系の出身であり、中には数百年から千年も前から続く家系の者もいた。


「そもそも、今年度に入ってから国内外を含め「X事例」が多発し過ぎている!原因はまだ判明しないのか!?」

「申し訳ありません、大臣。内調(*内閣情報調査室)の対策室を総動員している処ですが、ある一定の処で全て頓挫しています。特級以上の能力者(ホルダー)による妨害と推測します」

「アメリカ側は何と言っている?」

「現時点では本国の事例にのみ集中するとのことです。「あの一族(・・・・)」に関しては、今回の件には不関与(ノータッチ)だそうです。あと、例によって「余計な刺激はしないで!」と、現駐日大使から必死の伝言を預かっております」

「何だ、その斜め45度な危機感は!?いや、大体分かるが……しかし!!」


 代議士たちの質問に対し、今回の件を担当することになった男は淡々と質問に答えていく。

 「X事例」とは、政府が表沙汰にしたくない事例の総称であり、主に幽霊や妖怪といった心霊現象を始め、超能力者やUMA、UFO、果ては神や悪魔に関するものを指している。

 政府はこのX事例を宮内庁や防衛相といった各所に設置されている「無名の部署」と連携して対処し、一般人に目撃された際も都市伝説などに偽装して隠蔽、決して国民に発覚しないよう古くから暗躍していた。

 これらの機関の構成員の大半は現職の公務員だが当然の如く普通の公務員(・・・・・)ではなく、陰陽師や神官、祓魔師、占い師といったその筋(・・・)の能力を持つ人物を表向きには一般採用した後に各署に配属しており、専門家としてX事例の対処に動いたり、時には政府からの指示でそれ以外の仕事(・・・・・・・・)を行っていた。

 ちなみに先程から代議士達の相手をしている男も「退魔師」である。

 だが、彼らの力を持ってしても今回発生した事例は事前に予知する事は出来ず、対処にも遅れてしまっていた。


「――――落ち着け。お前達が喚いたところで事態は変わらん」

「し、しかし、御老公!」

「このままでは全国民が真実を知る事に!そうなれば我等の立場も危うくなります!」

「落ち着けと言っている!」


 騒ぎ立てる代議士達を、老齢の男が黙らせる。

 80を超える高齢にも拘らず今だ国の中枢に居座るこの老人は自身も陰陽師の端くれの1人であり、今此処に集まる者達の、事実上のリーダー格であった。


「まずはそれ以外の報告を聞こう。例の中継に出てきた妖異について、正体は判明したか?」

「はい。例の巨大魚についてはギリシャ神話に記されている、海獣ケートスであると断定しました。ギリシャ側の機関にも確認を取りましたのでまず間違いないかと」

「ふむ。半神半人の英雄に討たれたアレか。石にされ後に砕かれたと聞いているが滅んではいなかったということか。アレを生み出したのは海神(ポセイドン)とされておるが、大神(ゼウス)破壊神(テュポーン)とも言われておる。八岐大蛇程ではないにしろ、随分と厄介なものが復活したものだ。それで進路は?」

「……真っ直ぐ、日本(こっち)に」

「面倒な……」


 男の報告に老人は呻る。

 如何に優秀な専門家を集めている政府と云えど、神話に登場するような怪物と戦える人材など殆ど居ないも同然だった。

 老人本人も怨霊となった嘗ての政敵を滅する事は出来ても、神話に出てくるような大物の相手など不可能だった。

 それもその筈、ケートスの様な大物は大体が勇吾達の様な異世界人によってその都度速攻で討伐されてきたので、国に仕える彼らがその手の経験を積む機会などほぼ皆無なのだ。

 ハッキリ言って、勇吾達からすれば彼らも一般人に過ぎないのだ。


「防衛省より入電!殺生石に異常あり!殺生石に異常あり!」

「バカな!玉藻前(たまものまえ)まで!?」


 急報に会議室は再び騒然となる。

 老人も眼を顰め、詳細を聞こうと口を開くが更なる急報が彼らを襲う。


「宮内庁より入電!崇徳院に急激な活性化を確認!鎮魂は間に合わず!」

「バカな……!」


 絶望にも似た声が老人の口から洩れた。

 「崇徳院」とは第75代天皇の事であり、菅原道真や平将門と共に『日本三大怨霊』に数えられる崇徳上皇(崇徳天皇)の事である。

 また、酒呑童子や玉藻前(*九尾の狐)と共に『日本三大妖怪』に数えられ、他の2体と異なり退治される事も封じられることも出来なかった大怨霊であり、同時に神でもある。

 日本トップクラスの崇り神の登場に、老人だけでなく会議室にいる人間全てが絶望のどん底に突き落とされそうになった。

 だが、絶望はまだ終わらない。


「――――か、神田明神にも異変の兆しが、あり、と」

「ま、将門公まで、だと!?」

「あと、これはまだ未確認ではありますが、全国各地の寺社仏閣でも異変ありとのことです」

「何が……どうなっている!?」

「ぼ、防衛省より入電!黄海から日本海に向かって急速に移動するX対象を補足。真っ直ぐ日本に向かって移動しているとのことです」

「「「……」」」


 その後も急報は続き、代議士達は完全に言葉を失ってしまう。

 他の代議士よりも専門知識が深い老人に至っては今にも卒倒しそうになっている。

 無理もない。

 今起きている事態は、ネット上の住人の言葉を使えば「最終戦争(ハルマゲドン)キター!?」「神々の黄昏(ラグナロク)in日本☆」と表現されるものであり、完全に彼らを含めた組織全体の対処能力を超えた問題事案なのだから。


「あ、あの……御指示を?」


 沈黙に満ちた会議室の中で、担当官の男の戸惑いの声が空しく響いた。

 その後、彼らは半ば魂の抜けた様に会議室から指令室へと移動し、其処で何もできないまま自体の流れを傍観していく事となる。

 そして、指令室のモニター越しに今回の事件の推移を見届けることとなる。






----------------------------


――『時空ノ根源回廊』――


(あらら~状況が悪化しちゃって思考停止しちゃったか♪)


 相棒と共にアルビオンに連行されている丈はハニカミながら日本の状況を見届けていた。

 碌でもない行為に関してはピカイチの才能を持つ彼は辺境の異世界からの帰路の間も、地球世界の様子を遠視してリアルタイムの情報を得ていたが、その過程で途方に暮れている日本の黒幕(笑)達の姿を見つけていた。


(井の中の蛙が大海を知っちゃったか~♪南無☆)


 日本人の祖父を持つ丈は、日本の中枢にこういう組織が存在する事を最初から知っていた。

 知っていたからこそ、事件が起きる度、悪ふざけをするついで(・・・)に彼らの目が自分達に向かないように隠蔽や妨害を巧みに行い、ついでに彼らでも解決できるような些事を丸投げしたりすることで彼らに国内の問題全てに対して自分達は動いていると錯覚させていた。

 無駄に能力の高すぎる彼の前では国に仕えるあらゆる術者達は赤子同然であり、事実上彼らは丈の暇潰しの玩具にされていたりもする。


(だけど今回は完全に誤魔化すのは無理っぽいし、盛大にカミングアウトしよっかな♪異界の勇者ジョー参上って感じで♪)


 こんな状況さえも楽しんでしまえる丈はある意味では大物だった。

 それは銀洸も同じである。


『――――(そのような勇者は)不要だ』

「あだ!?」


 しかし、丈の企みは呆気なく崩壊した。

 それよりも遥かに大物が存在したのだった。

 現実は彼に対しても厳しかった。







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