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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第405話 解呪完了

――???――


『―――――――何?』


 闇の中で赤い蛇は首を上げる。

 そのまま数秒ほど静止、存在しない(まなこ)で闇の遥か向こうを覗き続ける蛇は次第に憤怒の形相に染まっていく。


『我ガ毒ガ死ンダ(・・・)


 赤い蛇は全てを理解した。

 己が手の届かない2つの場所で2匹の“毒”が消滅し、“毒”により封じていた嘗ての怨敵達が解き放たれたという事に。


『オノレ……!』


 神であろうとも消せない筈の、不死にして不破の“毒”が己より下等な存在によって糸も簡単に破られた事に赤い蛇の矜持は大きく疵付けられた。

 己の怨嗟をこれでもかと込められた“毒”が、定命の存在にとってはその他の障害と何ら変わらないものとして扱われた。

 赤い蛇の怒りは際限無く膨れ上がっていく。


『オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……オノレ……!オノレェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ――――――――――ッッ!!!!』


 底知れぬ憤怒と怨嗟が闇さえも飲み込んでいく。

 赤い蛇――――『楽園の蛇』サマエルは今すぐにでも解放された怨敵を、怨敵を解き放った己が“毒”を消した者達を滅ぼすべく自ら動こうとする。

 居場所は分かっている。

 世界の1つや2つも道連れに滅ぼしてくれようぞと、“毒”より解放された喜びをゆっくり味わう間すら与えず無限の絶望に落としてやろうと、サマエルは軋み続ける闇の中を高速で移動していくが、それを阻むかのように事態へ急変していく。


『―――――ッ!?』


 突如として怨敵達の位置が視えなくなってしまった。

 そしてその直後、まるでサマエルの視線を逆流させるかのように何者かの意志が強制的に流れ込んできた。



――――此処から先はプライバシー保護の為禁止だよ☆( ̄▽ ̄)乂



 闇は跡形も無く蒸発して消えた。

 大噴火したサマエルの憤怒によって。










------------------------



「やってやったぜ♪」

『盗聴と盗撮は犯罪だよ~~~~~♪」



------------------------


――『畜生の世界』――


「……」


 シドは愕然となりながら目の前で黒く燃え上がるモノを見下ろしていた。

 其処には闇色の炎で焼かれながら消滅していく、全身を縦に両断された赤い大蛇の姿があり、大蛇を挟んで反対側には未だ黒王を纏ったままの勇吾が立っていた。

 あの怨嗟の咆哮の後、シドの体内から彼の身の丈を優に超える大蛇が飛び出した。

 それは人間では決して生み出せない程の呪詛の塊であったが、十字疵の付いた頭部を中心に全身を構成している呪いが浄化されていき、最後の悪足掻きに動いた時には本来の半分以下程度にまで弱体化しており、その毒牙がシドに辿り着くより先に勇吾に一刀両断されたのだった。


「……強力な呪いの中には“本体”に生物の形を与えるものが多いが、実際にこんなもの(・・・・・)が自分の中に居たと思うと薄ら寒くなるものだ。コレが(・・・)あの時に受けた「神毒」の“本体”か。……いや、単にコレの大元の怨嗟を元に形を成しただけかもしれないか」


 そして黒炎が消えるのと一緒に赤い大蛇に見えた「神毒」は完全に消滅した。

 黒炎が消えた跡には焦げ跡すら残らず、始めからそこには何も無かったかのように雑草と石ころのみがある地面だけがあった。

 シドは10秒ほどの間何も無い地面を見つめ続けた後、ゆっくりと視線を上げて武装化しなままの姿の勇吾と向き合った。

 すると、今までの表情からは想像にできないほど穏やかな笑みを浮かべた。


「――――礼を言う。まさか、この呪いを解くのが息子の恩人だとは思いもよらなかった。息子を保護してくれたことも含め、君達には感謝してもし足りない。――――ありがとう」


 深々と頭を下げるその姿からは言葉では言い表せない程の感謝の気持ちが見て取れた。

 何年にも及ぶ孤独な旅路。愛する女性との死別。一人息子との離別。友との離別。「神毒」との戦い。

 1人で背負い続けたものと同等の思いがこの感謝に込められているのだろうと勇吾達は悟った。


『その言葉、俺達じゃなく解呪法を開発するのに協力してくれた皆に言ってくれ。あと、仲間思いの『龍王』にも』

「何?」

『解呪法の情報を教えてくれたのは『海龍王(ハイロン)』だ』

「!」


 シドが目を丸くするのを見ながら勇吾は武装化を解除する。


「……成程。奴にまんまと嵌められた訳か」


 苦笑しながらも、彼は何処か嬉しそうだった。

 『海龍王』ハイロン――――それは凱龍王国を象徴する4柱の龍王の一角であり、シドが契約している龍王の1人でもある。

 勇吾は夏に帰省した際に王国で開催された「四龍祭」の際に彼の龍王と接触しており、其処で「神毒」の解呪法に関する貴重な情報を得たのである。

 その事自体はシドも本人からの連絡で知ってはいたが、その解呪法に必要な物を(少なくとも短期間で)揃える事に加え、それらから解呪法そのものを開発する事はまず不可能だろうと判断していた。

 もっともそれは、“必要な物”が何なのかすら彼らが知らないという前提での判断であり、シドは勇吾達が必要な最低限の情報をハイロンから聞いていた事を全く知らなかったのだ。


「正直な処、必要な材料そのものは以前から目途が立っていた。だが、最後に必要なものがこの呪いの関係上難儀していたところだった」

「それは、もしかして錬金術師(ぎじゅつしゃ)?」


 材料だけならシド個人でも集めることは出来る。

 特に重要且つ稀少な『滅龍神器(ドラゴンスレイヤー)』は既に彼が所有している。

 だが、材料を元に目的の品を作る為には「錬金術師」を含めた専門職の手が必要だった。


「その通り。汎用型の術なら幾らか使えるが、新しい術の開発に関しては門外漢だから他人を頼らざるを得ない。だが、この呪いのせいで人との接触は出来ない。それ故、代替となる別手段を探していた処だったのだが無駄骨になったな」


 そう呟きながら後ろの方へと視線を移す。

 其処には昨日発見したばかりの古代遺跡の入口があった。


「あの遺跡は……」


 その遺跡を黒王は怪訝な眼差しを向ける。

 直感的にまともではない(・・・・・・・)遺跡であると見抜いたらしく、その様子にシドは肯定するように頷きながら答えていく。


「術師の代替となる設備を探していた末に辿り着いた遺跡だ。察しの通り、ひとつ間違えれば大災厄を引き起こしかねない危険物だが、それに目を瞑れば相応の利益を齎してくれる。まあ、手を付けない事に越したことはないが……。今となっては―――――」


 と言葉を途中で止めた刹那――――



――――――ッ!ッ!ッ!



「!!」

「ほう」


 勇吾は目を瞠り、黒王は感心するような声を漏らしながらそれを目にした。

 常人からすれば何も起きていないように見えたがその実、刹那の間に優に300を超える太刀捌きで遺跡を隈なく切り刻んだのだ。


「―――――厄災の芽は此処で完全に摘んでおく」


 直後、森全体を大きな地揺れが襲う。

 勇吾達の立っている場所にも亀裂が幾つも走っていき、木々は倒れ、大地は陥没、遺跡の入口は崩落によって瞬く間に塞がっていった。

 そして地揺れが収まった後には地表から10メートル以上陥没した、嘗ての大森林の成れの果てが残ったのだった。


「……瞬間自然破壊だな」

「見事な抜刀術だ。人の身でこの域に達する事の出来る剣士はそうは居ない。間違いなく最も頂に近い犬歯の1人だろう」


 目の前の後継に顔を引き攣らせる勇吾、反対に黒王はその剣技に感嘆としながら森の無残な姿に関しては完全にスルーしていた。


「これで遺跡の全機能は死んだ。残った残骸もひと月と掛からずに土塊に成り果てる。もう、此処を悪用とする者は出てこないだろう」

「それは上々」


 微塵も未練など無いと言わんばかりの態度で太刀を鞘へと戻す。

 元々彼がこの遺跡を探していたのは本人が言うとおり自力での「神毒」の解呪の為であり、それ以外にはこの危険極まりない過去の遺産に執着する理由も、後世の残す理由も、このまま放置する理由は一つとしてなかった。

 百害あって一利無し。

 まさにその一言に尽きる為、彼は一切の容赦なく遺跡を破壊し尽くしたのだった。

 その清々しいまでの行動の早さには黒王も思わず笑みを零していた。


「――――それで、このタイミングで来たのには何か事情(わけ)があるのだろう?」

「!それは――――」


 不意に話題を切り替えられ、勇吾はハッとする。

 すっかりシドのペースに飲まれてしまったが、此処へ来た本当の目的を忘れてたわけではない勇吾は直ぐに自分達の事情と、地球世界の現状について簡潔に説明していった。

 地球世界に『創世の蛇』が侵攻を開始した事、侵攻してきた戦力の中には《真なる眷属(オリジン)》も居るという事、仲間が2人拉致されたという事、その中には『天嵐の飛龍王(ヴェントル)』の息子も含まれているという事、2人を救出しようとした矢先に侵攻が始まったという事、事態の解決には戦力が足りないので協力して欲しいという事など、要点を全て話していった。


「……そうか」


 そして全ての事情を聴き終えた後、数秒ほどの黙考した末に、彼は一言だけ小さく呟いたのだった。

 勇吾達でさえ怖気立つ程の殺気を全身から放ちながら。









真の黒幕はあいつ等かもしれない(笑)

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