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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第402話 作戦開始

――回想――


「これらの神器モドキには物理的な殺傷能力は無い。あくまでも呪いを消滅させることのみに特化したものだから幾ら急所を斬ったり撃ったりしても相手が死ぬことはない。死霊の類いの場合は例外だがな」


 作戦の全容を説明する際、蒼空は持ってきた武器の使用上の注意を先に話していった。

 そして勇吾は「兼定」を選び、他の「正宗」を良則が、「長光」は琥太郎がという風に割り振られ。丈は真っ先に狙撃銃を選んだ。

 丈は剣や弓だけでなく銃火器にも精通していた。


「何処を狙えばいい?」

「流石に掠った程度では効果は薄いが、一定以上深く入れさえすれば何処からでも効果は出る。理想はやはり胸の辺りだろう。あくまで仮説だが、サマエルの「神毒」は対象の循環器系と同化している可能性が高い。それで心臓を一突きすれば直ぐに効果が表れる」

「一撃で決めないといけないな」

「当然。現時点で判明しているだけでも、「神毒」は掛けられた対象の親しい同族に対して絶対死と言っていいほどの効果を及ぼす。完全に無関係な相手や異種族に対しては少なくとも致死性の効果は及ぼさないようだが、間接的に縁のある勇吾や、龍族として親交のある黒王達は別だ。接触すれば即座に「神毒」はお前達に牙を剥く。その前にケリを付ける」



 『楽園の蛇』サマエルの呪い――――「神毒」は恐るべき呪いである。

 その効果は心身だけではなく“運命”さえも浸蝕し相手を非業の死へと誘っていく。

 嘗て『創世の蛇』に真正面からケンカを売り、《真なる眷属(オリジン)》を含めた幹部の多くを葬ってきた『天嵐の飛龍王』ヴェントル、その契約者シド=アカツキは『楽園の蛇(サマエル)』と『神話狩り(ペリクリス)』によりその身に呪いを受け、世界からを姿を暗まさざるを得なくなった。

 そしてどういう因果か、ヴェントルはこの地球世界に流れ着き、其処で人間として過ごした末に人間の女性との間に瑛介を始めとする沢山の子供を儲ける。

 だがその生活も長くは続かず、ある日、事故死に偽装して家族から姿を暗ました。

 一方、シド=アカツキはヴェントル以上の苦難の道を歩む事となる。

 各世界の表側に出てこない事の多い龍族とは異なり、彼の種族は人間(・・)である。

 人間種(・・・)の存在しない世界も存在するが、現地で「人間」と呼ばれている種族が皆無の世界は極めて少ない。

 世界によっては獣の特徴を持った「獣人」や、長寿で魔力に恵まれた「エルフ」といった、二足歩行で言葉を話す知性体全般を「人間」と呼ぶ処もあり、これらの主に対してもサマエルの呪いは容赦なく牙を剥く。

 必然的にシドは各地を放浪し続けざるを得なくなるが、とある世界において、現地の女性との間に息子ロトを儲け、女性は息子が物心つく前に亡くなりロトは孤児となり、奇縁あって勇吾に拾われて彼の義弟として天雲家で暮らしている。

 彼らがどのようにして生きてきたのかは勇吾達にも計り知れない。

 だが、一度接触しようものなら即座に姿を暗ませるのは明白だった。


「向こうは接触すれば俺達のみの安全を優先して別の世界に転移するだろう。警戒して次はもっと上手く隠れて発見するのに手間取る事になるが、そんな時間は俺達には無い。この1回で必ず決める」

「肝心の居場所は判明したのか?」

「「協力者(国之常立神)」から提供された情報のお蔭で正確な現在位置を補足している。それも何時気付かれるか分からない以上、今すぐ然るべき場所で開始する」


 解呪の対象の実力を一切舐めていない蒼空は即座に行動を動かした。

 何しろ、件の2人は蒼空の前世の時代から『創世の蛇』を相手に奮戦しており、当時も幹部を倒していたのを知っていた。


「少しでもリスクを下げる為に『飛龍王(ヴェントル)』には俺が行くのが良いか」


 勇吾は「兼定」を握り締めながら訊ねると「いや、逆だ」と蒼空は否定する。


「それは相手も予め予想済みだろう。自分の下に誰かが来るとすれば他種族の者であると。ならば不意を突く形の方が僅かでも相手の動揺を誘える可能性がある。無論、これが高いリスクを伴う事は解っているが、その為に解呪法を武器に宿してある。理論上、所持している間が呪いから身を護れるが、あくまで過信せず、接触と同時に解呪を実行する」


 そして更に幾つかの捕捉を加え、彼らは作戦を実行するのに最も適した神社へと移動を開始する。

 その神社は「協力者」である国之常立神(クニノトコタチ)を主祭神として祀る神社であり、其処でなら現在進行形で侵攻している『創世の蛇』は無論のこと、件の2人にも自分達の行動を感知される可能性が最も低いというのが理由である。


 国之常立神――――世界の根源そのものを司る神であるが故、彼の神を祀る場所は同じ世界でありながら“全ての世界の根源”に近い場所であり、数多ある異世界とも繋がり易い場所の一種(・・)でもある。

 この特性を上手く利用すればヴェントルとシドの2人に事前に感知される可能性も限りなく抑えられ、同時に敵にも自分達の動きを察知されるのを遅らせる事もできるのだという。

 日本の神でありながら異世界にも影響を及ぼせる特異な神、その協力が得られたからこそ――その権能により所在不明であったヴェントルとシドを補足することができた――の今回の作戦であった。


 そして計画は実行され、勇吾達は今回の為だけに開かれた“路”を通ってヴェントルとシドに掛けられた呪いの解呪に動いたのだった。






----------------------


――時空ノ根源回廊(勇吾サイド)――


 特殊な儀式により今回の為だけに造られた異世界へと繋がる道「時空ノ根源回廊」。

 「狭間の世界」とは異なる時空に多少の戸惑いを抱きつつも、勇吾達は二手に分かれてそれぞれの目標の居る世界へと急行していった。

 この時空の中は現実世界とは異なる“理”が働いている為、時間の流れも不規則に変化し、幸いにも今は現実世界よりも15分の1まで遅れているので移動で時間を無駄にする心配は無かった。

 もっとも、それも加護の力により予め設定した通りなのだが。


「こんな空間が存在していたなんてな……」


 初めて目にする光景に勇吾は思わず言葉を漏らした。

 その横を龍の姿に戻った黒王が並ぶ。


『特殊な神格を持つ神でなければ認識する事すらほぼ不可能だろう。国之常立神と同系統の神格を持つ神は他神話でも1柱か2柱程度だ。そう言う意味では、日本はかなり多い方だろう』

「世界の“根源”を司る神か……いや」


 《盟主》の1柱である『天界神』と対を為す存在とされる神の事に気を取られそうになるのを振り切り、意識を前へと向けた。

 体感では目的にまではあと1分と掛からないだろう。

 相手は余裕で神を殺せるほどの世界最高峰の猛者の1人、蒼空は自分が行けば相手の動揺を誘える可能性が僅かでもあるといったがおそらくは厳しいだろうと勇吾は考える。

 蒼空は敢えて指摘しなかったが、十中八九相手も勇吾達の情報はある程度掴んでいる筈だと、数ヶ月前の夏の出来事を思い出しつつも、直ぐにその事を心の隅に仕舞って今為すべき事に集中する。


「――――布都御魂剣(フツノミタマノツルギ)


 刀を持っていない方の手に布都御魂剣を出現させ、強く握りしめながらその能力で「兼定」に込められている解呪法(能力)を複製し取り込ませていく。

 そして剣の形状を刀へと変形させ、「兼定」と合わせて二刀流として扱えるように瞬時に微調整を済ませて構えをとる。


「勝負は一瞬、いや刹那に決める。(ヘイ)!」

『了解だ』


 次の瞬間、黒王の体が発光して勇吾と一つになる。

 黒の龍王を武装化させ自身の一体化させた勇吾は背中から生やした漆黒の両翼を羽ばたかせて一気に加速していく。

 既に一緒に回廊へ飛び込んだ仲間の姿は無い。

 自分達以外の全員は『天嵐の飛龍王』の下へと向かっている。


「黒、速度を限界以上にまで上げてくれ!」

(移動を含めた制御は此方でする。勇吾は斬る事に専念すればいい)

「分かった!!」


 速度に比例して勇吾の思考も研ぎ澄まされていく。

 到着まであと十数秒、その間も勇吾は自分が両手の刀を振るう姿を幾重にもイメージし、失敗に対する怖れを完全に振り払う。

 結果は成功のみ。

 仲間の為、世界の為、何より――――遠い場所で待っている義弟との約束を果たす為に、勇吾は翔んだ。



「―――――此処で断ち斬る!!」



 そして、眼前に広がる純白の出口へと飛び込んでいった。








-----------------------


――時空ノ根源回廊(良則サイド)――


 時は僅かばかり遡る。

 勇吾と黒王と別れた別働隊は同じく回廊を通って目標である『天嵐の飛龍王』の下へと向かっていた。


「――――でも、本当に2人だけで行かせて良かったの?」


 黙って移動していられるほど落ち着いていないのか、琥太郎は自分の前を行く良則に訊ね、訊かれた良則は振り返らずに答えていった。


「むしろ大勢で行った方が危険だからだよ。「神毒」もだけど、ロトのお父さん(シド=アカツキ)は人間だから対人戦は勿論だけど、1対多数の戦闘にも秀でているから、大勢で向かったら本領を発揮されて大失敗する可能性が高い。それが僕達の考えなんだ」

「数で攻められるのに慣れている、という事?」

「うん。蒼空の前世の記憶だと、神と契約した戦闘員500人相手に単身(・・)で攻めて敵を全滅させたそうだよ」

「「「うわあ」」」」

「わ~お!リアルチ~ト~☆」

『無っ敵~♪』


 シド=アカツキの過去の戦歴を聞いて琥太郎は勿論のこと、近くで聞いていた者達もそろってドン引きしていた。

 約2名、テンションを上げて喜んでいたが。


『……このバカは置いて来た方が良かったんじゃないか?』


 白狼の姿で移動している冬弥はジト目で2人のバカ(丈と銀洸)を睨みながら誰もが抱いている疑問を口に出した。

 対して、良則の返答は簡潔だった。


「……どの道、勝手について来るから」

「「『……』」」


 反論は皆無だった。

 その無駄に高すぎる能力を駆使して我が儘を貫き通して来るのが丈と銀洸のコンビである。

 せめて邪魔だけはしないでほしいと思う琥太郎達だったが、この2人に対して都合の良い希望を持つのはこの世で最も愚かな考えの1つであると既に理解しているので直ぐに諦めた。

 だが一方で、比較的前向きな考えの者もいる。


『バカとハサミは使いようだ。ヴェントルには悪いが、この2人で悪質な足止めをさせてもらう。少なくともそれで直ぐに逃がすリスクは下がる』

「あ、うん。そうだね」


 相棒(アルビオン)の清々しいほど割り切った言葉に顔を引き攣らせながらも頷き返す。

 やはり生きてきた月日の長さが違うせいか、アルビオンは此処にいる誰よりも冷静さを保っており、そのお蔭で琥太郎や冬弥といった経験の浅い者達の精神的な支えにもなっていた。

 故郷の世界の危機や失敗が許されない1回限りの作戦、そのプレッシャーは彼らには未だ重過ぎたのだ。


「さあさ!皆で瑛介のダディを生捕るぞ~!」

『半殺し~♪』

「「「するな!!」」」

『銀洸はヴェントルの足止めに専念しろ。他世界に移動できないように外界から完全に隔離し、同時に翼を封じろ。奴は兎に角速い。着いたと同時に動かれる事を念頭に置け』

「『OK~♪』」

「だ、大丈夫かな……?」

「ハ、ハハハハハ……」

『ヨッシーもしっかりそろよな?』


 勇吾達の方とは違い、此方はかなり気苦労が絶え無さそうであった。

 そうこうしている間に回廊の出口が見え始め一同は気を引き締める。


「丈!銀洸!」

「狙撃用~意!」

『1番、銀洸!行っきま~~~す!』

「本当に大丈夫かよ!アレ!!??」


 丈は狙撃銃を構え、銀洸は両翼(*返信済み)を広げて加速していく。

 後ろから大声でツッコむ者もいたが彼らの耳には届かず、有り余る魔力を全開にして丈は狙撃銃に流し込み、銀洸は全身を無駄に発光させながら出口へと突っ込んでいった。


『行くぞ』

「うん!」


 その後に続いて良則もアルビオンを自身に武装化する。

 純白の全身鎧を見に纏い、彼らは閃光となって先を行く2人に続いて出口へと飛び込んでいった。

 その後に琥太郎達も続いていく。

 白銀と純白の軌跡を回廊の中に残し、彼らの作戦は開始された。








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