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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第400話 完成した切り札

「――――何を深刻そうな顔をしている?」


 重い部屋の空気を破る様にその声は一同の耳に響いた。

 全員が振り返ると、其処には棒状の包みを数本抱えた少年が怪訝な目をしながら勇吾達を見ていた。


「蒼空か。遅かったな?」

「ああ、待たせて済まない。少々準備に手間取った」


 現れたのは蒼空だった。

 彼は1人遅れてきた事を謝罪すると、一同が囲んでいるテーブルの中央に持っていた包みを全員の目に届くように置くと、包んでいた布を外していった。


「これが必要になると思ったんだが?」

「これは?」


 包みの中から出てきたのは2本の日本刀と、1丁の狙撃銃(ライフル)だった。

 蒼空はその中から日本刀を1本手に取り、一切音を立てずに鞘から刀を抜いてみた。


「「「!!」」」


 その刃を見て一同は息を飲んだ。

 武器に詳しくない物もそうでない物も関係無く、全員がその刀身から放たれる不思議な迫力に気圧されたのだ。


「蒼空、その刀は――――」

「先日完成した「解呪法(・・・)」に更に手を加えて武器に宿し、擬似的に『神器』にしたものだ。器となる武器を集めるのには多少骨を追ったが、想像以上の出来に仕上がったと思っている」

「うわぁ……」

「あからさまにチートアイテムって感じがプンプンする」

「持ってみるか?」

「あ、ああ」


 勇吾は蒼空から刀を受け取る。

 すると、まるで一瞬で己の一部になったかのように刀の力が自身の魔力と同調し、互いの力を引き上げていくのを感じた。

 神器というより妖刀じゃないのかと一瞬思ってしまった勇吾だが、直にその刀身に秘められている力を感じる事でその考えを否定する。


(違う。これは邪悪でも……かといって神聖とも異なるものだ!)


 この刀が持つ力は少なくとも邪悪とは縁遠いものであると。

 これならば「神毒」を、《盟主》サマエルの呪いを確実に祓う事が出来ると確信する。

 だが同時に、ある疑問を抱く。


「蒼空、“武器に宿した”と言ったが、これ程の力を宿せる武器なんてよく見つけられたな?」

「……まあ、それなりに頑張ったからな」


 勇吾の質問に対し、空は何故か言葉を濁す。

 やはり訳ありなのだろうと思った勇吾は、取り敢えず刀を鞘に戻そうとして手を止める。


「……ん?」

「あれ?ねえ、その刀ってもしかして……」


 良則もそれ(・・)に気付いたのか、目を丸くして勇吾の持つ刀を凝視した。

 勇吾の額に冷たい汗が流れる。

 実物を見た事は無いが、実家にある祖父が集めた資料に写真と一緒に載っていた日本刀の一覧で目にしたのを思い出したのだ。


「二代兼定(かねさだ)……通称“之定(のさだ)”の銘刀『九字兼定』……!?」

「最上大業物……」

「「「え!?」」」


 勇吾と良則が顔を青くしながら呟いた言葉に何人かが驚愕の声を上げ、蒼空は素早く視線を彼らから逸らした。

 「二代兼定(又は和泉守兼定)」とは室町時代に実在した有名な刀匠であり、柴田勝家や明智光秀、森長可など有名な武将達の武器を打った人物であり、彼の作品は日本刀の中でも最上級を指す「最上大業物」に分類され、彼自身も「最上大業物十四工」と呼ばれる14人の名刀匠の1人である。

 つまり、勇吾が今握っている刀は日本でもトップレベルの名刀なのである。


「近代以降、行方知らずの銘刀が何で……蒼空!?」

「……問題無い。“兼定”の作品はどれも国宝にも重要文化財にも指定されていない。社会的には何ら問題は無い」


 一体何所で手に入れたのかと追及する勇吾だが、蒼空は一切口を割らなかった。

 十中八九、(ヤクザ)のルートだろうが。


「まさか!」


 勇吾は他の刀にも視線を向ける。

 しかし、既にテーブルの上には他の刀は無く、何時の間にか(バカ)が二刀流の様に振り回していた。

 だが、勇吾は丈を怒るよりも先に、丈が振り回している刀を見て絶叫した。


「備前長船兼光(かねみつ)……!それも二代目!こっちも最上大業物じゃねえか!!“兼光”は思いっきり重要文化財だろが!!??」

「確か、大戦後に接収されて行方不明になったのが1本あった筈……他にも盗難にあった物が幾つか……」

「ひゃっほーい!暴れん坊将軍も羨ましがるぜー!」


 「備前長船兼光」は南北朝時代に活躍した刀匠であり、この名を称する刀匠は4人おり、中でも二代目とされる兼光は二代兼定と同様に「最上大業物十四工」に1人であり、その作品の多くは重要文化財に指定されている。

 ちなみに(バカ)が言っているのは、江戸幕府第8代将軍徳川吉宗――暴れん坊将軍のモデル――が二代目兼光の作品の1つである「波遊ぎ兼光」を所有していた立花家に対して「兼光見たい!見せて!」と要求したら「絶対ダメ!」と拒否された実話の事を指している。


「蒼空!!」

「……大丈夫だ。それはまだ(・・)指定されていない作品だから、法律上は問題無い。多分」


 蒼空の目は思いっきり泳いでいた。

 彼は嘘は言っていない。

 これらの刀は善意(・・)により入手したモノであり、日本の法律上ではまだ重要文化財にも国宝にも指定されていない作品ばかりである。

 が、それでも一度世間に出たら大騒ぎになる事間違い無しのモノである事もまた事実である。

 特に―――――


「勇吾~!これ見ろよ~!“長光(ながみつ)”ア~ンド“景光(かげみつ)”~♪」

「蒼空ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「…………」


 丈がまた別の刀、一際美しい太刀を振り回すと勇吾は爆発し、蒼空は即座に背中を向けた。

 一方、勇吾がどうして此処まで怒っているのか理解できていない面々は、真っ青な顔で刀の1本を持つ良則に小声で訊ね始めた。


「な、なあ、これってそんなにヤバいのか?」

「重要文化財じゃないんだろ?」

「……」


 冬弥と晴翔が恐る恐る尋ねるが、良則は完全に固まって答えることが出来ず、代わりに彼と同様に顔を青くする少年――――自身も剣道をしている関係でそこそこ日本刀の知識を持っている琥太郎が引き攣った答えで疑問符を浮かべる面々に答えた。


「“長光”も“景光”も長船派の刀匠で親子……代表作は揃って国宝に指定されているんだよ」

「「……え?」」

「代表作以外でない作品も、数十本が重要文化財に指定されてるから……詳しくは分からないけど、アレが世に出たら高確率で国宝になる……“長光”は織田信長や徳川家康が、“景光”は武田信玄や上杉謙信が持っていたって本で読んだことが……」

「「はああああああああああああああ!?」」

「それに、良則が持っている太刀も……もしかして“正宗”?あれも国宝級……」


 琥太郎の震える声に、日本刀に詳しくない面々は絶句する。

 先程までの絶望的な空気は完全に吹き飛び、今は蒼空が国宝級・重要文化財級の銘刀の数々を改造して『神器』にしちゃったと言う大事件に阿鼻叫喚となってしまった。


「そこのバカ!今すぐ国宝を置け!遊ぶな!」

「ヤダよん!銀洸、パ~ス!」

「投げるな!」

「蒼空!何てもんを改造してんだ!!ヤバいだろ!日本人的に!!」

「仕方が無いだろ!!その辺の数打ち(安物)だと解呪法に耐えられないんだから!半ば神格化している名刀を器にするしかないんだ!素人が文句を言うな!!」

「限度があるわよ!バレたら大騒ぎよ!値段が付けられない可能性が高いし!」

「……用が済んだら匿名で寄贈すればいい。『神器』になっている以上、三種の神器みたいに皇室と宮内庁がなんとか処分してくれる」

「丸投げじゃねえか!!」


 特に日本人男子は大騒ぎだった。

 日本刀に詳しくなくても刀に特別な思い入れがあるのが日本男児の性であり、日本人の血を引く勇吾と良則も同じくちである。

 日本の男の子は刀が大好きなのだ。


「――――で、この狙撃銃の方は?」

「ああ、そっちは“九七式”と“M70”をベースに改造して神器モドキにしたものだ。元の使い手(・・・・・)がアレだったのか、それほど古くないのに付喪神に成りかけていたお蔭で改造にも耐えきる事が出来た。こっちは完全に量産品だから特に問題は無い。精々、日米の無名の英雄に支給された武器だろう」


 狙撃銃の方はあまり騒がれなかった。

 大日本帝国軍の“97式狙撃銃”も、米軍がベトナム戦争で使った“ウィンチェスターM70”も日本刀の前ではガラクタの扱いだった。

 単に銃器に詳しい人がいなかっただけかもしれないが。


「――――で、何で今これを持ってきたんだ?これもとても重要なのは解っているが……今は直接関係ないだろ?」


 一通り騒ぐ事でようやく落ち着きを取り戻した勇吾達は、改めて蒼空にこれらの武器を持ち込んできた理由を尋ねた。

 これらの魔改造武器は勇吾にとってはとても重要な代物ではあるが、今発生している問題には直接関係の無い様に思えたからだ。


「敵に先手を打たれて動けない状況なんだろ?圧倒的な数で攻められて戦力も足りない。この世界と仲間の両方見捨てられない。だけど打てる策が無い。そんなところだろう?」

「……そうだ。地球(こっち)には間違いなく《真なる眷属(オリジン)》が来ている。当然、2人が囚われている敵本拠地にも《眷属》を含めた眷属達が控えている。予定通りなら奇襲に近い形で敵地に侵入して救出する筈だったのがそれが駄目になった」

「つまり、敵は此方の動きを想定済みで、地球側に来ている連中も敵地にいる連中も大なり小なり余裕のある状況だという事だろう。そして俺達を地球に釘付けにして、出来得る限り向こうに侵入させたくないといったところか。おそらく、以前、そこのバカ2人に侵入された挙句に好き勝手されてあっさり逃亡された事を考えての策。一番の目的は、俺達の中でも時空系能力に秀でたそこのバカ2人を自陣に侵入させない事だろうな」

「お前もそう思うか?」


 勇吾の確認の問いに蒼空は肯く。

 前世では『創世の蛇』の構成員をしていただけはあり、結社が最も嫌がる事態についても熟知していた。

 彼からしても、丈と銀洸の能力は脅威なのだ。


「だが、逆に言えばそこのバカを向こうに侵入させられれば敵は蜂の巣を突いた様に混乱する。まあ、そうさせないための策も他にも用意してあるだろうが、要は敵から余裕を完全に消し去ってしまえばいい。奴らが恐れるほどの、特大の戦力(・・・・・)を表に引きずり出してな」

「蒼空、お前まさか……!!」


 此処で勇吾は蒼空が言いたい事を理解した。

 戦力が足りないなら増やせばいい。

 敵が優勢ならばその余裕を潰してしまえばいい。

 特大の戦力を以って。

 《真なる眷属》は愚か《盟主》が警戒し直に動く程の者達を表に引きずり出す事で。



「『天嵐の飛龍王』とその契約者シド=アカツキ。この2人の呪いを今此処で解き、戦場の真っ只中に放り込む事で現状を盛大に引っ掻き回す」








蒼空は若干趣味に暴走しました。


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