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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第396話 眷属

遅くなりました。

中々執筆が進まない……

――《ガーデン》天雲邸――


「――――西王母のおばちゃん?」

「違うわボケ!!」

「あーーー!!」


 空気を読まないバカこと丈の脳天に、勇吾の鉄拳が降る。


「何、隣の国の女神をネタにしてんだ!?イチイチ話の腰を折るようなちょっかいを出すんじゃねえよ!大人しく雑炊でも作ってろ!」


 男神らが囲んでいる土鍋を指差しながらバカに怒りをぶつける。

 大食漢だらけなので何処の鍋も既に汁のみになりかけていた。

 勇吾のバカに対する態度は日増しに荒ぶっているように聞こえるが、それが普通の反応なので黒王もリサも一切制止しなかった。


「え~!でも、あのおばちゃん、神話でも『鬼神』とかラスボスみたいな異名持ってるぞ?」

「このバカ!本当にラスボスに成りかねないから黙ってろ!巻き添え死はゴメンだ!!」

「2人とも祟られるわよ?」


 西王母――――中国で古くから信仰されている女仙(*女性の仙人)達の統率者であり、不老不死のみである仙桃の木を管理する道教の中では(・・・・・・)「天界の美しい最高仙女」等と呼ばれ、中国でもトップクラスの美しい女神である。

 だが、道教が生まれる以前の時代では非業の死や疫病、刑罰を司る女神であり、その姿は顔は人、体は虎、尾は蛇といった合成獣(キメラ)や鵺のような恐ろしい姿をしており、一度吠えれば千里先まで轟く、あらゆる者が怖れる『人頭獣身の鬼神』と呼ばれていた。

 基本的にはどの時代でも怒らせてはいけない類の女神である。


「……バカのせいでズレてしまった。それで、その『鬼神』という人物は?」

『数十年前までは序列下位の《真なる眷属(オリジン)》でしたが、ここ十年で急激に力を増し第三位になった「鬼人族(きじんぞく)」の者です。この世界とは異なる世界の出身ですので我々には――相手が管轄外の世界の出身である為――詳細を知る事は出来ませんが、他の眷属達と同様に様々な世界の知識と技術を習得しているようです』

「《真なる眷属》……」


 勇吾の表情が僅かに険しくなる。

 『創世の蛇』の数いる幹部の中でも組織の結成当初からその座に君臨しているとされる最高幹部《真なる眷属(オリジン)》。

 現在の最高幹部(・・・・・・・)10人の中にも数名在籍しており、勇吾達はこの世界で既に2人の《真なる眷属》と遭遇している。

 1人は序列一位、『幻魔師』カースウェル=ダルク=プライド。

 普段は他人を憑代にした“フェイク”を使って数多の世界で暗躍している組織の最古参であり、勇吾達はその姿を京都の事件で初めて目撃した。

 もう1人は序列二位、『神話狩り』ペリクリス=サルマント。

 嘗て勇吾の父親をその手で殺し、黒王の従兄である先代黒の龍王を重傷を負わせた張本人である。


「……Ⅲか。前の“Ⅲ”は知ってますが、当代のは殆ど噂にも出てこないですよね?」

『はい。悪名高い序列第一位(カースウェル)や我々のように「神格を持つ存在」を専門に狩り続ける第二位(ペリクリス)は『蛇』の黎明期より有名ですが、それ以外の《眷属(オリジン)》は裏方に居続ける者も少なくなく、私でも名を知らない者もいます。己の代わりに相応以上の力を持つ者が表に立たせ、《眷属》の存在から我々の意識を逸らすなど、狡猾に立ち回る者も居ましたが……近年、それらの《眷属》達は次々に討伐されて亡くなりました(・・・・・・・)

「……聞いた事のある話だな」

「聞いた事のある話ね」

「……」


 勇吾とリサはほぼ同時に視線を(バカ)の方に向ける。

 一方、黒王の方は両腕を組んで勇吾達とは別の事を黙考していた。


(――――《眷属》を討伐した者には『天嵐の飛龍王(ヴェントル)』と契約者(シド)が入っている。同時に奴らの報復対象にも。丈と良則の祖父母は今までは対象に入ってはいないが、今回の慎哉と瑛介の拉致という強攻に出た以上は……)

『――――の結果、これまで裏に居た残る《眷属》達が表に出てくる事になったようです。話は戻りますが、『鬼神』と呼ばれている《眷属》はこの数百年決して表には出ず、半ば隠遁に近い形で時を過ごしていたそうですが、最近になり大きな動きを見せ各世界に居る力有る“鬼”を使役し始めていると他世界の神々から聞いております。現時点での力の全容は未知数ですが、今回の実行犯であるとみて良いでしょう』

「そんな奴が居たのか……」


 尚、これは余談になるが先程からアマテラスが口にする「序列」とは『創世の蛇』の最高幹部の中での実力順位ではなく、創設メンバーである《真なる眷属(オリジン)》の中での序列順位を指しており、この2つの序列はそれぞれ独立している。

 最高幹部は“Ⅰ”から“Ⅹ”の数字で序列を付けられその総数は常に10名、これに対して《眷属》は7柱の《盟主》により直接序列を付けられてはいるらしく、総数も含めた詳細はアマテラスにも不明であった。


「それに『鬼神』か……。随分と意味深(・・・)な二つ名だ」

『……流石ですね。『鬼神』の意味にお気付きになられるとは。今ではその意味を知る者は大分少なくなられたというのに……』


 なんとなく独り言を呟いていた勇吾を、アマテラスは感心しながら見つめていた。

 今回の黒幕の1人であるとされる『鬼神』と呼ばれる人物の『鬼神』という二つ名、その言葉(鬼神)の正確な意味を理解している者は現代ではかなり少ないにも拘らず、勇吾はそれを知識として持っているだけでなく件の人物の二つ名として付けられている意味も察した。

 その聡明さには高位の神であるアマテラスも、両隣に座る男神達も素直に感心するのだった。


『御察しの通り。『鬼神』と呼ばれる《眷属》はその名の通りの力を有しているのでしょう。序列第三位にいる以上は、その戦闘力は『幻魔師』や『神話狩り』と同格であることは間違いありません。つまり――――』


 言葉の途中で僅かにアマテラスの表情が苦痛に歪んだが、その言葉が最後まで語られる前に勇吾の口が開いて彼女の言葉を遮る。


「俺達だけ(・・)では勝機は薄い。直接戦うのは避けた方が賢明、か?」

『……はい。ですがそれは不可能でしょう。仲間を助けに行かれるのでしょう?』

「当然だ」


 それは神だからこその断言なのか、アマテラスは自分が如何に勇吾達を諌めようとも彼らは仲間の為に動くだろうと確信を持って訊き、勇吾もそれを否定しなかった。

 しかしそれはあまりに無謀だった。

 場所は『創世の蛇』の本拠地であり、そこには7柱の《盟主》も居る。

 神代――――数多の神々と英雄達が束になってさえ狭間の世界に封印する事しか出来なかった《盟主》だけでなく、『幻魔師』を始めとした組織の最高幹部、そして様々な世界から集められた曲者揃いの構成員が集まるその場所に勇吾達だけで向かうのは考えるまでも無く無謀だった。

 戦わずに捕まっている仲間だけを救出するという策も現実的ではないだろう。

 《眷属》が直々に攫った以上は勇吾達が救出に動く事は当然織り込み済みの筈である。


『救出できる可能性は限りなく低いですよ?』

「それでも、俺達は行く。あいつ等はこの世界で出来た大事な友であり仲間だ。俺はもう、何もできずにジッとしているつもりは無い!」


 勇吾は瞳に強い意志を宿しながらアマテラスに自分の決意を告げる。

 京都の事件以前の勇吾であればそのような事は言わなかっただろう。

 主に丈と銀洸が「じゃ、ちょっと行ってくるな♪」「レッツ蹂躙~☆」と叫びながら本当に敵に向かおうとし、それを勇吾が力ずくで止めて説教していたのだろうが、今は勇吾の方が率先して敵地に攻め入る発言をしていた。


「おお!勇吾が熱血系主人公に!」

「バーニング~☆」

「駄目だぞ~!無謀と勇気は違うんだからな~?」

「僕らで~お説教TIME~♪」


 そしてこっちも普段とは逆に説教する側に率先して立っていた。

 明らかに普段の説教地獄(*自業自得)の仕返しをする気満々であったが。


「ハイハイ、おバカさんはこっちで雑炊でも作ってましょうね!」

「……銀洸、お前は少し席を外せ。話が進まない」


 が、其処は良識人2名により呆気なく捕縛して未然に封じたのだった。

 丈と銀洸の2人はリサに首をガッチリと掴まれながらキッチンへと連行され、アマテラス達の前には勇吾と黒王の2人だけが残った。


『その意志は堅いようですね。元より今回の件も含め、私は貴方方に(干渉範囲内で)協力する所存です。彼の地へ征くのであれば渡る術をお与えします』

「……“渡る術”?」

『はい。彼の地は何人も近付く事の許されない禁忌の領域。元来、招かれた者(・・・・・)のみが足を踏み入れることが許されるのです。故に、封印が緩み始めるまでは神でさえ近付く事さえ出来ませんでした。ですが封印が緩み始めて以降は、その仕組みを逆に利用され7柱と《眷属》に招かれた者でなければ侵入できなくなったのです』

「…………俺の記憶違いじゃなけりゃあ、向こうで雑炊作って一緒に食ってる2人は勝手に向こうへ侵入して好き放題していた気がするのですが?」


 勇吾はジト目で何時の間にかリサから逃げて酔っ払い(神)達と一緒に雑炊を鍋単位で食べ始めているバカ2人の方を向き、つられてアマテラスも2人に視線を向ける。

 その2人は京都の事件の際、『神話狩り』と共に去っていった『幻魔師』に勝手について行って『創世の蛇』の本拠地に侵入した挙句、好き勝手放題して帰ってきたという珍事を起こしていた。

 招かれないと行けないはずの敵地に普通に出入りしていた反例がそこにあった。


『『『……』』』


 アマテラスを含めた神々は硬直する。

 決して覆る筈の無い世界の“理”の1つを理不尽にスルーした存在を認識してしまった。


「お!天ちゃんこっち見てる!」

「いや~ん♡」


 当の理不尽2人は、相変わらずのマイペースだった。


『……思兼神(オモイカネ)?』

『……知らん。非常識(バカ)な手段で向こうから招くように仕組んだか、内部協力者がいたんだろ?』

『貴方、それでも知神ですか?』

『今は親子共々、しがない働く神様だ』


 神々にとってもこれは想定外だったらしく、知神(オモイカネ)ですら困惑を隠せないでいた。

 だが、このような一部の例外を除けば、普通は(・・・)敵地に侵入する事は不可能なので結局はアマテラス達が“道”を開き、戦闘はなるべく避けながら慎哉と瑛介の2人を救出、そのまま即脱出するという大まかな計画が立てられていった。

 想定される危険度は未知数、幹部クラスとの遭遇は勿論のこと、最悪の場合は《盟主》に目を付けられる可能性も決して低くは無いので、考えられるだけの事態を神々と一緒に上げていき、対策も同時に考えていく。


『うお~い!アラハバキを捕まえてきたぞ~!』

『ガハハハハハ!!蒸留酒(ウォッカ)一気飲みさせるぜ!』

『あ、冷麺5杯追加で!』

「あいよ~♪」

「わー!ツクヨミんが潰れた~☆」

『ヤベ!今夜月蝕起きるって♪』

『『『ギャハハハハハハ!!』』』


 その一方で、勇吾の家に集結した天津神――正確には男神達――の殆どは酔いが回り過ぎて本来の目的を忘れていた。

 最早害悪にしかなっておらず、凄まじい速度で酒と食料を大量に消費してゆき、それを丈と銀洸は何故か上機嫌で相手していった。


『……あいつ等、ゴミばかりね』

『クズだわ』

『只の飲んだくれの集まりですね。これだから男神は……』

『古今東西、男神に真っ当なのが居た試しは少ないわ。大体は外道よ』

『直ぐ浮気するし』

『ハーレム願望強いし』

『ヘタレ』

『威勢がいいだけ』

『自分は浮気するけど妻がするのは許せない上に直ぐ疑うし』

『見た目が気にくわないと桃投げるし』

『現世にロクでなしが急増しているのは奴らのせいよ。間違いないわ』

『死ね!』


 女神の方は女神の方で、酒が入っているせいもあってどんちゃん騒ぎをしている男神達を冷たい目で見つめながら愚痴を零し合っていた。

 彼女達は散々男神達を貶してはいるが、実の処、世界的に見ても女神達も十分に問題を起こし続けているので男神達の事を言えないのだが、それを言う者はこの場には1人として存在しなかった。

 大事な案件を話し合う為に集結した筈の天津神達(+α)だったが、真剣に世を案じている神はアマテラスを含めてもごく僅かだった。


『ですが実際の処、彼の神が侵入した彼らをみすみす見逃すなど有り得るのでしょうか?』


 そんな中、その数少ない真面目な神の1柱はほうじ茶を飲みながら疑問を呟き、それに対し他の真面目な神々は数瞬の思考の後に首を横に振って否定する。


『まず……有り得ないでしょうな。彼の7柱は人間を嫌悪してますが油断したまま放置はしません。危険の芽を摘める時に摘まないとは考えにくい。確実に始末できる刺客を送るでしょうな』

『飛んで火に入る夏の虫、ですか……』


 半ば予想していた返答に、問いかけた神は呻る。


『寧ろ、本命の“虫”は別に居ると考えるべきでは?』


 一方、別の神は今回の敵の真の目的について意見を挙げる。

 自分達の行動を見透かされているという前提での意見だ。


あの御方(・・・・)は動かれるのでしょうか?』

『……』


 また別の神は、この場には居ない“とある神”の噂をし始める。

 一部ではあるが、こうして聡明な神々は勇吾達に力を貸すべく知恵を巡らせていき、中には天津神以外の神々にも直接連絡を取って協力を得ようと行動に移る神の姿もあり、その頼もしい姿には既に半分以上神に失望していた勇吾達に希望を与えていった。

 だが、当の勇吾達の心情は複雑だった。


「全ての神がこうだったら良いのにな!どうして俺の周りには変態ばかり集まる!?」


 宴に夢中になっている男神達を睨みながら、勇吾は本音を吐き捨てる。


「……勇吾、神は基本的に人間の主観では量りきれない存在だ。お前から見れば『龍神』はまともな部類だが、全体の2割は他の神同様外道だ。特に“銀”が」


 それに対して黒王も容赦なく毒を吐いた。

 例え同族でも擁護するのには限度と言うものがあった。


「……腐ってやがる」

()生物(なまもの)だからな。いずれは腐る。腐敗して害となるか、発酵して益となるかだけの違いだ」

「せめて、腐葉土や堆肥………あ、あれも最後は発酵だった」


 此処にいる神々だけでなく、全ての神々に対して容赦が無かった。


『すみません。本当にすみません……』


 その辛辣な言葉の嵐を間近で聞いていたアマテラスは本当に申し訳なさそうに謝り続けるのだった。



 幾つかの脱線はあったものの、勇吾達は攫われた2人を救出する為の準備を進めていった。

 だがこの時、敵の次の一手が彼等の居る世界に迫っていた。








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