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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第395話 神の宴

――《ガーデン》天雲邸――


「…………何だ、この光景は……?」

「……」


 調査を終えて帰宅し、その光景を丸ごと直視して固まった。

 隣に立つ黒王に至っては直視どころか反射的に視界から外して屋敷の天常に汚れや蜘蛛の巣が無いかの確認作業を始めた。

 龍王、現実逃避。


「……勇吾」


 固まっている勇吾の下にエプロン姿のリサが心労の倒れそうな顔をしながら寄ってきた。

 その手には出来立ての料理をのせたトレーが握られている。


「……リサ、何だコレ(・・)は!?」

「私は……私は全力で止めたのよ……!!」


 説明を求める勇吾、対するリサは涙腺が決壊寸前の顔で自己弁護する。

 彼女にとっても目の前の光景は想定外だったのだ。

 ある程度の事態は予め対策を打っていたが、それでもコレは範疇外過ぎた。


「だからってよ……」


 彼は泣きそうになる幼なじみを慰めながら、再度家の中を見渡した。

 バカによる魔改造も多少は加わったことで勇吾達が暮らす分には十二分に広いスペースを誇る天雲邸のリビング。

 其処が今や、過去最大の人口密度を誇れる宴会場と化していた。


『グハハハハ!もっと飯を持ってこーい!』

『神酒も美味いが、やっぱ地上の酒が合うな!』

『ウズメの芸はまだかー』

『サルが独占してはなさねえ!』

『ハゲろ!』

『モゲろ!』


 日本の神々が勇吾の家で宴会をしていた。

 というか酒臭かった。

 神々は各々に自由な格好をしながら酒や料理を豪快に飲み食いし、至る所で人間は真似したらいけない一気飲みをする男神やスイーツ山食いな女神の姿があった。

 そのあんまりな光景に唖然とする勇吾は、無意識の内に元凶の可能性が高い人物を目で捜し始める。


「は~い!牡蠣の土手鍋だよ~♪」

「牡蠣は広島~♪」


 容疑者はそこに居た。

 全国の広島県民にケンカを売る気満々なふざけた格好(コスプレ)――ベタな親日外国人の方が日本人に見えるくらい――をしながら、湯気を放つ土鍋を焼酎を飲みまくっている男神達の下へ持っていった。

 よく見れば少し離れた場所で3柱の女神がジト目でそのバカの容疑者達を見ている。


「何をバカやってんだゴラアアアアアアアアアアアアア―――――!!!!」

「ス〇ィリー・シールド!」

「カー〇坊や~!」

「広島に謝れ!!」


 その日、《ガーデン》郊外に2つの隕石が落下したという未確認情報が出回ったが、その手の事件は日常茶飯事なのですぐに住民達の記憶から消え去った。


『ご挨拶が遅れました。天津神の長、天照大神(アマテラス)と申します』


 数分後、相変わらず男神達がどんちゃん騒ぎしている中で日本の主神は日本人よりも上手なお辞儀をしながら勇吾達に挨拶をした。

 彼女の横には何故かスーツ姿の男神と、今は外でクレーターになっている容疑者と趣味が合いそうな雰囲気を漂わす男神が正座していた。


「……何故、この国の主神が我が家に?」

『説明をすると長くなるのですが……まず、貴方方の事情は其方のリサ殿からお聞きしました。我々の至らぬせいでお仲間にご迷惑をお掛けし、大変申し訳ありませんでした』


 日本の主神(アマテラス)は深々と勇吾達に謝罪するが、勇吾はそれよりも今のこの家の現状についての説明が聞きたかった。


『――――今回の件を踏まえ、我々日ノ本の神一同は事態の早急な解決の為に動く事を決定しました。とはいえ、現段階で私の決定のみでは天津神のみしか動かないでしょう。ですので直ぐに国津神も召集し、一丸になろうと……申してしまったのがいけなかったのでしょう』


 話のトーンが急に下がり始めた。

 此処で勇吾はようやく現状に至るまでの経緯を察することが出来た。


『――――「じゃあ、決起集会的なお食事会やろうぜ♪」と、バ……丈殿と銀洸殿が騒ぎ始め……』

「ああ……うん。大体理解できたから、そんなに自分を追い詰めないで――――」


 どうやらバカ2人は神々の間でもバカで通じるようである。

 大体の事情を察することが出来た勇吾は今にも泣きそうなアマテラスを慰めながら、バカの首輪を〆ていた筈のリサの方に視線を向ける。 


「何度も言うけど、私も必死に止めたのよ?」

「リサ、ならどうして……」

『リサ殿は悪くありません。あの直後、私の愚弟が遅れてやってきて――――』



『宴か!?下界で宴をするのか!!だったら俺も行くぜヒャッホー!!邪神様様だぜ~♪』

「あ、スサ~!」

「やっほー!みんな集めて騒いじゃおうー♪」

『よっしゃ!そうと決まれば婿共も全員強制召集だ!』



『――――という流れになり、気付いた時には私でも止められませんでした』

「…………(イザナギ)は止めなかったのか?」

『……………運悪く、両親は諸事情(・・・)により長期不在でして……』

「流石の私も、アレはどうしようもできなかったのよ。まるで嵐のような出来事だったは……ハハハ……」


 リサは乾いた声で笑った。

 つまり、バカ2人だけだったら首輪で〆ることが出来たが、タイミング悪く日本神話の問題児が現れた事により最悪のバカ学反応を起こし、主神でも止められない流れが発生してしまったということだった。


(これって、下手をしたら目の前の主神(アマテラス)が天岩戸に隠れてしまったんじゃねえのか?そうなったらこの日本は更にカオスになってたな。そう言う意味ではまだマシな状況か?)

『あんまりな状況に、私は昔の癖で引き籠りそうになりました』

(日本危機一髪!!)


 勇吾はバカによって更にややこしい事態にならなかったことに心底安堵したが、実の処、アマテラスが神話の様に天岩戸に引き籠らなかったのには別の理由が存在していた。

 それは彼女が本気で天岩戸に一時引き籠ろうとした瞬間のある一言が原因だった。



『ん?姉貴は1人でボッチ飯(・・・・)か?』



 その一言でアマテラスは硬直した。

 解釈にもよるが、日本神話の中でのアマテラスは基本的に寂しがり屋な傾向が強く「止由気宮儀式帳」という記録によれば、9世紀初頭に彼女は時の天皇に対して「1人ボッチで寂しいから、京都からご飯の神様を(伊勢神宮に)連れてきて」と神託を与えたとされている。

 尚、この時に伊勢神宮に祀られちゃったご飯の神様は豊受大神(トヨウケビメ)といい、アマテラスの弟である月読命(ツクヨミ)の恋人だったりする。

 話は戻り、末弟に「俺等は宴会するけど、1人ボッチで飯食うの?」発言で触れたらいけない部分を刺激され、引き籠りを思いとどまったものの宴会騒動を止める事が出来なくなってしまったのだが、それを勇吾が知る事は最後までなかった。


『……尚、此処に入りきれなかった神々は外で宴を開いています』

「マジで八百万の神々が集結してるのかよ……」

『先日、“とある件”で外つ国の神々共々一斉に集まる機械があったせいか、私どもが思っていたよりも皆の腰が軽くなっていたようです。申し訳ありません』


 アマテラスは本日何度目かの謝罪をした。

 この主神、余所の国々の主神らと比べてもかなり腰が低いように見えるのは気のせいだろうか?

 それでも外道でない分マシではあるが。


「まあ、なってしまったのは仕方がないし、これ以上追求しても時間のムダだから話を進めても大丈夫ですか?」


 兎も角、勇吾は話を進めるためにこの件については一旦置いておくことにした。

 時折外で花火が上がる音がするが話が進まないので今は無視した。


「――――俺達が事件現場を調査した結果、今回の件の実行犯は『霊鬼』であると断定したが、何者かの“式”にされているせいで追跡が出来なかった。黒の話だと使役者は少なくとも人間ではないのは確実だそうだ」

『「鬼使い」……修験道の流れを組む術者ですね。彼の者達の中には“鬼”の系譜に連ねる者も少なくありません。成程、そういう事ですか』

「其方で何か分かったんですか?」

『ええ、かなり巧妙に隠蔽されていたのですが、各地に眠る高位の“鬼”達がほぼ同時期に消えている事が判明しました。大峰山でも前鬼・後鬼が消え、他にも大江山の酒呑童子、茨木童子も残らず消えているのをこちらで確認しました』


 日本中の知名度の高い鬼という鬼が根こそぎ消えているとアマテラスは告げる。

 同時に同一犯の仕業であるとも。


「それらの“鬼”は今回の『霊鬼』とは種類が違うだろ?」

『“鬼”という概念そのものを使役しているのだと思われます。厳密な種類は違っても、その土地土地で“鬼”と呼ばれている存在そのものを“式”として使役する力だと』

「……さっきから気にはなっていたけど、推測や仮説が多くないですか?」


 勇吾はアマテラスの言葉に断定的なものが少ない事に疑問を抱いた。

 まるで神であるにも拘らず、現世で起きている事が殆ど見通せていないようだと。


『それは仕方の無い事です。誤解する方も多いのですが、私はこの国の主神ではありますが基本的には太陽神であり、元を辿れば光で大地に恵みを与え、大嘗祭を司る祭祀の神です。普段は高天原と現世の秩序の維持に努めてはいますが、この世の全てを知っている訳ではありません。太陽と祭祀、秩序の神ではありますが、外つ国の――――ゼウスやオーディーンのような“全知の神”ではないのです』

「ああ、そういう事か」


 世界各地に点在する多神教には必ず神々の王である主神が存在する。

 ギリシャ神話ならゼウス、北欧神話はオーディーン、エジプト神話はラー、ヒンドゥー教はインドラやヴィシュヌ、アステカはテスカトリポカ、ケルトのダグザやルー、ゾロアスター教はアフラ・マズダー等。

 その中でも全知全能の神とされるのはごく一部、ゼウスやオーディーン、そしてキリスト教やイスラム教、ユダヤ教の唯一神が有名過ぎて「主神=全知全能」と誤解する者も少なくないだろう。

 だが、実際には天照大神のように全知全能では無い主神はかなりの数存在する。

 ラーは太陽神、インドラは軍神なのが良い例だろう。

 つまり、全知全能では無いが故にアマテラス本人は現世の全てを完全に把握する事は出来ないと言っているのだ。

 もっとも、神の世界でも例外は存在するのだがこの場では割愛する。


『――――敵もそれを知った上で今回のような大胆な動きをとったのでしょう。龍脈の澱みの影響も少なからずあったのでしょうが、全ては敵が動いているのを解っていながら付け入られる隙を放置した私の責任です。本当に申し訳ありません』


 また頭を下げるアマテラス。

 いい加減慣れたのか、勇吾は気に留めずに話を進めた。


「――――八百万の神々を出し抜いている以上、犯人は限られますね?」


 やはり、『創世の蛇』なのかと訊くと、アマテラスは顔を上げて静かに肯いた。


『……はい。此方の思兼神(オモイカネ)の助力もあり、消えた“鬼”達の痕跡を辿り黒幕(・・)の居場所を見付ける事が出来ました。仲間の方々が連れ去られた場所と同じと考えて間違いないでしょう』

「―――――!!」

『敵の本陣は「狭間の世界」の最奥――――嘗て、我々が1柱の別天津神(ことあまつかみ)を封印した“禁断の領域”です』


 その言葉に勇吾だけでなく、隣で聞いていたリサも息を飲む。

 どうやら彼女はまでそこまで聞いていなかったようだ。

 今の今まで現実から視線を背けていた黒王もその黒い両目を光らせながら視線をアマテラス、そして隣に座るスーツ姿の男神に向けた。

 このスーツ姿の男神が思兼神、知恵の神の1柱だった。


『そして此処からは我々の推測になりますが、仲間の方々を連れ去った者……「鬼使い」の術者について、1人だけ心当たりがあります』

「それは?」


 推測でもいい。

 勇吾達は真剣な表情でアマテラスの次の言葉を待った。



『その者は、《真なる眷属(オリジン)》の序列第三位。『鬼神』の二つ名を関し、名を――――』








創造神は世界各地の神話に居るけど、主神(最高神)やってるのは少ないですよね。

天照大神も今でこそ太陽神ですが、本来の神格には諸説が多くあります。邪馬台国の卑弥呼を神格化した、とかね。

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